全体の正社員数が増えているのに30代後半の正社員数だけが減っている件についての若干の検討(追記あり12/1)

この件。

正社員、1年で74万人増 非正規上回る

総務省調査
2016/11/29 19:40
 企業が正社員を増やしている。総務省が29日発表した10月の労働力調査によると、正社員は前年同月に比べ74万人増え3405万人となった。非正規は31万人増の2028万人だった。正社員の増加が非正規を上回るのは2カ月連続だ。
 企業は年末の繁忙期を前に、待遇のよい正社員でないと人手が集めにくくなっている。
 厚生労働省が同日発表した正社員の有効求人倍率(原数値)は0.92倍と過去最高になった。全体の有効求人倍率(季節調整値)も1991年8月以来となる1.40倍の高水準に達している。
 10月の完全失業率は前月と同じ3.0%。総務省の同月の家計調査によると、実質消費支出は前年同月比0.4%減だった。正社員化による待遇改善が続けば、消費の活性化につながる可能性がある。

http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS29H6J_Z21C16A1EE8000/

総務省労働力調査で調べると確かに正社員が2015年10月に比べて74万人増えています。これだけ見れば景気が回復していると言えそうですが、年齢別で10月時の正社員数の推移を見てみるとこうなります。

全体 2016 2015 2014
15-17 1(-1) 2(+1) 1
18-19 29(+10) 19(-3) 22
20-21 58(+4) 54(+3) 51
22-24 178(+3) 175(0) 175
25-29 389(+4) 385(+5) 380
30-34 409(+13) 396(-1) 397
35-39 426(-16) 442(-15) 457
40-44 503(+7) 496(+4) 492
45-49 462(+24) 438(+10) 428
50-54 377(+5) 372(+13) 359
55-59 322(+8) 314(+5) 309
60-64 147(+4) 143(+6) 137
65-69 64(0) 64(+9) 55
70-74 25(+5) 20(0) 20
75-79 10(+3) 7(-2) 9
80-84 2(-1) 3(0) 3
85- 1(0) 1(0) 1
合計 3405 3331 3298

(単位:万人、括弧内は前年からの増減)

全体的には正社員数は増えていますしほとんどの年齢帯でも増えていますが、30代後半だけが大きく減っています。40代後半では2014年から34万人増、50代前半でも18万人増ですが、30代後半だけが2014年から31万人も減っています。
男女別で見ると、30代後半の減員数31万人中26万人が男性、5万人が女性と圧倒的に男性が多い状況です。増員幅の大きい年齢帯は、男性では40代後半(25万人増)、女性では50代前半(11万人増)、50代後半(10万人増)という結果です。

また国税庁の民間給与実態調査で2014年と2015年の年齢別平均給与を調べてみると以下のようになります。

全体 2015 2014 増減
-19 1324 1303 +21
20-24 2525 2484 +41
25-29 3515 3435 +80
30-34 3974 3918 +56
35-39 4323 4251 +72
40-44 4610 4569 +41
45-49 4862 4869 -7
50-54 5086 4964 +122
55-59 4909 4804 +105
60-64 3723 3725 -2
65-69 3005 3114 -109
70- 3036 2919 +117

(単位:千円)
(2014年と2015年の「第12表 業種別及び年齢階層別の給与所得者数・給与額」から作成、https://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/minkan2015/minkan.htmhttps://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/minkan2014/minkan.htm

民間給与状況は2014年から2015年で全体的には改善傾向にあるものの、40代後半と60代で平均給与が減少しています。60代での減少は定年後再雇用による給料減の影響と考えられますが、40代後半については、40代前半が4万円増、50代前半が12万円増という中ではかなり異質な状況に思えます。
そこで正社員数の増減を含めて検討してみると、40代後半の正社員数は2014年から2015年(10月基準)で10万人増、民間給与実態調査の基準月と合わせて12月基準としても13万人増(421→434万人)ですから、40代後半の正社員数が増えたことにより平均的な給与水準が下がったことが推測できます。
これらを考察すると、2014年から2015年にかけて30代後半の正社員が職を失う一方で、40代後半で低い給与水準の正社員数が増えた可能性が高いように思えます。

2015年から2016年にかけての正社員数増加に貢献しているのは、年齢・性別に見ると、40代後半男性(+16万人)、30代前半女性(+10万人)、40代後半女性(+8万人)、50代前半女性(+8万人)、18-19歳男性(+7万人)、40代前半女性(+7万人)、50代後半男性(+6万人)です。
これに対して、30代後半女性(-10万人)、30代後半男性(-7万人)のみが大きく減少しています。

より詳細な検討が必要でしょうが、大雑把に推測するなら、昇給・昇格を検討しなければならない年代である30代後半の正社員を切り捨て、経験者であろう40代後半男性・40代後半女性・50代前半女性を低水準給与で正社員雇用したり、大卒より高卒を正社員雇用したりしたという感じでしょうか。
30代前半女性の雇用が増えた点についてはよくわかりませんが(2014年から2015年にかけてはほとんど増えていない)、子育て支援に関連しているのかも知れませんし、すぐ上での世代(30代後半女性)で10万人減っていることから退職者の穴埋めとなっているのかも知れません。
これらについては業種別の変化なども踏まえて慎重に検討する必要があるでしょう。

2014年から2016年までの傾向

30代後半正社員が31万人減少、40代後半正社員が34万人増加というのが顕著な傾向として現れています。性別を考慮すると、30代後半男性正社員が26万人減少、40代後半男性正社員が25万人増加、30代前半・50代前半・50代後半の女性正社員が10〜11万人増加、というのが顕著な傾向となっています。

30代後半正社員だけがなぜ減ったのかについては、労働政策として慎重に検討し改善する必要があるでしょうね。


追加(2016/12/1)

人口分布の指摘を受けましたので、それを考慮して再検討し、同年齢幅の人口に対する正社員数の比率で年次比較してみました。
その結果はこんな感じです。

2016 2014 Chg 2016 Male 2014 Male Chg Male 2016 Female 2014 Female Chg Female
15-17 0.3% 0.3% +0.0% 0.6% 0.5% +0.0% 0.0% 0.0% +0.0%
18-19 12.2% 9.6% +2.6% 15.7% 12.1% +3.7% 8.1% 7.1% +1.0%
20-21 21.4% 20.2% +1.2% 23.2% 22.1% +1.1% 20.2% 19.0% +1.1%
22-24 50.0% 47.4% +2.6% 53.3% 48.4% +4.9% 46.3% 46.4% -0.1%
25-29 60.7% 57.1% +3.6% 71.2% 68.6% +2.6% 49.5% 44.8% +4.7%
30-34 57.0% 53.3% +3.8% 74.0% 70.9% +3.1% 39.8% 35.1% +4.6%
35-39 53.1% 52.9% +0.2% 73.9% 74.4% -0.5% 31.8% 30.8% +1.1%
40-44 52.2% 50.2% +2.0% 74.0% 72.0% +2.0% 29.8% 27.8% +2.0%
45-49 49.7% 49.7% +0.1% 70.7% 70.7% +0.1% 28.4% 28.5% -0.1%
50-54 48.0% 46.0% +1.9% 68.0% 66.8% +1.3% 27.8% 25.1% +2.7%
55-59 42.9% 40.4% +2.5% 61.4% 59.2% +2.2% 24.9% 21.8% +3.1%
60-64 18.2% 15.4% +2.8% 26.7% 22.6% +4.1% 10.2% 8.4% +1.8%
65-69 6.3% 6.0% +0.3% 8.3% 8.3% +0.0% 4.4% 3.8% +0.6%
70-74 3.4% 2.5% +0.9% 3.5% 3.0% +0.5% 3.3% 2.1% +1.2%
75-79 1.5% 1.4% +0.1% 1.7% 1.4% +0.3% 1.4% 1.4% -0.1%
80-84 0.4% 0.6% -0.2% 0.5% 0.5% +0.0% 0.6% 0.7% +0.0%
85- 0.2% 0.2% +0.0% 0.6% 0.7% -0.1% 0.3% 0.0% +0.3%

男女全体では30代後半と40代後半で増加率が少ないものの、それ以外の18〜64歳集団では人口に対する正社員率が増加傾向にありました。
絶対数での正社員数の減少は人口分布の影響が大きいことがわかります。
ただし男女別でみると、30代後半男性で正社員率が減少しており18〜64歳集団では唯一の減少となっています。このあたりの原因はよくわかりません。
正社員率の増加幅が大きいのは、新卒(18-19、22-24)男性で3.7%、4.9%という値を示しています。女性では25〜34歳で4.7〜4.6%の増加を示しています。25〜34歳では男性も比較的高い増加幅を示しています(2.6〜3.1%)ので、男女とも25〜34歳での正社員率が増加していると言えるでしょう。一方で、新卒女性では正社員率の変化は小幅あるいは微減となっており、新卒については男性求人の方が優先されていることが示唆されています。