民主党政権期(2012年)における就業者数の減少に関する総務省統計局の説明

失業率は重要な指標だとアベノミクス信者の誰かが言っていましたが、完全失業率民主党政権期から減少傾向だと指摘されると、民主党政権期の減少と安倍政権期の減少では質が違う、と言い出し、就業者数のグラフを出してくるというのは、見苦しいと思うんですよね。
だったら、最初から就業者数こそが重要な指標だと主張すれば良いわけですから。

就業者数の推移

松尾匡氏のサイトにこう書かれています。

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 これは民主党政権期と安倍政権期の対比が一層クリアです。リーマンショック後、民主党政権期は停滞しています。漸減し続けていると言ってもいい。それに対して、安倍政権期に入ると一転して増加しています。現在、さすがにまだ生産年齢人口(1995年がピーク)が今よりずっと多かった1997年の最高値には及んでいませんが、リーマンショック前の水準は超えており、この調子では遠からず史上最高値を記録しそうです。しつこいようですが、少子高齢化して生産年齢人口全体が減ったら、就業者数も減るのが自然です。なのに増えているということです。

http://matsuo-tadasu.ptu.jp/essay__170403.html

松尾氏の上記記載は、アベノミクスを賞賛する文脈ではありますが、民主党政権期を悪し様に言ってるわけでもありません。ですが、このグラフを使って、アベノミクスを擁護し、民主党政権期を暗黒時代であったかのように語る論者は結構います。
例えば、片岡剛士氏はこういうことを言っています。

「2015年の日本経済と経済政策を振り返る」(片岡剛士 / 計量経済学

民主党政権時における完全失業率の改善(-1.1%pt)は、就業者数減少(+0.74%pt)、非労働力人口の増加(-1.62%)、15歳以上人口の減少(-0.22%pt)により生じたものである。いうなれば景気の悪化が進むことで就業者数が減り、非労働力人口が増えることで職を求める人々が労働市場から退出したことがこの時期の失業率改善の理由である。

https://synodos.jp/economy/15846

要するに民主党政権期の完全失業率低下は、「就業者数が減り、非労働力人口が増えること」が原因であり、景気の悪化を意味している、という説です。

しかし、この認識はそもそも正しいのでしょうか?
労働力調査を実施している総務省統計局は、2012年の就業者数についてこのような見解を示しています。

労働力調査の結果を見る際のポイント No.15

2012年の就業者数は、人口変動が減少に寄与

~人口変動と就業率~ 就業者数の対前年増減の要因分解
(略)

3.2012年の就業者数は、就業率上昇で35万人増加、人口変動で54万人減少

 以上のような人口変動と就業率の変化を踏まえ、就業者数の対前年増減を人口変動要因と就業率要因に分解すると、人口変動要因は、2000年までは増加に寄与していましたが、2001年以降は一貫して減少に寄与しています。就業率要因は、景気拡張期の2004~07年においては増加に寄与し、景気後退期に入った後の1998~99年、2001~02年及び2009年においては減少に寄与しています(ただし、その動きは景気変動にやや遅行して現れています。)。
 2012年平均の就業者数は前年に比べ19万人減少となりました。これは、就業率が上昇して就業者数の35万人増加に寄与した一方、高齢化や少子化などの人口変動が就業者数の54万人減少に寄与したことによるものといえます。
 2012年平均における要因をさらに分解すると、人口変動要因については、人口増減要因は15歳以上人口の減少が8万人減少に寄与しており、年齢構成変化要因は65歳以上人口の拡大が32万人減少(男性が17万人減少、女性が15万人減少)に寄与し、15~64歳人口もその縮小により男女とも減少に寄与しています。一方、就業率要因については、男女いずれの年齢層においても就業率は上昇して増加に寄与しており、特に15~64歳の女性が23万人増加に寄与しています。
(略)

http://www.stat.go.jp/data/roudou/pdf/point15.pdf

これはつまり、2012年の就業者数は確かに減少したけれども、その原因は人口変動による影響が大きく、人口変動を考慮した就業率については上昇している、ということです。
また、就業者数の対前年増減の要因分解の説明では、「就業率要因は、景気の拡張期は増加に、後退期は減少に寄与(ただし、やや遅行して)」と書かれています。

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http://www.stat.go.jp/data/roudou/pdf/point15.pdf

民主党政権期(2010年~2012年)において就業率要因はプラスであり、就業者数の漸減は人口変動という政策と無関係の要因によるということになりますし、もちろん民主党政権期における完全失業率の低下が景気の悪化によるものではない、ということになります。

ちなみに、2012年の就業率を押し上げた要因は15~64歳の女性の就業率上昇でした。これがものすごく寄与しているんですが、就業者で見るとマイナスになっています。それについて統計局は次のように説明しています。

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※5 2012年平均の15~64歳の女性の就業者数は、前年に比べ8万人減少していますが、それを大幅に上回る人口の減少(女性の15~64歳人口は前年に比べ52万人減少)があるために、就業率は上昇して、就業者数の対前年の増加に寄与する結果となっています(男性の方は15~64歳人口が前年に比べ50万人減少、就業者数も35万人減少と、女性よりも就業者数が大きく減少しています。)。

http://www.stat.go.jp/data/roudou/pdf/point15.pdf

ごく単純な話として、就業者数というのは人口変動の影響を当然に受けるわけですから、本来なら就業者数ではなく就業率をベースに話をするべきだと思うんですが、アベノミクスを特別視したい人にとっては、政権交代前後に変曲点が見いだせる就業者数のグラフというのはとても魅力的だったのでしょうね。