北朝鮮関連問題に関する大雑把な予測

平昌五輪以降の北朝鮮問題の進展がとにかく早いという印象。
五輪から南北首脳会談につなげるのはある程度想像できましたが、4月とは思いませんでしたし、その後5月頃米朝首脳会談が約束されるというのも予想外でした。
そして拙速という感じではなく、十分な根回しがされている印象もあり、文政権が政権発足1年もせずにここまで準備したことに感嘆せざるを得ません。

五輪前までの予測としては、五輪で南北融和が図られたとしても、その後米韓合同演習などで再び緊張状態となって南北首脳会談にこぎつけるまでに何ヶ月もかかり、米朝首脳会談も期待だけで実現は難しいかな、というものだったんですけどね。

もちろんまだ予断は許さない状況なのは確かですが、色々と出されてるシグナルがまず好意的な感じですので、良い方向に動くと言う期待をある程度持って良いかなと思っています。
良い方向というのは具体的には、朝鮮半島における軍事的な緊張状態の緩和のための朝鮮戦争終戦協定の締結、在韓米軍の段階的撤退と同時に北朝鮮核兵器の段階的放棄の開始の合意、合意履行期間における核実験・弾道ミサイル実験の停止、米韓演習への北朝鮮軍のオブザーバー参加あたりと考えています。
中距離弾道ミサイルについては、朝鮮戦争が正式に終結すれば完全廃棄の必要性はなく、それによって日本の安全保障が脅かされることもないと考えますので、この件で日本が余計な主張をすべきとは思いません。
拉致問題に関しても、軍事的緊張が緩和され、南北・米朝関係が正常化した後の交渉で特に問題は生じないと考えます。正常化までに何年も待つ必要があるならともかく、南北・米朝首脳会談を待ってからでも遅くはないでしょう。今の今まで圧力一辺倒を主張しろくな交渉もしていなかったんですから。

米朝首脳会談に関する北朝鮮の公式発表がない点

もともと言論の自由がなく、事前に米朝会談の開催についてあれやこれやの意見を交わす環境が北朝鮮国内にありませんから、公式発表がないこと自体をいぶかしむ必要はあまり無いと思います。
というより、北朝鮮の政治状況・言論状況を踏まえれば、北朝鮮政府が米朝首脳会談について発表するのは、会談での成果が十分に期待できる程度に下準備(水面下での事前交渉)が固まってからと考えるべきだと思いますよ。北朝鮮政府としては、“我らの指導者が米国と交渉して偉大な成果を持ち帰った”と報じたいわけでしょうから。そして当然、下準備の段階で不首尾ならば、そもそも首脳会談の予定があったことも報じられない、と。
北朝鮮国内にどう報じるべきか悩んでいるとか政府内に反対派がいるからだとか、はあまり実態を表していないんじゃないかなと思います。

目標は朝鮮戦争終戦協定

南北首脳会談で終戦後の南北関係の大枠について合意し、米朝首脳会談で終戦協定の方針を確認し、その後、米朝韓で正式に終戦協定を交わすという流れになるかなと予測しています。まあ、半分は願望だと思ってください。
今回、中朝首脳会談が行われたのは、朝鮮戦争での同盟国として終戦協定の方針で合意しておく意味合いがあったんじゃないかなと見ています。だからこそ、“敵国”である韓国や米国よりも先に会談しておく必要があったんじゃないかと。

朝鮮戦争終戦協定であれば関係国は、韓国、北朝鮮、米国、中国の4カ国です。但し、中国は国家として参戦したわけではないので、3カ国という見方もできます。*1
それを考慮したと見られるのが、2007年10月の金正日盧武鉉の首脳会談での「南北関係の発展と平和繁栄のための宣言」(2007年10月4日)です。

 4、南と北は、現休戦体制を終わらせ、恒久的な平和体制を構築すべきだとの認識をともにし、直接関連した3者または4者の首脳が韓半島地域で会い、終戦を宣言する問題を推進するため協力していくことにした。
 南と北は、韓半島の核問題を解決するため、6者会談の9・19共同声明と2・13の合意が順調に履行されるよう共同で努力することにした。

http://www.mindan.org/front/newsDetail.php?category=4&newsid=8840

「直接関連した3者または4者」というのは、韓国、北朝鮮、米国またはその3カ国に中国を加えた4カ国を指します。
韓国政府が主導している現状の動きは、2007年10月4日の南北宣言の4項を目指していると見ると説明しやすいように思えます。そう考えると今回の中朝首脳会談も、韓国政府にとっては想定内かあるいは予定の行動であって、現在も尚一連の情勢の主導権を韓国が握っているということになります*2

その意味で重要だなと思ったのが以下のニュース。

[速報]北朝鮮「金委員長が習主席に訪朝要請…受諾」

3/28(水) 8:55配信 聯合ニュース
[速報]北朝鮮「金委員長が習主席に訪朝要請…受諾」

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180328-00000007-yonh-kr

米朝首脳会談がどこで開かれるのか未定ですが、まず南北境界線か中国あたりが有力でしょうから、そのいずれであっても米朝首脳会談の場に中国首脳が参加することが可能になります。そして、会談の場が板門店であれば、米朝首脳会談にあわせて中国首脳が訪朝することで韓国首脳を含めた四者会談が可能です。2007年10月4日の南北宣言の4項の実現にはおあつらえ向きの舞台でしょう。
と思っていたら、四者会談に言及するような状況にまでなってました*3。やはり早いなぁ。

核問題の解決

日本政府やメディアなどでは北朝鮮が実際に核放棄するまでは圧力を、という論調が出ていますが、核放棄するための具体的な処理やその確認などの作業を考慮すれば、それらが対北強硬派が満足するレベルまで確認されない限り、軍事的圧力をかけ続けるというのは現実的ではありません。
強硬派は北朝鮮に無条件降伏させて武装放棄させるつもりかもしれませんが、北朝鮮はそんなつもりではないでしょうし、客観的にもそうではありませんからねぇ。
あくまで対等の立場での終戦である、というスタンスで会談に臨むはずですから、国内に向けてリップサービスするくらいならともかく協議の場で城下の誓いを迫るが如き態度では合意は成立しません。

その意味では現状況下で、拉致問題や中距離弾道ミサイルで騒ぐ日本は緊張緩和の妨害要因でしかないでしょう。
ただ、安倍日本政府にとって朝鮮半島の軍事的緊張は解決してほしくはないでしょうから、外交的手段での妨害はある意味当然の対応ですし、場合によってはトンキン湾事件のようなものをでっち上げる可能性すら否定できないでしょうね。



*1:休戦協定に署名した軍人の所属国ということであれば、韓国を除いた3カ国とも言えますが、現状で韓国を除外した選択肢はまあ無いので無視していいでしょう。

*2:突然の中朝首脳会談、先を越された韓国は・・・」とかいった韓国が焦ってるかのような報道がありますが、本文記載の理由により多分そんなことはなかろうと思っています。

*3:http://japan.hani.co.kr/arti/politics/30191.html