「苦役」と「意に反する苦役」は違うよ

こういうブコメがあったので。

rti7743 本人がやりたくないのに強制されてやめられないのが苦役なんじゃないの。 2015/10/12

http://b.hatena.ne.jp/entry/d.hatena.ne.jp/scopedog/20151012/1444616474

まあ、辞書的には「苦役」に「懲役のこと」という意味もありますから「強制」の意が含まれているという解釈が間違いとはいいませんが、同時に「つらく苦しい労働」という必ずしも「強制」とは言い切れない意味もありますからね。
例えば、日本国憲法にはこういう条文があります。

第十八条  何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。

「本人がやりたくないのに強制されてやめられないのが苦役」ならば、「意に反する苦役」なんて表現は冗長な表現ということになりますね。
この場合、普通に解釈すれば、「意に反する苦役」=「意に反するつらく苦しい労働」であって、すなわち「苦役」=「つらく苦しい労働」となるでしょう。前記事で私が言及した「苦役」とはそういう意味です。
この場合、当然、意に反しない「苦役」だってあります。志願した場合ですね。私は記事でベトナム戦争時にLST乗組員に志願した五味氏の場合がそれだと指摘したわけですよ。

まあ、憲法でいう「苦役」にはこういう解釈があるようです。

内閣衆質九四第一〇号    昭和五十六年三月十日

憲法第十八条に規定する「その意に反する苦役」とは、その意に反する役務のうちその性質が苛酷なものとか苦痛を伴うもののみに限られず、広く本人の意思に反して強制される役務をいうものと解している。したがつて、たとえ通常の役務であつても、本人の意思に反して強制される以上、「その意に反する苦役」に当たることになる。

http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumona.nsf/html/shitsumon/b094010.htm

「苦役」とは役務一般を指し「本人の意思に反して強制され」れば、それは「その意に反する苦役」であるというわけですね。
この答弁は少し妙なところがあり、本来の質問では「苦役」とは何か聞かれているのに「その意に反する苦役」とは何かと回答しているんですよね。なので「強制される役務」=「苦役」と読めなくもありません。しかし憲法上の「その意に反する苦役に服させられない」を見る限り、“その意に反して服せられる”という表現はずなわち“強制される”という意味になりますから、「強制される役務」=「苦役」という解釈はやはり苦しいと言えます。