2件の殺人で懲役4年なら十分な温情判決だと思うが

この件。
digital.asahi.com

2件の殺人のうち、未成年時に起こした1件目(2003年5月、15歳)はともかく、2件目(2014年7月、27歳頃)は成人後の殺害なので、「被告人は当時すでに成人しており、手段を尽くして殺害を避けるべきだった」という指摘が的外れとは思いません。
裁判長も1件目については「十分に同情できる」とし、2件目についても「妊娠までの経緯を「強く責めることはできない」」が、「当時すでに成人しており、中絶手術も経験していたことからすると、手段を尽くして殺害を避けるべきだった」と言っています。

まず、18歳(2006年頃)と20歳(2008年頃)の妊娠では中絶しているので、中絶という手段がありえたことは知っており、義父と母の支配も20歳(2008年頃)の離婚で3ヶ月ほど離れて生活したという経験もあり、また就労もしていたことを考慮すると、27歳の時点で義父から逃げるという選択肢が全く考えられない状態だったとは判断しにくいところです。

これらを踏まえると、2014年の妊娠でも中絶と言う選択肢があったことや行政に支援や助けを求めるなどの手段が存在することも認識した上で、そして、15歳の時に出産した子供の殺害を強いられた経験と義父の性格から、2014年の妊娠の際も義父から子どもを殺害するように求められることも予測できていた状態で、出産・殺害に至ったと考えるのが自然でしょう(そうじゃない状況の可能性については後述)。
つまり、2014年の妊娠発覚後については、このまま中絶せずに出産すれば子を殺害せざるを得ないことを認識した上で、「手段を尽くして殺害を避ける」ための行動をとったとは言えない、というのが司法の判断ということになるでしょうか。

そうすると、責任能力がある状態での殺人であったことは否定できず、殺人罪は確定します。

ところで刑法上、殺人の法定刑は死刑又は無期若しくは五年以上の懲役となっています。

(殺人)
第百九十九条 人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。

http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=140AC0000000045

しかし、この事件の地裁判決は懲役4年でした。
これは、情状を酌量して減軽していると言えるでしょう。

(酌量減軽
第六十六条 犯罪の情状に酌量すべきものがあるときは、その刑を減軽することができる。
(法律上の減軽の方法)
第六十八条 法律上刑を減軽すべき一個又は二個以上の事由があるときは、次の例による。
三 有期の懲役又は禁錮減軽するときは、その長期及び短期の二分の一を減ずる。

http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=140AC0000000045

ブクマの反応はこれを理解しているとはちょっと思えないものが多かったですね。
ちなみに「浮気した妻を殺した夫は執行猶予付き懲役三年、性的虐待を受け続け四度義父の子を孕まされた女性は懲役四年」と言ってるブコメもありますけど、「浮気した妻を殺した夫は執行猶予付き懲役三年」というのは2017年の東大阪の事件を指していると思いますが、これは殺人ではなく傷害致死ですので法定刑が三年以上の有期懲役です。
東大阪の事件は殺害の意図が無かったが傷害の結果死に至らしめたもので、殺害の意図をもって実行した今回の事件とは適用される刑法の条文が違います。
で、執行猶予は3年以下の懲役でなければ付けられませんので、法定刑が5年以上の懲役になる殺人罪で有罪になれば基本的に執行猶予は付けられません。
もう一つ参考までに「浮気した妻を殺した夫」とは逆に「浮気した夫を殺した妻」が執行猶予付きの懲役3年になったケースもあります*1。念のため。


酌量の話に戻ります。
刑法上、情状酌量すべきものがあるときは法定刑の半分にすることができるわけで、殺人で有罪であっても最短で懲役二年半にすることは可能です。そして懲役が三年以下になるならば、執行猶予が適用できるようになります。

(刑の全部の執行猶予)
第二十五条 次に掲げる者が三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間、その刑の全部の執行を猶予することができる。
一 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
二 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者

http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=140AC0000000045

ですから、技術的には今回の事件も、殺人で有罪でありながら執行猶予付きの判決が出る可能性はありましたし、実際弁護側はそれを求めていました。

もちろん、この女性には同情すべき点が多々あるわけですが、それでもなお殺害した人数は2人であることと、この女性が親や周囲の大人から守られるべきだったというのと同様に、殺害された2人の乳児も親から守られるべきだったという点を考慮すると、さすがに懲役3年まで減軽するのが適切かどうかは個人的にはちょっと厳しいかなと思いますね。
少なくとも、3年に減軽されて当然だとまでは思えませんので、裁判員裁判としておかしな判決とはちょっと言えません(2人殺害だと死刑が視野に入りますし、後述しますが、心神耗弱状態の母親が子供を殺害した事件で懲役3年執行猶予5年の判決が出ており、殺害人数からこれより軽い罪にはまずできないでしょう)。

心神耗弱状態であったとみなす場合

裁判手続 刑事事件Q&A

Q. 心神喪失又は心神耗弱とは何ですか。

A. 刑罰法規に触れる行為をした人の中には,精神病や薬物中毒などによる精神障害のために,自分のしていることが善いことか悪いことかを判断したり,その能力に従って行動する能力のない人や,その判断能力又は判断に従って行動する能力がが普通の人よりも著しく劣っている人がいます。
 刑法では,これらの能力の全くない人を心神喪失者といい,刑罰法規に触れる行為をしたことが明らかな場合でも処罰しないことにしています。また,これらの能力が普通の人よりも著しく劣っている人を心神耗弱者といい,その刑を普通の人の場合より軽くしなければならないことにしています。
 これらは,近代刑法の大原則の一つである「責任なければ刑罰なし」(責任主義)という考え方に基づくもので,多くの国で同様に取り扱われています。

http://www.courts.go.jp/saiban/qa_keizi/qa_keizi_21/index.html

女性が2回目の犯行当時、心神耗弱だったと仮定しても、執行猶予をつけるのは難しいと言えます。
例えば、以下のような事例があります。

また、前橋地裁で、当時3歳の長男の顔に布団をかぶせて窒息死させた母親に対する裁判員裁判の判決がありました。この裁判では、被告人が犯行当時心神耗弱状態にあったことが認められ、懲役3年、保護観察付執行猶予5年の判決となりました。

http://keijibengoshi.jp/%E5%BF%83%E7%A5%9E%E5%96%AA%E5%A4%B1%E3%83%BB%E5%BF%83%E7%A5%9E%E8%80%97%E5%BC%B1%E3%81%A8%E3%81%AF%EF%BD%9E%E8%B2%AC%E4%BB%BB%E8%83%BD%E5%8A%9B%E3%81%AE%E5%88%91%E4%BA%8B%E5%BC%81%E8%AD%B7/

子どもを1人殺害したものの心神耗弱により減軽されたケースです。
今回の事件では2人殺害しているのに、このケースと同等に扱えるかと言うと相当疑問です。殺人の法定刑最低限である懲役5年を本件で懲役3年にまで減軽するのは、上記ケースに照らしても無理があります。1人殺しても2人殺しても同じ、という判決になり、社会に与える影響と言う点でも適切とは思えません。
懲役4年というのは、殺人に至った経緯について酌量すべき情状が十分あることを踏まえた上で、それでもなお、2人殺害したことの重みを考慮すれば、まず妥当な判決だろうと思います。

支配の影響

義父に支配されていたための犯行という考え方ですが、要するに心神喪失状態であり、責任能力が問えないと言う考え方です。
しかし、尼崎事件でさえ心神喪失状態は認められていませんから、本件でこれが適用されるべきかというとこれも難しいところでしょう。ただ、考え方として本件に限らず、他者に支配されるなどして心神喪失・耗弱状態に陥り他害行為を行った事件を現行の取り扱いよりも幅広く捉えるべきだというのはあり得ますし、そういう考え方ならある程度は賛同できます。
例えば、心神喪失者等医療観察法の対象を拡大して、医療的な対応だけでなく、心神喪失状態で犯した罪の自覚と更生を促進するような対応を整備するなどは有意義かも知れません。

心神喪失者等医療観察法

医療観察法制度の概要について
心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(医療観察法)は、心神喪失又は心神耗弱の状態(精神障害のために善悪の区別がつかないなど、刑事責任を問えない状態)で、重大な他害行為(殺人、放火、強盗、強姦、強制わいせつ、傷害)を行った人に対して、適切な医療を提供し、社会復帰を促進することを目的とした制度です。

http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/sinsin/gaiyo.html

それでも精神疾患や薬物などで医学的に心神喪失耗弱状態になったのであれば、それが裁判でも認められるのはわかりやすい話であるのに対し、他者からの支配などの抑圧や洗脳で心神喪失耗弱状態というのは、あり得る話ではあっても、裁判で認めるかどうかはハードルが高い状態を避けられません。

例えば、オウム事件の実行犯は基本的に教組の命令に逆らえる状態ではありませんでした。ホロコースト下のドイツで法的根拠を伴った上でのユダヤ人虐殺に係る業務従事をどの程度逆らえたかというのも難しい話です。家庭レベルでも尼崎事件のような支配下にある者が、命令に逆らうことができるかというとやはり難しいでしょう。
閉じた集団内での固着した権力構造の下で下位にある者が、自力でそこから抜け出せないことは珍しいことではありません。ホロコーストからカルト教団ブラック企業、小学校でのいじめ、家庭内でのDV・虐待まで、こういった状況はよく見られます。追い詰められた権力下位の者は、倫理に反する反社会的行為でも違法行為でも命じられれば逆らうことが難しく、自死以外に抵抗の手段も思いつかないものです。
その意味では、この事件の女性も義父に逆らえない支配された状態であったことは考えれます。

ただし、それでもやはり法的な責任は問われるべきだと個人的には思います*2
様々な事情から追い詰められて、当人にとっては他に手段なく罪を犯さざるを得なくなるというのは、程度の差はあれ多くの犯罪で起こることです。それらの情状は酌量されるべきではあるものの、心神喪失・耗弱状態とは言えず、適切な刑罰を科されて贖罪すべきことであろうと思います。

本件の加害者の女性は、自ら「罪をつぐないたい」という意志を示して控訴しなかったとのことです。

(記事有料部分)
 弁護側は裁判で、義父の支配から逃れられない状況だったとして、執行猶予付きの判決を求めていたが、控訴せず、懲役4年の刑が確定した。裁判でも「罪をつぐないたい」と話していた意志を、弁護人は尊重したという。

https://digital.asahi.com/articles/ASL3M5QWDL3MUOHB00P.html

実際、無罪放免にされたとしたら、女性は納得してそれに甘んじることができたか、それが自らの子どもを二人も殺害したことに対する自責の念を消失させることになるかと言えば、おそらくそうはならなかったのではないでしょうか。
彼女自身が犯した罪に向き合い、納得できる罪の償いに導くという意味で、科される刑罰・環境がそれに適したものかという問題はあるものの何らかの刑罰が必要であろうと個人的な意見としてそう思います。

同時に女性自身は長期にわたり虐待を受けてきたわけですから、適切な治療を施す必要もあり、その点については改善すべき点は多々あろうと思いますね。

義父の裁判は?

これも誤解しているブコメが多いようですが、記事には「義父(67)=殺人と死体遺棄の罪で起訴」とあり、殺人で裁かれることになっています。女性が実行したからといって義父が殺人罪に問われないわけではなく、そして女性のように情状酌量の余地もないことから、法定刑の懲役5年以下になることはまず考えられません。普通に10年を軽く超える懲役が科されるのはまず間違いないところでしょう。

ただ、女性が2人の子どもを殺害するに至ったのにそれまでの環境といった同情すべき理由があったように、性的虐待と殺人を強いたこの義父にもそのような人間に至る環境があったはずで生まれついての犯罪者ではないという点についても留意しておくべきです。
誰かひとりを悪魔化して糾弾すればいい、なんてことは世の中あまり無いと思いますので。



2018年3月第4週の韓国政権支持率抜粋

2018年3月第4週*1

年齢別
年齢 支持率 不支持率
全体 69.8% 25.2%
19~29歳 79.4% 18.4%
30代 77.2% 22.0%
40代 77.3% 20.4%
50代 65.1% 28.3%
60代~ 55.8% 33.7%

2018年2月第1週はこうでした*2

年齢 支持率 不支持率
全体 62.9% 32.4%
19~29歳 63.2% 33.0%
30代 77.9% 20.1%
40代 74.5% 24.0%
50代 54.5% 39.5%
60代~ 49.4% 41.6%

20代の若者の支持率が80%近くまで上昇しています。また、比較的支持率が低かった世代である50代・60代以上の支持率も50%を超えています。

地域別
地域 支持率 不支持率
全体 69.8% 25.2%
ソウル(서울) 71.6% 23.9%
京畿・仁川(경기/인천) 70.2% 25.3%
大田・忠清・世宗(대전/충청/세종) 72.3% 22.8%
江原(강원) 80.4% 17.2%
釜山・慶南・蔚山(부산/경남/울산) 65.0% 27.8%
大邱・慶北(대구/경북) 54.1% 41.4%
光州・全羅(광주/전라) 82.1% 13.6%
済州(제주) 76.8% 13.7%
首都圏(수도권) 70.8% 24.7%

2018年2月第1週はこうでした*3

地域 支持率 不支持率
全体 62.9% 32.4%
ソウル(서울) 63.0% 33.6%
京畿・仁川(경기/인천) 62.6% 30.4%
大田・忠清・世宗(대전/충청/세종) 61.8% 35.4%
江原(강원) 58.0% 33.0%
釜山・慶南・蔚山(부산/경남/울산) 62.6% 34.9%
大邱・慶北(대구/경북) 48.8% 45.0%
光州・全羅(광주/전라) 79.6% 16.7%
済州(제주) 75.3% 24.7%
首都圏(수도권) 62.7% 31.7%

いずれの地域でも上昇していますが、特に江原(강원)では支持率が20%以上上がっています。また、賛否拮抗していた大邱・慶北(대구/경북)でも支持率が不支持率より10ポイント近く差をつける状態になっています。大邱・慶北(대구/경북)は保守派の強い地域ですが、そこですら文政権は支持されているということです。


関連:「2018年2月第3週の韓国政権支持率抜粋 - 誰かの妄想・はてなブログ版



河野太郎もたまには正気に戻るんだな。

この件。

河野外相「本当に非核化なら、金正恩氏の顔立つように」

3/30(金) 17:55配信 朝日新聞デジタル

河野太郎外相(発言録)
 米国のティラーソン国務長官と「北朝鮮が本当に『非核化』を言うなら、国内で金正恩委員長の顔が立つようにする必要がある。(金委員長が)『国際社会が(北朝鮮に)屈服したから核をやめる』と言っても、(日米は)怒る必要はない」という話をしたことはある。
 (北朝鮮は)国内的に(非核化を)言及していないし、現実に核関連施設での活動もあるから、(非核化の)意思はまだ明確になっていないのではないか。
 最終的に金委員長の意図をどう測るのか。「国内的にも(非核化を)宣言しろ」とせまるのが良いか、あるいは何らかの形で(非核化の)意思があるよということが分かれば良いのか。あるいは分かる方法があるのか。じっくり国際社会で意見交換する必要がある(衆院外務委員会で)
朝日新聞社

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180330-00000073-asahi-pol

北朝鮮が本当に『非核化』を言うなら、国内で金正恩委員長の顔が立つようにする必要がある。(金委員長が)『国際社会が(北朝鮮に)屈服したから核をやめる』と言っても、(日米は)怒る必要はない」というのは、そりゃその通りで、“北朝鮮が無条件降伏したから何でも条件を追加しろ”的な対応をとれば、ご破算になるのはわかりきった話。

ただ、日本社会がその思考回路を持てるのか、というのが最大の問題で実際、非核化に言及して米朝韓中で首脳会談に動いている最中に、日本が拉致問題も同時に解決しないなら圧力だ、とか喚いてるわけだ。拉致問題の解決を拉致被害者が日本に帰国できるようにすることと定義するなら、軍事的緊張が緩和された後に交渉した方がやりやすいでしょうに。

まあ、とはいえ“圧力をかけたから北朝鮮が折れてきた”という認識を日本国内にばら撒いておいて、北朝鮮「国内で金正恩委員長の顔が立つようにする」対応ができるものかねぇ。



詳細がわからなさ過ぎるのだけど、白須賀議員が発言を盛ってるような気がしてならない件

この件。

自民・白須賀氏 「雇ったら実は妊娠、産休 違うだろ」 厚労部会で発言

毎日新聞2018年3月30日 東京朝刊
 自民党白須賀貴樹衆院議員(千葉13区)は29日、働き方改革関連法案を議論する党の厚生労働部会などの合同会議で、自身が運営する保育園で病児保育のため採用した看護師について「雇って1カ月後には実は妊娠して産休に入ると(言ってきた)。人手不足で募集したのに、それは違うだろと言った瞬間に労基(労働基準監督署)に駆け込んだ」と発言した。
 妊娠や出産を理由とする職場での嫌がらせ「マタニティーハラスメント」と、批判されかねない発言だ。白須賀氏は会議後の報道陣の取材に「(詳細を)答える気はない。そういう事例がある、ということだけ」と話した。
 会議では、法案の柱の一つである時間外労働の上限規制について、中小企業は当分の間、人材確保の状況などを踏まえて指導するよう求める声が上がった。白須賀氏は会議で、労基署が保育園側に非があると指摘しているとし、「中小企業の実情と労基の指導の仕方がずれている。事情を踏まえるよう、労基に徹底的に指導してもらいたい」とも語った。【神足俊輔】

https://mainichi.jp/articles/20180330/ddm/041/010/112000c

白須賀貴樹衆院議員の発言内容がそもそもよくわかりません。
「雇って1カ月後には実は妊娠して産休に入ると(言ってきた)。人手不足で募集したのに、それは違うだろと言った瞬間に労基(労働基準監督署)に駆け込んだ」とのことですが、採用した時点で妊娠していたのかそうでないのかも不明です。

労働基準法では、出産予定日6週間前(多胎妊娠の場合は14週間前)から本人の請求があれば使用者は産休を認めなければならないことになっています。

(産前産後)
第六十五条 使用者は、六週間(多胎妊娠の場合にあつては、十四週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない。
○3 使用者は、妊娠中の女性が請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させなければならない。

http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=322AC0000000049&openerCode=1

採用した時点で妊娠していたとすると、採用1ヶ月後に産休に入る状態なら妊娠5~7ヶ月くらいの状態ですから外見的にも妊娠していることがわかりそうな気がします。それなら産休に入ることを前提として判断*1していなければおかしい気がします。
採用後に妊娠したことに本人が気づいて、予定日6週間前からの産休を申し出たというなら、申し出たのは1ヵ月後でも産休に入るのは半年後*2くらいですよね。その場合なら、使用者にとっては産休中の穴埋めが必要になって大変になるのはわかります。ですが、それは本人に文句を言うような話ではありませんよね。

女性の側に問題があるとすれば、採用時点では妊娠の事実を知りながら伝えず、外見的にわかるような時期でもなく、採用後に事実を伝えた場合ですかね。これも採用時にどういう契約になっているかによると思いますが、採用後1年は働いてほしいという内容の契約であった場合は女性の側に非があるでしょうかね(使用者の要望に応えられないことを知っていて伝えなかったことになりますので)。

で、そういった女性側に非があると考えられる特別な事情でもない限り、「人手不足で募集したのに、それは違うだろ」と言えば労基署に駆け込まれても仕方がないでしょう。女性側にすれば他に頼るところがないんですから。

まあ、この件ではソースが白須賀議員の話だけですので、状況については話を盛ってるんじゃないかな、と思え、実際に女性側に非がある状況だったとは考えにくい気がしますが。

で、こういう場合、使用者側はどうすべきだったかと言えば、採用時に妊娠していないか出産の予定がないか確認し、ある場合は使用者側の人員計画上調整できるか検討した上で採否を判断すべきということになるでしょうし*3、採用後に妊娠がわかった場合は人員調整の必要があるので速やかに使用者側に報告するよう求めるくらいでしょうね。

あと、中小企業だとこういう産休は困るみたいな意見もいくつか見かけました。
例えば、こんな感じ。

雇用して1ヶ月で妊娠を告げられ、数ヶ月には産休、その後育休(ただし、取得要件を満たす場合ですが)、そして復帰することなく退職したら?

http://blogos.com/article/287197/

しかし、そもそも産休中は会社は給与を支払う必要も社会保険料を負担する必要もありません*4。コスト面での負担がありませんので、上記の場合は、産休に入った時点で退職されたのと何ら変わらないはずですね。

むろん、急にいなくなって替わりをどうするかという人員調整の問題は生じますが、それって産休でなく退職であっても同じですよね?
しかも退職の場合は最短2週間前の申し出が起りえるのに対し、産休の申し出はそれより早いのが一般的でしょう(周囲も普通は気づくでしょうし)。退職されるよりも産休の方が会社側に人員調整に関して時間的余裕があるわけです。
これらを踏まえると、「雇用して1ヶ月で妊娠を告げられ、数ヶ月には産休、その後育休(ただし、取得要件を満たす場合ですが)、そして復帰することなく退職した」として、雇用して1か月で退職されるよりもマシですし、退職が労働者の権利として確立しているにもかかわらず、産休に対しては当然とは考えられないのは、そちらの方がおかしいと思いますね。



*1:産休時期に臨時雇いの募集を検討するなど

*2:1ヵ月後時点で妊娠3ヶ月と想定すると妊娠8ヶ月ごろには採用から半年経っているという計算

*3:繁忙期に産休になることがわかっているなら採用しないというのは事業継続上はやむをえないでしょうし。

*4:http://sharescafe.net/49648940-20160928.html

1984年の昭和天皇レベルの謝罪だったのは残念ではある

この件。

文大統領、ベトナム戦争時の”韓国軍問題”を公式的に認める発言「不幸な歴史に遺憾」=韓越首脳会談

3/23(金) 14:39配信 WoW!Korea
 ベトナム国賓訪問中の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は23日、「韓国とベトナムが模範的な協力関係を発展させている中、「私たちの心に残る両国間の不幸な歴史に対し、遺憾の意を表する」と述べた。
 文大統領はこの日午前(現地時間)、ベトナム主席宮でおこなわれたチャン・ダイ・クアン国家主席との首脳会談での発言を通して、このように話した後、「両国が未来志向的な協力推進のため、共に力を合わせていくことを望む」と明かした。
 文大統領によるこのような言及は、ベトナム戦争当時、韓国軍派兵と韓国軍の民間人虐殺問題などについて、公式的に遺憾の意を明かしたものと注目される。
 また、文大統領は「昨年11月、韓-ASEAN首脳会議を契機に、ASEAN国家と協力を包括的に改善していくとの意思を表明した」と紹介しながら、「今回の訪問を通して、われわれの核心パートナーであり、かつASEANの中心国家であるベトナムとの協力関係をより強化していくことを望む。来年には両国間の戦略的協力同伴者関係樹立10周年を迎え、両国関係を包括的・戦略的同伴者関係としてより一層改善させていくことを提案する」と強調。
 これに、クアン国家主席は「すばらしいお言葉に、感謝申し上げる」と短く回答した。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180323-00000043-wow-int

もちろん、謝罪しないよりマシなのは間違いありませんし、これ自体は評価すべきなのですが、個人的にはもう少し踏み込んでほしかったところです。
ただ一応、文政権としては明確に謝罪する意向があったとの報道もあります。

ハンギョレ

文大統領「不幸な歴史について遺憾の意を表する」ベトナム民間人虐殺を謝罪

登録:2018-03-24 04:15 修正:2018-03-24 07:30
(略)
 文大統領は当初、今回のベトナム訪問で民間人虐殺について公開かつ明確な謝罪を行う意向を示したという。しかし、ベトナム政府が民族内部の戦争という問題が浮き彫りになることを懸念し、難色を示したため、謝罪のレベルが大幅に調整されたという。
(略)

http://japan.hani.co.kr/arti/politics/30118.html

共産党独裁のベトナム政府が市民の声をどの程度反映しているのか判断しにくいところもあり、ベトナム政府の「難色」をどうとらえるべきか難しいところです。ベトナム政府にしてみれば、侵略国による被害の告発・問題化の前例を韓国に対して作ると対米でも同様の問題を取り上げざるを得なくなり、米越関係を損なう懸念もあるかも知れません。さらにベトナム政府にとって懸念材料であろうことは、当時米国の傀儡だった南ベトナム政府や軍、支持者も今は同国民であるという点で、ベトナム戦争での被害告発が相次ぐとそれらも表面化してくるのが予測されることです。「民族内部の戦争という問題が浮き彫りになることを懸念」というのは、そういった点でしょう。
ただ被害を受けた当事者市民にとってはそんなことは関係ありません。ありませんが、ベトナム政府の懸念を押し切って公式謝罪を強行するのも、政府間外交としては難しいでしょう。
出来得ることは、ハンギョレが社説で述べた以下のような内容くらいですかね。

 韓国が道徳的な人権国家に進むには、ベトナム人にかけた大きな苦痛を正直に凝視することは避けられないことだ。そうしようとするなら、政府のレベルだけでなく市民社会でもこの問題により多くの関心を注ぐ必要がある。ベトナム戦争の虐殺に対する懺悔の運動が起きるべきである。文大統領の遺憾表明が、韓国人の深い反省を通じて両国関係の真の成熟に向かう契機になることを願う。

http://japan.hani.co.kr/arti/opinion/30114.html


ちなみに1984年に昭和天皇は「遺憾の意」という表現で訪日した全斗煥大統領に謝罪しています。

大韓民国全斗煥大統領歓迎の宮中晩餐会のおことば(昭和59年9月6日)

(略)今世紀の一時期において、両国の間に不幸な過去が存したことは誠に遺憾であり、再び繰り返されてはならないと思います。(略)

http://www.geocities.jp/nakanolib/choku/cs59.htm

1990年に訪日した盧泰愚大統領に対しては、現天皇が「痛惜の念」という表現で謝罪しています。

国賓 大韓民国大統領閣下及び同令夫人のための宮中晩餐

平成2年5月24日(木)(宮殿)
(略)このような朝鮮半島と我が国との長く豊かな交流の歴史を振り返るとき,昭和天皇が「今世紀の一時期において,両国の間に不幸な過去が存したことは誠に遺憾であり,再び繰り返されてはならない」と述べられたことを思い起こします。我が国によってもたらされたこの不幸な時期に,貴国の人々が味わわれた苦しみを思い,私は痛惜の念を禁じえません。
(略)

http://www.kunaicho.go.jp/okotoba/01/okotoba/okotoba-h02e.html#D0524

用語の違いもありますが、1990年の現天皇発言は「不幸」をもたらした主体を明確にしている点も重要です。1984年の昭和天皇発言では主体が明確にされていません。
ベトナムでの文大統領発言を報道で見る限りは、用語は「遺憾の意」であり「不幸な歴史」をもたらした主体も不明確ですので、1990年の現天皇発言には及ばず、1984年の昭和天皇発言レベルに留まったという他ありません。
2001年の金大中大統領や2004年の廬武鉉大統領の発言の方がもう少し踏み込んでいた観があります。2001年の金大中大統領発言は「不幸な戦争に参加して不本意にもベトナムの人々に苦痛を与えたことに対して申し訳なく思っている」*1といったもので、1990年の現天皇発言と同等かそれよりも踏み込んだ表現と言えるでしょう。

金大中大統領の場合は1998年に「我々両国間に一時不幸な時期があった」という発言があった上で、2001年に訪韓したベトナムのチャン国家主席に「ベトナムの人々に苦痛を与えたことに対して申し訳なく思っている」と述べています。今回文大統領もベトナム側に訪韓を求めましたので、ひょっとしたらその際にはもう少し踏み込んだ発言をするかも知れず、その辺に期待したいところです。



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田中実氏が北朝鮮に入国していたという情報を安倍政権はなぜ4年間も隠蔽したのだろうか?

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北朝鮮一転、拉致被害者入国認める

2018/3/16 18:14©一般社団法人共同通信社
 政府認定の拉致被害者で神戸市に住んでいた田中実さんについて、北朝鮮が2014年、日本側との接触で「入国していた」と伝えていたことが16日、分かった。日本政府関係者が明らかにした。北朝鮮はそれまで未入国としていた。

https://this.kiji.is/347307569550902369

なぜ今さら4年前の話が出てくるかすごく不思議なニュースです。
拉致被害者、一転入国認める 神戸の田中実さん、北朝鮮」(神戸新聞)とかでも報道されていますが、伝えた時期が2014年のいつかは明記がなく、サンスポで「北朝鮮が田中さんの入国を伝えてきたのは、両国が、北朝鮮による拉致問題の包括的調査などを決めた「ストックホルム合意」を交わした14年5月より前だったという」という記載がある程度です。

いずれも記事の構成は北朝鮮への不信感を煽るものになっていますが、2014年当時の状況を考えるとむしろ北朝鮮の方が誠実な対応をしたことがわかります。
2014年は3月の日朝赤十字会談から交渉を進め、2014年5月29日*1にいわゆるストックホルム合意が成立しています。
これを考慮すると、北朝鮮が田中氏の入国の事実を日本側に伝えた時期は2014年3月から5月の間であろうと思われ、交渉の過程で北朝鮮が情報を出してきたということになります。

不思議なのはその情報をなぜ安倍政権は公表しなかったのかという点です。ストックホルム合意には北朝鮮側が取るべき行動措置として以下の項目があります。

 第五に,拉致問題については,拉致被害者及び行方不明者に対する調査の状況を日本側に随時通報し,調査の過程において日本人の生存者が発見される場合には,その状況を日本側に伝え,帰国させる方向で去就の問題に関して協議し,必要な措置を講じることとした。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000040352.pdf

北朝鮮側は交わされる予定の合意を順守する意志表示として田中氏の情報を伝えたと言えそうですが、日本側が「随時」公表しなかった理由は何でしょうか?合意成立以前の交渉過程で公表しなかったということまでは理解できますが、それでもストックホルム合意が成立した2014年5月には公表できたはずです。2014年3月に横田滋氏、早紀江氏夫妻がモンゴルで孫にあたるキム・ウンギョン*2(キム・ヘギョン*3)氏とその娘と面会できたこともあり、田中氏の情報も公表すれば、世論に北朝鮮との交渉に肯定的な印象を与えることはできたはずです。
合意後の北朝鮮による調査結果を待って、それと合わせて公表する意向だったという可能性もないではないでしょうが、2014年7月1日の日朝政府間協議の時には直前に北朝鮮弾道ミサイル発射を行っていた上に、安倍政権が集団的自衛権行使容認の閣議決定を行っており、安倍政権として積極的に緊張緩和につながる情報を公開する動機に欠ける状況になっています。

集団的自衛権行使容認の閣議決定に際して、安倍政権は朝鮮半島情勢を理由に挙げています。

毎日新聞集団的自衛権 閣議決定 「自衛」拡大の懸念」2014年7月2日)
 これに対し、新たな解釈では武力攻撃の有無ではなく、「国民の権利が根底から覆される明白な危険」の有無が判断基準となる。日本が武力攻撃を受けていなくても政府が「明白な危険」を認定すれば、ある国から攻撃を受けた米軍艦船を防護▽米国へ向かう弾道ミサイルを迎撃▽米国と敵対する国へ武器を運ぶ船を強制的に検査−−などを行うことが可能。いずれも「自衛の措置」と位置づけ、憲法上の問題は生じないとの考えだ。

https://mainichi.jp/articles/20140702/org/00m/010/992000c

この状況で北朝鮮は“拉致被害者”の情報を日本側に提供しており、交渉できる相手であることをわざわざ国民に示して閣議決定反対の声を強化する動機が安倍政権にはなかったから公表を差し控えた(というより隠蔽した)可能性がありそうです。

田中氏の“拉致”状況も安倍政権としては積極的に対応する気を起こさせないものだったと言えるかもしれません。

神戸新聞
本人の帰国の意思は「ない」と説明したという。

https://www.kobe-np.co.jp/news/zenkoku/compact/201803/0011074466.shtml

(サンスポ)
 北朝鮮は、田中さんについて「帰国するかどうかは本人の考えが尊重される」と強調。本人は平壌で家族と共に生活、現地に残る意向があると日本政府に説明した。

http://www.sanspo.com/geino/news/20180317/pol18031705020001-n1.html

警察庁の公表資料でもこんな感じの“拉致”。

(焦点271号 北朝鮮によるテロ等)

発生時期・場所 事案(事件)名 事 案 の 概 要
1978年(昭和53年)6月頃 元飲食店店員拉致容疑事案 兵庫県神戸市神戸市の飲食店に出入りしていた田中実さんが、北朝鮮からの指示を受けた同店の店主である在日朝鮮人の甘言により、海外に連れ出された後、北朝鮮に送り込まれたもの。
https://www.npa.go.jp/archive/keibi/syouten/syouten271/japanese/pdf/sec04.pdf

田中氏は1978年6月6日に成田から出国しているわけですが*4北朝鮮入国の経緯まで含めて本人の意に反したかどうかもよくわかりません*5。その上で、現在は北朝鮮で「家族と共に生活、現地に残る意向」と言われた状況では、“拉致被害者”としての田中氏を安倍政権が“救出”して日本に帰国させるという成果につながる期待が薄かったと言えるでしょう。

2014年7月の協議では、北朝鮮に対する日本政府の独自制裁の一部を解除することを表明した安倍政権は、そこでも田中氏の情報を国民には公表せず隠蔽を続けました。

西野純也氏*6によれば、2014年8月から9月にかけて日朝両国はマレーシアなどで非公式に接触していて、「日本側は当然、拉致被害者の安否情報を盛り込むよう求めたが、北朝鮮側が難色を示したとされる」(『読売新聞』2014 年9 月20日)とのことですが、この時点で既に入手していた田中氏の情報を日本政府は、その後も握りつぶしています。

そして、2014年9月になると最早日本国内の世論は北朝鮮に対する不信感に満ちており、10月には消費増税延期を争点に安倍政権が解散を仕掛けようとしていることが大きな関心となってきます。11月解散12月総選挙となる中で、安倍政権にとって田中氏の情報は公開するに値しないものという扱いになり、結果として、日本政府の拉致問題対策本部はweb情報を以下のままにして放置しました。

4.昭和53(1978)年6月頃 元飲食店店員拉致容疑事案

被害者:田中実さん(28・兵庫県
欧州に向け出国した後失踪。
平成14年10月にクアラルンプールで行われた日朝国交正常化交渉第12回本会談及び平成16年に計3回行われた日朝実務者協議において我が方から北朝鮮側に情報提供を求めたが、第3回協議において、北朝鮮側より、北朝鮮に入境したことは確認できなかった旨回答があった。

平成17年4月に田中実さんが拉致認定されて以降、政府は、北朝鮮側に対し、即時帰国及び事案に関する真相究明を求めてきているが、これまでに回答はない。

https://www.rachi.go.jp/jp/ratimondai/jian.html

「これまでに回答はない」という日本政府の政府の説明は、遅くとも2014年5月の時点では誤りであり、その後4年間にわたってそれが訂正されることはなかったわけですね。

安倍政権が田中氏のことをようやく思い出したのは、韓国政府主導で南北首脳会談や米朝首脳会談が現実的になってきてからです。
圧力一辺倒、対話はしないと豪語していた安倍政権が北朝鮮情勢の蚊帳の外に置かれることを避けるため、首を突っ込む材料として使おうとしている感じですね。


日本に帰国するかどうかはともかく、自由に行き来できるようにとは思う

帰国するかどうかは本人の意志ということもありますが、本人の意志を確認するのも容易ではありませんし、一方で、北朝鮮から日本に一時帰国した拉致被害者らは今度は北朝鮮にも行けない状況にされているわけで*7北朝鮮に家族がいる田中氏にとっては、日本に帰国したらその家族とは二度と会えなくなる可能性も高いんですよね。
国交正常化した上で自由往来できるようになるのが一番良いと思いますし、そのためには朝鮮戦争終結させ、南北間・米朝間の交渉が成功し関係改善させる必要があるわけで、現状で日本政府、それも安倍政権が首を突っ込んでも逆効果でしかないんじゃないかなと懸念しています。

2018/3/17 06:50神戸新聞NEXT

北朝鮮「田中実さん入国」 神戸の関係者ら無事祈る

 神戸出身の拉致被害者、田中実さん=失踪当時(28)=の「入国」を北朝鮮が2014年に認めていたとの情報を受け、田中さんの高校時代の恩師、故渡辺友夫さん(享年75)の長男慎太郎さん(56)=神戸市垂水区=は16日、「予想もしていなかった展開」と驚きを口にした。
 友夫さんは生前、身寄りのない田中さんを案じ、拉致問題の解決に奔走。遺志を継いだ慎太郎さんも、田中さんが既に68歳となったことを気に掛けてきた。今回の情報では北朝鮮が田中さんの「生存」も認めていることになり、「とにかく元気なうちに、日本の土を踏んでもらいたい。高校の同級生たちも待ちわびている」と述べた。
 北朝鮮は平昌(ピョンチャン)五輪を機に態度を急激に軟化。同じく神戸出身の拉致被害者有本恵子さん=失踪当時(23)=の高齢の両親らも、早期帰国への望みをつないでいる。慎太郎さんは「拉致問題は日本が声を上げなければ解決しない。今が最後のチャンスかもしれない。南北や米朝首脳会談に乗り遅れないよう、ぜひ日朝首脳会談の実現を」と政府に求めた。(段 貴則)

https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/201803/0011075413.shtml



*1:http://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/na/kp/page4_000494.html

*2:Kim Eun-gyong, 김은경

*3:Kim Hye-gyong (김혜경)

*4:http://www.sukuukai.jp/shiryo/paper11/

*5:“日本軍兵士が直接銃剣を突き付けて連れ去ったのでなければ、従軍慰安婦について日本軍の責任はない”、という安倍的思考や“連行と言えば強制連行のことである”とする読売新聞的解釈を適用すれば、田中氏のケースは“拉致”とは呼べず、北朝鮮の責任すら問えるかどうか怪しいということにもなりますね。個人的には、入国の経緯だけではなく北朝鮮入国後も田中氏の意志がちゃんと尊重されたかどうかで判断すべきと思いますが、その情報がまず無い状況なので何とも判断できませんが。

*6:(pdf)「拉致問題再調査をめぐる日本の対北朝鮮政策」

*7:安倍首相が官房長官時代にやらかしたとのことですが

韓国政府が構想する朝鮮半島統一の方策について

日本ではあまり知られていないようで、“韓国が北朝鮮に併合される”説を吹聴してまわっている人を多く見かけます。
今回の南北首脳会談開催決定に際し、それに尾ひれをつけて、韓国政府が北朝鮮のスポークスマンになっただのなんだのと喚いている人たちもいますが、当然ながら、党の韓国国民がそんなことを容認するはずもなく、韓国政府も当然そんな方針を立てるわけもなく。

民族共同体統一方案(민족공동체통일방안)

韓国には統一部という省に相当する中央行政機関があります。1969年3月1日に設立されています。
その管掌する任務は、統一と南北対話・交流・協力・人道支援に関する政策の策定や北朝鮮の情勢分析、統一教育や広報といったものです*1

統一に向けた具体的な方策については、民主化の進展に伴い非軍事的な方法が具現化され、現在の民族共同体統一方案(민족공동체통일방안)が確立したのは、1994年8月15日金泳三政権の時です。これが現在も生きています。

具体的には、人間中心の自由民主主義(인간 중심의 자유민주주의)という理念の下、自主(자주)、平和(평화)、民主(민주)という三つの原則で、和解協力(화해협력)→南北連合(남북연합)→統一国家(통일국가)という三段階を経る、という方策です。
そのため、「北朝鮮の体制を保証しつつ南北統一」=「韓国が北朝鮮側に吸収される」なんて等式は成り立ちません。

で、今回の文政権の動きが、自主(자주)、平和(평화)、民主(민주)という三原則に沿ったものだということは結構わかりやすいと思います。
「自主(자주)」とは、民族自決の精神に基づいて、南北当事者間の解決することであり、「平和(평화)」とは、武力に依拠せずに対話と交渉によることであり、「民主(민주)」とは、民主的原則に立脚した手順と方法によることを指します*2
平昌五輪を上手く利用したと言えます。
在韓米軍の存在を踏まえると第三の当事者と言える米国に対しても、文政権がかなりの根回しをやっていたことが伺われます。中国・ロシアに対しても当然根回しはやっているでしょうが、米国に対する根回しはそれ以上の周到さでやっているでしょうね。トランプ政権内でも融和派と強硬派が混在しているようで、今もって不確定要素を多く抱えているでしょうけど。
日本に対しては、ほとんど何も期待していない感じというか、逆に煽り役の道化として上手く利用しているとも言えるかも知れません。
実際問題として、安倍日本は北朝鮮問題に対して、制裁だとか圧力だとか煽り立てて国内政治的に秘密隠蔽法だの共謀罪法だの戦争法だのの強行採決やあるいは選挙に利用してばかりですから、韓国政府からすれば、ひっきりなしに火の粉を投げ込んでくる迷惑な隣人でしかありません。先の日韓首脳会談では、米韓軍事演習をけしかける安倍首相に対して文大統領が釘を刺しましたが、これ自体が北朝鮮に対してよいメッセージになった可能性もあります。つまり、“日本に口を挟ませると事態が収拾困難になりかねないから、早く緊張緩和を進めた方がいい”というメッセージです。

いずれにせよ、南北首脳会談を4月に開催する予定を取り付けるまでには至りました。懸案だった米韓合同軍事演習についても、再延期せずの実施について北朝鮮は許容したわけですから一定の譲歩はしたと言えます。少なくとも、米韓にとっては北朝鮮にさらに譲歩したと言う批判を受けずにすみました。その上で、米朝首脳会談も実施される見通しとなり、「米軍、合同演習に空母派遣せず=北朝鮮に配慮、規模縮小か(3/10(土) 16:38配信)」といった事実上の譲歩が示されてもいます。

薄氷を踏むような展開で辿りついた南北首脳会談と米朝首脳会談の約束ですが、統一までにはまだまだ長い道のりで予断は許せません。
現状はまだ三段階の最初、「和解協力(화해협력)」のそのまた端緒についた程度です*3。しかし、非核化はこの「和解協力(화해협력)」の過程で為されるべきでしょうから、ここが最も重要な段階とも言えます。

米朝首脳会談で具体的に何が話されるのか、についてはおそらくは北朝鮮の非核化と同時に平和条約交渉を進めるというロードマップではないのかな、と個人的には予想しています。半分は期待ですけど、それでも北朝鮮の非核化には平和条約が必要であろうとの見方は2017年6月8日のNew York Times社説でも言われていたりします。

One way or another, a peace agreement ending the Korean War is most likely a necessary element to any resolution of the North Korean nuclear challenge. American officials should be considering what would make an agreement work: What governments would participate? How would an agreement be verified and enforced?

https://www.nytimes.com/2017/06/08/opinion/end-the-korean-war-finally.html

韓国の民族共同体統一方案での第二段階の二政府二制度の南北連合(남북연합)に至るためにも、朝鮮戦争終結は必須でしょうから、平和条約交渉については韓国政府も視野に入れているはずです。朝鮮戦争の休戦協定の署名国は、アメリカ(国連軍)、北朝鮮、中国ですから、平和条約交渉をするなら、アメリカ、北朝鮮の他に中国も当事国となります。南北首脳会談や米朝首脳会談のニュースに対する中国政府の好意的な反応を見る限り、韓国政府は中国側にも根回しを十分に行っていることがうかがえます。
朝鮮戦争の平和条約交渉という枠組みだと、日本を蚊帳の外に置くことに正当性がありますので韓国政府としては日本政府に対して情報を隠しやすいとも言えます。

機械翻訳

民族共同体統一方案(민족공동체통일방안)

「民族共同体統一方案」は、韓国政府の公式統一方案で'89。9月盧泰愚政府の時期に「韓民族共同体統一方案」に初めて提示されて、'94。8月、金泳三政府が「韓民族共同体の建設のための3つのステップの統一方案」(民族共同体統一方案)に補完・発展しました。

<主な内容>
  • 統一の理念:人間中心の自由民主主義
  • 統一の原則:自主、平和、民主

  ・自主:民族自決の精神に基づいて、南北当事者間の解決を介して
  ・平和:武力に依拠せずに対話と交渉によって
  ・民主:民主的原則に立脚した手順と方法で

  • 統一の過程(3段階):和解協力→南北連合→統一国家
和解協力

南北がお互いの実体を認めて敵対・対立関係を共存・共栄の関係に変えるための多角的な交流協力推進

南北連合

南北間体制の違いと異質性を考慮し、経済・社会的なコミュニティを形成・発展させる南北連合を過度体制に設定(2システム、2政府)
(1)南北首脳会議(最高決定機関)
(2)南北閣僚会議の(執行機関)
(3)南北評議会(台機構/ 100人前後南北同数代表)
(4)共同事務局(支援機構/常駐連絡代表派遣)

統一国家

△南北評議会で統一憲法草案設け⇒△民主的な方法と手順を経て統一憲法確定・公布⇒△統一憲法による民主的総選挙実施⇒△統一政府と統一国会構成(1システム1政府)

  • 統一国家の将来像:自由・福祉・人間の尊厳が実装されている先進民主国家
http://www.unikorea.go.kr/unikorea/policy/plan/



*1:http://www.unikorea.go.kr/unikorea/about/Introduce/establishment/;jsessionid=GDNdq9-hqNdOBaeP7QbvBTHI.unikorea11

*2:http://www.unikorea.go.kr/unikorea/policy/plan/

*3:まあ、他の交流協力はありますので、全てこれからというわけではありませんが