基地村慰安婦と日本軍慰安婦の違い、及び基地村慰安婦訴訟の行方について

この件。

最終更新:2014年6月26日(木) 5時47分

「米軍慰安婦だった」と主張、韓国人女性122人が集団訴訟

 朝鮮戦争後の韓国で、政府の管理の下、駐留するアメリカ兵士の相手をさせられ、「米軍慰安婦だった」と主張する女性たちが、韓国政府に対し謝罪と賠償を求め集団訴訟を起こしました。
 訴えを起こしたのは、いわゆる「基地の村」でアメリカ人兵士の相手をさせられた「米軍慰安婦だった」と主張する韓国人の女性122人です。
 「基地の村」とは、朝鮮戦争後の1950年代後半、韓国に駐留したアメリカ軍の付近にできた集落とされ、女性たちは声明書で「国家が旧日本軍の慰安婦制度をまねて『米軍慰安婦制度』を作り、徹底的に管理してきた」と指摘しました。
 その上で、当時、政府が特定地域を売春防止の除外対象としたほか、女性を国家に登録させ、「愛国教育」という名称で教育まで受けさせたと説明しています。
 女性たちは韓国政府に対し、「米軍慰安婦制度」の歴史的事実と法的責任を認め、被害者に謝罪するとともに、1人あたり日本円でおよそ100万円の賠償を求める訴えをソウル中央地裁に起こしました。
 韓国では、過去にもこの問題が取り上げられたことがありますが、支援団体によると、こうした女性たちが訴訟に踏み切るのは初めてです。(25日19:45)

http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye2234101.html

朴政権にとっては苦々しい話題でしょうね。何せ、父親である朴正煕が基地村慰安婦での管理売春に関与していますから、まず非難を受け入れがたいと言うのが人情でしょう。立法と司法がどう動くかについて注意が必要ですが、制度的な非合法性を見出すのは難しいものの違憲性を問える可能性はありそうです。

「米軍慰安婦」が存在?122人が韓国政府を訴える 日本では「韓国に大ブーメラン」と大盛り上がり

J-CASTニュース 6月26日(木)18時19分配信
 朝鮮戦争が休戦に近付いた1950年代前半から70年代以降まで韓国版の性奴隷制度「米軍慰安婦」が存在し、国家暴力によって女性の人権を奪われたとして2014年6月25日、米軍慰安婦だったという122人の女性が韓国政府を相手取り、謝罪と賠償を求める訴訟を起こした。
 この米軍慰安婦問題は日本では度々報道されてきたが、韓国では「捏造」との反発が強かった。今回、このニュースは韓国内で大きく報じられたが、衝撃が強すぎたのか、ネットの掲示板などに感想を寄せる人は少なく、妙な静けさが広がっている。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140626-00000004-jct-soci

このJ-CASTのようにレベルの低い商業主義メディアは、“ニュースの衝撃が強すぎて韓国ネットの掲示板などに妙な静けさが広がっている”などと下らない邪推に余念がありませんが、衝撃も何も、基地村慰安婦らが韓国政府を相手にした提訴を準備していることは、2013年11月時点で報道されています。

‘基地村女性管理’朴正熙 親筆署名文書 公開

登録 : 2013.11.06 19:26修正 : 2013.11.07 00:41
ユ・スンヒ議員 "国家が性売買を容認・管理した証拠"
 6日、国会で開かれた女性家族委員会国政監査で、朴正熙前大統領の直筆サインがされた‘基地村女性浄化対策’文書が公開された。(写真参照)当時、淪落行為防止法によって厳格に禁止されていた性売買を国家が容認し管理したという証拠だが、女性部は実体把握もできていないことが明らかになった。 基地村被害女性は国家政策のために被害を被ったとし、国家を相手に損害賠償訴訟を準備していることが明らかになった。

http://japan.hani.co.kr/arti/politics/15985.html
http://d.hatena.ne.jp/scopedog/20131110/1384094199

基地村慰安婦と日本軍慰安婦の共通点と相違点

さて、普段は日本軍慰安婦を「奴隷ではない」と正当化したり、他でもあったと相対化・矮小化したりする論者が韓国を攻撃できると踏んだ途端、基地村慰安婦は性奴隷だと喚き散らしはじめます。まあ、基地村慰安婦を性奴隷と評価するのは間違いではありませんが、その手の論者は日本軍慰安婦も性奴隷であることについては口をつぐむことが多いんですよね。こういう論者と何か有意義なやり取りが出来る可能性は砂粒ほどもないので無視することにして、その上で基地村慰安婦と日本軍慰安婦の共通点と相違点について検討することは問題の理解の上で重要であるのみならず、訴訟の行方について予測し、韓国政府の理不尽な反論に対して備えると共に、韓国政府の反論を嫌韓バカが日本軍慰安婦ら被害者のセカンドレイプに利用することを抑止する上で重要だと思います。

共通点に関しては、ハンギョレ記事にうまくまとめられています。

 日本軍慰安婦制度は戦闘力を最大化するには戦場の兵士たちがセックスを楽しむのは良いが、性病による戦闘力損失を防ぐためにきれいな性を供給するという国家管理性売買システムだった。 この点で基地村浄化運動は日本軍慰安婦制度と恐ろしく似ていた。 日本軍慰安婦制度は人間が作り出した最も野蛮な制度だが、この制度を作った者は野蛮人ではなく大日本帝国の最も優秀な息子らだった。 基地村浄化運動を立案した者も韓国と米国のエリート官僚らだった。 大日本帝国の最も優秀な息子らも、自由と人権という普遍的価値を守るために日本と戦ったという偉大な米国のずば抜けた息子らも、日本から米国に主人が変わっても何変わることなく常勝疾走した植民地朝鮮の秀才らも慰安婦の人権のようなささいな、もしかしたら初めから存在しなかったものなどを無視したのは同じだった。

http://japan.hani.co.kr/arti/politics/13448.html

つまり両者とも国家関与の人権侵害であるということです。言われるまでもなく当然のことです。

相違点については、植民地支配や民族差別の視点でyasugoro_2012さんが指摘していますので、それとは別の論点で述べておきます。
日本軍慰安婦も基地村慰安婦も軍事力維持を目的とした性売買強制システムですが、これを運用する国家がどのように体裁をつくろったかと言う点で相違点があります。もちろん、この相違点は人権侵害の程度を左右するものではなく、残虐性を評価する上では無視してもいい論点ですが、裁判において為されるであろう政府側の反論の形式を左右するという意味では重要だと思います。

日本軍政府が運用した性売買強制システムである慰安婦制度は言うまでもなく公的組織が胸を張って公表できるものではありませんので、原則として特に内地に対して隠そうと努めました。そのため運用された当時において国家関与での募集・管理が公にされることはなく、兵士も銃後社会もある程度はわかっていたでしょうが暗黙の了解に留まりました。その結果、戦後になって慰安婦問題が表面化した当初、日本政府は「政府は関与していない」と白を切ることができたわけです。そしてもう一つ、国家関与が暗黙下であったことによる大きな影響があり、それは監視機能の不在、すなわち表面上は国家関与ではない体面を取っていたが故に、慰安婦の保護がおろそかになり、慰安所慰安婦の増加に歯止めがかからなくなった点です*1

これに対して韓国政府が運用した性売買強制システムである基地村は、平時*2の国内で運用されたため、暗黙の了解で知らぬ顔をすることが難しかったと言えます。国家管理であることを隠せないのであればどうするか、それが、売春を根絶するための“経過措置”として売春婦一箇所に集めて管理し、徐々に更生させるため、という理屈で集娼地域を作る、という判断でした。日本で1958年まで運用された赤線地区と同じ理屈と言っていいでしょう。
日本で売春防止法が施行された3年後の1961年、韓国政府は淪落行為防止法を公布し売春を禁止する一方で同年に観光事業振興法を制定しています。翌1962年に、私娼根絶が困難であること、性売買女性の救済(悪徳抱主の搾取からの保護、貯蓄誘導、就業補導)といった名目で性売買女性を特定淪落地域という赤線地域に集めて基地村慰安婦という性売買強制システムを完成させます*3。この売春婦救済という名目を掲げた点は、日本軍慰安婦制度と大きく異なります。そしてその点が裁判での韓国政府による反論で用いられる可能性が高いと思われます。

裁判で予測される韓国政府側の反論

国家により運営された性売買強制システムという点で日本軍慰安婦も基地村慰安婦も同じ人権問題であるわけですが、上で述べたような違いがあり、韓国政府が裁判で反論するとすれば、基地村は売春婦救済という名目を掲げていた点を必ず主張するでしょう。基地村の待遇改善(水道設備など)や教育なども“彼女らのためだった”と主張するでしょう。それが名目に過ぎず、実態が国家による強制売春であることは、日本軍慰安婦問題が国家による強制売春であることを理解している人には容易に理解できるでしょう。
ですが、それを裁判において法的に証明するのはかなり困難であろうことも事実です。ちなみにこの場合の基地村慰安婦問題の構造は、日中戦争時の日本軍による中国でのアヘン政策にも似ています。日本軍は、アヘン撲滅とアヘン患者救済を掲げながら、アヘンを大量に蔓延させたわけで、構造としては基地村慰安婦と相似であると言えるでしょう。

さて、裁判において韓国政府の責任を問うには訴える側の法的技術以上に、世論が日本軍慰安婦と類似する基地村慰安婦に対して、それを運用した韓国政府の責任を問う声を上げることが効果的でしょう。世論の声が司法判断*4や韓国政府*5を動かす可能性は十分にあるでしょう。

その意味では日本の嫌韓バカが一緒になって騒ぐのも有意義かも知れませんね。


国家が自国の過去の政策に対し、謝罪するというのはそれほど珍しいわけじゃありません。
私が以前取り上げたイギリスでの児童移民などはその一つです。
「児童移民」問題に見る自国の黒歴史への向き合い方
「児童移民」に対するイギリス首相の公式謝罪

それ以外に日本でも、ハンセン病患者隔離政策について国が敗訴した結果、謝罪と補償に至っています。

基地村慰安婦に対しても韓国政府がこのような対応を取ることを願います。

補足

現在、基地村と呼ばれる場所で被害者となっているのは、フィリピン人女性など外国人女性。日本でのジャパゆきさん問題と似た構造があって今回の基地村慰安婦訴訟と直接関わりはないけど重要な人権問題です。日本も同様の問題を抱えているだけに注意が必要な事案。

 基地村で働く女性たちは主にフィリピン人女性だ。右の看板に見える「パパさん」は、タガログ語に混入した日本語だろうか?米兵相手の店でパパさんというのは、何か捩れていて面白い。
 女性たちはブローカー経由で入ってくる。来て見て「騙された」と思う人たちもいるだろう一方で、いわば「覚悟の上」で来ている人もいるのだろう。米兵とうまく結婚できれば”SOFA Dream”の実現ということもある。さらに米国に一緒に、ということもあり得る。それが、しかし、すべての基地村女性の願望ではないだろうね。

http://web.thu.edu.tw/mike/www/tour/korea2008/korea2008.html

*1:南方現地軍が慰安婦を呼び寄せようとしているのを中央がもう十分送ったはずだからと止めようとした記録があります。呼び寄せられないのなら現地女性で、というのが現地部隊の当然の対応になったのは想像に難くありません。

*2:朝鮮戦争休戦後の休戦状態ですが、戦闘が起きていない状態として平時と表現します。

*3:「日本軍「慰安婦」と米軍基地村の「洋公主」」www.ritsumei.ac.jp/acd/re/k-rsc/lcs/.../pdf.../RitsIILCS_23.2LEE%20Na.pdf

*4:世間一般の目線で見ても明らかに“売春婦救済”というのが名目だけで事実上の強制売春であったと司法が理解すれば、当然判断にも影響するでしょう。

*5:世論の声が強ければ、無理筋の反論を諦め和解を模索するようになる可能性は高いと言えます。