沖縄トラフ付近の係争海域での話

この件。

2015.8.1 19:00更新

EEZに中国調査船 鹿児島・悪石島沖でも ワイヤ海中に垂らす

 1日午後1時ごろ、鹿児島県トカラ列島の悪石島の西約156キロの排他的経済水域EEZ)で、中国の海洋調査船が船尾からワイヤのようなものを海中に3本垂らして航行しているのを、海上保安庁の航空機が確認した。
 第10管区海上保安本部(鹿児島)によると、中国の調査船が鹿児島近海のEEZで確認されたのは昨年4月以来。航空機から無線で中止を呼び掛けたが応答はなく、監視を続けている。

http://www.sankei.com/politics/news/150801/plt1508010024-n1.html

大体、場所はこの辺。

日中の海洋境界主張が重複している係争海域での行為ですね。
もちろん、中国側の行為はほめられたものではなく、挑発行為と見られても仕方がないでしょうね。ただし、違法かどうかというと違法とは呼べなさそうです。

EEZ 内での外国船舶による海洋調査活動への対応 −国内法整備の現状と課題−

専修大学教授 森 川 幸 一
 ガイアナスリナムとの間で係争中の大陸棚およびEEZ の境界画定が問題となったガイアナスリナム海洋境界画定事件では、両国がそれぞれ相手国の行為をUNCLOS 74条3項や83条3項が禁止する「合意阻害行為」に当たると主張した。仲裁裁判所は、UNCLOS 74条3項および83条3項の下での義務は、係争海域でのあらゆる活動を禁止する趣旨ではないとした上で、一方的活動であっても、それが海洋環境に物理的変化を生じさせないものであれば許容されうる(permissible)とした。他方で、物理的変化を生じさせる活動は、当事国間の協定に従って行われるのでない限り、境界画定の最終的な合意への到達を危うくしまたは妨げることになりうるとした。これは、石油・ガス田開発のような恒久的な物理的変化をもたらす活動と、地震波海底探査(seismic exploration)のような物理的変化をもたらさない活動とを区別するもので、こうした区別は、エーゲ海大陸棚事件判決とも整合するものであるとされる。
 これらの国際判例からは、係争EEZ 内で外国船舶が日本の同意を得ることなく海洋の科学的調査を行ったとしても、それが海洋環境に対して恒久的な物理的変化をもたらすような態様で行われない限り、UNCLOS 74条3項が禁止する「合意阻害行為」であると主張することは難しいということになろう。
 以上の分析は、外国公船が係争海域で事前通告なしに海洋の科学的調査を行った場合に、当該外国の国際法上の責任を追及できるかという問題に関係するものであるが、さらに進んで、そのような場合に、かかる外国公船に対して日本の国内法令違反を理由に執行措置をとれるかが、ここでの問題設定との関係では重要となる。
(強調は引用者による)

http://www.jcga.or.jp/reports/pdf/3_2011.pdf

「中国の海洋調査船が船尾からワイヤのようなものを海中に3本垂らして航行している」だけでは、「物理的変化を生じさせる活動」とは言い難く、「一方的活動であっても、それが海洋環境に物理的変化を生じさせないものであれば許容されうる」というガイアナ・スリナム海洋境界画定事件の仲裁裁判所判決が適用されるでしょうね。