民主政権が尖閣衝突ビデオを隠蔽したとの主張は当時の政府発表すら理解できない無能の証明

とか書くと、まるで安倍首相が無能だと指摘しているみたいですが・・・。

安倍首相はじめとするネトウヨ尖閣ビデオを菅政権が隠蔽したと主張し、安倍政権が強行採決した秘密隠蔽法の正当化を謀っています。12月9日の記者会見では、安倍首相の個人的取り巻きの一人である産経新聞の阿比留記者*1と安倍首相が出来レース質疑を行っています。

(記者)
 産経の阿比留です。
 秘密の指定解除のルール化に関連して、1つお伺いいたします。国民が国政について正しい判断を下し、評価するには、政府からの正確で適切な情報の開示、提供が必要です。一方、最近では、菅政権が中国漁船衝突事件の映像を恣意的に隠蔽し、国民から判断材料を奪い、さらに目隠しした事例がありました。総理はこれについてどうお考えになり、あるいはどのように対処されていくお考えかを改めてお聞かせください。

安倍総理
 菅政権が隠したあの漁船のテープは、もちろん特定秘密には当たりません。問題は、あのときにも発生したわけなのですが、つまり、誰がその判断をしたのか、明らかではありませんね。菅総理なのか、仙谷官房長官なのか、福山官房副長官なのか。誰が、本来公開すべき、国民の皆様にも公開をし、世界に示すべきですね、日本の立場の正しさを示すテープを公開しなければならないのに公開しなかった、間違った判断をしたのは誰か。(略)ですから、この法律が施行されれば、菅政権で行った、誤った、政権に都合のいい情報の隠ぺいは起こらないということは、断言してもいいと思います。

http://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/statement/2013/1209kaiken.html

巧みに言葉を選んでいますが、まるで菅政権が2010年9月7日の衝突事件の真相を隠蔽したかのようなやり取りになっています。

そもそも菅政権は衝突事件を隠蔽したのか?

2010年9月7日に起きた漁船衝突事件について菅政権はどのように発表したのかを見てみましょう。
まずは事件当日の前原国土交通大臣の発表です。

(問)尖閣諸島で海保の船が衝突事故を起こしているようですけれども、それについて大臣から詳しく教えてください。

(答)まだ途中段階でございますので、また新たな情報が分かり次第お伝えをいたしますけれども、午前11時45分現在、尖閣諸島久場島から338度約12?の海上、これは我が国の領海内でございますが、しょう戒中の巡視船「よなくに」と中国トロール漁船「ミンシンリョウ5179」とが接触をいたしました。
中国トロール漁船につきましては接触後、停船命令を無視して航走を続けており、巡視船「みずき」「はてるま」により立入検査をすべく、停船命令を実施しつつ、追跡中の10時56分、久場島の北西約15?の海上、これも領海内でございますが、再び巡視船の「みずき」と当該漁船が接触したということでございます。
今のところそれ以上のことは分かっておりません。
また分かりましたらお伝えをしたいと思います。

http://www.mlit.go.jp/report/interview/daijin100907.html

この時点では「接触」という表現に留まっており、意図的かどうかも判然としない表現でした。しかし、翌9月8日の官房長官記者会見ではかなりはっきりした表現となっています。

平成22年9月8日(水)午前

中国漁船船長に対する逮捕状の緊急執行について

 1点報告をいたします。海上保安庁が8日未明、公務執行妨害の容疑で、魚釣島の北方約9キロメートルの海上に停留中の同漁船船内において、同漁船船長に対して逮捕状を緊急執行いたしました。我が国としては、違反の程度、対応等を考慮の上、我国の法令に基づいて厳正に対処していくこととなります。この公務執行妨害の中身でありますけれども、尖閣諸島周辺海域警戒中の海上保安庁巡視船「みずき」が、同諸島周辺の領海内で、違法操業中の中国漁船に対し、立ち入り検査を実施するため、停船を命じつつ追跡をしておりましたら、同領海内において、同漁船船長が当該漁船を巡視船「みずき」に衝突させるなどをして、同巡視船に乗り込む海上保安官の職務の執行を妨害した、そういう事案でございます。私(官房長官)からの報告はそこまででございます。

http://www.kantei.go.jp/jp/tyoukanpress/201009/8_a.html

この時点(事件翌日午前)で、「同漁船船長が当該漁船を巡視船「みずき」に衝突させる」と中国漁船側から衝突してきたことを明言しています。
そして9月10日の前原大臣記者会見では、前後関係をはっきりさせた詳細な事件内容が説明されています。

二つ目は中国の漁船の公務執行妨害事案でございますが、9月7日、尖閣諸島久場島沖の我が国領海内におきまして、しょう戒中の巡視船「よなくに」が、操業中の中国トロール漁船「ミンシンリョウ5179」を発見して、領海外へ退去するように警告を行っていたところ、午前10時15分に、航走を開始した当該漁船の左舷船首が、巡視船「よなくに」左舷船尾に接触をいたしました。当該漁船は接触後も航走を続け、午前10時56分、久場島の北北西約15?の我が国領海内におきまして、突然、左に舵を切りまして、巡視船「みずき」の右舷中央部付近に衝突をさせました。
さらに、巡視船「みずき」「はてるま」により針路規制、放水規制を段階的に実施をいたしましたけれども、なおも停船をしないことから、久場島の北北西約27?の我が国領海外におきまして、巡視船「みずき」が強行接舷をして、海上保安官6名が移乗の上、停船をさせました。
その後、8日午前2時3分、魚釣島西端から約8.7?の我が国領海内の当該漁船船内におきまして、同船船長を公務執行妨害の容疑で逮捕いたしました。
9日午前10時41分、同人は石垣海上保安部から那覇地方検察庁石垣支部に送致されました。
本件は我が国領海内で発生した事案であり、海上保安庁において我が国の法令にのっとり、厳正に対処いたしました。

http://www.mlit.go.jp/report/interview/daijin100910.html

その後海保職員一色氏が不正に漏洩させた映像に、この前原大臣説明を否定する情報や不足する情報がなかったことから、事件の詳細説明としては十分であったことがわかります。
つまり、菅政権は事件発生から3日間のうちに事件の根幹となる事実について正確に隠すことなく公表しているわけで、何ら隠蔽などしていないわけです。一色氏が不正に漏洩させた映像は、菅政権の発表内容が正確であったことの裏づけにこそなれ、隠蔽した証拠にはなり得ません。ところが、領土問題で熱狂し冷静な判断力を失っていた世論は、野党自民党産経新聞プロパガンダに容易に騙されてしまったわけです。

事実関係において政府説明に間違いがない以上、映像の公開自体は必要なかった

一言で言えば、これで終わる話です。菅政権は中国漁船から巡視船に衝突してきたと主張していたわけで、日本国内では誰もそれに疑いを挟んでいませんでした。少なくとも大メディアはその線で報道し、世論の大勢はその理解で一致していました。なのに、なぜビデオ公開を迫ったのでしょうか?ビデオを公開して何の意味があるんでしょうか?それについてちゃんと説明している論者はまず見かけません。

安倍首相は「あの漁船のテープは、もちろん特定秘密には当たりません」と言っていますが、菅政権の説明と同じ内容のビデオが特定秘密であるはずがありませんので当然のことですし、そもそも隠蔽ですらありません。安倍首相は「菅政権が隠した」などと相変わらずデマをばら撒いていますが、隠すつもりのビデオと同じ内容を口頭で公表するなどナンセンスにもほどがあります。
安倍政権下では死刑囚8人に対し死刑が執行されており、その事実が政府により公表されていますが、死刑執行のビデオを公開せよなどという馬鹿げた主張などは聞かれませんし、安倍政権が死刑執行の記録を隠蔽したなどという指摘もありません。
ビデオを公表しないから隠蔽だ、などというのは、国内政治・政局での言いがかりに過ぎません。

この簡単なことすら理解できない人たちが、安倍政権による秘密隠蔽法強行採決に賛同しているわけですから恐ろしい話です。

*1:菅政権時に取材もせずに政権誹謗するでっち上げ記事を書いて損害賠償請求裁判で敗訴した産経新聞記者。同裁判では産経新聞も賠償責任を負わされたが、記者が取材もなしに記事を捏造し会社の社会的信用を失墜させたにも関わらず、阿比留記者を政治部記者として優遇する異常な対応を取っている。