「「領土問題」の悪循環を止めよう!――日本の市民のアピール――」

産経新聞の報道*1を鵜呑みにして「反日声明」とか言っている人たちは、例によって声明そのものを読んでもいないと思いますので、一部引用しておきます。

「領土問題」の悪循環を止めよう!――日本の市民のアピール―― 2012年9月28日

読んでみればわかりますけど、反日的要素はありません。
基本的に、対話・交渉を求め、石原都知事のようにバカみたいな挑発行為を戒める内容です。

歴史的経緯に関する部分

2、現在の問題は「領土」をめぐる葛藤といわれるが、双方とも「歴史」(近代における日本のアジア侵略の歴史)問題を背景にしていることを忘れるわけにはいかない。李大統領の竹島(独島)訪問は、その背景に日本軍元「慰安婦」問題がある。昨年夏に韓国の憲法裁判所で出された判決に基づいて、昨年末、京都での首脳会談で李大統領が元「慰安婦」問題についての協議をもちかけたにもかかわらず、野田首相が正面から応えようとしなかったことが要因といわれる。李大統領は竹島(独島)訪問後の8月15日の光復節演説でも、日本に対し日本軍元「慰安婦」問題の「責任ある措置」を求めている。

日本の竹島(独島)編入は日露戦争中の1905年2月、韓国(当時大韓帝国)の植民地化を進め、すでに外交権も奪いつつあった中でのものであった。韓国民にとっては、単なる「島」ではなく、侵略と植民地支配の起点であり、その象徴である。そのことを日本人は理解しなければならない。

また尖閣諸島(「釣魚島」=中国名・「釣魚台」=台湾名)も日清戦争の帰趨が見えた1895年1月に日本領土に組み入れられ、その3カ月後の下関条約で台湾、澎湖島が日本の植民地となった。いずれも、韓国、中国(当時清)が、もっとも弱く、外交的主張が不可能であった中での領有であった。

http://www.annie.ne.jp/~kenpou/seimei/seimei165.html

日本国内の報道では無視されることの多い部分ですが、日本が竹島領有を宣言した1905年、韓国は日本軍により占領されている状態でしたし*2、日本が尖閣諸島領有を宣言した1895年は日清戦争の真っ最中で、直後に澎湖列島を軍事占領している点は、問題を考える上で重要なポイントです。
竹島領有は韓国併合とは関係ない、とか、尖閣領有は日清戦争とは関係ない、とか言っても、第三者的には納得されたりはしないでしょう。*3 *4

紛争当事者は両国政府であって両国国民ではない

日本政府は言わば紛争の当事者ですから、自身に都合のいい証拠だけを提示するのはある意味当然ですが、メディアまでがそれに迎合している現状は危険です。

4、領土問題はどの国のナショナリズムをも揺り動かす。国内の矛盾のはけ口として、権力者によって利用されるのはそのためである。一方の行動が、他方の行動を誘発し、それが次々にエスカレートして、やがて武力衝突などコントロール不能な事態に発展する危険性も否定できない。私たちはいかなる暴力の行使にも反対し、平和的な対話による問題の解決を主張する。それぞれの国の政治とメディアは、自国のナショナリズムを抑制し、冷静に対処する責任がある。悪循環に陥りつつあるときこそ、それを止め、歴史を振り返り、冷静さを呼びかけるメディアの役割は、いよいよ重要になる。

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ここではそれを指摘していますが、現状のメディアの体たらくではあまり期待できないかも知れません。

火種をばら撒いたバカは誰か

3、日中関係でいえば、今年は国交正常化40年であり、多くの友好行事が計画・準備されていた。友好を紛争に転じた原因は、石原都知事尖閣購入宣言とそれを契機とした日本政府の国有化方針にある。これは、中国にとってみると、国交正常化以来の、領土問題を「棚上げする」という暗黙の「合意」に違反した、いわば「挑発」と映っても不思議ではない。この都知事の行動への日本国内の批判は弱かったといわざるをえない。(なお、野田政権が国有化方針を発表したのは7月7日であった。この日は、日本が中国侵略を本格化した盧溝橋事件(1937年)の日であり、中国では「7.7事変」と呼び、人々が決して忘れることのできない日付であることを想起すべきである)

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まあ、言うまでもなく石原都知事ですね。
極右排外主義者に権力を与えるのは何とかに刃物を与えるのに等しい、ということですね。

ちなみに、野田政権の無頓着さというか無神経さを感じさせるのは、盧溝橋事件が起きた7月7日に国有化を発表する空気の読めなさですね。思い起こせば、去年訪中の日程が南京事件のあった12月13日を含んでいてあわてて日程変更するとか、まともな知識を持っているブレーンはいないんでしょうか。
さらに、柳条湖事件のあった9月18日は反日デモが一番激しくなり中国当局が抑えきれない状況になっていましたが、19日以降デモが落ち着いてきたのを見て”官製デモの証拠”とかいう論調も多かったですね。9月18日が持つ意味を理解できずに、とにかく”中国当局のせい”にしたがる人が多いようです。



声明の提案

11、最後に、私たちは「領土」をめぐり、政府間だけでなく、日・中・韓・沖・台の民間レベルで、互いに誠意と信義を重んじる未来志向の対話の仕組みを作ることを提案する。

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排外主義に染まって差別を煽っているような人たちの声を掻き消すくらいにメディアが協力してくれればいいのですが、産経新聞のように戦争を煽るメディアがあるので期待薄ですね。

*1:産経新聞 対韓国宣伝工作担当記者 黒田勝弘氏の記事 http://sankei.jp.msn.com/world/news/120929/kor12092922120005-n1.htm

*2:さらに同年に日韓協約で日本に外交権を奪われています。

*3:独島(竹島)問題が過熱したきっかけは2005年の島根県議会による「竹島の日」制定でしょう。当時の島根県議会は3分の2以上が自民党議員でした。http://www.jcp.or.jp/akahata/aik4/2005-03-17/02_02.html

*4:尖閣問題で中国の漁船がどうのという主張がありますが、公船と民間船の区別もつけない暴論に過ぎません。尖閣問題の先鋭化は石原都知事の無責任な挑発の責任が最も大きいと言えます。強いて言えば、菅政権時に漁船の船長を逮捕したことがきっかけの一つと言えますが、当時の世論はより過激な対応を取れと事態の悪化を煽るものでしたので、結果として菅政権の対応は穏当だったと言えます。