日韓通貨スワップ協定の拡大措置が延長しなかった場合

日韓通貨スワップ協定拡大措置が2012年10月31日に期限を迎えますが、延長されるかどうか不透明な状況です。

 11日から東京で国際通貨基金IMF)年次総会などの国際会議が予定されており、これを機に通貨スワップの拡大延長をめぐる動きが出る可能性が高い。

http://japanese.joins.com/article/770/160770.html?servcode=A00§code=A10

この記事の指摘どおり、IMF総会で何等かの動きがある可能性は高いと思います。日韓共に金融当局者は延長しておきたいというのが共通の本音でしょうが、外交的な対立が金融の道理を排除している状況です。
実際に延長されるかどうかは現状では判断できません。延長するかも知れないし、しないかも知れないし、あるいは円・ウォンスワップのみの協定に改定するか、逆にドル・ウォンスワップのみにするか。いずれもあり得る話です。

日韓通貨スワップ協定拡大を延長することは言うまでもなく、通貨の安定感を高い状態に維持する意味があります。このメリットを享受するのは主として韓国側です*1。そしてその結果として通貨危機の発生を未然に防止することになり、そのメリットは日韓ともに享受します。仮に韓国で通貨危機が起きた場合、日本にも波及し大きな損失を蒙ります。火事に例えれば、韓国側は全焼に近い損害を受ける一方、日本側も半焼に近い損害を受けます。半焼になった家の住人が、全焼になった家の住人を嘲笑っても、第三者から見れば、50歩100歩でしょう。
つまり、日本自体が被害を回避するためにも、日韓通貨スワップ協定拡大は効果的な手段だと言えます。しかも基本的に費用がかかりません。通貨危機にならない限り発動することもありませんし、そもそもその通貨危機の発生を回避するための措置です。また、仮に発動したとしても、基本的に外貨準備のうちドル建て分をウォン建てに短期間交換するだけで一定期間後は利息付で返ってきます。
このため二国間通貨スワップ協定は一般的に延長するのが普通です*2。なので、延長しないということはその特異性から何等かのメッセージを伴う行為となります。

今回の日本の対応は経済問題を突きつけて政治問題の踏み絵を踏ませるやり方で海外、特に東南アジア各国からは良くは見られないでしょうね。

延長しない場合の影響

さて、延長しない場合、実質的に問題があるかというと、現状では特に問題は起きないでしょう。
理由は、国際的な金融不安が残っているとは言え、深刻なレベルとは言えず直ちに韓国に波及してくる可能性が少ないからです。日本政府が不延長を政治に利用したのも、延長しなくても金融不安の口火になる可能性が低いという見通しがあるからです。韓国政府にしても差し迫った危機がないがために、踏み絵を踏んでまで延長を申し出る必要があるか悩んでいると言えます。
しかしながら延長しない場合、通貨スワップ協定で積みました外貨準備相当額が500億ドル程度減るわけですから、投機筋に狙われる可能性は多少は増えるでしょう。ただ、現実問題として攻撃を受ける蓋然性が高いとは言えず、不延長の問題は他にあると見るべきです。

経済活動上の問題としては、日韓貿易に関係する韓国企業にとって中韓貿易に比べ利便性のみならずいざと言うとき日本は資金を引き上げ支援してくれないと思われますから、対日貿易と対中貿易を選択できる企業は、対中貿易の方の比重を高めるインセンティブが働きます。
もちろん、即座に対日貿易から対中貿易に切り替えられるわけはありませんから、この影響が出るには時間がかかるでしょうが、この状態が維持される限り着実に中韓の経済的な接近が進み、日韓貿易は先細りしていく可能性が高いです。その結果として、中国の経済圏に韓国が組み入れられ、日本は東アジアの経済圏から孤立していくになります。
日韓貿易についても、韓国の通貨安定性についても、短期的な影響はほとんど出ないでしょうから、”通貨スワップ拡大不延長で韓国の方が打撃を受ける”というのはファンタジーに近いと言えます。

*1:協定は双方向ですが、日本円と比較すればウォンは脆弱と言えます。

*2:http://japanese.cri.cn/881/2011/12/08/201s183968.htm ただし、FRBの行う通貨スワップ協定の場合はかなり特殊なので当てはまりません。