朝鮮学校無償化除外に関する大阪地裁判決に関する雑感

朝鮮学校を無償化対象外にした国の処分を取り消す判決(7月28日 17時55分)」に関する件。
NHK記事についたブクマにあまりにも理解できてなさそうなのが多かったので。

7月19日の広島地裁判決と真逆の判決が出た大阪地裁ですが、法の趣旨からいえば朝鮮学校を除外した国の処分取り消しを命じた大阪地裁判決の方が妥当です。

元々はこの法律です。

高等学校等就学支援金の支給に関する法律

(平成二十二年三月三十一日法律第十八号)
(目的)
第一条  この法律は、高等学校等の生徒等がその授業料に充てるために高等学校等就学支援金の支給を受けることができることとすることにより、高等学校等における教育に係る経済的負担の軽減を図り、もって教育の機会均等に寄与することを目的とする。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H22/H22HO018.html

高校無償化法第1条にある通り「高等学校等における教育に係る経済的負担の軽減を図り、もって教育の機会均等に寄与すること」が目的です。ですから、「外交的、政治的意見に基づいて対象から排除」すれば、それは法の趣旨に反することになり論外で、国側も裁判ではそのような主張を避けています。

では、そもそも国はどういう根拠で朝鮮学校を無償化対象から除外したのでしょうか。

「高等学校等」の定義

高校無償化法第2条に定義があります。

(定義)
第二条  この法律において「高等学校等」とは、次に掲げるものをいう。
一  高等学校(専攻科及び別科を除く。以下同じ。)
二  中等教育学校の後期課程(専攻科及び別科を除く。次条第三項及び第五条第三項において同じ。)
三  特別支援学校の高等部
四  高等専門学校(第一学年から第三学年までに限る。)
五  専修学校及び各種学校(これらのうち高等学校の課程に類する課程を置くものとして文部科学省令で定めるものに限り、学校教育法 (昭和二十二年法律第二十六号)第一条 に規定する学校以外の教育施設で学校教育に類する教育を行うもののうち当該教育を行うにつき同法 以外の法律に特別の規定があるものであって、高等学校の課程に類する課程を置くものとして文部科学省令で定めるもの(第四条及び第六条第一項において「特定教育施設」という。)を含む。)

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H22/H22HO018.html

この五号「専修学校及び各種学校」の定義を省令第1条第二号で定めていました。

(新旧対照表から改正前の内容)

高等学校等就学支援金の支給に関する法律施行規則

(平成二十二年四月一日文部科学省令第十三号)
第一条  高等学校等就学支援金の支給に関する法律 (平成二十二年法律第十八号。以下「法」という。)第二条第五号 に掲げる専修学校及び各種学校のうち高等学校の課程に類する課程を置くものとして文部科学省令で定めるものは、次に掲げるものとする。
一 専修学校の高等課程
二 各種学校であって、我が国に居住する外国人を専ら対象とするもののうち、次に掲げるもの
 イ 高等学校に対応する外国の学校の課程と同等の課程を有するものとして当該外国の学校教育制度において位置付けられたものであって、文部科学大臣が指定したもの
 ロ イに掲げるもののほか、その教育活動等について、文部科学大臣が指定する団体の認定を受けたものであって、文部科学大臣が指定したもの
 ハ イ及びロに掲げるもののほか、文部科学大臣が定めるところにより、高等学校の課程に類する課程を置くものと認められるものとして、文部科学大臣が指定したもの

http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=185000617&Mode=2

省令第1条第2号イに相当するのが「外国人学校」、同ロに相当するのが文部科学大臣が指定する団体の認定を受けている「インターナショナルスクール」、同ハに相当するのがロ以外の「インターナショナルスクール」や「コリア国際学園」、「朝鮮学校」です*1

ここで省令第1条第2号ハで求められている要件は「高等学校の課程に類する課程を置くものと認められるもの」であって、その詳細は、2010年11月5月の文部科学大臣決定「公立高等学校に係る授業料 の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律施行規則第 1条第1項第2号ハの規定に基づく指定に関する規程」に定められています。
第2章で指定の基準を定めており、第2条から第13条まであります。
第2条から第11条まで(修業年限、授業時数、同時に授業を行う生徒、授業科目、教員数、教員の資格、校地、校舎、校舎面積、設備)は物理的な要件で「外交的、政治的意見」が入り込む余地はありません。
第12条(情報の提供)は学校運営に関する情報提供を他の無償化対象の学校と同様に行うことを求める内容です。
第13条は適正な学校運営に関する条項ですが、その具体的な内容は以下の通りです。

(適正な学校運営)
第 13条 前条に規定するもののほか、指定教育施設は、高等学校等就学支援金の授業料に係る債権の弁済への確実な充当など法令に基づく学校の運営を適正に行わなければならない。

http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/22/11/__icsFiles/afieldfile/2010/11/10/1299000_01_1.pdf

支援金を授業料に充当する義務を課している条文ですが、もちろん無償化対象となった後に、支援金を授業料以外に流用していることが発覚した場合に無償化対象から除外できる根拠条文であって、最初から無償化対象から除外することを正当化できる条文ではありませんね。

というわけで、高校無償化法に従う限り朝鮮学校を無償化対象から除外することは出来ないのはわかりきった話です。
菅政権は2010年11月に朝鮮学校が無償化対象とするかの審査プロセスを停止し、朝鮮学校に対する差別を容認しましたが除外を決定することまではできず、2011年8月には審査手続き再開を命じています*2

朝鮮学校に対する差別政策を引き継いだ第二次安倍政権

2012年12月に政権を奪取した安倍政権は、組閣後2回目の閣議で朝鮮学校に対する差別政策を固定することを決定しました。

朝鮮学校は無償化の対象外に 文科相表明

2012/12/28付
 下村博文文部科学相は28日の閣議後の記者会見で、高校授業料無償化制度を朝鮮学校に適用しない方針を正式に表明した。「拉致問題の進展がないことや朝鮮総連と密接な関係があり、現時点で無償化を適用することは国民の理解を得られない」と説明した。
 その上で「都道府県知事の認可を受け学校教育法1条に定める日本の高校となるか、北朝鮮との国交が回復すれば適用の対象になる」と述べた。
 無償化の対象を定めた文部科学省令のうち「外国人学校が高校に類する課程を持つと文科相が認めた場合に適用する」とした規定は削除する。28日から来月26日まで一般から意見を公募した上で、2月上旬にも朝鮮学校側に不指定を伝える。
 朝鮮学校は10校が早期の適用を求めていた。適用外とした場合、民事訴訟に発展するとの見方も出ている。
 現時点で無償化を適用している外国人学校39校については、これまで通り無償化対象とする。

http://www.nikkei.com/article/DGXNASDE28001_Y2A221C1EB1000/

そして2013年2月に朝鮮学校を無償化対象とするための根拠条文であった省令第1条第二号ハを下村文科相が削除します*3

(新旧対照表から改正で削除された内容)

高等学校等就学支援金の支給に関する法律施行規則

(平成二十二年四月一日文部科学省令第十三号)
第一条  高等学校等就学支援金の支給に関する法律 (平成二十二年法律第十八号。以下「法」という。)第二条第五号 に掲げる専修学校及び各種学校のうち高等学校の課程に類する課程を置くものとして文部科学省令で定めるものは、次に掲げるものとする。
二 各種学校であって、我が国に居住する外国人を専ら対象とするもののうち、次に掲げるもの
 ハ イ及びロに掲げるもののほか、文部科学大臣が定めるところにより、高等学校の課程に類する課程を置くものと認められるものとして、文部科学大臣が指定したもの

http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=185000617&Mode=2

ところが、そうすると朝鮮学校以外のハに相当する学校であるロ以外の「インターナショナルスクール」や「コリア国際学園」も無償化対象除外となってしまいます。安倍政権は朝鮮学校のみを狙い撃ちにして差別することが目的ですから、それを避けるために次のような附則をつけました。

附 則 (平成二五年二月二〇日文部科学省令第三号)

(施行期日)
1  この省令は、公布の日から施行する。
(経過措置)
2  この省令の施行の際現にこの省令による改正前の公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律施行規則第一条第一項第二号ハの規定による指定を受けている各種学校については、同令の規定は、当分の間、なおその効力を有する。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H22/H22F20001000013.html

つまり、改正前の省令第1条第二号ハに相当して無償化対象となっていたロ以外の「インターナショナルスクール」や「コリア国際学園」は、この省令改正した2013年2月20日時点で現に指定を受けていたため、省令第1条第二号ハが削除されても「当分の間、なおその効力を有する」という扱いで無償化対象とされたわけです。
むろん、2013年2月20日時点でなお審査未了であった朝鮮学校には「その効力」は生じません。

まさに朝鮮学校のみを狙い撃ちにして差別する安倍政権らしい卑怯なやり方です。

しかし、このように朝鮮学校のみを狙い撃ちにした理由として、下村大臣が「拉致問題の進展がないことや朝鮮総連と密接な関係が」あることを挙げ、「北朝鮮との国交が回復すれば適用の対象になる」と述べたことで、この2013年2月20日の省令改正自体が外交的・政治的判断による学校選定を行うものであることは明白となり、その結果上位法の目的に抵触することになりました。

「教育の機会均等に寄与することを目的とする」高校無償化法の施行規則で、外交的・政治的判断で教育の機会を不均等にする措置を認めては逸脱でしかありません。

まさに大阪地裁判決のいう「教育の機会均等の確保とは無関係な外交的、政治的判断に基づいて省令を制定しており、無償化に関する法律の趣旨を逸脱するもので違法で無効だ」がド正論ということになります。

「裁判で、国は「外交的な理由で授業料の実質無償化から外したわけではなく、判断に誤りはない」と反論していました」*4とありますが、なら一体どういう理由で2013年2月20日の省令改正を行ったのか、その辺の裁判での国側の主張には興味があります。


その他

省令はその後も改正されて、当初第2号だった部分は第4号に移っています。

高等学校等就学支援金の支給に関する法律施行規則

(平成二十二年四月一日文部科学省令第十三号)
第一条  高等学校等就学支援金の支給に関する法律 (平成二十二年法律第十八号。以下「法」という。)第二条第五号 に掲げる専修学校及び各種学校のうち高等学校の課程に類する課程を置くものとして文部科学省令で定めるものは、次に掲げるものとする。
一  専修学校の高等課程
二  専修学校の一般課程であって、次に掲げる教育施設の指定を受けたもの
イ 保健師助産師看護師法 (昭和二十三年法律第二百三号)第二十二条第一号 に規定する学校又は同条第二号 に規定する准看護師養成所
ロ 調理師法 (昭和三十三年法律第百四十七号)第三条第一項第一号 に規定する調理師養成施設
ハ 製菓衛生師法 (昭和四十一年法律第百十五号)第五条第一号 に規定する製菓衛生師養成施設
三  各種学校であって、前号イからハまでに掲げる教育施設の指定を受けたもの
四  各種学校であって、我が国に居住する外国人を専ら対象とするもののうち、次に掲げるもの
イ 高等学校に対応する外国の学校の課程と同等の課程を有するものとして当該外国の学校教育制度において位置付けられたものであって、文部科学大臣が指定したもの
ロ イに掲げるもののほか、その教育活動等について、文部科学大臣が指定する団体の認定を受けたものであって、文部科学大臣が指定したもの

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H22/H22F20001000013.html

あと憲法89条違反とか言ってる人もいますが「憲法89条後段「公の支配」の意味」を見る限り、違憲と断定できる話じゃありませんし、89条違反を言い始めると教育基本法から違憲ということになりますからねぇ。