「言論の自由」を守るという「リベラル」な外交は有効か

この件。
<産経前支局長在宅起訴>日韓関係改善に冷水…与野党反発
事件そのものに対する考えは「秘密保護法廃案要求を足蹴にした安倍政権とは違う選択を求めたい」で述べたとおりです。
まあ、国内外から批判されるのは当然のことではあります。いかに下品なメディアであろうと事実上、政府が言論機関を弾圧するに等しい行為が批判に値しないわけもありません。
言論の自由を重んじる国際的な機関からも批判されているのも事実で、韓国政府の国際的なイメージを損ねることは間違いありませんん。

ただ残念ながら、国際的なイメージの低下など大して効果のあるものでないことも確かです。
実際、安倍政権が強行採決した秘密保護法に対しても、日本国内メディアのみならず国外からも多くの批判があがりました*1。ですが、国外からの批判はさざなみ程度に過ぎず、国内での批判も既に低調で、結局既成事実化してしまっています。

今回の韓国の措置に対する批判も、国外からの批判も日本以外では一過性に終わりそうに思えます。日本だけは執拗に批判し続けるでしょうが、それこそ慰安婦問題に関する韓国からの批判を無視し続けた日本のやり口を見る限り、韓国政府が日本からの批判を無視しても大したことにはなりそうに思えません。
報道や言論の自由という理念を使った国際的な圧力が功を奏するという期待は、国際関係論ではリベラリズムと言える考え方ですが、普段「リアリスト」を自称するような連中がこういう時にはリベラリスト的な発言をするというのは節操がないですね*2

韓国政府にしてみれば、国外からの「憂慮」や「懸念」など無視しても大したことはないと、リアリズム的に判断するかもしれません。実際、国外からの批判を無視している隣国があるわけですから。
それとも、醜聞ネタで起訴された産経新聞を守るために経済制裁や軍事的圧力をかけるほどの覚悟があるんでしょうか。そこまでの覚悟もなしに、中途半端な人権外交をするのは、「リベラルの妄想」と誰かが言ってたような事態を惹起するかもしれませんね。
今の安倍政権やその支持者だと、そっち方向に向いかねないという懸念はありますが。


<産経前支局長在宅起訴>日韓関係改善に冷水…与野党反発

毎日新聞 10月9日(木)21時56分配信
 ソウル中央地検が朴槿恵(パク・クネ)大統領の名誉を毀損(きそん)したとして産経新聞の加藤達也・前ソウル支局長(48)を情報通信網法違反(名誉毀損)で在宅起訴した問題で、外務省の伊原純一アジア大洋州局長は9日、韓国の金元辰(キム・ウォンジン)駐日公使を同省に呼び、「極めて遺憾で、事態を深く憂慮している」と申し入れた。政府は年内の日韓首脳会談の実現に向け、対立が前面に出る「抗議」の形式を避けたものの、与野党は反発を強めており、関係改善の動きにはブレーキがかかりそうだ。
 菅義偉官房長官は9日の記者会見で「日韓関係への影響と同時に世界の常識と大きくかけ離れている」と韓国の検察当局の動きを批判。一方で、政府が11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)に合わせた開催を探る安倍晋三首相と朴大統領との会談については「問題があるからこそ会うべきだという立場は変わらない」と述べた。
 日韓両国は8、9月に2カ月連続で外相会談を開催。9月には訪韓した森喜朗元首相が朴大統領に首相の親書を手渡すなど、関係改善の動きが進んでいた。一方で、日本側は韓国側に、加藤氏への捜査が両国関係に悪影響を与えるとの懸念を再三伝えた。それでも検察当局が在宅起訴に踏み切ったことについて、外務省幹部は9日、「司法の判断ならば打つ手がない」と落胆を隠さなかった。
 政府が韓国側への直接的な「抗議」を避け、「申し入れ」にとどめたのは、日本国内の「反韓感情」を刺激するのを避けるためだ。韓国外務省幹部も毎日新聞の取材に対し「司法の問題であり、韓日関係とは無関係と理解すべきだ」と沈静化を探る考えを示した。
 ただ、与野党内では韓国に「毅然(きぜん)とした対応を行うべきだ」との反発も強まる。自民党谷垣禎一幹事長は「日本の法制度からいうと、極めて違和感がある」と指摘し、民主党枝野幸男幹事長も「報道・表現の自由や日韓関係にとって遺憾だ」と述べた。
 加藤氏は9日夜、BSフジの番組に中継で出演し、「捜査着手から起訴に至るまで、検察当局は朴政権の顔色だけを見て動いていた印象だ」とソウル中央地検の対応を批判した。【福岡静哉】
 ◇韓国内、批判も
 【ソウル大貫智子】今回の問題で、韓国側は、「報道の自由侵害」を指摘する国内外の批判を考慮し、一時は早期終結を模索した。だが、最終的には「冒とく」を厳しく批判する朴槿恵(パク・クネ)大統領の意向をそんたくする検察が強硬手段をとらざるを得なくなった格好だ。ただ、韓国でも9日、起訴したことへの批判や外交的な影響を懸念する見方が出ており、朴政権の強権的なイメージが強まることになった。
 韓国検察当局は保守系市民団体からの告発を受け、産経新聞の加藤達也・前ソウル支局長(48)に対し、8月18日から計3回にわたり事情聴取した。捜査が2カ月に及んだのは、検察当局が青瓦台(大統領府)の意向を測りかねていたからとみられる。
 加藤氏のコラムは、産経新聞のウェブサイトに掲載された翌8月4日、韓国のネットニュース会社が無断で韓国語に翻訳して一気に広がった。同7日、青瓦台の尹斗鉉(ユン・ドゥヒョン)広報首席秘書官は韓国メディアに対し、「厳重に抗議する。民事・刑事上の責任を最後まで問う」と発言。加藤氏は早期に在宅起訴されるとの観測が広がった。
 しかし、日本新聞協会や国際ジャーナリスト団体「国境なき記者団」などが言論の自由の侵害や捜査を批判する見解を表明したほか、ソウル駐在の各国大使館も高い関心を示した。このため、政権が前面に立って司法手続きに介入することへの懸念も生じた模様で、青瓦台内では一時、加藤氏側が反省や謝罪の意思表示をすれば起訴を見送るとの案も検討された。ただ、加藤氏はこれを拒否。朴大統領が9月16日、「大統領を冒とくする発言も度を越している」と発言したことで、起訴は不可避と検察側が判断したとみられる。
 これに対し、韓国放送公社(KBS)は9日、「外交的な影響は不可避」と伝えた。保守系のTV朝鮮も、討論番組の複数の出席者が一斉に「起訴はやりすぎだ」と批判した。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20141009-00000112-mai-pol