30万人説に対する個人的見解

南京事件犠牲者数30万人説の原型は基本的に、南京軍事法廷における34万人以上という判決です。
これは集団虐殺19万人以上、個別虐殺15万人以上、の合算であり、さらに集団虐殺犠牲者数については、証言などに依拠し遺体については焼却や長江(揚子江)への投棄により残されていないと判断された結果です。個別虐殺犠牲者数については、埋葬記録からの算出です。

「南京人口20万人説」というトンデモに依らずとも、上記30万人説に対する疑問点というものは上げることが出来ます。
というわけで、以下30万人説に対する個人的見解を書いてみます。

戦闘死者のカウント

東京裁判にせよ、南京軍事法廷にせよ、特に戦闘死者を除くといった数値処理はしていませんので、当然戦死者が犠牲者数に含まれていると思われます。
このため、日本側の研究者は戦死者を犠牲者から除外する傾向がありますが、別に戦死者を含めて犠牲者数にカウントすること自体はおかしなことでも何でもありません。
例えば、チベット亡命政権1984年6月に発表した中国によって殺されたチベット人犠牲者120万人の内訳*1には戦闘死者43万人が含まれていますが、この戦死者を犠牲者から除外せよという主張は聞かれません*2。また、東京大空襲や原爆の犠牲者の中には、軍人も多く含まれていますがこれを犠牲者から除外しろと言う主張も聞いたことありませんね。

戦死者を除外せよというのは、加害国日本の内部では通用するかもしれませんが、被害国や第三国では通用しない理屈です。
もっとも、戦死者は除外という条件を明示しての研究なら問題はないでしょう。ただし、その場合、30万人説否定の根拠としては前提条件が異なるため使えません。

埋葬記録の重複

これは史実派から既に指摘がある内容ですが、要するに遺体を一度埋めたものの仮埋葬か何かの理由で再度埋めなおしているため、その分の数が重複しているという指摘です。
この指摘は正しいと考えますが、だからと言って15万体の埋葬数が半分になったりするわけも無く、ましてゼロにはなりませんが。

集団虐殺犠牲者数19万と個別虐殺犠牲者数15万の重複

例えば揚子江岸で集団虐殺されて河に投棄された遺体のうち、岸に打ち上げられ埋葬された場合、両方で重複集計されるわけです。こういった重複もおそらくあるでしょうが、仮に全て重複したとしても19万人以下にはなりません。

個別証言での犠牲者数累計による重複

集団虐殺犠牲者数19万について言えば、死体をカウントしたわけではなく証言などから累積した数字と思われます。そうすると同じ事件を目撃した別々の証言者が別々に報告した可能性があり、それによる重複もおそらくは発生していると思います。検察での精査や裁判の審議過程である程度の確度で重複と判断できるものは除いていると思われますが、裁判時は既に事件後10年を経過していますので、それぞれの証言の内容が同じ事件を指しているのかどうかの判断は困難だったはずです*3

まとめ

南京軍事法廷の34万人説については、おそらくは上記のような重複が含まれているものと思いますが、だからと言って具体的にどの部分がどの程度重複しているのかについて明確にはわからないため、34万人ではなく○○人だ、とも言えないわけです。
もし具体的な根拠を持って重複部分を指摘できれば、中国側はその部分の訂正に応じるべきですが、それには日本側、特に防衛関係部局が持っているであろう非公開資料(何月何日にどの部隊がどこで作戦を行い、どのような戦果を上げたか、など)を公開する必要があるでしょうね。
しかし、戦後70年、南京事件が日中間の外交問題として持ち上がってからでも40年、この長期間にわたって、日本国政府としての公開調査を全く行なってこなかったことを考慮するとそのようなことは期待できないでしょうね。

それに上記の重複を考慮しても、最終的に犠牲者数が10万人以下になるとはちょっと考えにくいでしょう。

*1:「死者」http://www.tibethouse.jp/about/information/human_rights/human38.html (2017/1/31 にURLを更新)

*2:チベットは内戦・弾圧、南京事件の場合は日中間の戦争という主張もあるでしょうが、宣戦布告もなく首都に攻め込んでいる状態であることは考慮されるべきでしょう。

*3:同じ事件でも、一方の証人が12月13日、もう一方が12月14日と証言すれば、同一の事件とみなすことは難しい。