オーストラリア家庭裁判所サイトに掲載されている離婚後養育計画の作成の際に考慮されるべき原理

千田氏の「オーストラリアの親子断絶防止法は失敗した―小川富之教授(福岡大法科大学院)に聞く(千田有紀 | 武蔵大学社会学部教授(社会学) 、12/12(月) 6:36 )」と言う記事が例によって恣意的に感じましたので、オーストラリアの家庭裁判所のサイトをちょっと見てみました。

Parenting cases - the best interest of the child

When a court is making a parenting order, the Family Law Act 1975 requires it to regard the best interests of the child as the most important consideration. Parents are encouraged to use this principle when making parenting plans.

裁判所が監護命令を決める際、家族法1975は、子どもの最善の利益を最も重要な考慮事項として考えることを求めている。離婚する両親が養育計画を立てる場合もこの原理を用いることを推奨する。

The Family Law Act makes clear that:
•both parents are responsible for the care and welfare of their children until the children reach 18, and
•there is a presumption that arrangements which involve shared responsibilities and cooperation between the parents are in the best interests of the child.

家族法は、以下の2点を明記している:
・子どもが18歳になるまで子どもの監護と福祉に双方の親が責任を負う。
・両親間で責任を分担し協力する取決めが子どもの最善の利益に適うことを前提とする。

See Section 61DA of the Act for more detail.

Two tiers of consideration

In deciding what is in the best interest of a child, the Act requires a court to take into account two tiers of considerations – primary considerations and additional considerations:

2段階的で考慮されるべき内容

何が子どもの最善の利益にあたるかを決定する際、同法は裁判所に優先考慮事項と追加考慮事項という2段階での考慮を求めている。

Primary considerations:

•The benefit to children of having a meaningful relationship with both parents.
•The need to protect the child from physical or psychological harm from being subjected to, or exposed to, abuse, neglect or family violence.
•The Court is required to give greater weight to the consideration of the need to protect children from harm.

優先考慮事項:

・双方の親と有意義な関係を持つことによる子どもの利益
・虐待、ネグレクト、家庭内暴力に巻き込まれたりさらされたりするという物理的あるいは心理的な被害から子どもを保護する必要性
・裁判所は、被害から子どもを保護する必要性の考慮により大きな重みを与えるべきと考えている。

Additional considerations:

•The child’s views and factors that might affect those views, such as the child’s maturity and level of understanding.
•The child’s relationship with each parent and other people, including grandparents and other relatives.
•The willingness and ability of each parent to facilitate and encourage a close and continuing relationship between the child and the other parent.
•The likely effect on the child of changed circumstances, including separation from a parent or person with whom the child has been living, including a grandparent or other relatives.
•The practical difficulty and expense of a child spending time with and communicating with a parent.
•Each parent’s ability (and that of any other person) to provide for the child’s needs.
•The maturity, sex, lifestyle and background of the child and of either of the child’s parents, and any other characteristics of the child that the Court thinks are relevant.
•The right of an Aboriginal and Torres Strait Islander child to enjoy his or her culture and the impact a proposed parenting order may have on that right.
•The attitude of each parent to the child and to the responsibilities of parenthood.
•Any family violence involving the child or a member of the child’s family.
•Any family violence order that applies to the child or a member of the child’s family, if:
◦the order is a final order, or
◦the making of the order was contested by a person.
•Whether it would be preferable to make the order that would be least likely to lead to further court applications and hearings in relation to the child.
•Any other fact or circumstance that the Court thinks is relevant.

追加考慮事項:

・子ども自身の視点とその視点に影響を与える、例えば子供の成熟度と理解度といった要因。
・子どもとそれぞれの親との関係、及び子どもと祖父母やその他の親戚を含めたその他の人との関係。
・子どもと他方の親との緊密かつ継続的な関係を促進、奨励しようとする親の意欲と能力。
・子どもを親や子どもと一緒に生活している人(祖父母や他の親族を含む)から分離することを含む状況の変化が子どもに与える影響。
・子どもが親と一緒に過ごす、あるいは通信をする上での困難さやその費用。
・子どもが必要とすることを提供できる親(及び他の人)の能力。
・成熟度、性別、ライフスタイルや子供のと子の両親のいずれかの生活背景、及び裁判所が関連すると考える子どものあらゆる特徴。
アボリジニトレス海峡諸島の子どもが自身の文化を楽しむ権利、及び提案された監護命令がその権利にあたえる影響。
・それぞれの親の子どもに対する態度と親の責任に対する態度。
・子どもや子どもの家族に対するあらゆる家族内暴力。
・子どもや子どもの家族に適用されるあらゆる家庭内暴力停止命令(family violence order *1):
 --命令が最終命令である場合
--命令作成が争われた結果である場合
・子どもとの関係について裁判所によるさらなる調査やヒヤリングがされる可能性がほとんどない命令を作成することが好ましいか否か。
・裁判所が関連性があると考えことを他のあらゆる事実・状況。

A court must consider the extent to which each parent has or has not previously met their parental responsibilities, in particular:
•taken the opportunity to:
◦participate in decision-making about major long-term issues about the child
◦spend time with the child.
•communicate with the child, and has:
◦met their obligations to maintain the child, and
◦facilitated (or not) the other parent’s involvement in these aspects of the child’s life.

裁判所はそれぞれの親が親としての責任を果たしてたか、あるいは果たしていなかったか、を判断しなければならない。特に以下の程度を考慮する。
・子どもに関する重要で長期的な問題について意思決定に参加したか、子どもとどの程度の時間を過ごしたか
・子どもと関わり、子どもの状態を維持する義務を果たし、かつ子どもの人生において他方の親の関わりを促したか(否か)

If the child’s parents have separated, a court must consider events and circumstances since the separation.

もし子どもの両親が既に分離している場合は、裁判所は分離以降の事象および状況を考慮しなければならない。

http://www.familycourt.gov.au/wps/wcm/connect/fcoaweb/family-law-matters/family-law-in-australia/parenting-cases-the-best-interests-of-the-child/

Primary considerationsのところが、小川富之教授の言ってる部分にあたると思います。
ただ、それ以外の部分も重要で、日本の家庭裁判所は考慮事項をここまで詳細に公開・明記して対応していないんですよね。それに日本のように民法中に申し訳程度に書かれている家族関連の条項ではなく、単独の家族法が存在し、その中に「・子どもが18歳になるまで子どもの監護と福祉に双方の親が責任を負う。」「・両親間で責任を分担し協力する取決めが子どもの最善の利益に適うことを前提とする。」と明記されているのは重要です。
それに日本で親子断絶防止法に賛成している人たちでも「The need to protect the child from physical or psychological harm from being subjected to, or exposed to, abuse, neglect or family violence.」を否定している人はいないと思うんですよ。
むしろ、日本の家裁が上記オーストラリア家裁のように、明確なガイドラインを基に親権者を決め、面会交流を決めるというのであればむしろ歓迎するんじゃないでしょうか。

共同親権を求めることを「時代に逆行した動き」と評するのは曲解くさい

小川教授はこんなことを言っています。

現状の日本の民法では、766条で離婚に際して夫婦で子の監護について話し合うことを規定しています。必要があれば、離婚後に父母が協力して、共同での監護をすることも可能です。

http://bylines.news.yahoo.co.jp/sendayuki/20161212-00065383/

ここで重要なのは「必要があれば」と判断するのは誰なのか、という点です。現実的に日本では、子どもの身柄を押さえている同居親が単独で判断していますよね。家裁が判断するわけじゃありませんし、そもそも同居親があくまで拒絶すれば、誰も強制できません。
そして、その同居親の拒絶が、子どもの最善の利益に適っているかどうかは誰も判断していません。そこを無視しているのはおかしいですね。

(共同)親権や(共同)監護問表現についても、理解を改める必要があります。21世紀に入ってからは、共同監護の問題性がとくに問題になっており、親の権利性の抑制、どのようにして軽減していくかということが大きな課題となっています。オーストラリアでも名称が、親権(Parental Authority)から共同監護(Joint Custody)、そして分担親責任(Shared Parental Responsibility)へと変わってきています。手を携えて共同(joint)での監護(Custody)を必要とする場面は否定しませんが、父親、母親、また監護親、非監護親、主たる監護と従たる監護といったような、さまざまな親の立場から子どもへの責任を分かち合う(share)という考え方への転換です。それなのに日本で共同親「権(利)」を目指すといったような、このような時代に逆行した動きが、なぜいま出てくるのか、それが大きな驚きでもあります。

http://bylines.news.yahoo.co.jp/sendayuki/20161212-00065383/

この辺はちょっとおかしなことを言っています。まず、親権(Parental Authority)という言葉の問題ですが、日本での親権も別に親の権利という意味合いは既に薄れていて、子を育てる義務のような意味合いの方が強いでしょう。ただ、民法上に法律用語として「親権」と記載されているに過ぎません。親子断絶防止法に賛成している人たちが求める共同親権というのは、別に用語が共同監護(Joint Custody)でも分担親責任(Shared Parental Responsibility)でも、法律上にちゃんと明記されるのであれば構わないと思いますよ。
そもそも先進国はことごとく共同親権制度を採っているのに、日本で共同親権を求めたら「時代に逆行した動き」と決め付けるのはおかしくないですか?

それに「共同監護の問題性がとくに問題になって」いると言っているわけですが、オーストラリアを初め、共同親権から単独親権に戻してはいないわけですよね?
単独親権よりは共同親権共同親権よりも共同監護の充実、共同監護の充実も親の権利の側面よりも子の最善の利益を優先、と言う風に進化しているという考え方の方が自然で、日本の単独親権制度の方が優れているかのような誤導はおかしいと思いますよ。

小川教授も「子どものいる夫婦は、自分たちが別居するときに、子どもの養育をどのようにするかについて、まず話し合いをすることが求められます」と認めちゃってるんですよね。

最後の質問に対する小川教授の回答です。(強調は引用者)

また離婚原因をつくった有責配偶者からの離婚を認めないという有責主義的な規定がまだ残っている日本の離婚制度を、まず変えなくてはならないでしょう。一定の期間を別居すれば、夫婦関係の破綻が推定される「法定別居制度」が採用され、離婚のときに相手方の有責性を攻撃する必要のない国では、夫婦の葛藤を抑制できています。子どものいる夫婦は、自分たちが別居するときに、子どもの養育をどのようにするかについて、まず話し合いをすることが求められます。必要があれば、家庭問題センターといったような専門機関が関与し、家庭裁判所でのカウンセリングも受けられます。離婚の場面で夫婦間の葛藤を続けながら、子どもの養育問題については、協力していきましょうといったようなことは、簡単ではありません。

http://bylines.news.yahoo.co.jp/sendayuki/20161212-00065383/

「有責主義的な規定」については本来ここに記載する必要はないはずですが、わざわざ書いていることで逆に興味深かったりもします。ちなみに「日本の最高裁が昭和62・9・2判決において有責配偶者からの離婚請求を一定の要件の下で認めている」*2という話もありますので記述そのものの信ぴょう性もちょっとアレです。
それはともかく、小川教授の認識によれば、「有責主義的な規定がまだ残っている」から「離婚のときに相手方の有責性を攻撃」し、結果として離婚後に高葛藤になるというロジックですよね。
双方が離婚に同意していれば有責性の有無は問題になりませんから、ここで問題としているのは有責配偶者からの離婚請求に相手が応じない場合ですよね。小川教授は「法定別居制度」を採用すれば、有責配偶者からの離婚請求に相手が応じなくても離婚を成立させられるので、高葛藤にならない、という前提を立てているわけですが、それって有責配偶者側の葛藤は緩和されるでしょうけど、相手の葛藤は逆に高くなるという視点には欠けてますよね。
まして、有責配偶者が子どもを確保し親権者となってしまえば、相手の憎悪を煽るようなものでしょう。
その状態で、葛藤が緩和された有責配偶者側が子どもの面会交流に積極的になるというのはかなり無理筋ですよね。それこそダーシー・フリーマン(Darcey Freeman)事件を彷彿とさせるのですがね。
小川教授は、母親に有責性があっても離婚を認め、親権も母親に与えるという前提で話しているとしか思えず、かなり気持ち悪い設定です。
子どもにとって重要なのは両親の葛藤が緩和されることであって、「法定別居制度」採用で子どもを連れ去った有責配偶者の方だけ緩和したって意味がないでしょう。

まあ、小川教授はここまで色々言ってきていますが、終盤でこう言ってます。
「子どものいる夫婦は、自分たちが別居するときに、子どもの養育をどのようにするかについて、まず話し合いをすることが求められます」

はい、これはそう思います。

でも現状、それが出来ませんよね?
話し合いもせず、勝手に子どもを連れ去るという実力行使で別居を始めて、家裁がそれを黙認して親権を連れ去り側に与えてしまうという運用がされていることが問題なので、連れ去る前にちゃんと話し合いで、子どもの養育をどのようにするかについて決めるよう求めているのが親子断絶防止法案ですよね。

何で小川教授が親子断絶防止法に反対なのかさっぱりわかりません。