グレンデールの慰安婦碑設置には日系団体も協力しているんですけどね

産経古森氏の妄言に自称保守が以下のようなブコメをつけています。

the_sun_also_rises 慰安婦像は日韓双方の憎悪の象徴になりつつある。この像が象徴するのは現在の日韓双方のナショナリズムのぶつかり合いでしかない。本当は日系韓国系両方の米国人の協力によって像は建てられるべきであった。 2014/09/10

http://b.hatena.ne.jp/entry/224779349/comment/the_sun_also_rises

いや、そもそもグレンデール慰安婦碑設置には日系団体も協力しているんですが。
グレンデールの慰安婦像碑文と慰安婦像設置を支持する日系団体
米国内の日韓系双方の住民が協力して設置した慰安婦像に対して、在米右翼日本人が騒動を起こして、日本政府と日本国内右翼がそれに便乗しているという構図なんですけどね。
慰安婦像を「日韓双方の憎悪の象徴」にしたのは誰か、感情的にならずに冷静に考えてほしいものです。

古森義久氏のデタラメ

米国の慰安婦像撤去に向けて戦う日本人 これほどまでに大きい朝日新聞の虚報の罪
純真無垢なthe_sun_also_rises氏を騙した罪深い古森氏の記事ですが、このロジックがもう滅茶苦茶です。

事前知識として、グレンデール慰安婦像の併置されていう碑文を見ておきましょう。

Peace Monument

In memory of more than 200,000 Asian and Dutch women who were removed from their home in Korea, China, Taiwan, Japan, the Philippines, Thailand,Vietnam, Malaysia, East Timor and Indonesia, to be coerced into sexual slavery by the Imperial Armed Force of Japan between 1932 and 1945.
And in celebration of proclamation of "Comfort Women Day" by the City of Glendale on July 30, 2012, and of passing of House Resolution 121 by the United States Congress on July 30, 2007, urging the Japanese Government to accept historical responsibility for these crimes.
It is our sincere hope that these unconscionable violations of human rights shall never recur.
July 30, 2013

(訳)
1932年から1945年の間に、大日本帝国軍によって性奴隷となることを強要された20万人以上のアジアとオランダの女性(朝鮮、中国、台湾、日本、フィリピン、タイ、ベトナム、マレーシア、東チモールインドネシアから連れられてきた)を記念して。
そして、2007年7月30日に可決された日本政府にこれらの犯罪行為に対する歴史的な責任を認めるよう求める下院決議に鑑み、2012年7月30日にグレンデール市が「慰安婦の日」を制定したことを祝して。
このような信じがたい人権侵害が二度と起こらないことを我々は真摯に望む。
2013年7月30日

http://www.ncrr-la.org/news/comfortwomenmonument/comfortwomenmonument.html

見ての通り、朝日新聞のことも吉田証言のことも一言も書いていません。「coerced into sexual slavery by the Imperial Armed Force of Japan」とありますが、日本軍が直接に暴力的連行をしたというより、日本軍により性奴隷状態を強要された、つまり連行の形態など問題にしておらず、日本軍相手の売春を強要されたことを問題としている内容です。吉田清治証言をどう捻ったところで、この碑文の内容には影響しないわけです。
ちなみに2007年のアメリカ下院決議では以下のように書かれています。

Expressing the sense of the House of Representatives that the Government of Japan should formally acknowledge, apologize, and accept historical responsibility in a clear and unequivocal manner for its Imperial Armed Force's coercion of young women into sexual slavery, known to the world as `comfort women', during its colonial and wartime occupation of Asia and the Pacific Islands from the 1930s through the duration of World War II.

http://ameblo.jp/scopedog/entry-10031011920.html

「Imperial Armed Force's coercion of young women into sexual slavery」とあるように、グレンデールの碑文と同じ内容と言えます。

「ここでの日本非難も、朝日新聞が広め続けた慰安婦についての虚報に依拠する部分が大きい」?

2013年7月、米国カリフォルニア州グレンデール市に慰安婦像が建てられた。その撤去を求める地元の日本人代表が、第一審で棄却の判決を下されたのにもめげず、2014年9月3日に高等裁判所に上訴した。
 日本や日本人への不当な糾弾に対する抗議であり、日本人として国を挙げて支援を送りたいような訴訟である。ここでの日本非難も、朝日新聞が広め続けた慰安婦についての虚報に依拠する部分が大きい。よってこの日本人代表たちも朝日新聞の虚報の犠牲者と言えるだろう。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41696

とか何とか、古森氏は言っていますが、碑文そのものをどう読んでも朝日新聞にはつながりません。彼の脳内ではどうやってつながっているのか、その論旨を追ってみましょう。

論旨1.古「市当局は外交に踏み込んだ」→裁「市の動きは連邦政府の方針と一致」→古「行政府と立法府を混同するのか!」

 カリフォルニア連邦地裁に2014年2月に起こしたこの訴訟では、目良氏ら原告側は「慰安婦問題は日本と韓国の間の外交課題であり、米側での外交は連邦政府の主管なのに、グレンデール市がそこに踏みこんだのは憲法違反だ」としていた。
(略)
 同判決はさらに「グレンデール市当局が仮に外交問題の分野に立ち入ったとしても、その動きは連邦政府の方針と合致している」と述べた。その「連邦政府の方針」としては、2007年7月の米下院の慰安婦問題での日本糾弾決議を挙げていた。行政府である政府と、立法府である議会とはもちろん別個の組織であるはずだ。だが、この判決は両者を混同するような粗雑さだった。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41696

この理屈についていける人がいるのかどうかわかりませんが、元々、原告の主張は、グレンデール市当局が連邦政府が主管する外交に踏み込んでいる、というものでした。
これに対して裁判所は「グレンデール市当局が仮に外交問題の分野に立ち入ったとしても、その動きは連邦政府の方針と合致している」と述べています。要するに、連邦政府の方針と合致したことを市当局がやって何か問題あるのか?ということで当然という他ありません。
すると古森氏は「この判決は両者を混同するような粗雑さだった」と話をすりかえて因縁をつける、という流れです。多分、古森氏の脳内では、2007年の下院決議は下院が勝手に決議しただけで、連邦政府の方針とは合致していないことになっているのでしょう。4月の米韓首脳会談でオバマ大統領が「歴史を振り返るなら、実に甚だしい人権侵害と考えなければならない」と発言したことは既に忘れ去っているようです*1

論旨2.古「慰安婦像の碑文に「強制連行があった」と書いてある!」(註:書いてない)

そして、論理が飛躍し、なぜかグレンデール市も裁判所も朝日新聞に依拠していることにされています。

米国では朝日の虚報が事実と認識されている

 この訴訟の流れを見ても、朝日新聞が広め、いまや誤報だと認めた「日本軍が女性たちを強制連行した」という虚報に、グレンデール市も一審判決を下した連邦地方裁判所も依拠していることが鮮明となった。
 そもそも慰安婦像の碑文に「強制連行があった」という虚構が刻まれているのだ。だから原告側は間違いなく朝日新聞誤報の犠牲者であり、被害者だと言える。日本が朝日新聞慰安婦問題報道で被った損失は、ことほどさように巨大なのである。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41696

この訴訟の流れのどこを見れば、そんな結論に達するのかさっぱりわかりません。
先に示したグレンデール慰安婦像碑文を見ても「強制連行があった」などとは書いてありません。書かれているのは「coerced into sexual slavery」です。
古森氏は、碑文に「強制連行があった」と書かれているとでっち上げ、強制連行の証拠は吉田証言以外にないと決め付け、吉田証言を報道したの朝日新聞以外にないという前提で、「原告側は間違いなく朝日新聞誤報の犠牲者」だという誤った結論に達したのでしょう。というより結論から無理やり逆算しただけでしょうが。

 グレンデール市と地方裁判所は、米国連邦議会下院本会議が2007年7月に採択した慰安婦決議をそのまま受け入れていた。「日本軍が組織的に20万人の女性を強制連行した」とする決議である。
 だが、その決議は吉田清治証言に依拠していたのだ。いまや吉田証言は虚構だったことがいやというほど証明されている。朝日新聞は虚偽の吉田証言を事実として長年にわたって繰り返し報道してきた。朝日新聞の重大な責任は明白である。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41696

2007年の下院決議も「吉田清治証言に依拠していた」と根拠もなく決め付けています。ここまで平気で嘘が言える古森氏もある意味すごいと思います。普通の人間なら良心が痛んでここまでは言えないでしょうに。

補足1.爬虫類に失礼なフィングルトン氏の記事

古森氏は他にこんなことを書いています。

 フィングルトン氏の記事は、「メイヤー・ブラウン」事務所に対して「(ユダヤ民族大虐殺の)ホロコーストを否定するような悪漢どもの弁護はすぐ止めよ」と迫っていた。この記事は安倍晋三首相についても「爬虫類のような卑劣な人物」とけなし、ジャーナリズムの範囲を超えるほどの憎悪の言葉をぶつけていた。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41696

いやあ、民主政権時の産経新聞ほど「ジャーナリズムの範囲を超えるほどの憎悪の言葉をぶつけていた」新聞はないと思いますけどねぇ。

 同氏の慰安婦問題に対する認識は「日本軍が20万人の女性を強制連行して、性的奴隷にした」という前提に立っている。しかも、その日本軍の行動がナチスユダヤ民族虐殺と同等だというのである。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41696

「強制連行」してなくとも性的奴隷にしただけで十分に問題だと思うんですが、産経社内ではそうではないのでしょうか?

 ちなみにフィングルトン氏は、本来、経済記者である。1980年代の日本のバブル期には、日本が官民一体で世界経済の制覇を企てているという「陰謀説」ふうの記事や本を世に出していた。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41696

「「陰謀説」ふうの記事や本」は産経新聞でよく見かけるんですけどねぇ。

補足2.在米日本人はお前等だけじゃねえよ、と言いたい話

慰安婦像の存在は日本人の私たち住民にとって耐えがたい苦痛であり、その像建設の手続きにも問題が多いため、その撤去を求める」と主張する目良浩一氏ですが、在米日本人団体であるNCRRは、慰安婦像設置にも協力し、以下のように述べています。

The Nikkei for Civil Rights & Redress has supported and will continue to support the Korean Comfort Women’s demand for an apology and individual reparations from the Japanese Government and understands how important both the apology and reparations are. Japan has said that they settled all claims when they paid reparations as part of the peace treaties after the war, but these monies did not go to the Comfort Women. The United States also stated that they settled all claims with the Japanese American community with the Evacuation Claims Act of 1948 which paid individuals 10 cents on the dollar for loss of property but only if they had receipts. And most did not. Some say that Japan has paid reparations through the Asian Women’s Fund but only 285 women from South Korea, Taiwan and the Philippines have gotten money. Most consider it charity since the funds come, mainly, from private sources, and not a sincere acknowledgement of responsibility by the Japanese government. And although various Prime Ministers have expressed some apology, it has not been directly to the Comfort Women nor has it been strong enough to prevent other officials from denying the existence of the comfort women – some have even justified it. Obviously, much clearer action by the government and greater education is needed to make sure that this history is accurately told. An apology and monetary reparations to each person and an education fund would go a long way in making Japan’s stand on this issue crystal clear.

http://www.ncrr-la.org/news/comfortwomenmonument/comfortwomenmonument.html

ちなみに目良浩一氏は日本再生研究会という在米右翼団体の代表で*2、“普通の日本人”などではありません。