「「オーストラリアの親子断絶防止法は失敗した―小川富之教授(福岡大法科大学院)に聞く(千田有紀) 」での小川教授発言で違和感のある場所について。
2つ目。
最も残念なことは、このような法律を作っても、面会交流は全体としては大きな増減はありませんでした。法律がなくても離婚後の取り決めが可能な争いのない人たち、このような人たちが多数派なのですが、彼らににとっては、法律の変更はあまり関係のないことだからです。逆に、葛藤の高い夫婦の比率が増し、問題解決の困難さが高まりました。言い換えると、高葛藤事例で、潜在的に様々な問題を抱えている人たちの面会交流が増えてしまったのです。
http://bylines.news.yahoo.co.jp/sendayuki/20161212-00065383/
2006年改正によっても「面会交流は全体としては大きな増減はありませんでした」?
オーストラリアの「Children aged 0-17 years with a natural parent living elsewhere, Contact arrangements, 1997, 2003, 2006–07, 2009–10」という統計を確認してみると、面会交流頻度の推移は以下のようになっています。
面会頻度(千件(%)) | 1997 | 2003 | 2006-07 | 2009-10 |
---|---|---|---|---|
毎日*1 | 47(5) | 63(6) | 45(4) | 50(5) |
週1回*2 | 227(23) | 298(28) | 234(23) | 259(24) |
2週に1回*3 | 153(16) | 183(17) | 165(16) | 199(19) |
月1回*4 | 73(7) | 64(6) | 72(7) | 74(7) |
3ヶ月に1回*5 | 83(9) | 84(8) | 67(7) | 65(6) |
半年に1回*6 | 50(5) | 51(5) | 44(4) | 42(4) |
年1回*7 | 51(5) | 56(5) | 42(4) | 41(4) |
それ以下/皆無*8 | 291(30) | 283(26) | 292(28) | 253(24) |
全体*9 | 978(100) | 1082(100) | 1035(100) | 1063(100) |
面会交流の頻度が年1回以下、又は皆無となっていた子どもは2006-07年統計では28%程度でしたが、2009-10年統計では24%まで下がっています。統計表には統計的に有意で無い場所には注釈が付いていますが、この部分にはついていませんので統計的には有意だということになります。小川教授は「全体としては大きな増減はありません」という漠然とした言い方なので、間違いとまではいえないかも知れませんが、文脈を踏まえるなら2006年改正法は面会交流を促す効果があったと言うべきだと思います。
ちなみに、2012-13年統計をABS (2015), Family characteristics survey, 2012-13, Catalogue no. 4442.0*10から、頻度をあわせて示すと以下のようになります。
面会頻度(%) | 1997 | 2003 | 2006-07 | 2009-10 | 2012-13 |
---|---|---|---|---|---|
毎日/週1回*11 | 28.0 | 33.4 | 27.0 | 29.1 | 31.0 |
2週に1回*12 | 15.6 | 16.9 | 15.9 | 18.7 | 18.8 |
月1回*13 | 7.5 | 5.9 | 7.0 | 7.0 | 6.1 |
3〜12ヶ月に1回*14 | 18.8 | 17.7 | 14.8 | 13.9 | 15.9 |
それ以下/皆無*15 | 29.8 | 26.2 | 28.2 | 23.8 | 28.2 |
全体*16 | 100.0 | 100.0 | 100.0 | 100.0 | 100.0 |
面会交流がそれ以下/皆無の子どもの比率は、2011年改正により2006年改正以前と同程度に戻ったと言えそうです。
それにしても週1回以上の面会が3割、月1回以上だと5割を超えるというのは、日本の現状から見れば別世界ですね。
日本の場合はこんな感じ(2011年調査)*17。
面会頻度(%) | 日本(2011) | オーストラリア(2012-2013) |
---|---|---|
月2回以上 | 6.9 | 47.8 |
月1回 | 11.1 | 7.0 |
年1回*18 | 17.1 | 13.9 |
それ以下/皆無*19 | 64.9 | 23.8 |
小川教授のいう「法律がなくても離婚後の取り決めが可能な争いのない人たち」というのを年1回以上は面会できる人たちとみなすと、オーストラリアでは「法律がなくても離婚後の取り決めが可能な争いのない人たち」7割以上いるのに対し、日本には4割弱しかいない、ということになりますね。
千田氏のように面会できないのはDV加害者だからという主張を敷衍すると、日本の離婚家庭の3分の2で別居親はDV加害者だということになりますね。それに対してオーストラリアは4分の1以下ということになります。
離婚する日本人別居親はよほど凶暴なのでしょうかね?
これでおかしいとか思わないんですかねぇ・・・。
参照:
オーストラリアの2009-10年までの統計
http://www.abs.gov.au/AUSSTATS/abs@.nsf/DetailsPage/4442.02009-10?OpenDocument
“Children aged 0-17 years with a natural parent living elsewhere, Contact arrangements, 1997, 2003, 2006–07, 2009–10 ”
オーストラリアの2012-13年の統計
https://aifs.gov.au/facts-and-figures/parent-child-contact-after-separation
*1:Daily
*2:Not daily but at least once a week
*3:Not weekly but at least once a fortnight
*4:Not fortnightly but at least once a month
*5:Not monthly but at least once every 3 months
*6:Not every 3 months but at least once every 6 months
*7:Not every 6 months but at least once a year
*8:Less than once a year/never
*9:Total children 0–17 years with a natural parent living elsewhere
*10:https://aifs.gov.au/facts-and-figures/parent-child-contact-after-separation/parent-child-contact-after-separation-source-data#face
*11:Daily/weekly
*12:Fortnightly
*13:Monthly
*14:Once every 3-12 months
*15:Less than once a year/never
*16:Total
*17:http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kodomo/kodomo_kosodate/boshi-katei/boshi-setai_h23/dl/h23_19.pdf から計算
*18:日本の統計で「2〜3ヶ月に1回以上」「4〜6ヶ月に1回以上」「長期休暇中」となっている世帯数の割合
*19:日本の統計で「別途協議」「その他」「行ったことがない」「不詳」となっている世帯数の割合