差別で目が曇るとまともな判断が出来ない事例採集

 「ちょっと待て! もし中国が激怒して本当に戦争になったらどうするんだ」と心配される方に申し上げたいのは、無人機だからといって放置していれば、中国は無人機に何を積んでくるか分からないということです。
 現在、アメリカは無人攻撃機を中東で多用し、多くの戦果と同時に多くの住民の憎悪も買っています。テロリストを見つけたら状況を問わずに攻撃するので、罪のない人がたくさん巻き添えを食って殺されているからです。
 ハイテク兵器が最も進んでいると思われるアメリカの兵器で、人が操作していてすら、この程度の性能でしかありません。さらに無人機は、近い将来どこか遠くにいるオペレーターの操作で動くのではなく、無人機自身が自律的に活動する方に開発が進んでいくと見られています。
 そうなると、無人攻撃機に近づいた物体があれば自動的に攻撃するような事態も想定されるわけで、有人機以上に危険な存在になる可能性が大だと思われます。例えれば、空飛ぶ機雷や地雷のようなものです。人間が操作する場合は政治的判断ができますが、自律型兵器は定められた条件に合致すれば政治的判断も何もなく機能するのです。
 さらに言えば、自立型無人機に搭載されるソフトウエアが一昔前の「Windoows3.1」や「Windows Me」レベルの出来なら、想定外の事態も覚悟せねばなりません。中国の工業水準でミッションクリティカル(銀行の決済システムなどに見られる、極めて高い信頼性が求められること)な兵器が造れると考えるのは、少なくとも現在においては絵空事ではないでしょうか?
 そんな危険なものを日本の空に無断で飛ばされるようになるまで「平和」のために我慢を重ねるべきかどうか、我々の判断が今、問われています。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/38876?page=4

さて、国籍不明あるいは自国・同盟国以外の無人機が、事前の警告に従わずに人的被害が予想される自国領空へ侵犯した場合でも、撃墜するな、と言っている論者はいるのでしょうか?
有坪氏の記述では、中国の無人機を放置すれば多くの人間が殺されるかのような内容になっている上、人が操縦するアメリカの無人機よりも高性能とみられる自律型の無人機を中国側が運用したらどうするのか、などと煽り、一方ではソフトの出来が悪くて想定外の事態が起こることを懸念するなど、一体中国軍のレベルを高く評価しているのか低く評価しているのかさっぱりな論考になっています。つまるところ、中国に対する不信感を煽れれば事実などどうでも良いのでしょう。最近はこういう排外主義と軍拡を煽るタカ派・右翼的発言が商売になると認識されたためか、こういった論者が増えてきました。金のために外交を損なう本当の意味での売国奴が世界中に溢れているようです。

持論

個人的な意見ですが、人口密集地への攻撃が予想される進路で警告に従わずに領空侵犯した無人機に対しては撃墜しても問題ないと考えています。領空侵犯したわけでもない防空識別圏内を飛行しているだけの無人機を撃墜するのはもちろん論外ですが、この辺丁寧に論じている人は目立ちませんね。
問題となるのは、他国と係争している領土の領空の場合です。これは上述のようには「問題ない」とは言えませんが、安倍政権はその辺は曖昧な感じですね*1

有坪氏の論説の冒頭はこれでした。

 最近、尖閣諸島に中国機と見られる無人の航空機が出没しています。日本政府は、無人であることから領空侵犯の警告を出しても強制着陸を命じても応じないとして無人機の撃墜を検討しているようです。
 これに中国は反発し、無人航空機を撃墜したら戦争だと脅していますが、無人機なら人を殺すわけでもないので撃墜したらいいのではないでしょうか。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/38876

はっきり「アホか」と言えるレベルです。領土問題のある場所では、一般論としての領空侵犯時の対応とは異なって当たり前です。尖閣諸島を起点とする領空で中国の無人機を日本の自衛隊機が撃墜すれば、まず間違いなく武力紛争に発展するでしょう。「無人機なら人を殺すわけでもないので撃墜したらいい」とかお花畑もいいところです。
領土問題がある以上、日本側から見れば、“自国領空”に“不法に”侵入した外国軍用機を撃墜した、となりますが、中国側から見れば、“自国領空”を飛行していた軍用機が“不法に”外国軍用機に撃墜されたことになります。

有坪氏は賢しらに次のようなことを述べていますが、

 マキァヴェッリは、敵のたくらみが分かったら、敵が強大で自分たちの方が劣勢であっても、戦う準備をしなければならないと言います。そうすれば敵は自分たちを見直すし、周辺国も尊敬する。君が武器を投げ出してしまえば、とうてい助ける気にならない者でも、君が武器を持って雄々しく立ち上がれば、援助に駆けつけるかもしれないと。
 要は、好戦的なトップの方が、平和主義者よりも平和を守れるということです。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/38876?page=3

このロジックは、“自国領空”を飛行していた軍用機が“不法に”外国軍用機に撃墜された中国側にだって適用され、黙って引き下がれない状況を作ることになります。右翼論者に典型的に見られる症状ですが、相手側からはどう見えるかと言うことに対する想像力に著しく欠けているんですよね。

定石

もちろん、上記の想定の場合、先に係争空域に軍用機を侵入させた中国側に問題があると言えますが、それに対して武力で反撃する方にも問題があります。尖閣諸島が有人の島ならともかく無人島である以上、撃墜しなければならないほどの緊急性がありません。尖閣諸島の領空に侵入したとしてもあくまでも示威行動に過ぎず、武力行使で応じるのは事態を悪化させるだけです。自衛隊内に事態悪化を望むような好戦的な人物がいれば「やむをえない」と言いつつ嬉々として戦端を開くでしょう。
この場合の定石は、中国軍無人機の示威に対し、自衛隊機が追尾しつつ領空内に留まるという示威行動で自国領土であることを示すことまでです。
安倍政権のように、尖閣諸島を念頭に置いた状況で領空侵犯した無人機に対する撃墜方針を示す行為は、自国の軍事力をコントロールする上で失策としか言いようのない愚行です。本来ならば公言すべき内容ではありませんでした。これでもし田母神氏のような人物が現場指揮官であった場合、武力紛争に発展する危険性が高まったと言えるでしょう。

さて、中国側は今のところこの定石を理解しているようです。中国側にとって、仮に無人機を尖閣領空に侵入させた場合の一番嫌な対応は、無人機が引き返すまで自衛隊機に追尾されることです。これをされると明らかに武力による現状変更を狙った行為と米国に認知され国際的な立場が悪化する上、領有権に対する主張を強めることもできないことになるからです。国際的な信用を損ない得るものが何もなしというのは極めて痛い失点になります。それよりは自衛隊機に撃墜された方が遥かにマシなわけで、日本国内の右翼は一生懸命中国側のサポートをしているようなものとも言えます。どこまで売国奴なのやら。
もちろん、中国側もそのようなリスクの高いギャンブルは避けようとしていると思われ、ために軍用機での領空侵犯は避けているように見えます。

現状は神経戦と言えるかもしれませんが、こういう場合、先にキャンキャン吠えた側が失点を重ねることになります。そして安倍政権は吠えるのが好きなようです。