桜田義孝と板垣正・奥野誠亮、あるいは二十年一日の如き日本社会の人権感覚

既によく知られているこの件。
自民党衆院議員の桜田義孝元文部科学副大臣衆院千葉8区)による2016年1月14日の自民党本部合同会議での発言。

 よく従軍慰安婦の問題が出るが、日本で売春防止法ができたのは昭和三十年代だ。それまでは職業としての売春婦だった。それを犠牲者だったかのようにしている宣伝工作に惑わされすぎだ。
 売春婦だったということを遠慮して(言わないから)、間違ったことが日本や韓国でも広まっているのではないか。

http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2016011490140031.html

色んな意味で救いがたいレベルで人権感覚が欠如した発言ですが、発言した自民党の会議中で批判されたとの報道は見かけず、菅官房長官が記者会見で「いちいち議員の発言に答えるべきではない。」(2016年1月14日)と答え、安倍首相は「様々な発言そのものを封じることはできないが、政府関係者や与党関係者はこのこと(引用者註:日韓合意のこと)を踏まえて、今後は発言をしていただきたい」*1 と言うだけで、桜田氏は特に何らかの処分を受けるわけでもなさそうです。


日韓政府間合意から1ヶ月と経たないうちに、日本側の与党有力議員からこういった暴言が出たわけですが、20年前にも似たようなことが起きています。

1993年8月4日に日本政府は渋々、慰安婦問題を認める河野談話を出し1995年にはアジア女性基金を設立させていますが、その翌年の1996年に、今回の桜田議員と同じく、やはり自民党の有力議員が元慰安婦に対して次のような暴言を吐いています。

1996年6月、自民党の板垣正参院議員が韓国の元慰安婦、金相喜さんと面会した。その時のやりとりは朝日新聞同年6月5日付によると以下の通り。
板垣氏:当時は貧しさの中で公娼(こうしょう)制度があり、恵まれない女性がいた。(慰安婦問題は)決してほめられたことじゃないし、お気の毒だと思うが、官憲が首に縄をつけて連れていったわけではない」
金さん:兵隊と一緒に前線を回った。連れて歩いたのはみんな軍人。慰安所から逃げようとしたら兵士に銃撃された。友人は自殺した。一部の日本人が、強制がなかったとか妄言を吐くので、胸の中がかきまわされる思いだ。私が発言しないとわからないのか、と名乗り出た
板垣氏:代償というか、おカネの支払いは?
金さん:いっさいない
板垣氏:そういう例があったとはまったく信じられない。当時の状態からそう判断する。政治家としての信念がある。日本人としての誇りもある。強制的に連れていったという客観的証拠はあるのか
板垣氏:その八年間に一銭ももらわなかったの
金さん:生死の境をのりこえた者に本当か本当じゃないという話をどうしてするのか。かつて戦場で私の体を汚し、五十年たって今度は私の魂まで汚すのか。断じてない

http://www.wasedajuku.com/channel/bando/detail.php?itemid=212

日本国民の代表である国会議員が、性暴力被害者に対して執拗に“金をもらっただろう”と問い詰めた事例です。
同じ時期にやはり自民党の有力議員である奥野誠亮元法相が「慰安婦は商行為」と述べて問題になっています。

本年6月4日、「明るい日本」国会議員連盟発足に際して、同連盟会長に就任した奥野誠亮元法相は、「『従軍』慰安婦はいない、商行為として行われた」、「軍は戦地で交通の便をはかったかもしれないが、強制連行はなかった」と発言し、同席した同連盟事務局長板垣正参議院議員も、「性的虐待のイメージを植え込む教科書のあり方はおかしい」などと語った。板垣議員については、これに先立つ本年5月28日の自民党総務会においても同趣旨の発言を行ったと伝えられている。

http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/1996/1996_10.html

よく知られているように、この板垣・奥野両議員とつるんで歴史修正主義に没頭した右翼議員が安倍晋三氏です。
板垣・奥野発言の焼き直しに過ぎない桜田発言が安倍首相の本音であることは、安倍氏の過去を知れば容易に理解できることです。安倍首相が桜田氏を厳しく処分したりはしないのは、そのためでしょうね。

しかしまあ、20年経っても、性暴力被害者を売春婦呼ばわりして侮辱する与党政治家が跋扈している状況が変わらないとは情けない限りですね。


参考

「河野談話」「アジア女性基金」以後の日本は誠実だったのか? - 誰かの妄想・はてな版

慰安婦「職業としての売春婦」 自民・桜田議員が発言

2016年1月14日 14時00分
 自民党本部で十四日開かれた外交・経済連携本部などの合同会議で、同党の桜田義孝元文部科学副大臣衆院千葉8区)が慰安婦について「職業としての売春婦だった。それを犠牲者だったかのようにしている宣伝工作に惑わされすぎだ」と発言した。日韓両政府は昨年十二月末、慰安婦問題に関し、日本が軍の関与や政府の責任を認める内容で合意している。
 菅義偉(すがよしひで)官房長官は記者会見で「いちいち議員の発言に答えるべきではない。昨年に日韓両外相が合意したことに尽きる」と述べた。政府筋は、日韓関係に与える影響について「全く心配していない。日韓合意で決まったことを、それぞれが行っていく」と話した。
 桜田氏は十四日の会議で、売春防止法が戦後に施行されるまで売春は仕事だったとして「売春婦だったということを遠慮して(言わないから)、間違ったことが日本や韓国でも広まっているのではないか」と述べた。
 合同会議には議員約十人が出席。「南京大虐殺」に関する中国の資料が世界記憶遺産に登録されたことをめぐり、日本政府が国連教育科学文化機関(ユネスコ)に求めている制度改善などについて外務省幹部が説明していた。
桜田氏の発言要旨
 私は、国連教育科学文化機関(ユネスコ)への拠出金削減に否定的だったが、もう甘いことを言っていられない。ユネスコを政治利用ばかりしているのだったら、拠出金を大幅に減らすべきだ。
 よく従軍慰安婦の問題が出るが、日本で売春防止法ができたのは昭和三十年代だ。それまでは職業としての売春婦だった。それを犠牲者だったかのようにしている宣伝工作に惑わされすぎだ。
 売春婦だったということを遠慮して(言わないから)、間違ったことが日本や韓国でも広まっているのではないか。
 日韓基本条約を結んだときには、韓国の国家予算を日本が援助した。そういうことを韓国人は知らない。韓国政府が教えていないと聞いている。
東京新聞

http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2016011490140031.html

 すでに昨(1996)年6月、ある新聞記事を目にした時から、私の胸のなかで、ゴツゴツしたかたまりが限界近くまで膨らんでいた。板垣正・参議院議員が、韓国から来日した元「慰安婦」の金相喜(キム・サンヒ)さんに対して、「カネはもらっていないのか」と何度も問い詰め、「強制的に連れていったという客観的証拠はあるのか」と言い放ったのだ。同じ紙面には、「明るい日本・国会議員連盟」の会長に就任した奥野誠亮元法相が「慰安婦は商行為」と述べたという記事も出ている。
 板垣議員は朝鮮軍司令官も務めた戦犯の家族であり、日本遺族会顧問でもある。奥野元法相は内務官僚出身で、終戦時には米軍の押収をまぬがれるため公文書を焼却して証拠湮滅(いんめつ)を行なったと自ら語っている人物だ。植民地支配の当事者ともいえる彼らが過去の罪を認めようとしないことには、いまさら驚きはしない。しかし、その記事を見たときには、何ともいえない嫌悪感がこみ上げてきた。とうとう決定的な一線が越えられたと感じた。この恥を知らぬ人々は最低限の慎みすらかなぐり捨て、面と向かって直接に、被害者を辱めるという行為に踏み出したのだ。

http://www.eonet.ne.jp/~unikorea/031040/38d.html