議員の育児休業に関する件

別の件で話題になっている宮崎謙介衆院議員(自民党)が妻の2016年2月の出産予定にあわせて1〜2ヶ月の育児休業を希望した件について。
基本的に父親育児休業を取りやすくすべきという意見には賛成です。
簡単な方法としては、衆議院規則第185条2にある「出産のため」を「出産又は育児のため」になおせばそれで済みます。

第百八十五条 議員が事故のため出席できなかつたときは、その理由を附し欠席届を議長に提出しなければならない。
(2) 議員が出産のため議院に出席できないときは、日数を定めて、あらかじめ議長に欠席届を提出することができる。

http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/shiryo/dl-rules.htm

あるいは185条1の「事故」に準じる扱いとして解釈することも出来なくはないでしょう。
あるいは182条の請暇を行い、議院の許可を得るという手段もあるでしょうね。

第百八十二条 議長は、七日を超えない議員の請暇を許可することができる。その七日を超えるものは、議院においてこれを許可する。期限のないものは、これを許可することができない。

http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/shiryo/dl-rules.htm

欠席中の報酬の取扱いについての懸念があるようですが、出産・育児として許容される期間の休業に関してはそもそも全額支給で構わないと考えています*1ので、その懸念については共有しません。
私が問題だと思うのは、有権者によって選ばれた議員が一定期間活動できなくなることについてです。それも通常の会社員のように長期に渡って就業することが前提となっているわけではない議員であることを考えると、育児休業を認めるべきかどうかというのはかなり難しい問題です。

育児休業法の理念では、雇用期間が1年以上あり、子の1歳の誕生日以降も継続雇用が見込まれる場合に、子が1歳になるまでの期間に育児休業が取得できるようになっています*2。宮崎議員の場合は、2014年12月の衆院選で当選していますので雇用期間は1年以上、任期は最長でも2018年12月までで、2016年2月誕生予定の子が1歳になる2017年2月以降も継続雇用が見込まれているとはいえなくはありません。
衆院は解散がありますので微妙なところですが、当選後1年〜3年の期間内に子が誕生した場合に限定するなら、衆院議員の育児休業も期間雇用者と同じという観点では認められるべきでしょう。

しかしながら通常の会社員であれば、会社側の調整によって育児休業を取った社員がやるはずだった業務を他の社員に担当させることが出来ますが、議員という職種ではそれが出来ません。単純に採決するだけとか所詮若手議員は党の言いなりだという認識でいいなら、議員が育児休業をとっても大した問題ではありませんが、民主主義の根幹に関わる代議制だということを踏まえれば本来あるべき建前を重視すべきでしょう。
すると、育児休業中(に限りませんが)有権者から付託された業務ができないと言うのは看過できない問題です。
例えば、宮崎議員は1〜2ヶ月の育児休業を希望していますが、今後12ヶ月の育児休業を希望する議員が現れた場合、最大4年間の衆院議員の任期の4分の1が休業となりますが、それは認められるべきでしょうか。大事な事案に対しては休業から復帰するという意見もあるかも知れませんが、何が大事で何が大事でないか誰が判断するのか、そもそも業務の重要性と育児の重要性は比較すべきものなのか、と言う問題もあります。1〜2ヶ月なら構わない、という考えもあるかも知れませんが、その場合は何ヶ月以内なら容認できるのか、普通の会社員なら1年程度取れるのに議員はそれより短く制限されるべきなのか、と言う問題が出てきます。

福岡県弁護士会両性の平等委員会の郷田真樹弁護士(44)は「病気などで欠席する議員はいるのに批判されない。育児が、病気ほど『仕方ない』とも、公務と同じ価値があるとも思われていない」と批判の背景を分析。「代理が国会に出席できるようにする制度をつくり、家庭での責任も職責も果たす政治家を国会に多く送り込むことが、子育てや介護をしながら働き続けられる社会につながるのでは」と指摘している。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160123-00010006-nishinp-soci

郷田弁護士の主張には基本的には同意です。特に「代理が国会に出席できるようにする制度」というのは良い考えだと思います。
育児休業中の代理というのは一つの案ではありますが、投票した有権者は納得できるのか、と言う懸念が残ります。
個人的には、育児休業に限らず長期休業をする議員が自身の代理を指名できる制度を作り議員の選挙区で代理に対する信任投票を行うのが良かろうと考えています。選挙区選出でない場合は名簿順などを考慮する必要があるかも知れません。

「子育てや介護をしながら働き続けられる社会」を目指すうえでは、議員が育児休業を取ることは社会の意識を改善するきっかけになりうるとは思いますが、一方で議員という特殊性もあり、性質上期間雇用に近いという配慮も必要だと思います。
期間雇用での育児休業制度を基に、議員の特殊性を踏まえた制度にすべきでしょう。

□ チェック1:同じ事業主に引き続き1年以上雇用されていますか?
 実質的に雇用関係が続いていることをいいます。たとえば、年末年始や週休日を開けて契約が結ばれている場合でも、実質的に継続していると考えます。
 派遣社員の場合、「派遣元」が同じことがポイント。派遣元が引き続き1年以上同じであれば、派遣先が変わってもまったく問題ありません。
□ チェック2:子の1歳の誕生日以降も、引き続き雇用されることが見込まれていますか?
 労働契約が更新される可能性について、書面だけでなく、口頭でも示されていれば「可能性あり」と判断できます。
 ただ、契約更新の可能性について、特に明示されていないときは、同じ地位にある他の派遣スタッフの契約更新状況や、会社側のこれまでの言動が実態を判断するポイントになります。
 もし、書面で「会社の業績に応じて契約終了時に判断する」など、はっきり更新について書かれていなくても、更新可能性の明示があるとみなして考えます。
□ チェック3:子の2歳の誕生日の前々日までに雇用契約が満了し、更新されないことが明らかではないですか?
 労働契約の更新回数や期間に上限がなければ、問題ありません。ただし、更新回数や期間の上限が最初から決められている場合は要注意!
 契約更新したときの期間終了日が、1歳誕生日の前日から2歳誕生日前々日までの間にあると、「更新されないことが明らか」とみなされてしまいます。

http://wol.nikkeibp.co.jp/article/column/20140620/183841/?P=2&n_cid=nbpwol_else

この「期間終了日が、1歳誕生日の前日から2歳誕生日前々日までの間にあると、「更新されないことが明らか」とみなされてしま」うという考え方だと、当選後1年〜3年の期間内に子が誕生した場合ではなく、当選後1年〜2年の期間内に子が誕生した場合と言う条件になりますね。かなり限定された期間での誕生が条件となります。

*1:出産・育児に際して生活レベルを落とすことを前提とした制度なので。

*2:http://www.mhlw.go.jp/general/seido/koyou/ryouritu/aramashi.html