北朝鮮のBC兵器

なんか今さらという感じですが、北朝鮮化学兵器剤や生物兵器材料を保有しているとの報道が流れてます。

最大5000トンの化学兵器保有炭疽菌など13種も−北朝鮮
10月5日16時19分配信 時事通信

 【ソウル時事】北朝鮮が1960年代から、故金日成主席の指示で生物化学兵器の開発を続け、現在、2500〜5000トンの化学兵器剤を複数の施設に分散させて保有していることが5日分かった。韓国国防省が国会国防委員会所属の議員に提出した資料で明らかになった。
 北朝鮮はこのほか、生物兵器用として炭疽(たんそ)菌や天然痘、ペスト、ボツリヌス毒素など約13種類の菌体も保有。有事の際はこれらを培養、生産できる能力を備えているとみられるという。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20091005-00000075-jij-int

ただ、これって遅くとも2005年ころにはわかってた話だと思うんですけど・・・。


CPDNP(軍縮・不拡散促進センター)*1が平成15年度の文部科学省委託調査研究で作成した報告書*2の第6章「北朝鮮大量破壊兵器・ミサイル問題」に以下の記載があります。

 北朝鮮は、1960年代はじめから生物戦の研究開発を行ってきたとされる。近年では、限定的な遺伝子工学や先進的な生物医学が発展しているとされる。北朝鮮は、現在少なくとも、炭疸菌、ボツリヌス菌コレラ菌、出血熱、ペスト菌天然痘、チフス菌、黄熱病ウィルスを保有していると考えられ26、2カ所の実験室と4カ所の研究施設がこうした研究に関与していると見られている。

 化学兵器に関しては、北朝鮮は1990年代前半までに、化学戦能力を大幅に向上させる措置をとったと見られるが、詳細は明らかではない。その化学兵器関連サイトとしては、所在は明らかではないが、4つの研究施設、8つの製造施設および7つの貯蔵施設があり、2500〜5000トンの化学剤を保有していると推測されている。その化学剤には、神経剤(VX、サリン、ソマン、タブン)、びらん剤(マスタード、ルイサイト)、窒息剤(ホスゲン)、嘔吐剤(アダムサイト)、血液剤(シアン化水素)などが含まれていると考えられている27。

http://www.cpdnp.jp/pdf/Report/pdf/06_ChapterSix.pdf

ほぼ同じ内容ですが、この報告書の作成は平成16年(2004年)3月です。
何で今頃報道するのかな?
北朝鮮が核放棄するかも、と言われているこの状況での報道が何となく示唆的ではありますが、陰謀論の域を出ないので明確なことは言えませんが・・・。
「韓国国防省が国会国防委員会所属の議員に提出した」ってのが気になるところですけど。*3

それはともかく、核兵器に限らず、生物化学兵器もまた大量破壊兵器ですから、北朝鮮に廃棄を迫るべきなのは言うまでもありません。

とは言え方法論としてヤフーニュースコメント欄のような核で焼き払えとか言うのは論外ですね。
正攻法としては、北朝鮮化学兵器禁止条約の締約を迫ること、及び生物兵器禁止条約に検証措置を追加するよう各国に訴えることでしょう。

北朝鮮の違法性を問えるのか?

北朝鮮化学兵器禁止条約に調印していませんから、化学兵器剤を保有していること自体は違法ではありません。

生物兵器禁止条約については、北朝鮮も締約してますが「防疫の目的,身体防護の目的その他の平和的目的による正当化」を主張されればそれを覆すのは困難です。検証すれば分かるかもしれませんが、生物兵器禁止条約は検証措置を規定していませんからそれも難しいでしょう。

第1条
締約国は,いかなる場合にも,次の物を開発せず,生産せず,貯蔵せず若しくはその他の方法によって取得せず又は保有しないことを約束する。

(1) 防疫の目的,身体防護の目的その他の平和的目的による正当化ができない種類及び量の微生物剤その他の生物剤又はこのような種類及び量の毒素(原料又は製法のいかんを問わな
い。)

”ふざけるな!北朝鮮保有しているのは軍事目的の生物兵器に決まっている”との主張もあるでしょうし私も正直そう思いますが、だからこそ生物兵器禁止条約に検証措置を追加して北朝鮮を含む締約国がそれを受け入れるよう求めるのが効果的でしょう。

ちなみに化学兵器禁止条約に検証措置が規定されているのになぜ生物兵器禁止条約には検証措置が規定されていないか?というと、はっきり言えばアメリカのせいです。

1 生物兵器禁止条約は、締約国による条約遵守を確保するための規定に欠けているため、6年以上に亘って検証議定書作成交渉が続けられてきた。しかしながら、2001年夏以降、米国が議定書作成に反対する姿勢を明らかにし、BWC強化は検証議定書によらないその他の措置によって図るべきであると主張したことにより、議定書交渉は中断した。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/Gaiko/bwc/bwc/bwc_plan_gh.html

9.11がきっかけではあるでしょうが、ブッシュ政権が検証措置を拒絶したわけです。


経緯はどうあれ現状で北朝鮮の違法性を問うのは難しいでしょう。

では、北朝鮮に生物化学兵器の廃棄・検証を要求することはできないか、というとそんなことはないわけで、例えば化学兵器禁止条約について言えば現状でも未締結国に対して締結を求める行動を取っています*4
六カ国協議の枠組みで、核放棄・拉致問題の次の課題として化学兵器禁止条約の締結を迫るというのが、まず真っ当な方法でしょう。

生物兵器禁止条約については、オバマ政権が検証議定書に前向きになってくれれば良いですね。



ある軍オタの話

ところである種の軍オタは白燐弾の論争に関して以下のように述べて白燐弾を擁護しています。

軍事分野の人間は推定無罪の原則を適用しているに過ぎないと思いますよ。

http://d.hatena.ne.jp/scopedog/20090914/1252948704

ここでいう「軍事分野の人間」とはオブイェクト界隈に出没する極一部の軍オタのことでしょう。
彼らは北朝鮮に対して「推定無罪の原則を適用」するでしょうか?

*1:http://www.cpdnp.jp/

*2:平成15年度外務省委託研究報告書 「大量破壊兵器不拡散問題」研究報告書

*3:韓国の政治に詳しくないので何ともですが、対北強硬派が「北朝鮮が核放棄を宣言か、中国首相に表明―香港紙」(2009/10/3 Record China)に対する牽制としてリークしたってのは考えすぎかなぁ・・・。核放棄ネタ自体、消息筋レベルの信用度不明な情報だしなぁ。

*4:外務省在オランダ日本国大使館化学兵器禁止条約(CWC)班の活動のひとつとして「第二のCWCの普遍化・国内実施支援は、CWC未締結国に対する我が国の締結促進支援、また、技術的・資金的な理由から国内体制の整備が困難な締約国に対する我が国の技術的、資金的支援等の業務が含まれる。」と記載されている。http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bwc/cwc/ne_katsudo.html