浅羽提案は徹頭徹尾、日本側の都合を韓国側に押し付けてるだけ

浅羽教授:朴大統領は慰安婦像を撤去し「今度こそ決着させる」と本気を示せ
浅羽氏の見方は日韓関係を外交だけで見たとしても話にならない拙劣なもので、「現状の分析と見通し」というに程遠いものです。
記事は日本も韓国も妥協できる線を探るようなトーンを装ってはいますが、実際には韓国に対してのみ妥協せよと言っているだけです。

まず日本側について話すと、安倍首相は有利な政治的資源を有しています。安倍首相には『タカ派の政治家』というクレデンシャル(信任)があります。タカ派のリーダーがあえて、リベラルなポジションをとるということが重要です。(略)『あの安倍首相でさえこの問題に取り組むのだから、それは日本の国益を合理的に判断した結果、やむをえない政策なのだな』と受け入れられやすいのです。

http://jp.sputniknews.com/politics/20151113/1160901.html

と書いていますが、日本側は何をやるべきか、については一言も書いていません。浅羽氏が上述しているように「安倍首相は有利な政治的資源を有して」いるのなら思い切った解決策が取れるはずですが、「自ら問題の所在を認めて、『妥結を図るべきだ』と公言したことは画期的」と、これまでずっと存在し続けた問題の所在を認めただけで(それも未解決の問題としてではなく解決済みの問題というこれまでの日本政府の対応と何ら変わらないにも関わらず)画期的だと褒め称え、それ以上のことは何も書いていません。
それだけなら「有利な政治的資源」なぞ不要です。と言うより安倍首相が持っている「有利な政治的資源」というならそれは「『タカ派の政治家』というクレデンシャル(信任)」などではなく、現状の支持率でしょう。
高い支持率を持っていればこそ譲歩できるという意味では「有利」であるわけですが、慰安婦問題で何の譲歩もしないわけですから、安倍政権にはこの問題を解決する気はないとしか言えません。

さて、韓国側に対しては浅羽氏はこう述べています。

韓国側に関して言えば、慰安婦問題に対する世論は硬直しています。国家賠償ではないかたちでの『妥結』に朴大統領が応じた場合、世論の反発は日本以上に厳しいでしょう。(略)
こうした反対世論が強いにもかかわらず韓国政府が慰安婦像を撤去するのであれば、『朴大統領は本気である』と日本側に確かなシグナルを送ることができます。韓国側が『慰安婦問題は妥結した』『歴史問題は私の政権では再論しない』といくら言葉で言っても、今まで『裏切られた』記憶がありますから、日本は安易に信じることができません。今度こそ『最終決着』をつけるためには、日本は日本で、韓国は韓国で、ハト派タカ派もそれなりに納得して、将来それが覆されないという保証を互いに与えなければいけません。

http://jp.sputniknews.com/politics/20151113/1160901.html

「韓国政府が慰安婦像を撤去」すれば、確かに日本政府や日本右翼に対しては卑屈という意味で「確かなシグナルを送ることができ」るでしょうね。ですが、そもそも朴政権は既に支持率が低く思い切った譲歩が出来る状況ではありません。仮に朴政権が慰安婦像を撤去すると決めたところで朴政権がさらに支持を失い、次期政権が慰安婦問題は未解決だとみなすだけの話です。
単純に外交的な話として見るなら、韓国側に一方的に妥協を強いるような浅羽提案には一片の価値もないと言わざるを得ません。

本気で外交的に解決したいなら、日本側が譲歩して安倍政権として公式に慰安婦が日本軍の性奴隷であったと認め、公教育と政府見解に反映させると約束することが最低限必要です。ここまで譲歩すれば、法的責任と国家賠償については道義的責任と民間基金に置き換えても韓国側としては外交的には妥協可能でしょうね。
また、当然ながら、政府与党の有力政治家や右翼メディアらが、慰安婦らを侮辱する言説を行なった際には直ちに政府として公式に批判・反論する必要があります。

そうでなければ、“日本側が『慰安婦問題は妥結した』『日本は謝罪している』といくら言葉で言っても、今まで『裏切られた』記憶がありますから、韓国は安易に信じることができません。”

浅羽提案は徹頭徹尾、日本側の都合を韓国側に押し付けるだけの外交政策の提案としては下策としか言いようのないものといわざるを得ません。この提案を歓迎するのは日本国内の右翼連中だけでしょう。外交ではなく、国家的自慰行為に過ぎません。

そもそも日本がなぜ慰安婦像に反対するのかわからない

戦時性暴力被害者を記念する像を、日本政府がなぜ毛嫌いするんでしょうね。

『公館の安寧の妨害又は公館の威厳の侵害を防止するため適当なすべての措置を執る特別の責任』が韓国政府にはありますし、韓国の国内法的にも道路を勝手に使っているわけですから、そもそも不法ですので、真っ当な法治国家であればそもそも設置されていなかったはずです。

http://jp.sputniknews.com/politics/20151113/1160901.html

日本側が公言しているように、“謝罪も賠償もした”慰安婦、それも安倍政権自身が認めた性的人身売買の被害者であり、戦時性暴力や性的人身売買は現在もなお世界的に問題となっている以上、二度と繰り返されないようにそれを記念する銅像に反対する理由などないはずです。
一体なぜ、慰安婦像が「公館の威厳の侵害」になるのか、それこそ日本の「国民情緒」以外に説明がつかない事案ですね。
また、慰安婦碑設置が韓国の国内法的に違法だと浅羽氏は決め付けていますが、実際には2011年3月時点で鍾路区は設置申請に対して法的に問題ないと回答しています*1。その後、設置計画が明らかになると日本政府が干渉し韓国政府と自治体が曖昧な態度を取ったわけですが、日本側が圧力をかけているという経緯を踏まえれば「真っ当な法治国家であればそもそも設置されていなかったはず」という浅羽説は傲慢としか言いようがありませんね。
むしろ、真っ当な法治国家であれば、あるいは、日本で言われているような“反日が国是”の国であれば、堂々と設置許可を出したでしょう。
韓国政府が日本に気を遣ったが故に法的に曖昧にされているわけですから、日本右翼はむしろ韓国政府に感謝すべきでしょうに。

*1:애초 관할 종로구는 지난 3월 정대협의 평화비 건립 신청을 받고 도로법 등 관련 법령을 검토한 끝에 문제가 없다며 적극 협조하겠다는 뜻을 밝혔다. http://m.blog.daum.net/shbaik6850/16541921