韓国側関係者が怒ったのは「日本政府が、新しい資料が出るたびに態度を変えたため」

朝日新聞の記事が、日韓関係を損ねたという主張が政府・メディアによってまかり通っていますが、1992年当時、NHKは以下のように報じています。

(514) 92.08.14 調査報告 アジアからの訴え〜問われる日本の戦後処理〜

https://www.nhk.or.jp/archives/nhk-special/catalogue/catalogue_92_all.html

韓国

(佐藤俊行)
日本と韓国の関係が真に友好的な関係になるのを阻害する要因の一つが従軍慰安婦問題です。
去年12月、三人の従軍慰安婦が東京で初めて訴訟を起こし、この問題が公のものとなりました。
韓国の関係者が怒るのは、最初、資料がないとして軍の関与を否定した日本政府が、新しい資料が出るたびに態度を変えたためです。
現在、日本政府は国の関与を認めてはいますが、動員にあたって強制を裏付ける資料は見つからなかったという立場を取っています。
韓国政府は先月、日本の資料と慰安婦の証言を基に中間報告を発表しましたが、動員は朝鮮総督府による強制的なものだったと、日本政府の主張に真っ向から反論しています。慰安婦問題は反文明的な蛮行だった、と公式文書には珍しい感情的な表現も目立ちました。

http://d.hatena.ne.jp/scopedog/20140504/1399218380

もちろん、番組中では吉田清治証言など重視されていません。
日本政府が1990年6月に軍の関与を否定する発言をし、その直後の1990年7月に挺対協の前身である挺身隊研究会が結成され、1990年12月にも日本政府は関与を否定し、問題が日韓両国で大きく取り上げられるようになっていきます。そして1991年8月に金学順さんが元慰安婦であると名乗り出て1991年12月には提訴に至ります。しかし提訴直後の12月7日、日本政府はまたも「政府が関与した証拠はない」と関与を否定、1992年1月に軍関与資料発見の報道が出るに及びようやく、日本政府は「旧日本軍が何らかの形で関与していたことは否定できない」と認めますが、秦郁彦氏や産経新聞による吉田証言否定キャンペーンにより、慰安婦問題を否認する動きが活発化し、その流れの中で、「関与はしたが強制連行はしていない」という1992年7月の加藤談話に至ります。これに対して、韓国政府は7月末に「事実上の強制連行があった」と反論しています*1
その2週間後に放映されたのが、上記のNHK特集です。

「韓国の関係者が怒るのは、最初、資料がないとして軍の関与を否定した日本政府が、新しい資料が出るたびに態度を変えたためです。」と評されるに十分な理由が日本政府の言動にあったわけです。
吉田証言とか朝日報道とか関係ありません。

ちなみに1968年時点では、日本政府は慰安婦動員にあたって「軍が相当な勧奨をしておったのではないかというふうに思われます」*2と認めています。にもかかわらず、都合が悪くなると日本政府は「関与していない」と逃げたわけですから、不信感を抱かれて当然としか言えません。

*1:参照「河野談話に至るまでの経緯について」http://d.hatena.ne.jp/scopedog/20140408/1396883009

*2:1968年4月26日衆議院社会労働委員会、厚生省実本博次援護局長発言