“努めなければならない”

例の件ですが、以下の条文を理由に違法だとか主張している人も見かけます。

国籍法

(昭和二十五年五月四日法律第百四十七号)
第十六条  選択の宣言をした日本国民は、外国の国籍の離脱に努めなければならない
(条文中強調は引用者による。以下同じ)

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S25/S25HO147.html

努力義務であって罰則のある条文ではないという反論もありますが、それでも違法状態だのなんだのと言っている人もいます。ただ今回の蓮舫氏の場合、国籍選択時に父親と台湾側の役所にも行っているようですから、その時点で「努め」たとも言え、「努力義務に違反してた」とさえ言い難いでしょう*1

そもそも「努めなければならない」という法律はどの程度の努力が求められるのでしょうか。
同じ文言で国民に努力義務を課している法律に以下のようなものがあります。

健康増進法

(平成十四年八月二日法律第百三号)
(国民の責務)
第二条  国民は、健康な生活習慣の重要性に対する関心と理解を深め、生涯にわたって、自らの健康状態を自覚するとともに、健康の増進に努めなければならない

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H14/H14HO103.html

酒に酔つて公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律

(昭和三十六年六月一日法律第百三号)
(節度ある飲酒)
第二条  すべて国民は、飲酒を強要する等の悪習を排除し、飲酒についての節度を保つように努めなければならない

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S36/S36HO103.html

喫煙や暴飲暴食、生活習慣病予備軍が生活習慣を改めないことを、違法だと表現しますかね。

児童福祉法

(昭和二十二年十二月十二日法律第百六十四号)
第二条  全て国民は、児童が良好な環境において生まれ、かつ、社会のあらゆる分野において、児童の年齢及び発達の程度に応じて、その意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮され、心身ともに健やかに育成されるよう努めなければならない

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S22/S22HO164.html

児童にとっての良好な環境を損なう相対的貧困を貧困にあらずとせせら笑う行為は、違法ですかね。

障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律

(平成二十五年法律第六十五号)
(国民の責務)
第四条 国民は、第一条*2に規定する社会を実現する上で障害を理由とする差別の解消が重要であることに鑑み、障害を理由とする差別の解消の推進に寄与するよう努めなければならない

http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/law_h25-65.html

「全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会」「を実現する上で障害を理由とする差別の解消が重要であることに鑑み、障害を理由とする差別の解消の推進に寄与する」ことが努力義務として国民に求められています。
石原慎太郎元都知事が、障害者について「ああいう人ってのは人格あるのかね」(1999/9/17)と言い放った*3のは、違法ですかね。そんな石原氏を繰り返し都知事に選んだ都民は、努力義務を果たしたのでしょうか?
ああ、法律制定前で差別やり放題だから問題なしという認識ですかね。
相模原事件の理念に賛同してる連中もいますが。

本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律

(基本理念)
第三条 国民は、本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消の必要性に対する理解を深めるとともに、本邦外出身者に対する不当な差別的言動のない社会の実現に寄与するよう努めなければならない

http://www.moj.go.jp/content/001184402.pdf

蓮舫氏を繰り返し誹謗している池田信夫氏やその同類による行為もまた、違法と指摘されるべきですかね。
ああ、蓮舫氏は日本国内で生まれ育ったので「本邦外出身者」に該当せず、いくら差別しても構わないという解釈ですかね。




そもそもこういう考え方もあります。

違法性の意識が必要だという考えと,必要でないという考えと,両方の意見がありますが,実は,刑法学者の多くは,この2つの説の中間の考え方をとっています。原則として,違法性の意識がなかったとしても,それだけでは犯罪の成立は否定されませんが,違法性の意識がなかったことについて,相当な理由があった場合は,犯罪は成立しないという考え方です。違法性を意識する可能性すらない場合に限って,犯罪が不成立となるので,違法性の意識可能性説と呼ばれています。

https://www.bengo4.com/c_1009/q_2564/

自分が未成年の時に親が自分の理解できない言語で役所でやり取りしたことを以て国籍に関する処理は全て完了している、と認識していれば、「違法性を意識する可能性すらない」とも言えますからね。

日本国が、外国籍の親を持つ国民に対して“親を疑え、信用するな”と求めてるなら別ですが。
というか、外国籍の親を潜在的な敵国人扱いすることで“純血でない日本人”の日本に対する忠誠心を計ってるのかなぁ。社会的にはそういう踏み絵を求めてるような空気ですよねぇ。

*1:http://anond.hatelabo.jp/20160906213931 の内容は基本的に同意ですが、この点だけが少し気になりました。

*2:第一条 この法律は、障害者基本法(昭和四十五年法律第八十四号)の基本的な理念にのっとり、全ての障害者が、障害者でない者と等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有することを踏まえ、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本的な事項、行政機関等及び事業者における障害を理由とする差別を解消するための措置等を定めることにより、障害を理由とする差別の解消を推進し、もって全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資することを目的とする

*3:http://www.soshiren.org/shiryou/19990920.html