徴兵制のある国は基本的に憲法で明記している

リベラルが徴兵制に対する懸念を示すと必ず、徴兵制非合理論者が現れ、嘲笑するのが日本の定番になっています。
そしてなぜか、少なくない徴兵制非合理論者が、日本国憲法は徴兵制を禁止していると断言することを避ける傾向が強いですね。
例えばこいつ。

各国と比較すれば一目瞭然 「徴兵制」をめぐる議論はデタラメだらけだ

2015年06月29日(月) 高橋 洋一

民主党はなんと答えるのか

上に述べた本コラムでは、日本国憲法9条に相当する条文は、韓国、フィリピン、ドイツ、イタリアの憲法に盛り込まれていると指摘してきた。それらの国での徴兵制をみると、韓国、フィリピンでは行われ、ドイツ、イタリアでは行われていない。ただし、イタリアの徴兵制は2005年に停止され、ドイツも2011年から停止という立場だ。こうした意味で、徴兵制が憲法との関係で、現実には不必要であるが、制度として徴兵制が絶対にあり得ないとは、比較憲法の立場からは言いがたい。

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/43944

わかりにくい悪文ですが、要するに「韓国、フィリピン、ドイツ、イタリアの憲法」には日本国憲法9条と同様の平和条項があるが、それでも徴兵制が実施されているので、「制度として徴兵制が絶対にあり得ないとは、比較憲法の立場からは言いがたい」と日本国憲法が徴兵制を容認しているかのような主張です。
自民党の石破氏も、“徴兵制は必要ない”と主張する一方で、“日本国憲法は徴兵制を否定していない”とも主張し、憲法上、徴兵制は容認されているという立場を取っています。
安倍政権が推奨する集団的自衛権を合憲とする憲法学者3人は全て、徴兵制も合憲だと主張しているようです。
徴兵制を合憲とみなしている理由の主なものとしては、“兵役では苦役ではない”という集団的自衛権違憲ではないというの同様の詐術ですね。

しかし、上で引用した高橋洋一氏が上げた制度としての徴兵制が存在する「韓国、フィリピン、ドイツ、イタリア」ですが、これらはいずれも憲法で徴兵制の根拠となる条文が明記されています。

韓国憲法

第39条1 すベて国民は、法律が定めるところにより、国防の義務を負う。

http://www.geocities.jp/koreanlaws/kenpou.html

韓国では憲法39条1で、この「国防の義務」が徴兵制の根拠となっています。

フィリピン憲法

ARTICLE II
Section 4. The prime duty of the Government is to serve and protect the people. The Government may call upon the people to defend the State and, in the fulfillment thereof, all citizens may be required, under conditions provided by law, to render personal, military or civil service.

http://www.chanrobles.com/philsupremelaw2.html

フィリピンでは第2条 Section 4で、政府は国防のために国民に兵役を求めることが出来る、と明記されています。

イタリア憲法

Art. 52
The defence of the country is a sacred duty for every citizen.
Military service is obligatory within the limits and in the manner set by law. Its fulfilment shall not prejudice a citizen’s job, nor the exercise of political rights.
The organisation of the armed forces shall be based on the democratic spirit of the Republic.

http://www.senato.it/documenti/repository/istituzione/costituzione_inglese.pdf

イタリアでは第52条で、国防の義務を定め、兵役を義務としています。

ドイツ基本法

第12a条 [兵役義務と役務義務]
(1) 男子に対しては、満18歳から軍隊、連邦国境警備隊または民間防衛団における役務を義務として課すことができる。

http://www.fitweb.or.jp/~nkgw/dgg/

ドイツは第12a条で、政府は兵役を課すことができると明記しています。

日本国憲法には、これらにあたる条項はありませんので「制度として徴兵制が絶対にあり得ないとは(略)言いがたい」などと言葉を濁すことなく、日本国憲法は徴兵制を禁止していると明言できるはずなんですよね。

なぜ“徴兵制は合理的ではない”ではなく、“徴兵制は憲法に違反する”と主張できないのでしょうかね?