saloth_sar氏(61氏)のコメントに対する反論

オブイェクトに書かれたコメントに対する反論として書いたエントリーに、コメンタ本人である61氏(現・saloth_sar氏)からの再反論を頂きました。
白燐弾擁護派の軍オタは想像以上にレベルが低いようだ。 - 誰かの妄想・はてな版

まあ、まともに回答する価値もないコメンタとは違って、やりとりする価値があると判断しましたので、再々反論をエントリーとしてあげることにします。

化学兵器禁止条約に規定された表剤 」というものがあくまでも例示であり、「表にない毒ガスなどの化学物質が新たに発明・発見されたら、兵器として使い放題になる」ということを防ぐため、包括的な規定になっているのは事実*1。だからこそ、「何故」白リン弾がその中に例示されていないのか、ということなんだが?

http://d.hatena.ne.jp/scopedog/20090121#c

saloth_sar氏による訂正に対応した結果、文意がよくわからなくなった。
包括的な規定であることは理解されているようなので、毒性化学物質に白燐が含まれ得ることは了承済みでしょうかね。
その点では、「白燐弾化学兵器禁止条約(CWC)のリストに載っていない為、化学兵器扱いされていません。」*2とか断言しているJSF氏よりまともだと評価できます。

しかし、白燐が「化学兵器禁止条約に規定された表剤 」に含まれていない点についての解釈には疑問があります。

表を見れば判ると思うが、ここに記されているものは、これまでに戦争で使用された、あるいは実戦で使用される可能性が大いにある主要な化合物を大体網羅してある。そしてその中に、100年以上前から軍事利用されてきた白リン及びそれから発生する5酸化2リンが含まれていないのは何故なんだ?白リン及び5酸化2リンの化学的特性がここ最近で明らかになったとかそういう話ならば話は判るが、当たり前だが事実は異なる。

http://d.hatena.ne.jp/scopedog/20090121#c

どの薬剤を表剤に入れるか、の方針に、「これまでに戦争で使用された、あるいは実戦で使用される可能性が大いにある」というような点も留意されていることは確かでしょう。実際、「化学物質に関する附属書」1(a)、3(a)などにはそういう記載がありますね。
しかし、同時に下記のような記載もあります。

A 化学物質の表のための指針
表1のための指針
1 ある毒性化学物質又は前駆物質を表1に掲げるべきであるか否かを検討するに当たっては、次の基準を考慮する。
(略)
(c) これらの物質がこの条約によって禁止されていない目的のために使用されることがほとんど又は全くないか否か。

表2のための指針
2 表1に掲げていない毒性化学物質又は表1若しくは表2Aに掲げる化学物質の前駆物質を表2に掲げるべきであるか否かを検討するに当たっては、次の基準を考慮する。
(略)
(d) これらの物質がこの条約によって禁止されていない目的のために商業上多量に生産されるものでないか否か。

表3のための指針
3 表1及び表2に掲げていない毒性化学物質又は前駆物質を表3に掲げるべきであるか否かを検討するに当たっては、次の基準を考慮する。
(略)
(d) これらの物質がこの条約によって禁止されていない目的のために商業上多量に生産されるものであるか否か。

http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/~worldjpn/documents/texts/mt/19930113.T2J.html

白燐が表剤に含まれなかった理由は、この文面を見る限り、白燐が民需用、つまり「この条約によって禁止されていない目的のため」に「商業上多量に生産される」点を考慮したものと考えます。
実際、薬品などの製造過程で黄燐が使用されることはよくあります*3

そして、もし白燐が「表1」などに含まれている場合、白燐を取り扱う施設が「現地査察及び現地に設置する機器による監視を通じた体系的な検証の対象と」されてしまいます。
全国に黄燐を扱う事業所がどのくらいあるのか検討もつきませんが、黄燐が半導体や液晶パネル、医薬品など広範囲の産業の原料となっていることを考えれば、それが極めて多数になることは容易に想像できると思います*4
こうなると、「現地査察及び現地に設置する機器による監視を通じた体系的な検証」なんて現実的じゃありませんね*5。そういったことを考慮したのでしょう。

>ガソリンの煙で「死、一時的に機能を著しく害する状態又は恒久的な害を引き起こし得る」とお考えなのでしょうかね?
これはむしろそっちに訊きたいんだが?5酸化2リンで「死、一時的に機能を著しく害する状態又は恒久的な害を引き起こし得る」とお考えなのでしょうかね?と。
それでそう考えるならば、上のコメントで言われているようにガソリンの煙などについても同様の話になる。それで行き着く先は全ての煙幕機材(発煙弾だけでなく、油を噴霧して煙幕を発生させる機材も同様)を化学兵器と看做すことになるんだが。

なぜ、白燐を無視して、5酸化2リンに限定しようとするのでしょうか?
実験室じゃあるまいし、戦場で白燐が全て理想的に酸化して、すべて酸化燐に変化するとは思っていないでしょうに。

白燐そのものが未酸化の状態で人体に付着したり、落下後に燃焼中の白燐に対して放水(棒状水)をかけて発生する有毒ヒュームを吸入したりすれば「死、一時的に機能を著しく害する状態又は恒久的な害を引き起こし得る」とは思いますよ。


化学兵器禁止条約では、設計目的が何であれ、使用物質の種類及び量が当該目的に適合していなければ、化学兵器とみなされる。
については、そっちが引用したとおり
>(c) 化学兵器の使用に関連せず、かつ、化学物質の毒性を戦争の方法として利用するものでない軍事的目的
という規定もあるわけだが、まあここで話しても看做す看做さない、利用している利用していないの話になるから止めておくか。現在の国際社会のコンセンサスは白リン弾化学兵器として看做していないことは、それこそ現状が示しているわけだけれども。

「利用している利用していないの話になる」という点については同意。現時点ではどちらとも断言はできない。但し、個人的見解では”利用しているだろう”と疑ってはいる。
「現在の国際社会のコンセンサスは白リン弾化学兵器として看做していない」のも、”化学物質の毒性を戦争の方法として利用していないこと”を前提としてその通りだとは思いますよ。

そのコンセンサスを変えるために主張するのは結構だが、自分は反対するし、また現状では看做されていないということが変わるわけでもない。

まさに「そのコンセンサスを変えるために」多くの人権団体が、抗議や”化学物質の毒性を戦争の方法として利用しているのではないか”と疑念を発しているわけで、自分はそちらにシンパシーを感じますな。
「現状では看做されていないということが変わるわけでもない」というのもおそらくは予測としては正しいだろうが、変えようとしなければ変わりもしない。

どうせ変わらないのだから何もしない、というのは私個人としては共感の持てる生き方ではありませんね。saloth_sarさんがそうではなくても、それはそれで個人の自由なので、別に構いません。


ただ、理解できないのは、なぜsaloth_sarさんは、そのコンセンサスを変えること*6に、反対なのか?という点。

なぜsaloth_sarさんは、そのコンセンサスを変えることに反対なのでしょうか?


とりあえず、ここまでにしときます。

saloth_sarさんからの上記に対する再反論や、そのコンセンサスを変えることに反対の理由を聞いてから、次に移りたいと思います。

*1:saloth_sar氏による修正を適用

*2:http://obiekt.seesaa.net/article/112720265.html

*3:http://www.volcano.co.jp/rd/01.html 黄燐燃焼による燐酸製造装置(1998〜)(ボルカノ株式会社)

*4:日本にとって黄燐の供給地となっているのは、中国四川の方で、地震被害や上海万博警備で、生産・輸送に支障をきたし、関税も上げられたため、業界ではかなり問題になっているらしいです。

*5:表2、表3であれば、もう少し緩い検証になるが、黄燐に対してはやはり現実的ではなかろう。

*6:あるいは、そのために主張すること、に反対なのか?