印象操作記事の読み方

次の記事を読んでみてください。

生活保護を不正受給容疑 交通事故の保険金など申告せず
産経新聞 10月15日(月)14時59分配信

 収入を隠して生活保護費を不正受給したとして、大阪府警警備部は14日、詐欺容疑で大阪府高槻市富田町の無職、山本平(たいら)容疑者(49)と妻の淳子容疑者(51)を逮捕した。府警によると、山本容疑者は中核派活動家で、「何も言いたくない」と容疑を否認。淳子容疑者は「生活費に使った」と容疑を認めているという。逮捕容疑は平成18年12月〜23年10月、交通事故で支払われた保険金などを高槻市に申告せず、本来減額される生活保護費計約78万円を不正に受け取ったとしている。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121015-00000007-san-soci

これを見て、「中核派の活動家が生活保護を不正受給して逮捕された」と理解するなら読み込みが浅いと言えます。さらに「やっぱり中核派は〜」と否定的な印象を強めたなら、産経記者の意図通りと言えるでしょう。

ポイント1・事件の内容

事件そのものは何かと言うと、生活保護受給者が交通事故保険金を市に申告しなかった、というただそれだけの内容です。
生活保護受給者は、何らかの収入があった場合それを申告する義務があります。何らかの収入とは、アルバイトや保険金、遺産、果ては、お小遣やお年玉まで含まれます。
実際には、受給者が申告を忘れたり、このくらい構わないと考えたり、定期的な収入でなければ申告しなくていいと思っていたりなど、この手の申告漏れは結構ありますが、それで逮捕されることはまずありません。ほとんどの場合は職員からの注意、よほど悪質な場合でも返還を要求される程度でしょう。

ポイント2・容疑は?

ではなぜ逮捕されたのか?記事タイトルでは「不正受給容疑」とありますが、そんな容疑はありません。記事の内容をよく読むと「詐欺容疑」とあります。つまり、この容疑者は”意図的に”不正受給したので詐欺である、と警察が判断したからこそ逮捕したわけです。
しかし、”意図的に”不正受給したことなど果たして証明できるでしょうか?
よほど明確な証拠が残っている場合以外、詐欺の立件というのは結構難しく、今回の事件の場合、果たして”意図的”であることを証明できるかかなり疑問です。これが大金であれば、”意図的”とみなす余地もありますが、「平成18年12月〜23年10月(略)本来減額される生活保護費計約78万円」ですから、5年間で約80万円、1ヶ月あたり1.3万円くらいに過ぎません。以下の事例と比べても、あまりにもささやかな額です。

生活保護費二重受給詐欺事件の検挙[西成警察署]
本年7月分と8月分の生活保護費約23万円

http://www.police.pref.osaka.jp/02jyoho/fuseijyukyu/h2408_1.html

1ヶ月あたり17万円。

就労収入を申告せず生活保護費を騙し取った詐欺事件の検挙[交野警察署]
平成21年12月上旬ころから平成23年6月上旬ころまでの間、同市から生活保護費として、合計22回にわたって、総額約435万円

http://www.police.pref.osaka.jp/02jyoho/fuseijyukyu/h2408_1.html

1ヶ月あたり20万円。

暴力団組長による生活保護費不正受給詐欺事件の検挙[枚岡警察署] 
平成22年5月から本年2月までの間に、総額約530万円

http://www.police.pref.osaka.jp/02jyoho/fuseijyukyu/h2405_1.html

1ヶ月あたり20万円。

生活保護費不正受給詐欺事件被疑者の検挙[東住吉警察署]
平成22年4月下旬ころから平成22年12月下旬ころまでの間、10回にわたり、同市から生活保護費として約140万円

http://www.police.pref.osaka.jp/02jyoho/fuseijyukyu/h2405_1.html

1ヶ月あたり14万円。

強いて言えば以下のケースが近いと言えます。

偽装結婚による生活保護費不正受給詐欺事件の検挙[国際捜査課・浪速署]
平成22年12月ころから平成23年12月ころまでの間に、合計2回にわたり、生活保護費約30万円

http://www.police.pref.osaka.jp/02jyoho/fuseijyukyu/h2406_1.html

これは、1回あたり15万円ですが、期間で見れば1ヶ月2.5万円程度です。


ポイント3・逮捕主体

詐欺事件であれば通常は刑事部が担当する事件ですが、この記事では「大阪府警警備部」とあります。大阪府警警備部はテロ・ゲリラ対策の公安課を抱えています。
ここから、公安が中核派を検挙する口実に生活保護を利用したと推定できるわけです。

記事をどう読むか

生活保護受給者に対する強硬な世論が形成されたのに乗じて、公安が目を付けた中核派活動家を別件逮捕した、と考えるのが自然でしょう。

さらに考察するなら、公安によるこういった嫌がらせが活動家の更正や就労を妨げ、生活保護を受けざるを得ない状況に追い込んでいる可能性も考慮すべきでしょう。