南京事件での虐殺に関して蒋介石や唐生智にも責任があるとみなす論者は当然、東京大空襲に関して日本政府にも責任があるとみなしますよね?

「空襲は怖くない。逃げずに火を消せ」――戦時中の「防空法」と情報統制」という記事。
1945年3月10日の東京大空襲では10万人もの犠牲者を出していますが、こんな話があります。

防空法で犠牲拡大 空襲時「逃げずに消火」

 避難させていれば、助かった人もいたのではないか。東京大空襲の当時、警視総監だった坂信弥(のぶよし)は戦後、「わが生涯における最大の痛恨事」と空襲を振り返った。「東京大空襲・戦災誌」四巻(東京空襲を記録する会刊)に収録された「防火訓練がかえってわざわい−『私の履歴書』より−」と題した文章にこうある。「防火を放棄して逃げてくれればあれほどの死人は出なかっただろうに、長い間の防空訓練がかえってわざわいとなったのだ」 (奥野斐)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/feature/Postwar70th/dengon70th/CK2015030402000204.html

この坂信弥のエピソードは以前も取り上げました。東京新聞記事では批判的な記載はありませんが、私に言わせれば、法で禁止しておいて警視総監が「防火を放棄して逃げてくれればあれほどの死人は出なかっただろう」などと無責任極まりないと思いますね。ついでに言えば、この坂警視総監は鹿児島県警部長だった1936年に鹿屋基地航空隊用に慰安所を設置したり、警視総監に再任された戦後にはRAA設置を推進して貧しい日本人女性を米軍の性奴隷として差出したりしており、貧しい者・逃げようのない者を食い物にした卑劣な輩という印象しかないんですけどね、この人には。

ただ、防空法で禁止されず当局も避難を優先させていれば、「あれほどの死人は出なかっただろう」というのは正しいと思います。
3月10日の空襲の後も東京は何度か空襲に見舞われますが、500機以上のB29が投入された5月24・25日の空襲でも死者は数千人程度で抑えられ3月10日の空襲に比べて桁が一つ以上違います。
だからと言って、3月10日の空襲被害の責任の一部は日本政府にもあるのだから日本政府の責任も追及すべきだ、とアメリカ人から言われたら、ほとんどの日本人は不快に思うでしょう。命からがら生き残った生存者や犠牲者の縁者であれば、激怒しても当然です。
日本政府に責任があるとしても、それは日本人自らが追及することであって、加害者側から尊大な態度で指摘されるようなことではありません。

それがわからない人は、南京事件の責任は逃亡した蒋介石や唐生智にもあるのだからその責任も追及すべきだ、などと尊大な態度で言い放つわけです。
秦郁彦氏のように*1

*1:南京事件 増補版」P249参照