反核運動に対する右翼の言いがかり

反核団体が、右翼やウヨ軍オタにとって目障りな団体のひとつであることは、誰も否定しないと思う。

彼らの定型句は、

反核団体は、日本やアメリカに対しては抗議するが、北朝鮮や中国・ロシアに対しては抗議しない。

というもの。

もちろん、デマです。


原水爆禁止日本協議会による抗議

北朝鮮 第1回核実験(2006/10/9)

原水爆禁止日本協議会は、実験前の2006/10/5の時点で北朝鮮に対し、核実験を止めるよう談話を出しています。
http://www.antiatom.org/GSKY/jp/NDPM/G-Doc/06/j_061005_NK-exprmnt.html
実験当日である2006/10/9には、「北朝鮮の核実験強行に厳しく抗議する」と北朝鮮に対する抗議を行っています。
http://www.antiatom.org/GSKY/jp/NDPM/G-Doc/06/j_061009_NK-exprmnt.html

アメリカの未臨界核実験に対する抗議と比べても、抗議としては十分な内容です。

北朝鮮 第2回核実験(2009/5/25)

こちらも実験当日の2009/5/25に抗議しています。
北朝鮮の核実験に抗議し、核計画の即時中止と6カ国協議への復帰を求める」
http://www.antiatom.org/GSKY/jp/NDPM/G-Doc/09/090525_NKorea%20experiment.html


ま、普通に北朝鮮に対しても抗議しているわけですな。
では、被爆経験のある広島市を見てみましょう。

広島市(秋葉市長)による抗議

北朝鮮 第1回核実験(2006/10/9)

同様に北朝鮮が核実験すると宣言したのに対し、実験前に抗議してますし、実験後も翌日の2006/10/10付で抗議しています。

北朝鮮の核実験実施の声明に対する抗議文(2006.10.5)
http://www.city.hiroshima.jp/www/contents/0000000000000/1160116238168/index.html
北朝鮮の核実験実施の発表に対する抗議文(2006.10.10)
http://www.city.hiroshima.jp/www/contents/0000000000000/1160464275794/index.html

北朝鮮 第2回核実験(2009/5/25)

これも同じですね。実験翌日には抗議しています。

北朝鮮の核実験に対する抗議文(2009.5.26)
http://www.city.hiroshima.jp/www/contents/0000000000000/1243334834935/index.html


北朝鮮に対する抗議の声が聞こえない右翼

今回の騒ぎの背後には秋葉市長が長年、核廃絶を主張する際、
中国や北朝鮮核兵器を非難せず、日本の同盟国のアメリカの核だけを廃絶の対象にあげてきたという経緯があります。
秋葉氏に限らず、日本の左翼の反核運動には年来、政治的な偏りが顕著でした。

http://komoriy.iza.ne.jp/blog/entry/1109747/

秋葉氏は1999年から広島市長を勤めていますが、その任期中、上記のように北朝鮮に対してもアメリカ同様に抗議しているわけです。

古森氏には、秋葉市長による北朝鮮に対する抗議が聞こえないのか、聞こえないふりをしているのか、それとも「抗議していない」と声高に叫ぶことによって読者を洗脳しようとしているのか、どれでしょうか?


ちなみに、秋葉市長の前の平岡市長在任中の1996年に、中国が核実験を行っているのですが、このときも広島市として抗議しています。
中国の核実験に対する抗議文(1996.7.29)
http://www.city.hiroshima.jp/www/contents/0000000000000/1111568514211/index.html
中国の核実験に対する抗議文(1996.6.8)
http://www.city.hiroshima.jp/www/contents/0000000000000/1111569429317/index.html

なお、この実験を最後に中国は核実験を停止しています。なので、秋葉市長が中国の核実験を非難しないのは別に政治的な偏りがあるからとは言えません。アメリカのみがよく非難されるのは、CTBTにより核実験が禁止された後も臨界前核実験を繰り返したことによります。
実際、広島市長の抗議も臨界前核実験に対して行われています。さらにロシアによる臨界前核実験に対しても同じく抗議しています。

普通に考えても、政治的な偏りは感じられないのではないでしょうか?

古森氏は「中国や北朝鮮核兵器を非難せず」と言っているので、核実験ではなく、核兵器に対する非難のことかもしれませんけど、それなら圧倒的な保有数を誇るアメリカがよく非難されるのも当然のこととしか言いようがありませんな。

ちなみに秋葉市長は最近こういうコメントも出してます。

北朝鮮ウラン濃縮着手等の表明に対する市長コメント(2009.6.14)
http://www.city.hiroshima.jp/www/contents/0000000000000/1245034992607/index.html

まあ、古森氏には読めないのかも知れませんけど。


2007年には、こんな要請文も出してます。

北朝鮮・金国防委員長あて平和市長会議2020ビジョンキャンペーン CANTプロジェクトについての要請文(2007.2.22)
http://www.city.hiroshima.jp/www/contents/0000000000000/1173258435329/index.html

古森氏「秋葉氏に限らず、日本の左翼の反核運動には年来、政治的な偏りが顕著でした。」
どの口でそんなことを言ってるんでしょうか?



古森氏の廃物利用

ま、もちろん古森氏も最近の話に触れれば反核団体北朝鮮もちゃんと非難していることを認めざるを得ないと考えているのでしょう。
そこで持ち出してきたのが、7年前の2002年の記事です。
「このことを私は7年ほど前にも書きました。」*1
という前ふりです。

ちなみに、7年前の2002年の時点では北朝鮮は核開発疑惑こそあったものの核保有国でもありませんし、核実験すら行っていませんでした。

【緯度経度】「北」には触れぬ“反核運動” /ワシントン 古森義久
2002年12月29日 産経新聞 東京朝刊 国際面
  (前半略)
核兵器の増強や拡散に反対ならば、従来の反核派からもイラク北朝鮮への抗議の声があがってしかるべきだろう。
だが静かなのである。
日本でも反核派はなぜいま静かなのだろう。
すぐ隣の北朝鮮の政権が核兵器の開発をすでに始めたぞと宣言しているのに「核の廃絶を!」というかつて聞き慣れた声はまったく聞こえてこない。
(略)
そうした国際環境のなかでの演説でも秋葉氏は中国やロシアの核兵器はもちろんのこと、北朝鮮の核になにも触れなかった。
その内容の偏向には聴衆から「国際政治の現実への理解が足りないのではないか」という質問も出たほどという。
北朝鮮の核が世界を揺さぶる現在、秋葉氏らに改めて問うてみたい。
日本の反核運動はなぜ北朝鮮核兵器には反対を表明しないのですか、と。

http://komoriy.iza.ne.jp/blog/entry/1109747/

言いがかりでしかありません。
2002年の第2次核危機は、10月にアメリカのケリー国務次官補が北朝鮮によるウラン濃縮疑惑を指摘したことで始まります。北朝鮮担当者も強がりは言ったようですが「核兵器の開発をすでに始めたぞ」という宣言ではありませんでした。アメリカの過剰反応といえるでしょう。
実際、2002年10月25日に北朝鮮は「米国は何の証拠もなくわが国がウラン濃縮による核兵器開発を推進していると言いがかりをつけている」と外務省代弁人談話を発表したそうです*2

この疑惑の時点で北朝鮮を抗議していないことが「政治的な偏り」というならば、古森氏には、911テロ米国自演疑惑*3を基に米国政府に抗議してもらいたいものです。


ちなみに、古森氏の「そうした国際環境のなかでの演説でも秋葉氏は中国やロシアの核兵器はもちろんのこと、北朝鮮の核になにも触れなかった。」の部分ですが、演説で秋葉氏がロシアに言及しなかったのかどうかは知りませんが、秋葉氏自身は広島市長としてロシアの核実験にも抗議しています。

2000年の臨界前核実験に対してです。

アメリカの臨界前核実験に対する抗議文(2000.12.15)
ロシアの臨界前核実験に対する抗議文(2000.11.3)
ロシアの臨界前核実験に対する抗議文(2000.9.5)
アメリカの臨界前核実験に対する抗議文(2000.8.19)
アメリカの臨界前核実験に対する抗議文(2000.4.7)
アメリカの臨界前核実験に対する抗議文(2000.3.23)
ロシアの臨界前核実験に対する抗議文(2000.2.5)
アメリカの臨界前核実験に対する抗議文(2000.2.4)

http://www.city.hiroshima.jp/icity/browser?ActionCode=genlist&GenreID=1111137218916

中国に対する抗議がないのは、1996年を最後に中国が核実験を行っていないからです。



反核団体の抗議

まあ、当たり前なんですが、反核団体が抗議行動を起こすきっかけはやはり核実験に対してです。アメリカに対する抗議が多いのは、それだけアメリカの核実験回数が多いからに他なりません。核廃絶を訴える対象となるのもやはり大量保有国であるアメリカ・ロシアが主たる対象になります。

ここに政治性を見出そうとする人の方が政治性に犯されていると言うべきですね。

実際、2006年、2009年の北朝鮮核実験に対しては主たる反核団体は全て抗議の声を上げています。聞こえないのはウヨクだけじゃないですかね。


http://www.gensuikin.org/mt/000196.html#renmei

  • 核実験に対する年別・国別抗議回数(長崎市

http://www1.city.nagasaki.nagasaki.jp/peace/japanese/abolish/protest/cross.html?msg=%E3%83%87%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%99%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%81%AB%E6%8E%A5%E7%B6%9A%E3%81%A7%E3%81%8D%E3%81%BE%E3%81%9B%E3%82%93%E3%81%A7%E3%81%97%E3%81%9F%E3%80%82



第2次核危機(2002年10月〜2003年4月)での反核団体の対応

じゃあ、疑惑の段階でしかなかった2002年の時点では、古森氏の言うとおり反核団体は何も行動しなかったのか、と言うとそうじゃありません。長崎市などは、疑惑の段階であった2002年10月から2003年4月までに、北朝鮮の核開発に対して毅然とした態度をとるよう日本国首相に訴えています*4

原水爆禁止日本協議会の場合はどうかというと、北朝鮮が核不拡散条約から脱退した2003年1月10日の翌日に核放棄するよう抗議しています。
http://www.antiatom.org/GSKY/jp/NDPM/G-Doc/03/j_030111_nkorea.htm

この北朝鮮の核不拡散条約からの脱退というのが、第2次核危機の中の大きなトピックです*5。これ以前に北朝鮮に対して抗議しろ、というのは、扇動に近い物があります。まあ、産経新聞はそういうスタンスだったわけですが。

産経抄
2003年01月09日 産経新聞 東京朝刊 1面

http://komoriy.iza.ne.jp/blog/entry/1109747/

2003年の軽水炉建設に向けて動いていた流れが、ケリー発言によって頓挫し、米朝不信が高まっていったのが、2002年10月からの流れです。初期のうちならば平和的な流れに戻すこともできたかもしれませんが、産経などの北朝鮮核開発反対という疑惑段階での大騒ぎ*6があり、最終的には2003年4月の北朝鮮NPT脱退という最悪の結果になったわけです。
2002年10月というのは、前月の2002年9月に金正日が拉致の事実を認めるという日本に対する譲歩を示していた時期です。本気で日朝国交正常化を求めたなら可能だったと思います。この日朝融和の時期にケリー発言があったのは、陰謀論を想像するのには面白い材料ですが、今のところ何の根拠もありません。*7
ただ、日朝国交正常化の流れに冷や水を指したのは確かと言えますね。

ものすごく限定された期間内に名指しで非難していないから、という理由

古森ちゃんは最後にこんなことを言います。

少なくとも2002年の秋や冬の時点で秋葉氏が中国や北朝鮮核兵器をはっきり名指しで非難したり、その廃絶を求めるということはありませんでした。

http://komoriy.iza.ne.jp/blog/entry/1109747/

なぜ2002年秋冬に限定するかなあ・・・。
その時期、中国は核実験を行ってません。北朝鮮はまだ核兵器を開発してもいません。核廃絶は定期的に全ての核保有国に対して訴えていますが、それは当然8月6日に行われています。
「秋や冬の時点」というのは、その8月6日の発言は含めないという古森氏の意図が多分に含まれているように思えますね。

ちなみに2002年8月(北朝鮮ウラン濃縮疑惑以前)

(2002年8月6日の平和宣言)
核兵器の絶対否定と戦争の放棄です。その上で、政府は広島・長崎の記憶と声そして祈りを世界、特にアメリカ合衆国に伝え、明日の子どもたちのために戦争を未然に防ぐ責任を有します。

http://www.city.hiroshima.jp/www/contents/0000000000000/1111641682335/index.html

ここで、アメリカが名指しされているのはイラク戦争のためです。

次に、2003年8月(北朝鮮核兵器保有宣言後)

その光を掲げて、高齢化の目立つ被爆者は米国のブッシュ大統領に広島を訪れるよう呼び掛けています。私たちも、ブッシュ大統領北朝鮮の金総書記をはじめとして、核兵器保有国のリーダーたちが広島を訪れ核戦争の現実を直視するよう強く求めます。何をおいても、彼らに核兵器が極悪、非道、国際法違反の武器であることを伝えなくてはならないからです。同時に広島・長崎の実相が世界中により広く伝わり、世界の大学でさらに多くの「広島・長崎講座」が開設されることを期待します。

http://www.city.hiroshima.jp/www/contents/0000000000000/1111639989958/index.html

秋葉市長は、ちゃんと、北朝鮮に対しても言及しています。

古森氏の発言は、言いがかりでしかありませんでした。




似たような話

アムネスティのような人権団体は中国のチベット問題を抗議していない、とか、まあ、似たような話はよくあります。

実際、調べてみると、嘘だということもよくあります。

よく槍玉に挙げられるのは、反戦反核・人権団体などですね。


実際問題としては、リソースなどの制約で全てに深く関与することはできませんから、「日本やアメリカばかり非難して中国・ロシア・北朝鮮は非難していない」などという主張は基本的に言いがかりでしかありませんけどね。

*1:http://komoriy.iza.ne.jp/blog/entry/1109747/

*2:http://blog.canpan.info/sekiyama/archive/55

*3:念のために言っときますが、この陰謀論を私は全く信じてませんので。

*4:2003年4月に北朝鮮が核保有宣言をすると、北朝鮮に対して抗議しています。

*5:Wikipediaだとこういうのはあまり触れていない。最近の話題について特に顕著だが、wikipediaは流れをちゃんと踏まえない記述が多いので、引く際は要注意。

*6:アメリカ国内でも似たような動きがあったと思うが調べきれない・・・

*7:ウヨクはウヨクで逆方向の陰謀論を想像するのでしょうけど