嘘も100回言えば・・・を地で行く産経

相変わらず、吉見氏らの研究で明らかにされた資料をトリミングして都合よく捏造する手法を使っています。
米側資料の慰安婦は「大金稼ぎ欲しいもの買えた」 韓国主張の性奴隷とは異なる風景

産経が「米国戦争情報局資料「心理戦チーム報告書」(1944年10月1日)」と何故かこれまで使っていた名称とは違う名称をつけて紹介している資料ですが、3ヶ月前にも本ブログで紹介した「心理作戦班日本人捕虜尋問報告(Japanese Prisoner of War Interrogation Report)四九号」と同じです。産経では、文書中の軍事郵便番号であるAPO689を文書名だと勘違いして使っていたこともありました*1

まじめに調べようと思う人は、従軍慰安婦関係資料の米国国立公文書館・国立国会図書館所蔵資料にある「III.米国戦争情報局(United States Office of War Information)関係文書」中の「1.心理戦作戦班日本人捕虜尋問報告(Japanese Prisoner of War Interrogation Report)四九号(P136-130/294)」とその関連資料である「26.調査報告書 No.120(1)」の「「AMENITIES IN THE JAPANESE ARMED FORCES」(1945年11月15日)「II AMUSEMENTS、9.Brothels、b.BURMA」をまずは読んでみるべきでしょう。もちろん、英語ですが*2

歴史修正主義者が100回嘘をつくなら、史実派は1000回真実を語るしかない

という気分。
同じことの繰り返しでさすがに嫌になるのもわかりますが、反歴史修正主義クラスタの人たちは以前書いたことでも蔓延する嘘を指摘する記事を書いてほしいと思います。個人的希望としてはツイッターやブクマとかではなく、まとまった記事を書いてほしいですね。
特に産経のような公式メディアでデマが流されるとその感染力は甚大です。まとまった批判記事をちゃんと上げる人が増えるといいなと思います*3

さて、言いだしっぺとしては、もう何度も指摘してきたことですが、改めてこの産経記事を批判しておきます。

産経新聞が取り上げなかった部分1・日本軍が人身売買に加担した事実

産経新聞は「「食事や生活用品はそれほど切り詰められていたわけではなく、彼女らは金を多く持っていたので、欲しいものを買うことができた。兵士からの贈り物に加えて、衣服、靴、たばこ、化粧品を買うことができた」「ビルマにいる間、彼女らは将兵とともにスポーツを楽しんだりピクニックや娯楽、夕食会に参加した。彼女らは蓄音機を持っており、町に買い物に出ることを許されていた」」と記事にしていますが、そもそも、彼女らの多くが騙されてビルマに連れてこられたことについては隠しています。

 一九四二年五月初旬、日本の周旋業者たちが、日本軍によって新たに征服された東南アジア諸地域における「慰安役務」に就く朝鮮人女性を徴集するため、朝鮮に到着した。この「役務」の性格は明示されなかったが、それは病院にいる負傷兵を見舞い、包帯を巻いてやり、そして一般的に言えば、将兵を喜ばせることにかかわる仕事であると考えられていた。これらの周旋業者が用いる誘いのことばは、多額の金銭と、家族の負債を返済する好機、それに、楽な仕事と新天地——シンガポール——における新生活という将来性であった。このような偽りの説明を信じて、多くの女性が海外勤務に応募し、二、三百円の前渡し金を受け取った。
 これらの女性のうちには、「地上で最も古い職業」に以前からかかわっていた者も若干いたが、大部分は売春について無知、無教育であった。彼女たちが結んだ契約は、家族の借金返済に充てるために前渡しされた金額に応じて6ヵ月から1年にわたり、彼女たちを軍の規則と「慰安所の楼主」のための役務に束縛した。*4

http://d.hatena.ne.jp/scopedog/20130728/1375007977

日本軍は人身売買の犠牲者を救出するどころか、兵士用の売春婦としてあてがったわけです。こういう行為は一般的に人身売買犯罪の加担であり、日本軍は組織的に人身売買に加担していたということになりますが、産経新聞はこれを隠蔽しています。

産経新聞が取り上げなかった部分2・売春価格は日本軍が決めた事実

ミッチナでは、丸山大佐は料金を値切って相場の半分近くまで引き下げた。*5

http://d.hatena.ne.jp/scopedog/20130728/1375007977

現地司令官の意向で料金は何とでもできましたが、日本軍の丸山大佐による売春価格の値切り行為についても産経新聞は隠蔽しています。

産経新聞が取り上げなかった部分3・慰安婦らが生活困難に陥った事実

産経新聞は「雇用契約に関しては、慰安所経営者と慰安婦の配分率は50%ずつだが、平均月収は1500円だった(当時の下士官の月収は15円前後)。」と書いています。おそらくわざとでしょうが、慰安婦の手元に残る金額が1500円であるかのような記述に改竄されており、それを下士官の給与と比較していますね。
実際の記述はこうです。

 「慰安所の楼主」は、それぞれの慰安婦が、契約を結んだ時点でどの程度の債務額を負っていたかによって差はあるものの、慰安婦の稼ぎの総額の五○ないし六○パーセントを受け取っていた。これは、慰安婦が普通の月で総額一五○○円程度の稼ぎを得ていたことを意味する。慰安婦は、「楼主」に七五○円を渡していたのである。多くの「楼主」は、食料、その他の物品の代金として慰安婦たちに多額の請求をしていたため、彼女たちは生活困難に陥った。*6

http://d.hatena.ne.jp/scopedog/20130728/1375007977

不思議なことに下士官月収の100倍稼ぎながら(楼主取り分を除いても50倍)「彼女たちは生活困難に陥った。」とありますね。もちろん、産経は慰安婦らが生活困難に陥った事実については隠蔽し、記事のどこにもその事実は書かれていません。産経にとって都合の悪い事実だからでしょうね。

産経新聞が取り上げなかった部分4・軍票トリック

吉見氏らの研究で既に明らかになっていますが、慰安婦らへの支払いは軍票で出されています。ビルマについてはルピー軍票が使用されていますが、1943年以降急速にインフレが進み額面通りの価値が無くなっています。詳細は以前の記事に書いています。したがって、戦地ビルマでのルピー軍票と内地を前提とした下士官給与を比べても意味がありません。
そもそも、1940年代の内地一般人の平均月収は80〜100円程度であって下士卒の給与って普通じゃ生活できないレベルで低かったことを無視するのも問題です*7慰安婦らの収入とされた750ルピーも実勢価値では、1943年半ばで内地の100円程度、1944年になると内地の30円程度の価値に過ぎませんでした。


産経新聞が取り上げなかった部分5・軍人が銃をつきつけ女性を連行し売春を強要しても「強制連行じゃない」と嘯く安倍政権下の日本

 国連人権委員会に96年、慰安婦を性奴隷と位置づける報告書を提出したクマラスワミ特別報告官と会い、慰安婦問題について説明したことがある現代史家の秦郁彦氏は次のように語る。
 「クマラスワミ氏は、河野談話は『強制連行』とは書いていないが、それを否定していないと解したのだろう。河野談話は日本政府の談話であり、国連などの場で他者を説得するには一番便利だ。また、外国人の感覚では『悪いことをしたから謝るのだろう。やはり強制連行をしたのだ』と受け止めるのも無理はない」

http://d.hatena.ne.jp/scopedog/20130728/1375007977

秦氏は年甲斐もなく息巻いていますが、現在の安倍政権下日本では、「部下の軍人や民間人が上記女性らに対し、売春をさせる目的で上記慰安所に連行し、宿泊させ、脅すなどして売春を強要するなどしたような戦争犯罪行為」ですら「軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述」ではないと政府答弁に記述されています*8

仮に外国の軍人や民間人が日本人女性を売春させる目的で拉致して脅すなどして売春を強要したとしても、現・日本政府の見解では「軍や官憲によるいわゆる強制連行」にはあたりません。責任があるとしても実行犯のみの責任で、外国軍の司令官や外国政府首脳の責任にはならないというのが、安倍政権の公式見解だと言えます。ある意味、拉致問題は解決済みであることを安倍首相自身が認めたに等しいと言えるでしょう。

それが“美しい国・日本”の正体です。

*1:本紙ではなく古森氏によるプロパガンダ利用時だったと思いますが

*2:米国国立公文書館国立国会図書館所蔵資料については、資料一覧を作っています。http://d.hatena.ne.jp/scopedog/20130729/1375117117

*3:ブログ自体が低迷しているのでしょうがない面もあるでしょうが、まともなメディアがこの体たらくですから、個人ブログでも

*4:Early in May of 1942 Japanese agents arrived in Korea for the purpose of enlisting Korean girls for "comfort service" in newly conquered Japanese territories in Southeast Asia. The nature of this "service" was not specified but it was assumed to be work connected with visiting the wounded in hospitals, rolling bandages, and generally making the soldiers happy. The inducement used by these agents was plenty of money, an opportunity to pay off the family debts, easy work, and the prospect of a new life in a new land, Singapore. On the basis of these false representations many girls enlisted for overseas duty and were rewarded with an advance of a few hundred yen. The majority of the girls were ignorant and uneducated, although a few had been connected with "oldest profession on earth" before. The contract they signed bound them to Army regulations and to war for the "house master " for a period of from six months to a year depending on the family debt for which they were advanced ...

*5:In Myitkyina Col. Maruyama slashed the prices to almost one-half of the average price.

*6:The "house master" received fifty to sixty per cent of the girls' gross earnings depending on how much of a debt each girl had incurred when she signed her contract. This meant that in an average month a girl would gross about fifteen hundred yen. She turned over seven hundred and fifty to the "master". Many "masters" made life very difficult for the girls by charging them high prices for food and other articles.

*7:衣食住が軍隊から提供されるためにその給与で問題なかっただけで、それを慰安婦と比較するのはどう考えても適切とは言えません。産経の比較は色んな意味で間違っています。

*8:http://d.hatena.ne.jp/scopedog/20130627/1372338319