集団的自衛権行使容認に対する見方の例

台湾政府は安倍政権の集団的自衛権行使容認に対して批判的な態度を示しています。

台湾で誤解氾濫、支持広がらず 集団的自衛権「アジアの安全を破壊」

2014.7.11 08:26
 【台北=田中靖人】日本政府が集団的自衛権の行使容認へ憲法解釈を変更したことに対し、台湾では当局や「知日派有識者の間でも支持が広がっていない。日本の新方針は「台湾有事」に来援する米軍への効果的支援を可能にし台湾の安全にも寄与するとみられるが、歓迎の声は小さい。閣議決定への誤解に加え、日中間の対立に巻き込まれる懸念や安倍政権への偏見が背景にありそうだ。
 「集団的自衛権はアジアの安全を破壊する」「反動安倍政権を打倒せよ」
 台北市内にある日本の対台湾交流窓口機関、交流協会台北事務所(大使館に相当)前で7日、反日デモ隊約100人が声を上げた。一部は安倍晋三首相の肖像を破り捨て、火を付けた。

http://sankei.jp.msn.com/world/news/140711/chn14071108260003-n1.htm

産経新聞は安倍政権と癒着していますから、こういう批判が韓国で起これば“韓国人の異常な反日”のせいだと決め付け、台湾で起これば「誤解」「偏見」と決め付けます。それ自体は産経新聞の右翼的論調を反映しているにすぎずいつも通りですが、「日本の新方針は「台湾有事」に来援する米軍への効果的支援を可能にし台湾の安全にも寄与する」と主張するあたりはなかなか面白いところです。
そもそも「「台湾有事」に来援する米軍への効果的支援」って一体なんですかね?
台湾有事に米軍が出てくるなら、日本軍の支援なんて必要なさそうですが?日本軍が米軍を護衛するということですかね?しかし台湾有事に介入する米軍を護衛するなんて説明、安倍政権はしてましたっけ?15事例中に「周辺有事の際の米艦防護」はありましたが、説明は「邦人輸送する米艦の護衛」とか現実性の薄いものばかりだったように思いますが。しかし「邦人輸送する米艦の護衛」が「台湾の安全にも寄与する」とは思えません。「台湾の安全にも寄与する」とすれば、日本軍が直接台湾有事に介入するか、軍事介入する米軍を護衛するなどして一体化するかした場合です。
しかし安倍政権の詐術をそのまま垂れ流すだけの煽動メディアである産経新聞としては、そのような本音を開陳するわけにはいきません。

◆「抑止力」の強化
 安倍晋三政権が7月1日に閣議決定した集団的自衛権の行使容認に向けた憲法解釈見直しの狙いは、一方的に軍事的緊張を高める中国や北朝鮮の動向をにらみ、軍事衝突に巻き込まれないための「抑止力」の強化だ。
 同盟国の米国をはじめオーストラリアやインド、フィリピンなど安全保障上の利害を共有する友好国と軍事的関係を強化し、アジア太平洋地域の平和と安定を高めることを目指している。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140804-00000510-san-pol

そのため、上記引用した産経記事と「日本の新方針は「台湾有事」に来援する米軍への効果的支援を可能にし台湾の安全にも寄与する」という記事は全く矛盾してしまうわけです。

言うまでもなく7月1日の閣議決定は、台湾有事の際の日本軍介入を可能にしたもので、安倍政権と御用メディアは国内に向けてはそうではないかのように虚言を弄していますが、台湾の反中派から見ればそうは解釈されません。

日本の集団的自衛権解禁、台湾が攻撃されれば自衛隊が助けにやってくる―台湾メディア

2014年7月2日
 台湾メディア・自由時報は2日、日本政府が1日に憲法解釈変更による集団的自衛権解禁を閣議決定したことについて、その背景を紹介するとともに、台湾が攻撃されたばあいに日本の兵士が武力行使による支援を行うことになるとする記事を掲載した。
 戦後日本は自らを「平和国家」と位置づけ、武力による国際紛争解決を放棄する憲法のもとで「専守防衛」を基本方針としてきた。憲法で認められていたのは、自国が攻撃されたときのみに武力の発動ができる「個別自衛権」だった。
 「個別自衛権」では、日米両国の艦船が公海上を並行していたばあい、軍事同盟国である米国の艦船が砲撃を受けても日本は武力行使することができない。日本船が砲撃されたばあいには、米国船が同盟国として日本を保護することになるため「いったい何の軍事同盟だ」との疑問があった。
 さらに、冷戦終結後の中国台頭に伴う領土問題の緊迫化、北朝鮮核武装など地域の安全を取り巻く環境が大きく変化したことで日本が脅威を感じたことも、集団的自衛権解禁を決定する背景となった。
 集団的自衛権の解禁による周辺国への影響について、元交流協会台北事務所長(日本大使に相当)の池田維氏は最も簡単な例として台湾を取りあげて説明。日本の存亡に大きくかかわり、数万人の日本人が住む台湾は「日本と密接な関係」にあることから、集団的自衛権が解禁されれば、台湾が武力攻撃を受けた際に日本政府の判断により自衛隊武力行使をすることができるとした。
 世界の安全保障状況に大きな変化が生じているなか、従来の「専守防衛」や「一国平和主義」ではもはや日本の安全を確保することができない、というのが集団的自衛権解禁賛成者の考え方だ。池田氏も「戦争を助長するということでは絶対になく、侵略者に対する抑制力を高めるためのものだ」との見解を示した。

http://www.xinhua.jp/socioeconomy/photonews/387751/

このように台湾メディアが「台湾が攻撃されたばあいに日本の兵士が武力行使による支援を行うことになる」と報道しているわけです。中国との距離を上手く維持して事実上の独立を保ちつつ経済的な発展を望む台湾政府としては集団的自衛権行使容認は台湾を日中対立に巻き込む迷惑この上ない政策ですが、台湾国内の反中派にとっては歓迎すべきことなのは当然です。台湾国内の反中派は野党の無責任さもあってか「台湾が攻撃されたばあいに日本の兵士が武力行使による支援を行うこと」と報道していますが、これが歓迎する周辺国の認識と言ってもいいでしょう。
フィリピンもベトナムも反中傾向の強い勢力集団的自衛権行使容認を歓迎しているのは、有事には日本軍が自国側で軍事介入すると認識しているからに他なりません。

日本国内では有権者を騙すために右翼メディアらが必死に否定しようとしているため、“なぜ海外が歓迎しているのか”についてはほとんどまともな分析をしません。困ったものです。

集団的自衛権行使容認が抑止力を高めるという主張

まあ、軍事圧力を強化することにより抑止力が高まる、というのはそれなりに説得力のある主張ではあるのですが、そういう論者は北朝鮮が核ミサイル開発を行うことにも理解を示しているのでしょうか?それにそもそも集団的自衛権行使容認に賛成する論者は中国の軍事圧力を感じてきたはずだと思いますが、日本が軍事圧力を強化することにより中国側も圧力を強化するという競争になるとは考えないのでしょうか?
どうも相互に相手に対する抑止力を強化しあうことが互いのコントロール能力を超えた事態にまで進展するという想像力はなさそうですね。