中共政府だって別に人工島基点12海里を領海だと主張しているわけではないんだよね。

中国が南沙諸島に作った人工島の12海里を中国領海だと主張している、かのように報じられていますけどね。

<米軍>近く南沙進入…中国埋め立てに対抗

毎日新聞 10月25日(日)9時30分配信
 【ワシントン和田浩明】南シナ海・南沙(英語名スプラトリー)諸島で中国が進める埋め立て・軍事拠点化への対抗措置として、米国のオバマ政権が人工島の「領海」に相当する12カイリ(約22キロ)内に米軍の艦船や航空機を近く進入させることを決定した。米政府に近い複数の関係筋が明らかにした。ミスチーフ(中国名・美済)礁とスービ(中国名・渚碧)礁の周辺海域での実施を検討中とみられる。米国が主張する「航行の自由」を作戦行動で示す狙いだが、米軍が実際に航行に踏み切れば、中国が強く反発するのは必至だ。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20151025-00000010-mai-int

例えば毎日新聞は括弧書きで「人工島の「領海」」と言った表現を使っています。
国際法上、人工島に領海は認められませんが、中国がそのように主張しているとする報道は、中国側の主張を“トンデモ”“一方的”と決め付けるのに都合が良いのか、まあそのように報道されることが多いですね。
もっともこれについては中国側にも責任があって、曖昧な表現を使って具体的で明確な主張を避ける傾向が他国に誤解と不信感を与えている、とも言えます。ある意味、慎重とも言えますが、現時点では外交上マイナスの面の方が大きそうです*1

「人工島の「領海」」?

環球網の記事でこのように書かれています。

社评:美军舰若闯南沙12海里,中国必反制

2015/10/15 4:39
 中国迄今没有就岛礁扩建后的领海领空问题专门进行申明,也无意扩大领海领空范围。美国一再说不承认那些岛礁的领海领空,并且威胁要去“闯”它们,这与中方的低调与克制不是一种对等的态度。美方这是在挑衅与胁迫,它要的根本不是南海航行自由,中国已多次表示不会妨碍这些自由,美方是要在南海给中国下马威,强调它在全球的霸权。

http://opinion.huanqiu.com/editorial/2015-10/7762051.html

中国は南沙諸島での領海・領空の範囲を明確にしたことはないが、アメリカ側はそこに侵入すると威嚇している。アメリカは航行の自由を主張するが、中国は何度も航行の自由を妨げないと表明している、という内容です。
アメリカの威嚇は、中国から見ればそう見えるのは当然ですが、ここで大事なのは、「中国迄今没有就岛礁扩建后的领海领空问题专门进行申明,也无意扩大领海领空范围。」という部分。
別に中国の言い訳というわけでもなく、ロイター記事でも同様の認識が示されています(Zhang Baohui, a Chinese security expert at Hong Kong's Lingnan University の発言として)。

Business | Sat Oct 24, 2015 4:08am EDT Related: WORLD, CHINA, AEROSPACE & DEFENSE, SOUTH CHINA SEA

U.S. patrols to raise stakes with Beijing in disputed South China Sea

HONG KONG | BY GREG TORODE
China had never formally declared a 12-mile territorial zone around the reclamations, so any U.S. show of force was premature, he added.

http://www.reuters.com/article/2015/10/24/us-southchinasea-usa-patrols-china-idUSKCN0SI04Y20151024

どうなるか

米軍艦が中国の人工島12海里に侵入しても、それに対して中国側が「領海侵犯」だとは言わないでしょうね。ただし、接近禁止として退去を求めることはあるでしょう。米軍艦は“それに応じて”退去することは無いでしょうが、同海域にいつまでもいるわけには行きませんのでいずれは過ぎ去ることになります。中国側は米軍艦がいなくなるまで追尾し警告し続けることで“中国側施設周辺の禁止区域に侵入した米軍艦を退去させた”と解し、米軍側は予定通り通過したことで“中国側の禁止命令には効力はない”と解する、という形になるんじゃないかな、と思ってます。
その他には、産経新聞辺りが、中国側の退去命令を曲解報道して中国は横暴だという世論操作をするくらいですかね。

毎日記事「ミスチーフ礁はフィリピンの排他的経済水域EEZ)内にある」

 ミスチーフ礁はフィリピンの排他的経済水域EEZ)内にあるが、1994年に中国が占拠、構造物を建設した。今年4月には大規模な埋め立て作業が行われていることが判明。9月には3000メートル級滑走路の建設関連と見られる作業も確認された。スービ礁でも、昨年1月ごろから埋め立てが始まり、今年8月には滑走路建設と見られる作業が行われている。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20151025-00000010-mai-int

まるでミスチーフ礁が自明のフィリピン領であるかのような書き方ですが、ミスチーフ礁は台湾が実効支配するイツアバ島基点のEEZ内でもあり領有権問題のある領域に関する記述としては、「ミスチーフ礁はフィリピンの排他的経済水域EEZ)内にある」というのは公平性を欠いた表現といわざるを得ません。

*1:ただし、領土問題において具体的な線引きを検討する段になった場合での主張の余地を残すという面では意味がないとも言えませんが。