植民地人を強制連行して酷使した日本企業の一人勝ちの構図

このニュースを見ての感想です。

日韓に負の効果、1円も払うな…同友会代表幹事

11/2(金) 9:07配信 読売新聞
 経済同友会の小林喜光代表幹事は1日の記者会見で、韓国大法院(最高裁)が新日鉄住金に韓国人元徴用工への賠償を命じる判決を確定させたことについて、「筋が通らないことには一円も払ってはならない。他(の被告企業など)にも迷惑をかける」と指摘した。
 小林氏は「今のままでは日韓関係、特に経済で負の効果を間違いなくもたらすと思う」とし、「韓国は分かりづらい(国)ということではないか」と批判した。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181102-00050015-yom-bus_all

戦前は、経済格差のある植民地からの渡航者を安く雇い劣悪な環境で酷使し、
戦中は、警察国家の圧力下の“募集”“官斡旋”で安い労働力を植民地からかき集め、
敗戦後は、外国人扱いになった植民地人をろくに給料も払わないまま追い出し、
日韓請求権協定の経済協力条項で日本政府に未払い賃金などの負債を肩代わりしてもらい、
しかも経済協力のうち、無償分は事実上の公共事業として受託して自社の利益とし、
有償分の場合も多くは日本企業が受注することで自らの利益となし、
独立した旧植民地の最高裁が賠償命令を下しても、日本政府の庇護の下、賠償を堂々と拒否するという。

日本企業一人勝ちだな。
どう見てもブラック企業だけど、政権を癒着して自民党献金さえしとけば安泰というのは昔も今も変わらない日本の伝統というものかもしれない。



ブコメの連中

the_sun_also_rises

このレポートはILO総会の討議資料でしかないのよ?https://goo.gl/BbnUFJ 国連決議されたものでもなく国連の総意でもない。強制力を持つ判決を得るなら国際司法裁しかないがブログ主は付託に賛成するのかい?(笑)
the_sun_also_risesのコメント2018/11/05 11:38

http://b.hatena.ne.jp/entry/373690486/comment/the_sun_also_rises

「討議資料でしかない」とか「国連決議されたものでもなく国連の総意でもない」とか必死に矮小化してるけど、別にNPOが出した資料とかではなく、ILOの条約勧告適用専門家委員会が出している報告書だからねぇ。暗黒太陽が認めたくないのはわかるけど。
“強制力が無いから問題ない”と考えるのは君がそういう人間性だからということで、きっとNHKの受信料も払ってないんだろうなぁ・・・。

ああ、ちなみに国際司法裁判所に提訴するのは私としては賛成ですよ。ちょっと前の記事でこう書いたとおり。

まあ、国際裁判に訴えるというのは良いと思います。そちらで別の和解案が提示されるかもしれませんしね。日本政府の常套手段である被害者が死に絶えるまで訴訟を長引かせるという可能性もありますが、ドイツ関連で同種の判決があるはずですからそんなにかからないでしょうし。

http://scopedog.hatenablog.com/entry/2018/10/31/233000

bocola

国連も国際法に従う組織である以上は、日韓請求権協定によって、完全かつ最終的に決着し、韓国政府が韓国民に補償を行う事は再三韓国政府が確認した事実のみが重要と理解する。https://anond.hatelabo.jp/20181102121632
bocolaのコメント2018/11/05 11:51

http://b.hatena.ne.jp/entry/373690486/comment/bocola

それらの請求権協定を前提とした上で、それでも尚和解することを求めたのが、ILOの条約勧告適用専門家委員会なわけですが、意味理解してます?
あとね、三権分立って知ってますか?韓国の最高裁が判決を出した以上、韓国政府としてはそれまでの見解がどうあれ、基本的には最高裁判決を尊重しなければいけないんですよ。
どこの国際機関が行政府に対して司法の判断を無視するよう求めると思ってるんですかね・・・。

また適当な事を。請求権協定によって個人賠償分も一括して支払っているから、韓国政府が韓国民に対して補償するのは韓国政府も認める所で、実際に何度か補償を行っている。https://anond.hatelabo.jp/20181102121632
bocolaのコメント2018/11/04 23:37

http://b.hatena.ne.jp/entry/373524854/comment/bocola

同人の別のブコメだけど、これも多分判決文を全く読んでないんだろうなぁ。過去に韓国政府が韓国民に対して補償したのは請求権協定で対象とした分についてであって、今回の判決はその協定には含まれていない分の請求権が存在することを明確にしたんですよ。
といっても理解できないんだろうなぁ。



国際労働機関(ILO)条約勧告適用専門家委員会のレポート(2016年)

2016年 ILO条約勧告適用専門家委員会レポート

Observation (CEACR) - adopted 2015, published 105th ILC session (2016)

Forced Labour Convention, 1930 (No. 29) - Japan (Ratification: 1932)

http://www.ilo.org/dyn/normlex/en/f?p=1000:13100:0::NO:13100:P13100_COMMENT_ID:3256111

「Victims of wartime sexual slavery or industrial forced labour」つまり、従軍慰安婦と強制連行・強制労働被害者に関する記載です。2015年の時点での記載なので、2012年の韓国大法院による差戻審(a decision of the Korean Supreme Court of Justice passed on 24 May 2012 which reversed the decisions of lower courts rejecting the demands for compensation by forced labour victims against two leading Japanese industries)についてはもちろん、その後の高裁判決(the Retrial Courts (the Seoul and Pusan High Courts of Justice) ordered the companies to pay compensation to former victims of forced labour)についても言及されています。

委員会は最後にこのように述べています。

The Committee expresses the firm hope that, given the seriousness and long-standing nature of the case, the Government will make every effort to achieve reconciliation with the victims, and that measures will be taken, without further delay, to respond to the expectations and claims made by the aged surviving victims of wartime industrial forced labour and military sexual slavery.

http://www.ilo.org/dyn/normlex/en/f?p=1000:13100:0::NO:13100:P13100_COMMENT_ID:3256111

「the Government will make every effort to achieve reconciliation with the victims」つまり被害者と和解すべくあらゆる努力を行うことを日本政府に対して、ILOの条約勧告適用専門家委員会は望んだわけですが、それに対する日本の安倍政権の対応は、被告企業に対して和解を拒否するよう圧力をかけ、その当然の結末として韓国大法院で敗訴すると、今度は「首相 「徴用工」判決「あらゆる手段使い きぜんと対応」」と言って、裁判所の賠償命令に従わないことを被告企業に要請したわけです。

その挙句に安倍政権の外務大臣はこんなことを言い出します。
「徴用工」判決 「国際社会への挑戦」と批判 河野外相

国際労働機関の条約勧告適用専門家委員会が日本も批准している強制労働条約を踏まえて日本政府に対して強制連行・強制労働被害者との和解への努力を求めたことを踏まえると、「国際社会への挑戦」しているのはむしろ安倍政権の方としか思えないんですけどね。

首相・官房長官・外相に対してILO見解を踏まえた質問をぶつけることを日本の記者に求めるのは、今や高望み過ぎるんですかねぇ。



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民主党政権期2010年頃から失業率も自殺者数も減少に転じているグラフを示しながら“アベノミクスのおかげ”と主張する芸風

まだこんなことを言ってる人がいるのかと思ったら2017年2月の記事で、はてぶでも結構突っ込まれてたの少し安心しました。
日本の自殺者数はなぜ「激減」したのか?「金融緩和を批判するリベラル」という奇妙な状況(村上尚己 2017.2.24)

何よりも典型的なのは、失業率のデータだ。アベノミクス発動以前と比較すれば、雇用が改善しているのは明白である。

これを言うと、「増えているのは非正規雇用ばかりだ」などと主張する人もいるが、人々の生活を本気で考えるなら、職があることがまず重要である。データを見ればわかるとおり、デフレを容認・加速してきた過去の政権下では、職に就けない人が大勢いた。

さらに、失業率のデータと関連しているのが、自殺者数の数字だ。アベノミクスがはじまった2013年以降、日本の自殺者数は、3万人超に急増した1998年よりも前の水準にまで顕著に減少している。依然として喜べるような数字ではないのはたしかだが、自ら命を断つ人が減っている意義は大きい。

https://diamond.jp/articles/-/116548

では、記事中に示されているグラフを見てみましょう。

f:id:scopedog:20181104223359p:plain
(※:赤線は引用者による)

https://diamond.jp/articles/-/116548

失業率も自殺者数も減少に転じたのは2010年頃であることが明確にわかりますね。もちろんアベノミクスと称する政策が開始されたのは第二次安倍政権ですから2013年、影響が早く出たと仮定しても2012年9月くらいがいいところでしょう。それ以前の自民党総裁は谷垣氏でしたからね。

とりあえず、村上尚己氏のすごいところは、明らかに民主党政権期から改善している指標のグラフを前面に出しながら「日本人の生活は明らかにアベノミクス以降でよくなっている」と主張する厚顔無恥さですね。



赤旗のコラムが戦時中の朝鮮人強制連行補償問題を端的にまとめ昨今の外国人労働者受け入れ問題にもつなげて秀逸だった件

以下の内容です。

2018年11月1日(木)

きょうの潮流

 戦争遂行のために、募集という名で始まった朝鮮人労働者の集団移入。太平洋戦争の激化とともに日本に強制動員されていきました▼各地の炭鉱、金属鉱山や土木場、軍需工場。労働力不足を補うため、最も過酷な職場で劣悪な環境下で飢えや暴力にさらされました。奴隷のように扱われた、地獄の日々だった。数知れない証言がすさまじい実態を語っています▼17歳のときに「勤労報国隊」によって動員された李春植(イ・チュンシク)さんもその1人。当時の日本製鉄(現新日鉄住金)釜石製鉄所で1日12時間も鉄材を運ばされ、熱い鉄材の上に倒れて大けがを負ったことも。技術を習うどころか、賃金さえも受けられなかったと韓国紙が報じています▼李さんら元徴用工4人が新日鉄住金を訴えた裁判で、韓国の最高裁判所は賠償を命じました。これまで日本政府や被告企業は日韓請求権協定によって解決済みとしてきましたが、判決は個人の請求権は消滅していないと▼安倍首相は「あり得ない判断」と抗議。自民党からも「国家の体をなしていない」と韓国への非難が相次いでいます。自国民の安全が脅かされても米国には何も言えないのに、加害者として誠実に向き合わなければならない国や人びとには冷淡な政権の姿が露骨に表れています▼国会では外国人労働者の受け入れ拡大が焦点の一つに。個人の尊厳や人権が守られず、単なる労働力として扱われている現状のままでいいのか。彼らを守ることは働くすべての人たちの権利にもつながっていきます。

https://www.jcp.or.jp/akahata/aik18/2018-11-01/2018110101_06_0.html

「きょうの潮流」はちょいちょい秀逸なものを出している印象。「自国民の安全が脅かされても米国には何も言えないのに、加害者として誠実に向き合わなければならない国や人びとには冷淡な政権の姿」とかも良い指摘ですが、直近で問題になっている“移民政策”にも言及し「個人の尊厳や人権が守られず、単なる労働力として扱われている現状のままでいいのか。彼らを守ることは働くすべての人たちの権利にもつながっていきます」と指摘することで、朝鮮人強制連行補償問題が単なる歴史問題ではなく、現在の労働問題・外国人労働者受け入れ問題に関わる問題であることを明らかにしています。

日本の全国紙が朝鮮人強制連行問題をろくに語ることもできないレベルに堕していますので、朝鮮人強制連行補償問題を現在の外国人労働者受け入れ問題と対比して語るなんてことも期待できないんでしょうけどね。


ところで、戦時中の朝鮮人強制連行はもちろん、国内企業での労働力不足を補うために行われたわけですが、同時に朝鮮人が内地に定住しないようにという差別的な声から2年で帰国させようとしたり、そうかと思えば短期労働だけでは“募集”で集めることが難しいから話を盛って騙して連れてきたり、企業としてもせっかく熟練工に育った朝鮮人を2年契約だからと帰国させることには反対したりと、矛盾する色んな思いが交錯していたです。
決して国家的意図として朝鮮人を苦しめようとしたわけではないものの、結局“労働力だけよこせ”、“定住は断る”、“用が済んだら帰れ”といった日本企業・内地民衆の声に場当たり的に対応した結果として生じる矛盾を全て朝鮮人労働者に押し付けた挙句、敗戦後は外国人扱いにして補償の対象からも外したわけです。
韓国併合を合法だとみなしたとしても、さすがに行政のあり方として不法といっていいレベルでしょうが、日本政府・司法は徴用は合法、募集・官斡旋は知らんといった態度で被害者を無視したわけですからね。1965年請求権協定の際も日本は韓国併合も徴用も合法だと立場を取っていたので、行政行為の不法性に対する賠償請求権は請求権協定の対象とはなっらなかったわけで、そこを今回突かれてしまったと。せめて、1965年の時点で植民地支配の不当性を日本政府が認め、それも含めた賠償的性格をもった経済協力金であることを明言していれば、今回のような大法院判決は出なかったでしょうけど。植民地支配の不当性を認めたくないという幼児的な日本のこだわりが招いた結果でもありますね。

さて、それはともかく、朝鮮人強制連行問題というのは一方向だけの単純な政策的な思惑だけで生じたのではなく、相互に矛盾するような様々な思惑が絡み合って形成されたわけで、その中には家族を呼べるようにしては、とか善意と取れるようなものもありました。そういう様々な思惑の併存というのが、現在の外国人労働者の受け入れ問題における様々な意見の併存と、何というかとても似てるなあ、と感じるんですよね。
80年前と同じ道を歩んでいるように思えてならないですし、同時にそれによって多くの外国人労働者を苦しめても、80年後にまた安倍みたいな奴を首相に選んで自分たちの罪を忘れるんだろうなぁと諦めの気持ちを抱かざるを得ないところです。



日本に不利な判決を食い止めていた朴槿恵政権を反日扱いして追い込んだ結果だけど、まあ自業自得。

実際のところ、朴槿恵政権はかなり“親”日的な対応を採っていたと思うんですけど、日本社会が望む親日とは程遠かったということでしょうね。まあ、日本社会が韓国に求める“親日的態度”ってのは、日本人の前に這いつくばって靴をなめるようなことですから、最初から無理筋ですが。

それはともかく今回の件では、むしろ新日鉄住金側が日本政府側の圧力で勝ち目の薄い裁判に突っ込まざるを得なかったような気がして気の毒な感じ(いくらでも和解するチャンスがあったはずだし)。

(朝鮮日報日本語版) 強制徴用:韓国最高裁新日鐵住金に賠償命令

10/30(火) 14:24配信 朝鮮日報日本語版
 2005年2月にヨ・ウンテクさん=故人=ら強制徴用被害者4人が日本の鉄鋼メーカー・新日鐵住金を相手取って起こした損害賠償請求訴訟。韓国大法院(最高裁判所に相当)の全員合議体が30日、新日鐵住金の賠償責任を認め、1人当たり1億ウォン(約1000万円)の支払いを命じる判決を言い渡した。
 韓国大法院は、(1)新日鐵住金と日本製鉄の法的同一性を認め、(2)日本最高裁判決における原告敗訴の効力を認めず、(3)韓日請求権協定によって個人請求権は消滅せず、(4)民法上の時効は成立しない、とする2012年の判断を踏襲し、新日鐵住金の上告を棄却した。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181030-00001672-chosun-kr

個人的に最も重要な争点は「(3)韓日請求権協定によって個人請求権は消滅せず」の部分だと思いますが、日韓請求権協定による請求権放棄の意味として、外交的保護権放棄説を採用する場合はもちろん、手続的権利放棄説を採用する場合でも韓国側が新日鉄住金に対して賠償を命ずることは可能で、賠償ができないのは、実体的権利放棄説を採用する場合以外にありえません*1

5 ところが2000年になり、戦後補償裁判の中で「時効」や「国家無答責」等の争点について日本政府に不利な判断が出るようになると、日本政府は突然主張を翻し、戦後補償問題は条約の請求権放棄条項で解決済みとの主張をするようになった。日本人被害者から補償請求を受けた時と外国人被害者から賠償請求を受けた時に正反対の解釈を主張したのである。2007年の最高裁判決は日本政府のこの主張を基本的に認めてしまったが、「請求権放棄条項で失われたのは被害者が訴訟によって請求する権能であり、被害者個人の実体的権利は失われていない」と判示した。最高裁がこのように判断した以上、日本政府の解釈もそれに従っているはずであるが、その後も日本政府は「個人の実体的権利は失われていな い」との部分を「省略」し、「日韓請求権協定により解決済み」とのコメントを繰り返している。

http://justice.skr.jp/seikyuuken-top.html

で、日本政府は2000年頃までは外交的保護権放棄説を採用していて、その後手続的権利放棄説に切り替え2007年判決で司法が追随したわけですが、実体的権利放棄説を採用してはいないはずです。
すると、以下の河野外相発言は日本政府がゴールポストを実体的権利放棄説にまで動かしたことを明言したターニングポイントとなるのかもしれません。

河野外相、国際裁判視野に毅然対応=徴用工訴訟判決で

10/30(火) 15:08配信 時事通信
 河野太郎外相は30日、韓国最高裁が元徴用工の訴えを認め、新日鉄住金(旧新日本製鉄)に損害賠償を命じた判決を受けて談話を発表し、「国際裁判を含め、あらゆる選択肢を視野に毅然(きぜん)とした対応を講じる」と表明した。 

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181030-00000068-jij-pol

個人的には、国家間の外交上取り交わされる請求権協定の放棄条項によって個人の実体的権利まで消滅するなんてのは主権在民の国家であることを踏まえると全く賛同できないのですが、日本の安倍政権は実質的に天賦人権説を採用してないのですから個人の実体的権利など国の都合で自由に削除できると考えていてもおかしくはないでしょうね。

まあ、国際裁判に訴えるというのは良いと思います。そちらで別の和解案が提示されるかもしれませんしね。日本政府の常套手段である被害者が死に絶えるまで訴訟を長引かせるという可能性もありますが、ドイツ関連で同種の判決があるはずですからそんなにかからないでしょうし。

ちなみに朝鮮日報記事中に「韓国大法院は、(1)新日鐵住金と日本製鉄の法的同一性を認め、(2)日本最高裁判決における原告敗訴の効力を認めず、(3)韓日請求権協定によって個人請求権は消滅せず、(4)民法上の時効は成立しない、とする2012年の判断を踏襲し」とあるように、別に今回の大法院判決が特異的なわけではなく、参考となる大法院判断が既に2012年に出ているんですよね。

<判例研究>韓国大法院・旧三菱戦後補償請求事件判決(大法院第一部2012年5月24日宣告2009다22549判決)

「(2)日本最高裁判決における原告敗訴の効力を認めず」の部分については、上記判断は以下のように述べています。

 民事訴訟法第217条第3号は,外国裁判所の確定判決の効力を認めるのが大韓民国の善良な風俗又はその他の社会秩序に反しないことを外国判決承認要件の一つとして規定している。ここで外国判決の効力を認めること,すなわち外国判決を承認した結果が大韓民国の善良な風俗又はその他の社会秩序に反するか否かは,その承認の当否を判断する時点において外国判決の承認が大韓民国の国内法秩序が保護しようとする基本的な道徳的信念及び社会秩序に及ぼす影響を外国判決が扱う事案と大韓民国との関連性の程度に照らして判断しなければならず,この際,その外国判決の主文だけでなく理由及び外国判決を承認する場合に発生する結果まで総合して検討しなければならない。
 原審が適法に採択した証拠によると,日本判決は日本の韓国併合の経緯に関して「日本は,1910年8月22日,韓国併合に関する条約を締結し,大韓帝国を併合し,朝鮮半島を日本の領土とし,その統治下に置いた」,Xらに対する徴用経緯にについて「当時の法制の下における国民徴用令に基づいたXらの徴用は,それ自体としては不法行為ということができず,また徴用の手続が国民徴用令に従い行われる限り,具体的な徴用行為が当然に違法であるということができない」と判断するとともに,日本国とYによる徴用は,強制連行であり強制労働であったというXらの主張を受け入れることができず,当時のXらを日本人と,朝鮮半島を日本領土の構成部分とみることによって,Xらの請求に適用される準拠法を外国的要素を考慮した国際私法的観点から決定する過程を経ずに,はじめから日本法を適用した事実,また,日本判決は,旧三菱が徴用の実行において日本国とともに国民徴用令の定めに反した違法な行為を行ったこと,安全配慮義務に反し原爆投下後Xらを放置しXらの帰郷に協助しなかったこと,Xらに支払うべき賃金や預金・積金の積立額を支払わなかったこと等,Xらの請求原因に関する一部の主張を受け入れながらも,このように旧三菱との関係で認められる余地があるXらの請求権は,除斥期間の経過又は時効の完成により消滅し,そうでなくとも,1965年の日韓請求権協定と日本の財産権措置法により消滅したという理由で,結局XらのYに対する請求を棄却した事実等を知ることができる。
 このように日本判決の理由には,日本の朝鮮半島と韓国人に対する植民支配が合法であるという規範的認識を前提とし,日帝国家総動員法及び国民徴用令を朝鮮半島とXらに適用したことが有効であると評価した部分が含まれている。
 しかし,大韓民国制憲憲法は,その前文で「悠久の歴史と伝統に輝くわが大韓国民は,己未三一運動により大韓民国を建立し世界に宣布した偉大な独立精神を継承し,今や民主独立国家を再建するにおいて」といい,付則第100条では「現行法例は,この憲法に抵触しない限り,効力を有する。」と,付則第101条は「この憲法を制定した国会は,檀紀4278年8月15日以前の悪質的な反民族行為を処罰する特別法を制定することができる。」と規定した。また,現行憲法もその前文に「悠久の歴史と伝統に輝くわが大韓国民は,三・一運動により建立された大韓民国臨時政府の法統と不義に抗拒した四・一九民主理念を継承し」と規定している。このような大韓民国憲法の規定に照らしてみると,日帝強占期の日本の朝鮮半島支配は,規範的な観点で不法な強占にすぎず,日本の不法な支配による法律関係のうち大韓民国憲法精神と両立しえないものはその効力が排除されると解さねばならない。そうだとすると,日本判決の理由は,日帝強占期の強制動員自体を不法と見ている大韓民国憲法の核心的価値に正面から衝突するものであって,このような判決理由が含まれた日本判決をそのまま承認する結果は,それ自体として大韓民国の善良な風俗やその他の社会秩序に反するものであることは明らかである。従って,わが国で日本判決を承認しその効力を認めることはできない。

日本の最高裁判決が韓国併合を合法とする前提を持ち出さなければ、韓国大法院は日本最高裁判決の効力を承認しない理由は無かったわけですが、日本最高裁判決が「当時の法制の下における国民徴用令に基づいたXらの徴用は,それ自体としては不法行為ということができず,また徴用の手続が国民徴用令に従い行われる限り,具体的な徴用行為が当然に違法であるということができない」という論理を採用したがために韓国大法院としてはそれを承認することが出来なかったと言えるでしょうね。


請求権について、2012年判断はこんな感じ。

 請求権協定は,日本の植民支配賠償を請求するための協商ではなく,サンフランシスコ条約第4条に基づき日韓両国間の財政的・民事的な債権債務関係を政治的合意により解決するためのものであって,請求権協定第1条により日本政府が大韓民国政府に支払った経済協力資金は,第2条による権利問題の解決と法的対価関係があると見られないこと,請求権協定の協商過程で日本政府は植民支配の不法性を認識しないまま,強制動員被害の法的賠償を原則として否認し,これに従い日韓両国の政府は日帝朝鮮半島支配の性格に関して合意に至りえなかったが,このような状況で日本の国家権力が関与した反人道的な不法行為や植民支配と直結する不法行為による損害賠償請求権が請求権協定の適用対象に含まれたと見るのは困難であること等に照らしてみると,Xらの損害賠償請求権については,請求権協定により個人請求権が消滅しないのは当然のこと,大韓民国の外交的保護権も放棄されなかったと見るのが相当である。
 さらに,国家が条約を締結し外交的保護権を放棄するにとどまらず,国家とは別個の法人格を有する国民個人の同意なく国民の個人請求権を直接的に消滅させることができると解するのは,近代法の原理と衝突すること,国家が条約を通じて国民の個人請求権を消滅させることが国際法上許されうるとしても,国家と国民個人が別個の法的主体であることを考慮すると,条約に明確な根拠がない限り,条約締結により国家の外交的保護権以外に国民の個人請求権まで消滅したと解することはできないというべきところ,請求権協定には個人請求権の消滅に関して日韓両国政府の意思の合致があったと見るのに十分な根拠がないこと,日本が請求権協定直後日本国内で大韓民国国民の日本国及びその国民に対する権利を消滅させる内容の財産権措置法を制定・施行した措置は,請求権協定のみをもって大韓民国国民個人の請求権が消滅しないことを前提とするものであると解したときにはじめて理解できること等を考慮すると,Xらの請求権が請求権協定の適用対象に含まれないとしても,その個人請求権自体は請求権協定のみをもって当然に消滅すると解することはできない。ただし,請求権協定によりその請求権に関する大韓民国の外交的保護権が放棄されたことによって,日本の国内措置として当該請求権が日本国内で消滅したとしても,大韓民国がこれを外交的に保護する手段を喪失するに至るだけである。
 したがって,XらのYに対する請求権は,請求権協定により消滅しなかったのであり,XらはYに対してこのような請求権を行使することができる。

前段の部分ですが要するに、日本政府は韓国併合や強制連行について合法であると主張し、その不法性を認めていないわけで、そうである以上、1965年の請求権協定の対象に“不法行為に対する賠償”が含まれているわけがない、という当然の理屈ですね。
請求権協定で対象となったのは、「日韓両国間の財政的・民事的な債権債務関係」だけであって、日本政府による不法行為に対する賠償請求権は対象として含まれていないと解釈するのは、日本政府が1965年当時に強制連行の不法性を認めていなかった以上、当たり前の話です。そして、現在に至ってもなお日本政府は、その見解を改めず、日本最高裁は「旧三菱が徴用の実行において日本国とともに国民徴用令の定めに反した違法な行為を行ったこと,安全配慮義務に反し原爆投下後Xらを放置しXらの帰郷に協助しなかったこと,Xらに支払うべき賃金や預金・積金の積立額を支払わなかったこと等」以外の、そもそも強制連行が不法であったことに対する賠償を認めていないわけです。
それらを踏まえれば、強制連行そのものの不法性に対する賠償請求権は、そもそもが1965年の請求権協定の対象外であったという解釈は当然という他なく、強制連行を不法とする前提に立つ韓国側において今回のような大法院判決が下ることは、あまりにも当たり前すぎて意外でも何でもありませんでした。

だからこそ朴槿恵政権は、必死に日本に不利な判決が出ないように引き延ばしを図っていたのでしょうが、安倍を戴く日本社会には朴槿恵の“配慮”に気づくだけの冷静さが失われていたので無意味になってしまったと。

というわけでまあ、自業自得ですねぇという感想。



*1:各説については、以下を参照。http://hiro-autmn.hatenablog.com/entry/2016/07/31/221231

(訂正2018/10/27)「日本对华官方资金合作在中国改革开放和经济建设中发挥了积极作用,日本也从中获得了实实在在的利益」(2018年10月23日)

対中ODAの件。

中国、ODAを評価=「日本も利益」

10/23(火) 18:56配信 時事通信
 【北京時事】中国外務省の華春瑩・副報道局長は23日の記者会見で、安倍晋三首相が訪中して終了を伝達する日本の対中政府開発援助(ODA)について「中国の改革・開放と経済建設において積極的な役割を果たした」と評価した。
 華氏は、時代の変化に即した「対話と協力の継続・展開」について日本と意思疎通を保ちたいと述べ、安倍首相の訪中を機に、日中両政府が新たな協力関係を検討することに期待感を表明。ODAに関しては「日本もその中から着実に利益を得た。中日両国を互いに利するウィンウィン協力関係の重要な構成要素だった」と強調した。 

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181023-00000112-jij-cn

該当する中国外交部サイト掲載のやり取りはこれ。

 问:据报道,中日两国政府准备结束持续约40年的日本政府发展援助(ODA),并希望探讨新的合作模式,中方对此有何评论?中方对日本对华ODA有何评价?
 答:日本对华官方资金合作在中国改革开放和经济建设中发挥了积极作用,日本也从中获得了实实在在的利益。这是中日互利双赢合作的重要组成部分。中方愿结合新的形势发展,同日方就继续开展有关对话与合作保持沟通。

https://www.fmprc.gov.cn/web/wjdt_674879/fyrbt_674889/t1606427.shtml

まあ、至極当然の内容です。中国の発展に資したと同時に、日本側もそこから利益を得たわけですから。

中国へのODA、外相「必要ない」…終了提案へ

10/23(火) 23:03配信 読売新聞
 政府は23日、約40年間続けてきた中国への政府開発援助(ODA)について、今年度の新規案件で終了する方針を固めた。25日から訪中する安倍首相が中国の李克強(リークォーチャン)首相との会談で提案する見通しだ。
 河野外相は23日の閣議後記者会見で「中国の経済レベルを考えれば、恐らく(ODAは)必要はないと思う。新規の案件採択は終了する」と述べた。
 日本の対中ODAは1979年から始まり、総額3兆6500億円余りが投じられた。鉄道や港湾などのインフラ(社会基盤)整備を支えた。ピークの2000年度は円借款だけで2144億円を拠出した。
 その間、中国は急速な経済発展を遂げた。10年には国内総生産(GDP)で日本を抜き、世界第2位の経済大国となった。膨大な資金力で「援助する国」へと変貌(へんぼう)し、東南アジアやアフリカで存在感を高めた。日本国内では対中ODAの見直し論が噴出し、ODAの大部分を占めていた円借款の新規供与は07年に終了していた。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181023-00050129-yom-pol

途上国支援としての対中ODAは実質的には終了していましたから、今回の「終了提案」はある意味で儀式的なものに過ぎませんね。
対中ODA3.65兆円の9割は円借款中国は既に返済済みです貸付は終了し予定通り返済中です*1。残っていたのは無償資金協力と技術供与ですが、無償資金協力は別に現金を中国に渡すわけではなく中国の行政官僚を日本で学ばせるための学費等の供与で要するに奨学金です*2。一人あたりの供与額は1000万円程度で、さほど高いとも言えません。学費を日本側が負担してくれることを踏まえれば、日本で学ぶことにはそれなりのメリットがあったといえますが、現在では欧米への留学も珍しくないでしょうし、中国国内の教育機関も日本に引けを取る状態ではなくなってきていますので、将来の指導者層とのパイプ形成と友好促進としての意味合いの方が強いんじゃないですかね。
もう一つの技術協力は日本から技術者を派遣し指導するというものですが、費用は日中双方で負担しています。というか派遣する技術者の経費などを除いてほとんどが中国側負担ですね(“技術”供与ですから当然ですが)。

投入

日本側投入

JICA短期専門家の配置、専門家派遣費の内、国内給付や安全対策・福利厚生に係る経費等、中国側に負担を求めることが困難な一部の費用

相手国側投入

1.カウンターパートの配置
2.JICA短期専門家の渡航費、旅費(一部の日本側負担分を除く)
3.セミナー等開催費
4.プロジェクト運営経費

https://www.jica.go.jp/project/china/014/outline/index.html

これも中国側にとってメリットがあるのは確かですが、どうしてもこの専門家の指導を仰ぎたいというなら費用を払って招いたり、引き抜いたりできる経済状態に中国はなっていますからまあ役割を終えたと言えるでしょうね。

費用規模も、昨今では無償資金協力1億円程度(2015年)、技術協力8億円程度(2015年)*3でしたから、事実上は外務省分のODAは終了していたと言っていいでしょう。その意味で、今回の「終了提案」は儀式的なわけです。

さて、外務省所管の対中ODAは終了しますが、文部科学省経済産業省が所管している部分まではどうかよくわかりません。少なくとも文科省所管の対中ODAは残りそうな気がしますが。