北海道新聞がいいコラムを出していました

この件。
共同親権 子どもの利益最優先で(11/27 05:00)

まあ、離婚後共同親権反対派からは非難轟々のようですが、「一方で、共同親権の導入については慎重な意見も根強い。 特に、背景にドメスティックバイオレンス(DV)や児童虐待が潜む場合、被害者の安全を脅かし、再出発を妨げる恐れがある。」と反対派の主張についても触れており、バランスを意識したコラムと言えます。

 日本は先進国で唯一、単独親権制をとる。法改正を求める国連子どもの権利委員会の勧告もあり、積極的な対応が求められる。
 多くの課題をどう整理し、子の最善の利益の実現につなげていくか、丁寧な議論を進めるべきだ。
 親権は、未成年の子を養育するための権利と義務を指す。
 日本では裁判所を介さない協議離婚が9割を占める。面会交流や養育費の分担の取り決めが不十分な上、不履行も少なくない。
 訴訟はそうした不満の反映と言えるが、夫婦関係の破綻が親子の別れとなる現状は、子どもにとって理不尽だろう。
 他方、共同親権制は欧米などで主流だ。子どもの権利条約を踏まえ、離婚後の父母との関わりは「子の権利」との認識が広がる。
 一方の親によって国外に連れ去られた子の返還を定めるハーグ条約には日本も加盟しており、適正な対応が要求されている。

https://www.hokkaido-np.co.jp/article/368665

この辺は最低限の知識ですが、2019年2月の国連子どもの権利委員会による法改正を求める勧告について、勧告当時はほとんど報じられませんでしたから*1、それに言及しているだけでも進展です(最近ようやく国連勧告に触れた報道が増え始めましたが)。

「日本の単独親権制は、家父長制の名残」

コラムの最後の一文。

 日本の単独親権制は、家父長制の名残でもある。2011年の民法改正で、離婚の際は「子の利益を最も優先して考慮しなければならない」と明記された。その精神に立ち返り、議論を深めたい。

https://www.hokkaido-np.co.jp/article/368665

まさしく離婚後単独親権制度というのは家父長制の名残です。共同親権にある婚姻中には覆い隠されて見えなくされていますが、離婚すると顕在化する“家父長制”に他なりません。
家父長制というのは「家父長権をもつ男子が家族員を統制・支配する家族形態である」*2と定義されますが、厳密に言うと(家父長権を得る順序が男尊女卑であったものの)女性であっても家父長権を有することはできました。家父長は家族を支配し他の干渉を排除する実質的な権限を有したわけですが、離婚後単独親権制度も同様に、親権者(同居親)が子どもを支配し非親権者(別居親)の干渉を排除する実質的な権限を有しています。

戦後の新民法下で家父長制は廃止されたものの、子どもをイエのものとし家父長の支配に従わせる制度は懲戒権などの形で残り、離婚した場合は単独親権者の支配に服する形となったわけです。1970年代頃までは離婚後の単独親権者の多くは父親で、家“父”長制が存続していたわけです。
1970年代以降、離婚後親権者は母親が多くなっていきますが、制度としては変わっておらず、今も尚、子どもは単独親権者の支配に服する形になっています。

離婚後共同親権反対派のなかには非親権者(別居親)に重要事項決定権を与えることに反対という意見もありますが、これこそ離婚後単独親権者という“家父長”の権利を守れという主張そのものです。
子どもにとっては等しく親であるにも関わらず、実質的には親権(同居)の有無によって非親権者(別居親)は子どもに関わることを排除されるわけですね。


この北海道新聞のコラムに対して猪野亨弁護士がこんな反論をしています。

「日本の単独親権制は家父長制の名残」はその発想の方が古すぎ。現状は決して男親支配ではなく、むしろ母子を守る楯です。

https://twitter.com/inotoru/status/1200843267501248513

これは認識がずれているにもほどがあります。「現状は決して男親支配ではなく」とか全く関係なく、男親だろうが女親だろうが、一方の親が他方の親の干渉を排除して家族を支配する形態そのものが家父長制であって、リベラリズムの視点から忌避されるべきものです。
猪野弁護士の発言からは「男親支配」は許されないが女親支配なら許される、という思考が見て取れ、とても同意できるものではありません。

また「むしろ母子を守る楯」と言う認識は、相変わらずDVを受けて追い出され子どもと引き離された母親の存在を無視していてこれも問題です。



北朝鮮情勢に関する最悪の場合を予測しておく

米朝間ではなお交渉が続いているようですが北朝鮮の予告どおりなら交渉の可否は年内に判明するはずです。
良い方向に動くことを望みますが、残念ながら可能性は低そうな感じです。

北朝鮮の交渉方針は至極単純なもので、“自国と体制の安全が確立された上での核廃棄には応じるが、米国に降伏する形での核廃棄には応じない”といったものです。
北朝鮮の核・ミサイル開発に対しては各種の国連決議が出ていますが、何しろ38度線の南側で、いつでも北朝鮮を攻撃できる態勢を整えているのが“国連軍”なわけですから、北朝鮮から見れば、銃を突きつけての武装解除要求でしかありません。

トランプ政権は史上初の米朝首脳会談に応じ平和的解決に意欲があるのかとも思われましたが、実態としては自らの任期中に核・ミサイル実験がモラトリアムされれば良い、くらいの認識のようです。
北朝鮮もそれに気づいたのか、大統領選に合わせて期限を切ってきた感じです。確かにこの時期を逃せば、少なくともさらに4年米朝交渉は引き伸ばしを食らう可能性がありますし、次もトランプ政権が続くとは限らないわけですし。
欧米の一般的世論は国連決議違反や人権問題などから北朝鮮への譲歩に否定的ですので、トランプ政権が続かない場合は朝鮮半島情勢は2017年以前に戻る可能性が高くなります。

まあ、北朝鮮国内の人権侵害を問題視すること自体は間違いではありませんが、その結果として戦争以外の選択肢を失わせるようでは戦争という最悪の人権侵害を招くことにもなりうるわけで、個人的にはそちらの方をより重視すべきだとは思うのですけどね。

さて。

北朝鮮が予告通り年内で米朝交渉を打ち切った場合、北朝鮮としては核・ミサイル実験を停止しておく理由が無くなります。北朝鮮に言わせれば、米国は北朝鮮を敵とみなしている国連軍を解消せず朝鮮戦争終結も拒否して経済制裁を続ける意向であり、北朝鮮に対して一方的な武装放棄を要求していることになるわけで、その態度が変わらないのなら、抗戦準備をするのは当然ということになりますから。

実際にいきなり実験再開するかどうかはともかく、最悪のケースとしては年明け早々に核実験やICBM発射実験を行うこともありえるとは言えます。
その場合、トランプ政権としては交渉上目をつぶってきた短距離ミサイルやロケット弾実験と違い、何らかの対応をせざるを得なくなります。大統領再選を目指すなら尚のこと、弱気な態度は示せません。これも最悪のケースとして、米軍による軍事行動が考えられます。

北朝鮮弾道ミサイルの基地を先制攻撃で破壊するという感じですね。

現状の北朝鮮が有する米国を直接攻撃できる手段は実質的に皆無でしょうから、米国が直接被害を受ける可能性は低いのですが、在韓米軍基地や在日米軍基地を狙うことはありえます。少なくとも韓国に対する攻撃には躊躇しないでしょうね。南北間でいかに終戦宣言がなされたとは言っても、韓国政府と韓国軍が明示的に米朝戦争不介入を宣言でもしない限り、北朝鮮にとって韓国が深刻な脅威であることに変わりありませんから。

韓国文政権には既に米朝戦争不介入を宣言できるほどの政治力は残っていないでしょうし、仮に宣言したとしても北朝鮮にとって韓国軍が潜在的な脅威であることに変わりはなく、38度線付近の北朝鮮軍の士気を維持するために交戦状態を作り出す可能性も否定はできません。
南北間で戦端が開かれた場合、よほどの幸運がない限り、ソウルを初め38度線付近で大きな被害を受けるでしょう。

日本に対する攻撃があるかどうかは何とも言えません。日本に直接攻撃をしない限り、憲法自衛隊が攻撃に加わる可能性は低いと見て攻撃を控える可能性もありますし、直接攻撃に加わらずとも米軍の後方支援を日本海でやることは間違いなく、それに対する報復として攻撃する可能性もあります。あるいは、自衛隊朝鮮半島派兵を誘発させ、韓国内での反日意識を煽動することも考えるかも知れません。
仮に日本が攻撃対象となったとしても、散発的な弾道ミサイル攻撃程度でしょうから、韓国で生じる被害の比ではないでしょう。

言うまでも無く米軍の反撃を受ける北朝鮮国内では最大規模の被害が発生するでしょうね。
米朝戦争の後に残るのは、膨大な人的・物的被害と大量の難民、民族間の不信と国際社会に対する不信です。

2017年に米朝戦争の危機があったにもかかわらず、2018年以降の南北融和に協力せず、むしろ紛争を煽った国際社会とりわけ主体となった米国とあからさまに妨害し朝鮮半島統一は国益に反するという社会認識を醸成した日本に対する不信感は避けられないでしょうね。

以上はまあ、最悪の想定ですから、そうはならずにできるだけ人権侵害の少ない形で収束することを望みたいところですが。



親権争いでの「連れ去った者勝ち」という主張はデマではないですよ

木村草太氏のツイート。


と木村氏は言っていますけどねぇ。

日弁連「違法に連れ去った者が親権者の決定において有利な立場に立つ」(2009年)

2009年3月に出版された「日弁連六十年」の記載。

2 子の奪取
 離婚紛争に伴い、親の一方が別居にあたって子を一方的に連れ去ったり、別居している非監護親が子を連れ去ったりするなどの事態がしばしば生ずる。本来、子の監護をめぐる紛争は協議によって解決するか、協議が整わないときは家庭裁判所の手続によって解決すべきものであり、そのような手続を経ないで子を一方的に連れ去るのは違法である。しかし、わが国では、このような違法な連れ去りがあったとしても、現状を重視する実務のもとで、違法行為がまったく問題とされないどころか、違法に連れ去った者が親権者の決定において有利な立場に立つのが一般である。

枝野幸男議員「離婚の際の、親権をめぐる争いにおいて、調停や裁判の実務では現状追認の傾向が強く、現に子を監護する親が親権者となりやすいと認識されている」(2008年)

枝野幸男議員(当時民主党)が2008年5月8日に提出した国会質疑 質問357号。

1 現行の民法第八一九条は、離婚の場合、父母のどちらか一方のみを親権者とする単独親権を採用している。このことが、親権をめぐる争いによって離婚係争中の夫婦の対立を一層激化させ、あるいは、離婚後の親子の交流を難しくさせている側面があるとの指摘がある。こうした指摘について、どのように考えるか。
2 離婚の際の、親権をめぐる争いにおいて、調停や裁判の実務では現状追認の傾向が強く、現に子を監護する親が親権者となりやすいと認識されている。このため、離婚係争中の一方の親による子の連れ去りや、逆にこれを防ぐための相手方配偶者からの子の隠ぺいがしばしば問題となっている。こうした現状は、子の福祉に反するものとして問題であると思料するが、どのように考えるか。

http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a169357.htm

その他、弁護士事務所のサイトを見れば・・・

違法性を想起させる「連れ去り」という用語を直接的には使っていないものの、多くの弁護士事務所サイトが指摘しているのが「現状優先」「継続性の原則」で別居に際して子どもと一緒に過ごしている親が有利だとしています。

親権者の指定と継続性の原則について | 明倫国際法律事務所 - 福岡・東京・名古屋の総合法律事務所 経営法務・企業法務, 個人法務, 行政支援

離婚時の親権者指定に際し現状維持を優先せず従前の非監護親に指定した裁判例

「違法性が高い子の奪取は容認されない」と指摘しているサイトもありますが、「違法性が高い子の奪取」というのが明らかに別居後に別居親が子を奪取することを指しています。また「父母の協議による信頼を裏切るような行為」が家裁判断の際にマイナスになるともありますが、協議開始前の連れ去り別居には適用されにくいでしょうね。

監護者に指定されていない親が、実力行使で子を連れ去る、面会交流時に子を拘束したまま返さないなど、法的な違法性はもちろん、父母の協議による信頼を裏切るような行為は、親権者としての適格性に欠けると判断されます。
これは、既に子が奪取者との生活に馴染んでいても関係なく、信用できない人間に親権を与えてしまうと子の将来に不安を残すため、現状維持の優先が崩れます。
ただし、違法性が高いとはいえ、奪取されてから相当長く維持されていると、子への影響も大きいことは当然に考慮され、子の意向も当然関係してきます。

http://choutei.net/kaji/shinkensha-shitei-henkou/shinkensha-kijun/

ちなみに、婚姻中(同居中)の「子どもの監護を主に誰がしていたのか」が重視されるなんて書いてる弁護士事務所はざっと見た範囲では一つもありませんでした。
木村氏の「裁判所は、婚姻中の子どもの監護を主に誰がしていたのか、その者が監護を続けて子どもが安定して生活できるか等を基準に判断しています。」という主張は、ちょっと信用できないと見るべきでしょう。
というわけで、どうみても離婚協議開始前に子供を連れ去った方(最初の連れ去り)が裁判において圧倒的に有利になるというふうにしか見れませんね。



雑感

この件。
元タレント田代容疑者を再逮捕 覚醒剤使用疑い、宮城県警(11/27(水) 10:26配信 共同通信)

不法所持での逮捕が2019年11月6日、使用での再逮捕が11月27日。
「警察が覚醒剤の使用についても調べを進めていたところ、田代容疑者が逮捕当日に提出した尿から覚醒剤の陽性反応が出たため警察は先ほど再逮捕した」*1と報じているけど、11月6日に採った尿の検査に20日もかかるとは思えないので、典型的な拘留期間延長のための再逮捕だよね。
ホント人権軽視の国だわ。



性交同意年齢に関する基本的な話

日本の刑法上の性交同意年齢は13歳未満となっていて、諸外国に比べて低すぎると主張している人たちがいるんですけどね。
日本の法律上、未成年者との性交等については刑法だけで規制されてるわけじゃないので議論として非常に不適切だと思っています。

性交同意年齢の引き上げを主張している人たちは、13歳以上の未成年者に対する性交等があっても暴行脅迫や抗拒不能が立証できなければ処罰されないかのように誘導していますが、当然そんなことはありません。

例えば、金銭等を対価とした性交等については児童買春禁止法という特別法があり、18歳未満の未成年を相手とした買春行為は5年以下の懲役または300万円以下の罰金という処罰が規定されています。売春防止法では買春者に対する処罰は規定されていないので、18歳未満の未成年者を守るための法律となっています。
当然、18歳未満の未成年者が売春に同意したとしても、その同意は違法性阻却理由にはなりません。考え方としては、未成年者による契約行為は無効というものに近いと言えます。

児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律

(平成十一年法律第五十二号)

第二条 この法律において「児童」とは、十八歳に満たない者をいう。
2 この法律において「児童買春」とは、次の各号に掲げる者に対し、対償を供与し、又はその供与の約束をして、当該児童に対し、性交等(性交若しくは性交類似行為をし、又は自己の性的好奇心を満たす目的で、児童の性器等(性器、肛門又は乳首をいう。以下同じ。)を触り、若しくは児童に自己の性器等を触らせることをいう。以下同じ。)をすることをいう。
一 児童
二 児童に対する性交等の周旋をした者
三 児童の保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう。以下同じ。)又は児童をその支配下に置いている者

第四条 児童買春をした者は、五年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。

https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=411AC1000000052


では、18歳未満の未成年者が売買春ではなく騙されて性交等に応じた場合は相手方が罰せられないのか、というとそんなこともありません。
児童福祉法では18歳未満の未成年者に淫行させる行為が禁止されており、罰則は10年以下の懲役または罰金です。

児童福祉法

(昭和二十二年法律第百六十四号)
第四条 この法律で、児童とは、満十八歳に満たない者をいい、児童を左のように分ける。

第三十四条 何人も、次に掲げる行為をしてはならない。
六 児童に淫行をさせる行為

第六十条 第三十四条第一項第六号の規定に違反した者は、十年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=322AC0000000164_20180402_429AC0000000069&openerCode=1


条例レベルですが、全国に淫行条例があり、例えば東京都の場合だと、何人であっても青少年に対して「みだらな性交又は性交類似行為」をしてはならない、とあり、違反すると2年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されます。

東京都青少年の健全な育成に関する条例

第二条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 青少年 十八歳未満の者をいう。

(青少年に対する反倫理的な性交等の禁止)
第十八条の六 何人も、青少年とみだらな性交又は性交類似行為を行つてはならない。

第二十四条の三 第十八条の六の規定に違反した者は、二年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

http://www.reiki.metro.tokyo.jp/reiki_honbun/g1012150001.html

これらの特別法や条例で13歳以上18歳未満の未成年者に対する性行為等は規制の対象となっており、暴行脅迫や抗拒不能が立証できなければ処罰されないわけではありません。この規制は13歳以上18歳未満の未成年者に対するあらゆる性行為等を禁止しているわけではなく「淫行」「みだらな性交又は性交類似行為」に相当するものを禁止しています。したがって、結婚を前提とした真摯な合意に基づく行為が禁止されないことはもちろん、社会通念上「淫行」とは言えない行為も禁止されてはいません。
児童福祉法や淫行条例が「心身の健やかな成長」や「健全な育成」を目的としている以上、当然、児童の健全な育成を阻害しない範囲での性行為等については、自己決定権を認めているわけです。

性交同意年齢の引き上げという主張は要するに、13歳以上18歳未満の未成年者に対して上記のような自己決定権を認める必要はないという主張に他なりません。
つまり“児童の健全な育成を阻害しない範囲での性行為など存在しない”という認識です。
宗教保守の主張との区別も曖昧と言う他ありません。

ところで、18歳未満の青少年の性行為等のうち何が「淫行」にあたるのか、という点については法律上の明言がありません。
しかし、その判断基準は最高裁判例(昭和57年(あ)第621号)で示されています。
「「淫行」とは、広く青少年に対する性行為一般をいうものと解すべきではなく、青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交又は性交類似行為をいうものと解するのが相当」というのが、最高裁の判断です。

「広く青少年に対する性行為一般を指すもの」と解釈すべきではないし、「単に反倫理的あるいは不純な性行為と解するのでは、犯罪の構成要件として不明確であるとの批判を免れない」という判断から、前述の要件以外の性行為等は「淫行」から除外されています。

「淫行」の要件としては以下の二つのいずれかと言うことになります。
・青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為
・青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交又は性交類似行為

つまり、13歳以上18歳未満の未成年者に対する監護者以外による性行為等は、暴行脅迫や抗拒不能が立証できなかったとしても、上記要件を満たすことを立証すれば刑罰をもって裁くことが現行法下で可能なわけです。
ちなみにこの最高裁判例の事件ですが、被告と被害者の間には相当期間の付き合いがあったものの「当時における両者のそれぞれの年齢、性交渉に至る経緯、その他両者間の付合いの態様等の諸事情に照らすと、本件は、被告人において当該少女を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性行為をした場合に該当するものというほかない」と判断が下され有罪となっています。

私自身、現行の性犯罪法制が完璧なものだとは思っていません。ですが、刑法以外にも様々な特別法や条例などで規制の網が張られてきた経緯があるわけで、それらの特性や限界を十分に検討した上で、網の目が広い部分について補修・補完していくという努力こそが重要だと思いますね。淫行条例が全ての都道府県で成立したのはごく最近のことで、それまで地道な努力をずっと行ってきたわけですから、それらの法令を生かして補修し、適切に運用するための努力が必要でしょう。

何でもかんでも“抜本的に見直”せばいいというものではないと思いますね。

まして、特別法も条例もまるで存在していないかのような何十年も前の法認識でもって性犯罪が野放しにされているかのように宣伝するのは悪質と言う他ありません。



昭和57(あ)621  福岡県青少年保護育成条例違反
昭和60年10月23日  最高裁判所大法廷  判決  棄却  福岡高等裁判所

判決

(略)本条例一〇条一項、一六条一項の規定(以下、両者を併せて「本件各規定」という。)の趣旨は、一般に青少年が、その心身の未成熟や発育程度の不均衡から、精神的に未だ十分に安定していないため、性行為等によつて精神的な痛手を受け易く、また、その痛手からの回復が困難となりがちである等の事情にかんがみ、青少年の健全な育成を図るため、青少年を対象としてなされる性行為等のうち、その育成を阻害するおそれのあるものとして社会通念上非難を受けるべき性質のものを禁止することとしたものであることが明らかであつて、右のような本件各規定の趣旨及びその文理等に徴すると、本条例一〇条一項の規定にいう「淫行」とは、広く青少年に対する性行為一般をいうものと解すべきではなく、青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交又は性交類似行為をいうものと解するのが相当である。けだし、右の「淫行」を広く青少年に対する性行為一般を指すものと解するときは、「淫らな」性行為を指す「淫行」の用語自体の意義に添わないばかりでなく、例えば婚約中の青少年又はこれに準ずる真摯な交際関係にある青少年との間で行われる性行為等、社会通念上およそ処罰の対象として考え難いものをも含むこととなつて、その解釈は広きに失することが明らかであり、また、前記「淫行」を目して単に反倫理的あるいは不純な性行為と解するのでは、犯罪の構成要件として不明確であるとの批判を免れないのであつて、前記の規定の文理から合理的に導き出され得る解釈の範囲内で、前叙のように限定して解するのを相当とする。このような解訳は通常の判断能力を有する一般人の理解にも適うものであり、「淫行」の意義を右のように解釈するときは、同規定につき処罰の範囲が不当に広過ぎるとも不明確であるともいえないから、本件各規定が憲法三一条の規定に違反するものとはいえず、憲法一一条、一三条、一九条、二一条違反をいう所論も前提を欠くに帰し、すべて採用することができない。
 なお、本件につき原判決認定の事実関係に基づいて検討するのに、被告人と少女との間には本件行為までに相当期間にわたつて一応付合いと見られるような関係があつたようであるが、当時における両者のそれぞれの年齢、性交渉に至る経緯、その他両者間の付合いの態様等の諸事情に照らすと、本件は、被告人において当該少女を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性行為をした場合に該当するものというほかないから、本件行為が本条例一〇条一項にいう「淫行」に当たるとした原判断は正当である。

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/269/050269_hanrei.pdf

離婚後単独親権者が死亡した場合、子どもの監護を誰に委ねるのか定めた法律の日韓の違い

この件に関連して。
「面会交流」立法不作為訴訟 原告の請求棄却 東京地裁(毎日新聞2019年11月22日 19時42分(最終更新 11月22日 19時42分))

基本的事項

日本は離婚後単独親権制度を採っており、父母が離婚したら子どもの親権者はどちらか一方に定めなければなりません。
韓国は離婚後共同親権を認めていますが、実際に離婚後共同親権となるケースは少なく、多くは一方のみが親権者となっています。

日本の場合

離婚後単独親権者となった者が死亡したとき、離婚で親権を喪失したもう一方の親が生存していたとしても、自動的にその生存している方の親が親権者になるわけではありません。
法律上は、親権者が存在しなくなったものと扱われ、民法第838条に基づき、未成年者後見人による後見が開始されます。
未成年者後見人の指定は親権者のみができる(民839)ので、親権を失った方の親には関与できません。単独親権者が未成年者後見人を定めないまま死亡した場合は、家庭裁判所が選任します(民840)。
生存しているもう一方の親が親権者となりたい場合は、親権者の変更を申し立てる必要があります。しかし(未成年後見人と競合した場合は特に)家裁がどういう判断を下すかによるため、離婚後に子どもとの交流を妨害されていたような場合ではかなり難しいと思われます。

韓国の場合

韓国の場合、かつては離婚後単独親権者となった者が死亡すると、当然に生存するもう一方の親が親権者になると解釈されていました。離婚による親権喪失は「親権そのものを失うわけではなく、その行使が停止されていたからという解釈に基づく」*1ものとされています。
しかし、その場合、生存するもう一方の親が親権者として適格かが確認できないという批判があり、2011年の民法改正により、第909条の2が新設されました。韓国民法909条の2は、単独親権者が死亡した場合、他方の親がその事実を知ってから1ヵ月以内、死亡の日から6ヶ月以内に、他方の親を親権者とすることを家庭法院に請求できるという規定です。
その請求に受けて家庭法院は親権者として適格かをチェックするわけです。請求期限を過ぎて未成年後見人が選任された後であっても、他方の親は親権者指定を請求することができますが、その際には未成年者の福利のために必要であればという条件がつくようです。
(参考:https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000487640.pdf

日韓の違い

日本の場合、離婚で親権を喪失した方は子どもの関わりから排除されて当たり前のような運用となっており、単独親権者の善意によってのみ子どもの関わりを維持できるにすぎない印象が強いですね。単独親権者の善意が期待できない場合は、非親権親は子どもとの関わりから排除されてしまい、単独親権者が死亡したとしてもその事実を知る保障もありません。実際問題として、単独親権者が再婚して再婚相手を養親とする養子縁組をする場合でも、実親である非親権親の同意は不要でそれどころか知らせる必要もないくらいです。
ちなみに、単独親権者の再婚相手が子どもを養子とした場合、離婚で親権を失った実親が親権者変更をすることは非常に困難とされます*2
面会交流が親の権利として認められていない日本では、いかに子煩悩な親であったとして親権喪失後も実子とかかわり続けられる保障がなく、それは単独親権者が死亡してもそれを知る保障がないことにつながります。死亡の事実を知らなければ、実子が未成年後見人の手に委ねられようが再婚相手の養親が単独親権者となっていようがどうすることも出来ません。

韓国の場合、現在は請求を必要とするものの、生存しているもう一方の親には親権者としての適格性のチェックのみで親権者となることができるようになっています。未成年後見人を選任するにあたっては、生存しているもう一方の親に意見陳述の機会を与えなければならないとも規定されており、所在不明とかでない限り、生存しているもう一方の親は単独親権者の死亡の事実を知ることが保障されています。
また、韓国では面会交流を親の権利であり、子の権利であると民法で明確に規定しており、非親権親であっても単独親権者により容易に排除されることはありません。


日本は離婚後共同親権を認めず、面会交流の権利性も認めず、非親権親は単独親権者に排除されたが最後、単独親権者が死亡した後も排除されっぱなしを容認する法体系になっており、それでありながら、養育費支払いの義務だけは課され続けるという人道的とは到底いえない極めて歪な構造になっているといえますね。



政府がこの言葉を使えと言ったら、“はい、仰せに従います”という日本のメディアの方が異常だとは思わんのかな?

辺真一氏がこんなことを言っていてですね。

 今、日本で「反日」と称されている文在寅大統領もまた、今年4月に上皇陛下への書簡で謝意を表明したが、やはり「日王」ではなく「天皇」と表記していた。これには新天皇即位を機に、日韓関係の改善を模索しようとの思いが込められていたとの見方もある。ところが、韓国のメディアは今なお、不可解なことに「日王」の呼称に執拗にこだわっている。国民が直接選んだ国家元首である大統領が「天皇」と呼称しているのにそれを「日王」と表記するのは実に不可解極まりない。
 かつて金大中政権も、盧武鉉政権も良くも悪くも「第4の権力」と称される言論の改革を断行しようとしたことがあったが、猛烈な抵抗にあい、いずれも失敗に終わっている。
 保守勢力の抵抗の中、現在、検察の改革を推し進めている文在寅政権もまた、言論改革の必要性を強調しているが、上からの強制、押し付けではなく、韓国メディアが自ら改革することが何よりも求められるのではないだろうか。

https://news.yahoo.co.jp/byline/pyonjiniru/20191111-00150433/

実際、韓国政府は公式には「천황(天皇)」表現を使ってます。「일왕(日王)」と聞かれているのに回答では「천황(天皇)」と返しているんですよね。

(質問) 알겠습니다. 외교•안보 분야에서 질의를 드리고 싶었는데 못한 게 한일 관계 문제입니다. 아무래도 과거사 문제는 우리가 어떻게 현재에서 과거를 지울 수도 없는 문제이고 이 과거사 문제가 한일 관계에 족쇄가 된 게 너무 오랜 시간입니다. 실질 협력 문제가 클 텐데 전혀 진도를 나가지 못하고 있는데요. 하나 계기가 생긴 게 일왕(日王)이 바뀐 계기가 있는데 이 때문일까요? 일본에서는 일왕 방한 추진 이야기도 언론에서 나온 것으로 알고 있습니다. 검토해 보신 사안이실까요?

(文大統領の回答)" 아닙니다. 어쨌든 일본 새 천황(天皇)의 즉위를 계기로 한일 관계가 더 발전했으면 좋겠다는 희망을 가지고 있습니다. 저는 한일 관계가 굉장히 중요하다고 생각하고 앞으로 더 미래지향적으로 발전되어 나가야 한다고 생각합니다. 다만 어려움을 겪고 있는 것은 과거사 문제가 한 번씩 양국 관계 발전에 발목을 잡고 있는데 그것은 결코 한국 정부가 만들어내고 있는 문제가 아닙니다. 과거에 엄연히 존재했던 불행했던 과거 때문에 비록 한일기본협정이 체결되기는 했지만, 인권 의식들이 높아지고 또 국제규범이 더 높아지고 하면서 여전히 조금씩 상처들이 불거져 나오는 것인데 이 문제들로 인해서 미래지향적인 협력 관계가 손상되지 않도록 양국 정부가 잘 지혜를 모을 필요가 있는 것이죠. 그런데 일본 정치 지도자들이 자꾸 그 문제를 국내 정치적인 문제로 자꾸 다루기 때문에 과거사 문제가 미래지향적인 발전에 발목을 잡는 일이 거듭되고 있다고 생각합니다. 저는 양국이 함께 지혜를 모아나가기를 바랍니다."

https://www1.president.go.kr/articles/6267

ただ、別に政府が公式にこう表現しているからといってメディアがそれに倣わなければならない理由もありません。
韓国政府が「天皇」表現を使っているからといって、メディアにも「天皇」表現を使うよう圧力がかかるのであれば、そちらの方が異常です。辺真一氏は日本に住んでるから麻痺して、それが異常だということがわからなくなっているようですねぇ。


政府が“輸出規制ではない、輸出管理だ”と言ったら、“ははー、仰るとおり輸出管理でございます”とばかりにその用語しか使わないようなジャーナリストなんて、ジャーナリストの価値無いでしょ。
そういえば、辺真一氏がジャーナリストを自称しているんでしたっけ?