集団的自衛権と徴兵制の関係:チェコ共和国の事例

民主党が安保法案リーフレット「未来のために・・。」を作成して公開しました。

安保法案リーフレット「未来のために・・。」を制作

2015年7月7日
 民主党広報委員会ではこのほど、安保法案の問題点を分かりやすく説明したリーフレット「未来のために・・。」を制作しました。老若男女、性別問わずお読みいただける内容です。3日以降、街頭や地域の集会などでお手にとっていただけると思います。よろしくお願いします。

http://www.dpj.or.jp/a/107043

安保法案の問題点を一般レベルに訴えるにはわかりやすい内容だと思います。
まあ、相変わらず「今の時代に現実味が全く無い徴兵制復活の恐怖を煽るような真似」*1とか評する人がネット上では絶えませんけど。

ところで、チェコ共和国は1997年12月16日にNATO加盟の署名が行われ、1999年3月12日に正式に加盟しました。世界最大の集団安全保障体制に組み込まれたわけです。その数年前に冷戦終結したこともあって、2004年には一度徴兵制が廃止されています。ところが、ウクライナ情勢に対応してチェコ軍は兵力拡大と徴兵制の復活を計画しています。

Czechs Plan Sharp Rise in Troop Levels

By Jaroslaw Adamowski 11:28 a.m. EDT April 28, 2015
WARSAW — Czech Defense Minister Martin Stropnicky has unveiled plans to expand the Czech Republic's military from the current 16,600 troops to as much as 27,000 by 2025. In addition, the government may revive conscription, reports local daily Mlada fronta DNES.
Stropnicky said both issues are being discussed within a broader debate about the country's military policy, and that a decision could be taken this June.
We are continuing to discuss the most vital issue, the philosophy of the armed forces, their focus, Stropnicky said.
In March, senior government officials announced that the Czech Defense Ministry was working on a draft bill to restore conscription. By 2025, the Czech armed forces are to have a minimum of 24,000 troops.
Similar to other Eastern European allies, the Czech Republic has responded to the conflict in Ukraine, and Russia's takeover of the Crimean peninsula, with plans to hike military spending. To finance acquisition of new weapons, military equipment and training activities, Prague's defense spending is designed to rise from 41 billion krona (US $1.64 billion) in 2014 to 71.5 billion krona in 2020, according to the Czech Ministry.
Email: jadamowski@defensenews.com

チェコが軍備の急速拡大を計画(2015/4/28)

ワルシャワチェコのMartin Stropnicky防衛大臣は、チェコ共和国軍を2025年までに現状の16600名から27000名まで拡大する計画を明らかにした。また、政府は徴兵制を復活するができるとも付け加えた。地方紙 daily Mlada fronta DNES が伝えた。
「軍拡も徴兵制も、国防政策について広く議論した上で6月に決定された事項だ」とStropnickyは言う。「我々は、最も重要な問題について議論し続けており、軍備方針はその焦点になっている。」
3月に政府高官が、チェコ国防省が徴兵制復活案を作成中であることを発表した。2025年までにチェコ軍は最低でも24000名の規模となる。
他の東欧の同盟諸国と同じく、チェコ共和国ウクライナの紛争とロシアによるクリミア半島占拠に軍事費の急拡大という形で反応した。チェコ国防省によると、武器、装備、訓練の新規確保のため、政府の防衛予算は2014年の410億クローナ(16.4億ドル)から2020年には715億クローナまで拡大される計画だ。

http://www.defensenews.com/story/defense/land/army/2015/04/28/czech-military-conscription-russia-budget-troops-boost/26503963/

現代戦では徴兵制は使えないとか非合理的だとか言っている人たちがネット上には多く、中には“徴兵しても使えるようになるまで10年かかる”とかデマをばら撒く元軍人の政治家もいます。なぜか、そういう人たちは日本国憲法は徴兵制を禁止していないと主張・同調することが多いんですよね。

ちなみにチェコ共和国憲法では、明示的に徴兵制を認める条文はありませんが、以下のような条文があります。

チェコ共和国憲法 第9条

1 憲法は、憲法的法律によってのみ増補され改正されうる。
2 民主的法治国家の本質的基盤に関する変更は、許されない。
3 民主的国家の諸基盤を廃止し、あるいは危機にさらすことは、いかなる法規範の解釈によっても正当化されない。

https://www.waseda.jp/flaw/icl/assets/uploads/2014/05/A04408055-00-036010231.pdf

憲法改正ができないが憲法的法律によって改正される、という内容で、その憲法的法律に「チェコ共和国の安全保障に関する憲法的法律」というものがあります

EU 各国(27 か国)における兵役義務・非軍事的代替役務義務

チェコ共和国の安全保障に関する憲法的法律

第4 条 軍の徴募は、徴兵制を基本とする。
2 徴兵の義務の範囲、軍、武装治安部隊、救助部隊及び救急隊の任務、組織、訓練及び人事並びにこれらの組織の構成員の法律上の地位については、軍に対する文民による監視を確保しつつ、法律で定める。

http://www.yoakenonippon.com/pdf/study_eu_heiekigimu.pdf

とこんな感じで徴兵制を明示的に認めているわけですね。これは余談。

集団的自衛権を行使でき、最強の集団安全保障体制に組み込まれながらも、徴兵制を必要としたチェコ

要するに、自国を取り巻く安全保障環境が変わり、防衛計画上必要となる兵力が増え、それが志願で賄えなくなれば、徴兵制が必要になってくるわけです。

現安倍政権下でリベラルが徴兵制を懸念するのは、安倍政権が声高に主張する“安全保障環境の変化”とやらが、まさに徴兵制が必要になる要因の一つだからです。
そして“積極的平和主義”と称する海外派兵についても、それが防衛計画上必要となる兵力の増加を促し、これも徴兵制が必要になる要因の一つだからです。
徴兵制は憲法で禁止されている、という主張も、安倍政権が憲法で禁止されていたはずの集団的自衛権行使容認したことで、徴兵制を否定する根拠となりえなくなりました。
そもそも憲法は徴兵制を禁止していないという安倍・産経お抱えの自称・憲法学者もいますし、与党大物議員の石破氏もそのような主張をしていますから、憲法が徴兵制から国民を守るというのはほとんど期待できない状況です。

残るは、安倍政権が狙っている安全保障体制において必要となる兵力は志願で賄えるのか、という点ですが、これは現状では何とも言えません。
海外派兵と紛争地への投入が現実化することで志願者が減る可能性はありますが、そもそも安倍政権が何を狙っているのかも明確にされていませんので、判断が困難です。ただし、現状の自衛隊は慢性的な高齢化が進んでおり*2、また、士官:下士官:兵士の比率が、5:14:4*3という極めてアンバランスな状況であることは確かです。

以上を考慮すれば、安部政権下で徴兵制を危惧するのは至極当然の話で、否定する方がおかしいと言えます。

徴兵制非合理説

憲法は徴兵制を否定していないが、徴兵制は合理的じゃないので心配する連中は愚劣”と言った態度をとるのが石破議員や彼を支持する右の軍オタ連中です。
しかし“徴兵制は合理的じゃない”というのは根拠がありません。

例えば、“徴兵制は費用がかかる”という主張がありますが、防衛計画上必要な人員を志願で賄おうが徴兵で賄おうが、かかる費用にほとんど差はありません。せいぜい徴兵検査にかかる費用が増えるくらいです。人件費・装備費などは、志願兵でも徴兵でも人数分かかるのであって、費用を決めるのは防衛計画上何人必要かという点だけです。

“訓練に時間がかかる”というのもあります。元自衛官佐藤正久自民党議員のような「入隊した若者がこうした域に達するには、大体10年かかる」*4などというトンデモを信じる人は少ないと思いたいですが、この発言を引用している人が結構いるのでうんざりです。
この俗説もデマです。徴兵として一般的にイメージされる歩兵であれば、現在の任期制自衛官と同じく2年の訓練で十分使い物になる兵士にできます。一応兵士として使えるレベルなら1年もあれば十分でしょう。現在の制度がそれで運用しているわけですから出来ないという方がおかしいんですよね。志願兵は2年で訓練できるが、徴兵は10年かかる、とか本気で信じてる人なんていないと思うんですけど。

一つ覚え

繰り返しになりますが、自国を取り巻く安全保障環境が変わり、防衛計画上必要となる兵力が増え、それが志願で賄えなくなれば、徴兵制が必要になってくるわけです。それらを踏まえずに“徴兵制廃止が世界の趨勢”とか、単純に思い込んでると、「ドイツは海外派兵を積極的に行うようになって以降に徴兵制を廃止して」*5いるといった一つ覚えしか繰り返せなくなるわけです。

民主党の件

長島昭久議員のような右翼議員を抱え込んでる寄り合い所帯の弱みが出たといった感じの騒動ではありますが、比較的早く収拾できた感じがします。個人的には右翼議員を追い出してほしいんですけど、今やっても安倍をアシストするだけですからねぇ。