「可能性」どころかそれこそ公文書に記録されている話

ネトウヨ・極右勢力による策謀の成果であった「はだしのゲン閉架化が、反戦勢力からの反撃で無効化されてしまい地団太を踏んでいる産経新聞は、「「偏った思想の宣伝道具」「知る自由保障が役割」 「はだしのゲン」制限撤回に賛否」と題するプロパガンダ記事を2013年8月26日に掲載しています。
産経新聞社内では虚偽を含まない記事を書いたら処罰の対象にでもなるのか、と思わされるくらい産経新聞には虚偽の内容が溢れています。
今回取り上げたプロパガンダ記事では、岩田温氏の無知を利用した印象操作が行われています。

政治学者の岩田温(あつし)秀明大専任講師(29)が指摘するのは、市教委が過激で不適切として閲覧制限を決めた、旧日本軍の兵士が首を刀で切り落とし、女性に乱暴して惨殺する−という描写だ。
 岩田講師は「旧日本軍の一部に逸脱した行為があった可能性はあるが、まるで軍全体の方針であったかのように描かれている。児童生徒に積極的に読ませる書物なのか」と話した。

http://sankei.jp.msn.com/life/news/130826/edc13082620190002-n1.htm

旧日本軍による戦地での虐殺や女性に対する強姦殺害に関する「はだしのゲン」内の描写に対し、岩田氏は「旧日本軍の一部に逸脱した行為があった可能性はある」と言っています。歴史修正主義者の詐術の一つに、“兵士個人による不法行為はあったが、軍の命令ではない”とする責任転嫁があり、岩田氏の発言内容はそれにあたりますが、岩田氏はそれより一歩進んで、兵士個人による不法行為を「可能性」にまで値切って事実であったことすら曖昧にしようとしています。

しかしながら、その結果、逆に岩田氏は戦争時の日本軍の行状に関して全く無知であることを露呈しています。

日本軍による掠奪、強姦、放火、俘虜惨殺の事実を記載した日本側の文書

「JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C11110762200、支那事変の経験に基づく無形戦力軍紀風紀関係資料(案) 昭和15年11月(防衛省防衛研究所)」
 第三 主トシテ戦地ニ於テ著意スベキ事項
一、皇軍ノ本質並ニ今次聖戦ノ意義ヲ的確ニ把握シ其ノ行動ヲシテ之ニ即応セシムルヲ要ス
 事変勃発以来ノ実状ニ徴スルニ赫々タル武勲ノ反面ニ掠奪、強姦、放火、俘虜惨殺等皇軍タルノ本質ニ反スル幾多ノ犯行ヲ生ジ為ニ聖戦目的ノ達成ヲ困難ナラシメアルハ遺憾トスル所ナリ宜シク皇軍ノ本質並ニ今次聖戦ノ目的ハ抗日排日容共政権及其ノ軍隊ヲ打倒シ東洋永遠ノ平和ヲ確立シ新秩序ノ建設ニ寄与スルニ在リテ決シテ一般民衆ヲ敵トスルモノニアラザル所以ヲ一兵ニ至ル迄徹底セシメ其ノ行動ヲシテ之ニ即応セシムルコト肝要ナリ

http://www.jacar.go.jp/DAS/meta/image_C11110762200

日本軍による民間人の家屋焼却の事実を記載した日本側の文書

(P26/349)
 軍人軍隊ノ対住民行為ニ関スル注意ノ件通牒
昭和十三年六月二十七日
   北支那方面軍参謀長 岡部直三郎

五、 右ノ外討伐部隊カ戦闘上ノ必要ニ基クニ非ラスシテ単ニ敵兵ノ存在セシ故ニ或ハ住民地附近ノ交通ヲ匪賊カ破壊セリトノ理由ニ依リ住民ノ家屋ヲ焼却スルカ如キハ徒ニ無辜ノ住民ヲシテ自暴自棄ニ陥リ匪賊ニ投セシムル結果トナルヲ以テ住民地ノ焼却ハ厳ニ之レヲ禁止スルヲ要ス近時各遊撃部隊ハ県政府ヲ作リ相当組織アル行政ニ布キアルヲ以テ討伐部隊ノ行為住民ヲ庇護スルノ態度ニ出テサルニ於テハ住民ヲシテ日本軍ヨリモ反ッテ遊撃部隊ヲ徳トスルニ至ラシムヘシ

http://www.awf.or.jp/pdf/0051_2.pdf
http://d.hatena.ne.jp/scopedog/20130317/1363518525

日本軍が中国人女性を拉致強姦し殺害した事実を記載した日本側の文書

「JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C12120671700、陸支普綴 昭和16年度(防衛省防衛研究所)」
分哨勤務中華人婦女ヲ哨所ニ連行猥褻行為ヲナシ更ニ華人女ヲ溺死セシム

http://www.jacar.go.jp/DAS/meta/image_C12120671700
http://d.hatena.ne.jp/scopedog/20130507/1367939491

このように、当時の日本側の公文書に、日本軍による掠奪、強姦殺人、放火、俘虜惨殺の事実が記載されています。岩田氏の言うような「旧日本軍の一部に逸脱した行為があった可能性はある」などと曖昧な話ではなく、日本軍自身が残した公文書に記載された厳然たる事実です。
しかも、これらの文書は新発見されて通説を覆した史料などではなく、以前から知られている通説を支持する史料に過ぎません。アジア太平洋戦争において日本軍が戦地・占領地の各地で捕虜や民間人に対する虐待を行ったという通説はこういった史料や元日本兵の手記や証言など多くに依拠して得られた知見です。それすら知らないような岩田氏の発言など、掛け算もできない人が語る相対性理論のようなもので耳を傾けるにも値しません。