自分が相手の立場だったらどうするか、という基本的な思考ができればわかる話

この件。
北朝鮮「スリーパー・セル」を恐れる必要はない(2/20(火) 17:32配信、 ニューズウィーク日本版)
まあ、まともな内容です。
「かつてイギリスの情報機関トップが、当時CIA諜報員だった私に、自分たちの最大の武器は「神話だ」と言って笑ったことがある」などのくだりは面白いですよね。

記事を書いているグレン・カール氏の「元CIA諜報員」という肩書きが説得力を持たせていますが、そこまでの肩書きが無くとも三浦瑠麗氏の“スリーパー・セル”発言が信憑性のないデタラメであることはわかります。

日本の国際政治学者・三浦瑠麗が、もし北朝鮮との戦争が始まり、最高指導者の金正恩が「殺されたのが分かったら、一切外部との連絡を絶って、都市で動き始めるスリーパー・セルというテロリスト分子がいる。ソウルでも、東京でも。もちろん大阪でも」と、テレビでコメントしたという。

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180220-00010004-newsweek-int

自分が金正恩だったら「自分が死んだら敵国で騒動を起こせ」なんて命令出すか?

まあ、私が金正恩の立場だったらそんな無意味な命令出しませんね。出すとすれば、自分が殺されるような事態を避けるための命令を出すでしょう。例えば、日米韓などの攻撃によって北朝鮮が崩壊あるいは最高指導者である自分が殺害されるような事態を避けるために、北朝鮮が崩壊したら海外に潜んでいる工作員が騒動を起こすかも知れないという疑念を日米韓の世論に植えつけようとするでしょうね。
その場合、知名度の高い言論人に偽装させたスリーパーを使って「金正恩が「殺されたのが分かったら、一切外部との連絡を絶って、都市で動き始めるスリーパー・セルというテロリスト分子がいる」」などと訴えるのが効果的ですね。
とすると、三浦氏自身が北朝鮮のスリーパーなのか、スリーパーに踊らされているのか、踊らされるまでもなく勝手に踊っているのか、どれもありそうで困る・・・。

それ以外だと、北朝鮮が日本にミサイル攻撃したらどうする!核兵器化学兵器などの大量破壊兵器を使ったらどうする!と言って戦争勃発時の脅威を煽るのも効果的でしょう。日本の極右勢力は脅威を誇張することで平和憲法破棄や軍備拡張を図っているわけですが、その論調は脅威を誇張することで北朝鮮に対する強硬姿勢を逡巡させる意図での誇張と紙一重の差もないといえます。
自分が金正恩の立場だったら日本極右のこういった論調はむしろ内心歓迎するでしょうね。こちらの軍事力を実態以上に誇張して宣伝してくれるわけですから。しかも無償で。こちらがやる必要もありません。

で、自分が金正恩の立場だったら実際にスリーパーにどんな命令出すかと言えば、基本的な情報収集と資金工作くらいでしょうね。日朝交渉の糸口を探すような工作も本来ありえますが、既にその線をあてにはしてないんじゃないですかね。

自分がスリーパーだったら金正恩からの「自分が死んだら敵国で騒動を起こせ」なんて命令聞くか?

スリーパーとして日本社会に溶け込んでいるのに、北朝鮮が崩壊したり金正恩が死んだりした後に日本社会での生活を投げ出してテロを起こすかと言えば、自分なら絶対やらないですね。自分を監視・命令する主体が崩壊するのに、何で安全な環境を棄てる必要があるのかと言う話で。
既に公安に尻尾をつかまれてる状況なら、率先して日本側に情報提供する側に回りますし、そうでないならそ知らぬ顔して日本社会での“普通”の市民としての生活を続けるでしょうね。

上記のようなことは別段特別な知識なんか無くても、自分が相手の立場だったらどうするか、と考えるだけでわかる話です。

ところで国際政治学の基本的な考え方というのは国家を主体とした将棋みたいなものですが、当然、相手ならどう考えるかという思考は重要です。対戦相手が自分に都合よく駒を動かすことなどなく、相手は相手自身の生存に最も効果的な手を打つわけですから、相手側の思考を読むというのは必須です。それが出来ない棋士はヘボ棋士と言っていいでしょう。同じように、相手国の思考をろくに読めないような国際政治学者は多分、ヘボ学者ですね。




北朝鮮「スリーパー・セル」を恐れる必要はない

2/20(火) 17:32配信 ニューズウィーク日本版

ターゲット国の社会に溶け込む工作員は、殺人や妨害活動を目的としているのではない

北朝鮮はおそらく、日本の社会にスリーパー(潜伏スパイ)を送り込んでいる。また、イギリスのタブロイド紙デイリー・メールが薄っぺらな記事で指摘したように、北朝鮮は暗号化されたメッセージをスパイたちに送っているようだ。
だが、スリーパーがテロリスト化するだろうか。
日本の国際政治学者・三浦瑠麗が、もし北朝鮮との戦争が始まり、最高指導者の金正恩が「殺されたのが分かったら、一切外部との連絡を絶って、都市で動き始めるスリーパー・セルというテロリスト分子がいる。ソウルでも、東京でも。もちろん大阪でも」と、テレビでコメントしたという。
冒頭で述べたように、日本に北朝鮮のスリーパーがいること、そして北朝鮮が(日本だけでなく)各国にいるスパイに向けて暗号メッセージを送っていることはおそらく事実だろう。だが、日本にいる北朝鮮のスリーパーを恐れる必要はまずない。最悪の場合、1、2人が殺されるかもしれないが、その程度だろう。
かつてイギリスの情報機関トップが、当時CIA諜報員だった私に、自分たちの最大の武器は「神話だ」と言って笑ったことがある。史上最強のスパイ、ジェームズ・ボンドの小説や映画のおかげで、イギリスの情報機関は実際よりもはるかに有能だと思われている。そのイメージが、彼らに大きなパワーを与えてくれているというのだ。
人間は想像力が豊かなだけではない。自分の理解を超える現象を前にしたとき、本能的に筋の通る「ストーリー」を見つけて説明しようとする。そこに不安(この場合北朝鮮との緊張)が加わると、タブロイド紙の記者も教養ある学者も、「北朝鮮のスリーパー・セル」なるものをリアルな不安として大々的に取り上げるようになる。
そもそもスリーパーとは、ある国に長期にわたり送り込まれる工作員のことだ。事前に任務を言い渡されているが、ジェームズ・ボンドのように手際よく任務をこなして帰国するスパイとは違う。スリーパーはターゲット国の社会に完全に溶け込み、本国から指示があるまで、ひたすら「普通の生活」を送る。
一般に、全体主義的な国は民主主義国よりも、スリーパーをたくさん使う傾向がある。工作員にとっても、民主主義国での長期生活には魅力が多い。

「美し過ぎるスパイ」の場合

<ロシアの美人スリーパー>
通常、スリーパーはターゲット国で、与えられた任務に近い分野の仕事を得ようとする。そして、一見したところ愛国的な市民という隠れみのを作り、その国の国家安全保障関係者に取り入り、政府の「計画や意向」に関する情報を引き出す。
スリーパーがターゲット国で就く仕事と、本国から与えられた任務が全く異分野の場合もある。例えば自動車修理工場で働いているけれど、最終的な任務はほかのスパイの脱出作戦を実行することかもしれない。
最近の有名なスリーパーとしては、10年にアメリカで逮捕されたロシアの「美し過ぎるスパイ」アンナ・チャップマンがいる。彼女の任務は、欧米諸国の男と結婚して、姓を変えて、アメリカに移住して、普通の生活を送りつつ、世界の金融の中枢に入り込むことだった。
だから彼女は、アレックス・チャップマンというイギリス人と結婚して、姓を変え(旧姓はクシュチェンコ)、イギリスの市民権を取得し、離婚して、アメリカに移住した。そしてニューヨークの金融業界でばりばり働き、貴重な情報を与えてくれそうな男がいれば、自分の体を差し出して手に入れた。
チャップマン逮捕後にロシア側の関係者が明らかにしたところによると、チャップマンはオバマ政権高官をたぶらかし、アメリカの外交情報を手に入れようとしていた。

<「もし」を重ねる危険性>
日本に潜伏する北朝鮮のスリーパーは、もっと恐ろしい任務を与えられているという。その主張に裏付けはないが、北朝鮮による拉致問題や、外国での殺人や韓国への攻撃が、その主張にもっともらしさを与えている。
だが実際には、スリーパーはターゲット国に長期間滞在し、その社会と文化に深く組み込まれてしまうため、いざ作戦開始の指令が出ても「普通の生活」を続けたがることがよくある。
また、カウンターインテリジェンス(防諜)に従事する者は、複数の「もし」をつなげて考える危険性を忘れてはならない。「もしXが事実なら、Yも事実かもしれない。そしてYが事実なら、Zも事実かもしれない。そして......」というわけだ。こうした思考プロセスはよくあるもので、本来なら信じ難いこと、つまりスリーパー・セルが動き出して国家を脅かすというとっぴな脅威が、目前に迫っているように感じられてしまう。

スリーパーの主目的は情報収集

だが、スリーパーはほぼ例外なく、チャップマンのように社会への浸透を図るものであり、暗殺や妨害工作をするわけではない。逆に、そんなことができる急襲チームを長年無難な仕事に就けて潜伏させておくのは、極めて難しい。ハリウッド映画ではあるかもしれないが、現実にはほぼあり得ない。
日本の防諜担当者なら、北朝鮮から暗号放送が流れてくること、そして日本にはさまざまなタイプの北朝鮮工作員がいることを知っているだろう。また、暴力的な任務を与えられたスリーパーも理論的にはいるかもしれないが、基本的には情報収集が主目的であることを知っているだろう。そして北朝鮮で戦争が起きても、日本にいるスリーパーの脅威が跳ね上がることはまずないと知っているだろう。
確かにスパイ活動は、目に見えない闇の世界だ。そしてスリーパーは確かに存在する。だが、平均的な日本人がそれを眠れないほど心配する必要はない。それは日本の防諜機関の仕事だ。彼らが今この瞬間も、北朝鮮の暗号メッセージを分析してくれているはずだ。
<本誌2018年2月27日号[最新号]掲載>
グレン・カール(本誌コラムニスト、元CIA諜報員)

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180220-00010004-newsweek-int