白燐の煙が人体に害を及ぼした実例

白燐の煙は大して害がない、という主張は未だにはびこっています。

総合火力演習自衛隊白燐弾での煙幕を張っているのに観客には何の被害もないじゃないか、という主張もありますが、自衛隊広報に確認したところ、少なくともここ数年間は総合火力演習白燐弾は使用していない、煙幕で使っているのは赤燐弾との回答を得ました*1
白燐も赤燐も発生する煙の主成分は同じ、という主張もありますが、これについても消防の専門家に確認したところ、煙の危険性について考える場合、主成分が何かだけでなく、燃えているのは何なのか、が重要で、白燐の煙に対しては当然白燐そのものの毒性を考慮して対処すべきとの回答を得てます。

とは言え、実例がないとなかなか理解してもらえないでしょうから、実例を紹介しましょう。

2007年7月リボフ州(ウクライナ)での黄燐発火事故

07/07/17
ウクライナ緊急事態省は16日、リボフ州Busk地区で貨物列車が脱線横転し、毒性のある黄燐が発火、815人が避難したと発表した。数十人が医療手当を受け、数人が入院した。貨物列車はカザフスタンからポーランドへ向かっていた。

07/07/18
緊急事態省報道官Krolは18日、リボフ州の黄リン貨物列車脱線事故は収拾しつつあると発表した。6人の子どもが呼吸器系の傷害で入院し、さらに59人の子どもが病院に送られた。

http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/Chernobyl/etc/RFERL/u0707-09.htm

黄燐を積んだ貨物列車が横転し、黄燐が発火、発生した白煙のため、付近住民815人が避難した、という事例です。
このうち、子供6人が呼吸器系の障害で入院、59人が病院で手当てを受けています。

戦闘で意図的に発生させたわけでもない白燐の煙が、呼吸器系の障害を引き起こしていますね。

第2のチェルノブイリ

http//:www.ua.emb-japan.go.jp/J/About.Ukr/weekly/07/U29-070724.pdf

▼17日、リヴィフ州において、黄燐を輸送中の貨物列車が脱線
カザフスタンからポーランドに向かう途上、黄燐を積んだ15個のタンクが脱線、うち6個が発火。鎮火の際に有毒ガスが発生、170名弱が入院、付近住民850名が避難。
・クジムク副首相は、「危うく第二のチェルノブイリ事故になるところであった」旨コメントしたが、事態は沈静化しており、18日、ヤヌコーヴィチ首相は「最悪の事態は免れた」と発言。
・ユーシチェンコ大統領は、閣僚会議が被害規模を隠蔽しようとしたとして批判。またバローハ大統領官房長官は、右事件の責任を取ってルジコフスキー運輸大臣が辞任することを求めた。同運輸大臣は、レールには問題はなくタンクが原因であった可能性がある旨主張。

1週間後の続報です。170人弱が入院したそうですね。


こちらはキエフ在住の方の記事。2007年8月20日付けですから事故から約1ヶ月後です。知り合いの方の電話で「公式発表は信用できない」との言葉が印象的です*2

ウクライナ西部で起きた貨物列車の脱線事故

 防災といえば・・・7月16日夜のTVニュースで、柏崎刈羽原発放射能漏れ事故の報道があり、重苦しい気分になっていたところ、17日昼、ジトーミル市在住のチェルノブイリ事故事後処理作業者Tさんから電話があり、「TV見てるか」と言われたので、この話かと思ったのですが、そうではなく、16日夕刻にウクライナ西部のリヴィウ州で貨物列車の脱線事故があり、黄燐を積んだタンク車両15台が横転、火災が発生したという件についてでした。

「風は東に向かって吹いているので、事故現場から大気中に放出されたものが17日深夜あたりにキエフに到達するだろう。窓を閉めて寝るように。公式発表は信用できない」というお気遣いでした。

その後TVやネットでニュースを見ましたが、入院したのは当初消防士など20人、その後次第にこの数字は増えて、22日には174人という発表でした。周辺の4ヶ村に11,000人が在住しており、近くに住む数百人は事故直後避難させられ、地域の子どもたちはのちにウクライナ東部のサナトリウムに送られた由。

列車はカザフスタンからポーランドに向かう途中だったそうで、修復後、またロシアを経てカザフスタンに送り返されました。

被災者の脳裏によみがえる「チェルノブイリ」を思う

それにしても、事故そのものの物理的影響もさることながら、何十万ものチェルノブイリ被災者が、こういうニュースを目にするたびにあの悪夢を脳裏によみがえらせているだろうことを考えると、やりきれません。

この他にもいくつかの鉄道事故が続いて起こっており、運輸・通信大臣の免職を求める声も大統領陣営からは上がっていましたが、結局、誰が責任を取るということもなく、非常事態省大臣らと現場にかけつけた副首相クズムク氏(ロシアの旅客機を、演習中のウクライナのミサイルが撃墜してしまったあの時国防大臣だった人)が、「チェルノブイリの再現だ」と口にしたのをとがめられて訂正する、ということがあったのみ。

9月30日の最高会議選に向けて、すでに選挙運動が行われていますが、国民の気分はしらけています。それじゃまた。(2007年8月20日)

http://www.h6.dion.ne.jp/~apr/ukuraina-tsusin36.html

こちらは事故から2日後に書かれた記事。中毒症状という表現が使われています。

ウクライナ列車事故
2007年07月18日 05:53

News24の記事
ウクライナで発生した列車事故が、大騒動となっている。

カザフスタンからポーランドに向かっていた貨物列車がリヴォフ近郊で脱線。
全58輌のうち15輌が転覆、6輌が火災を起こした。
この車輌に積まれていた黄燐が、一帯住民に中毒症状を起こしている。

これまで事故現場に近い14の集落に注意が呼びかけられ、815人が避難した。
また地域住民10人を含む20人が中毒症状で病院に運ばれている。
黄燐は摂氏40度程度で自然発火する可能性もあり、現地では二次災害抑止の処置が続けられている。

http://andino.blog26.fc2.com/blog-entry-8246.html
考察

事故現場から近隣住宅までの距離や人口密度などは確認してませんが、周辺の4ヶ村に11,000人とあるのでそれほど人口密集地であるとは思えません。
一方で、消防士などを含めて、2007年7月16日の事故から6日経った22日の時点で174人が入院しているとのこと。また、800人以上が避難。

「中毒症状」との表現からもわかるように、白燐の煙の有毒性が100人以上の入院患者を出したわけです。

また、「鎮火の際に有毒ガスが発生」ともあり、ガザで水をかけて毒ガスが発生した、という報道があったことを思い出させます。


白燐の煙は大して害がない、という主張がいかにいい加減なものかがよく分かりますね。






2005年12月広西チワン族自治区(中国)での黄燐発火事故

こちらはけが人の情報が出ていませんが、一応黄燐発火事故ということで示しておきます。

「黄リン」発火でトラック火だるま、31万人に影響 2005/12/09(金) 17:00

  7日13時20分頃(現地時間)、広西チワン族自治区・河池市の国道で、マッチなどの原料に使われる有毒物質「黄リン」を運搬していたトラックが、路上に落ちていたガラスをよけようとして右側に横転。「黄リン」が空気に触れて自然発火し、煙が市街地を覆った。この事故で約31万人が影響を受けた。南国早報などが伝えた。

  トラックは横転直後に炎上したが、運転手は逃げ出して無事だった。また、現場近くの住民約300人は警察の誘導で避難をして、けが人はいなかった。

  通報を受けて消防隊員が駆けつけたが、火の回りが早く、煙も立ち込めており、消火作業は難航。消火用の砂を積んだ車輌が到着したが、タイヤに火が燃え移ったため、離れたところに砂を盛り、ブルドーザーで「火だるま状態」のトラックに少しずつ砂をかけて消火した。17時頃までに火勢は収まった。

  この事故により、交通規制が実施されたために、現場付近では車輌100台あまりが2時間に渡って足止めをくった。(編集担当:菅原大輔・如月隼人)

http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2005&d=1209&f=national_1209_007.shtml

白燐の煙が市街地を覆い、約31万人が影響を受けた事例です。どんな影響かは詳細がないので不明ですが、現場近くの住民約300人は警察の誘導で避難したとのことですから、白燐の煙は危険なものであるという認識はあるようですね。
けが人はいないとのことですが、こういう場合の中国報道を信用していいのかどうかの判断はお任せします。

*1:2005年ころは白燐弾を使っていたそうですが、用途は煙幕ではなく着弾をわかりやすくするために榴弾として使っていたようです。

*2:ロシアの実情を示しているようで・・・