百田尚樹氏の違法行為についての報道

2014年7月22日のNHK経営委員会で百田尚樹氏が番組に対して違法に干渉した事件についてですが、朝日新聞が7月25日朝に報じ、日経新聞毎日新聞がそれに追随するように7月25日中に報じています。

百田氏の経営委員会での言動が放送法に抵触することを明確に報じているのは朝日新聞です。

百田氏、NHK番組の強制連行発言に意見 放送法抵触か

後藤洋平、中島耕太郎
2014年7月25日06時58分
 NHKの経営委員で作家の百田尚樹氏が、22日にあった経営委員会で、ニュース番組「ニュースウオッチ9」の大越健介キャスターが「在日コリアン1世は強制連行で苦労した」という趣旨の発言をしたことについて、異議を唱えていたことが関係者への取材で分かった。放送法は委員の個別番組への干渉を禁じていて、同法に抵触する恐れがある。
 百田氏が問題視したのは17日放送の番組。在日コリアン3世の結婚観の変化についてのリポートが放送された際、終了間際に大越キャスターが「在日コリアン1世の方たちというのは、1910年の韓国併合後に強制的に連れてこられたり、職を求めて移り住んできた人たちで、大変な苦労を重ねて生活の基盤を築いてきたという経緯があります」と発言した。
 百田氏は経営委に同席した放送担当の理事ら執行部に対し、「在日韓国・朝鮮人を日本が強制連行したと言っていいのか。間違いではないか」「日韓併合後に強制連行は無かった。NHKとして検証したのか」などと問いただしたという。執行部側は「強制連行もあれば、自分の意思で来日した人もいるという趣旨で発言したものだと思う」などと説明した。
 ただ、放送法は第3条で「放送番組は(中略)何人からも干渉され、又(また)は規律されることがない」と定めた上で、第32条で経営委員の権限について「委員は、個別の放送番組の編集について、第3条の規定に抵触する行為をしてはならない」と定めている。
 このため、経営委の議事進行を務めた上村達男・委員長代行がこれらの条文を読み上げたうえで、「個別の番組への意見や注文なら問題になる。番組の感想ということでいいか」と伝えたところ、百田氏も発言をやめたという。
 百田氏は自身のツイッターに「(22日)午後、NHK経営会議。ここでは書けないが、あることで一部の理事と論争」と記した。朝日新聞は百田氏本人に取材を申し入れたが、24日夜までに返答がなかった。(後藤洋平、中島耕太郎)
     ◇
 《須藤春夫・法政大名誉教授(メディア論)の話》 発言が事実なら明白な放送法違反だ。執行部が説明したのも適切ではなく、法律違反を指摘すべきだった。経営委員は経営の基本方針に関わる事柄が仕事で、編集の独立性を尊重することが求められている。百田氏はこれまでも講演会などで政治的発言を繰り返してきたが、本音をあらわにした印象だ。職責の自覚がなく、適性を疑う。任命した首相や同意した国会の責任も問われる。

http://www.asahi.com/articles/ASG7R6J0BG7RUCVL01H.html

須藤名誉教授の発言を引く形ではありますが「発言が事実なら明白な放送法違反」と記載しています。朝日記事としても百田氏の言動を「意見」とみなしており、百田氏の言動が違法行為であるという認識で書かれています。

毎日新聞は違法と明確に指摘してはいないものの、「強く批判」と表現し、やはり百田発言の違法性を示唆しています。

百田尚樹氏:強制連行説明でNHK番組を批判

毎日新聞 2014年07月25日 20時31分(最終更新 07月25日 21時03分)
 NHK経営委員で作家の百田尚樹氏が、NHKのニュース番組でキャスターが、在日コリアン1世について「1910年の韓国併合後に強制的に連れてこられた人もいる」と説明したことを「事実誤認だ」として22日の経営委員会で強く批判していたことが25日、関係者の話で分かった。
 百田氏が批判したのは、今月17日放送の「ニュースウオッチ9」での大越健介キャスターの発言。在日コリアン3世の結婚観を取り上げた後、大越キャスターは「在日コリアンの1世の方たちというのは、1910年の韓国併合後に強制的に連れてこられたり、職を求めて移り住んできた人たちで、大変な苦労を重ねて、生活の基盤を築いてきた」とコメントした。
 委員会の出席者によると百田氏は、後日公表される議事録には記載しないよう求めた上で「韓国併合後に強制連行はなかった」などと発言した。放送法は経営委員に対し、個別の番組への干渉を禁じているため、上村達男委員長代行は放送法の条文を読み上げた上で「発言は単なる感想ですよね」と確認したという。
 百田氏はこれまでにも講演などで「南京大虐殺はなかった」などの発言を繰り返している。【望月麻紀】

http://mainichi.jp/select/news/20140726k0000m040050000c.html

「百田氏は、後日公表される議事録には記載しないよう求めた」という部分から、百田氏が隠蔽を図ったとも取れ、悪質性が窺えます。


日経新聞は「批判」「批判的な意見」「異議を申し立て」と表現しており、これも百田発言の違法性を示唆していると言えるでしょう。

百田NHK委員、報道番組を批判 在日コリアン巡り

2014/7/25付
情報元 日本経済新聞 夕刊
 NHK経営委員で作家の百田尚樹氏が22日の経営委員会で、同局のニュース番組でキャスターが「在日コリアン1世は強制連行で苦労した」などと発言したことに対し、批判的な意見を述べていたことが25日、関係者の話で分かった。
 17日放送の「ニュースウオッチ9」で、在日コリアン3世の結婚観などを取り上げた。大越健介キャスターが「在日コリアン1世の方たちというのは、1910年の韓国併合後に強制的に連れてこられたり、職を求めて移り住んできたりした人たちで、大変な苦労を重ねて生活の基盤を築いてきた」とコメントした。
 百田氏は経営委で「日韓併合直後から強制連行があったように受け取られかねない」などと異議を申し立て、経営委の上村達男委員長代行が「委員による個別の番組への干渉は放送法で禁じられている。一般的な感想ということですね」と指摘したという。

http://www.nikkei.com/article/DGKDZO74729370V20C14A7CR0000/

東京新聞は共同配信で「批判」と表現し、毎日、日経と同じような扱いです。

百田氏、NHKの報道番組を批判 経営委員会で

2014年7月25日 12時56分
 NHK経営委員で作家の百田尚樹氏が22日の経営委員会で、同局のニュース番組でキャスターが「在日コリアン1世は強制連行で苦労した」などと発言したことに対し、批判的な意見を述べていたことが25日、関係者の話で分かった。
 百田氏が問題視したのは、17日放送の「ニュースウオッチ9」。在日コリアン3世の結婚観などを取り上げた後、大越健介キャスターが「在日コリアン1世の方たちというのは、1910年の韓国併合後に強制的に連れてこられたり、職を求めて移り住んできた人たちで、大変な苦労を重ねて生活の基盤を築いてきた」とコメントした。
(共同)

http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2014072501000990.html

読売新聞はWEB上では関連記事が見当たりませんでした*1
産経新聞は当然のように、NHK経営委員で極右の百田尚樹氏の違法行為を擁護する論陣を張っています。

違法行為を擁護する和田政宗参院議員

産経新聞自民党は百田氏の違法行為を擁護しているようですが、みんなの党も違法行為を擁護する方針のようですね。日本の政党は法律守らない連中ばっかりです。
和田政宗参院議員が主張している違法行為擁護の論陣ですが、これがバカっぽくて笑えます。これが日本を動かしている政治家であることを考えると笑いも引きつってきますが。

 百田氏の発言は、ニュースウオッチ9での大越キャスターの在日韓国朝鮮人の“強制連行”発言を受けてのものですが、朝日新聞によると、百田氏は「在日韓国・朝鮮人を日本が強制連行したと言っていいのか。間違いではないか」「日韓併合後に強制連行は無かった。NHKとして検証したのか」などと問いただしたということで、朝日新聞は「放送法は委員の個別番組への干渉を禁じていて、同法に抵触する恐れがある」と記事で指摘しています。
 しかし、朝日新聞の記事を読む限り、百田氏の発言は「干渉」ではなく「質問」にあたります。

http://blogos.com/article/91247/

朝日新聞の記事を読む限り、百田氏の発言は「質問」などではありません。
日韓併合後に強制連行は無かった。」と言って「NHKとして検証したのか」と続いている以上、“検証したら「日韓併合後に強制連行は無かった。」という結論になるはずだ”という含意があるのは自明です。経営委員という立場でこのような発言をすれば、番組作成側に対して干渉になるのはバカでも理解できる話です。きっと和田議員はバカ以下なのでしょう。

 これを朝日新聞は“放送法に抵触の恐れ”と指摘しますが、「経営委員が番組に意見や感想を言うのは当然である」と、経営委員会もNHKも同じ認識を持っています。これは、過去の経営委員会の議事録で明らかです。

http://blogos.com/article/91247/

これも擁護ありきのデタラメですね。「経営委員会もNHKも同じ認識を持って」いるのなら、「経営委の議事進行を務めた上村達男・委員長代行がこれらの条文を読み上げたうえで、「個別の番組への意見や注文なら問題になる。番組の感想ということでいいか」と伝え」るはずがありません。

 朝日新聞の指摘に則れば、放送後の番組に経営委員が意見を言えば放送法に抵触する恐れがあり、例えば極端に右の番組が作られた際にも経営委員は何も意見を言えないということになります。

http://blogos.com/article/91247/

和田議員はドヤ顔で言ってますが、「極端に右の番組が作られた際にも経営委員は何も意見を言えないということになります」って当たり前です。安倍政権を称揚したり慰安婦問題や南京事件を否定するような極端に右の番組が作られた際でも、その番組に対して意見を言う権限は経営委員にはありません。経営委員にはそんなことは期待されていませんし、権限もありません。議員のくせに違法行為を教唆するような記事を書くとはどういう了見なのでしょうか?

経営委員会の権限は放送法第29条にあるとおりで、せいぜい「チ 番組基準及び放送番組の編集に関する基本計画」*2の議決で意思表示できるのみです。委員の権限は第32条で制限されています。

(委員の権限等)
32条 委員は、この法律又はこの法律に基づく命令に別段の定めがある場合を除き、個別の放送番組の編集その他の協会の業務を執行することができない。
2 委員は、個別の放送番組の編集について、第3条の規定に抵触する行為をしてはならない。

http://www.houko.com/00/01/S25/132.HTM

和田議員は以下のように述べていますが、お前こそ放送法を読んだのか、と言いたいですね。

 記事を書いた記者は、過去の経営委員会の議事録をしっかり読んだのでしょうか。

http://blogos.com/article/91247/

最後にこう書かれています。

 繰り返しますが、正しい認識に基づかないこのような記事は言葉狩りに近いもので、メディアの独立性を報道機関自らが脅かすものになりかねません。

http://blogos.com/article/91247/

どう見ても、この和田議員の記事こそ、政治家がメディアに圧力をかけてメディアの独立性を潰そうとしている元凶でしょう。

違法行為を犯した経営委員は?

放送法第36条には以下の条文があります。

第36条 内閣総理大臣は、委員が心身の故障のため職務の執行ができないと認めるとき、又は委員に職務上の義務違反その他委員たるに適しない非行があると認めるときは、両議院の同意を得て、これを罷免することができる。この場合において、各議院は、その院の定めるところにより、当該委員に弁明の機会を与えなければならない。

http://www.houko.com/00/01/S25/132.HTM

今回明らかに百田氏は「職務上の義務違反」を犯したわけですが(まあ、それ以前に「委員たるに適しない非行」を繰り返していますが)、首相と国会の了解が無ければ罷免できません。百田氏を送り込んだ安倍首相が、百田氏を罷免することなどありえませんから、百田氏の違法行為は結局黙認され、これからも繰り返されることでしょうね。
当然、それはNHKの番組作成にあたっての圧力となり、現場は安倍政権の圧力の下、それに阿った放送しかしなくなるでしょう。

NHKのメディアとしての独立性は、こうして潰されていくことでしょうね。安倍首相や和田議員のようなメディアを殺す政治家が跋扈している現状ではどうしようもありませんが。

*1:見落としかもしれませんが

*2:http://www.houko.com/00/01/S25/132.HTM