差別の残滓で差別される話、あるいは1985年改正国籍法の時点で法律に差別的な条項が残ってたことに起因する話。

この件。

国籍選択期限後の手続き「義務に違反」 金田法相

朝日新聞デジタル 10月18日(火)12時0分配信
 民進党蓮舫代表の台湾籍を離脱した時期に関する説明が変遷している問題に関連して、金田勝年法相は18日、「一般論」とした上で、二重国籍になる可能性のある人が、国籍を選ぶ期限を過ぎてから国籍を選ぶ手続きを取るまでの間は「国籍法上の義務には違反していたことになる」との見解を示した。同日午前の閣議後の記者会見で語った。
 国籍法は、外国籍を持つ人については、20歳までに二重国籍となる可能性が生じたときは22歳までに、20歳を過ぎてから可能性が生じたときはその時点から2年以内に、いずれかの国籍を選ぶよう求めている。法違反についての罰則はない。日本国籍を得るには「外国の国籍を離脱する」もしくは「日本国籍を選ぶ宣言をする」という方法がある。
 蓮舫代表は16日、記者団に対して、今月7日に国籍選択の宣言をしたことを明らかにしていた。
朝日新聞社

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20161018-00000046-asahi-pol

単純に、1985年の国籍法改正を受けて国籍取得の手続きを行い、その際に国籍選択も台湾籍離脱も終わっていたと認識していただけですからね。
国籍選択がこの時されたかどうかは蓮舫氏からの明言が無いのでわかりませんが、仮にしていなかったとしても、それを違法だと糾弾するのなら国籍選択の義務が生じた時点から今まで行政側から義務の履行を求めたことがあるのかどうかを踏まえるべきでしょう。

もし蓮舫氏の父親が日本人、母親が台湾人であったなら国籍選択の手続きは不要だった

朝日記事では「国籍法は、外国籍を持つ人については、20歳までに二重国籍となる可能性が生じたときは22歳までに、20歳を過ぎてから可能性が生じたときはその時点から2年以内に、いずれかの国籍を選ぶよう求めている」と記載されていますし、他もほぼ同様の説明がされていますが、実はそう単純でもありません。

蓮舫氏の場合、父親が台湾人、母親が日本人であったため、やたら複雑な手続きが必要になっていますが、もし逆に父親が日本人、母親が台湾人であったなら手続きは遥かに簡単で、極端な話、何もしなくても良かったと言えます。

1985年改正国籍法の附則で、施行時点で日本国民であった外国籍保持者は国籍選択をしなくても国籍選択したものと“みなす”と定められているからです。
もともと改正前の国籍法では父親が日本人である場合でしか、子が当然に日本人であるとは認めなかったわけで、この父系優先血統主義が問題視された結果、ようやく改正されたのが1985年改正国籍法です。
この改正により父母両系血統主義に変わったわけですが、改正前に生まれた子に対して自動的に日本国籍を認める内容にはなっているわけではありませんでした。
このため改正時点では、父外国人・母日本人の子は日本国籍を持っていません。
1985年改正国籍法の附則には、その子のための特例があり、届出だけで日本国籍が取得できるようになっています。しかし、届出をしても誕生時点に遡及して日本国籍であったことを認められるわけではありませんでした。

4  第一項の規定による届出をした者は、その届出の時に日本の国籍を取得する。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S25/S25HO147.html

この点が、父日本人・母外国人の子の場合と異なります。

父日本人・母外国人の子の場合、1985年改正時点で二重国籍となっていても国籍選択をする必要がありません。国籍法第14条には二重国籍者は国籍選択をする義務があると書かれていますが、1985年改正時点で二重国籍である父日本人・母外国人の子は附則第3条に基づき、国籍選択の期限が到来した時に自動的に「選択の宣言をしたものとみな」され、何の手続きをとる必要も無いからです。
これに対して、父外国人・母日本人の子には、国籍選択の手続きをしなければならない義務が負わされたわけです。

父日本人・母外国人か父外国人・母日本人かによって子の処遇が変わるという差別的な状況を改善するために改正した国籍法ですが、その附則で尚も父日本人・母外国人か父外国人・母日本人かによって負わせる義務に差をつけたわけですね。

現在、蓮舫氏が自民党や右翼紙から追及されているのはこの差別の残滓によるもので、日本社会はその残滓をネタにさらに差別を繰り返すという状況を容認しているわけです。

どれほど救いの無い国なのか、と。