養育費算定の見直しは良いと思うが、どの程度社会情勢の変化を考慮するのかなど懸念点もある

この件。
養育費算定、見直し検討 社会情勢の変化考慮 最高裁司法研修所(8/28(火) 8:00配信 産経新聞)

記事にもありますが現状、養育費・婚姻費用の算定表には裁判所作成のものと日弁連作成のものの二種類があります。

養育費・婚姻費用算定表(裁判所)
(PDF)養育費・婚姻費用算定表(裁判所)
養育費・婚姻費用算定表(日弁連新算定方式)
(PDF)養育費・婚姻費用算定表(日弁連新算定方式)

いずれも監護親・非監護親の収入、子どもの人数・年齢に応じて算定する方式になっており、簡易的な指標としては有用だと思います。

ところで記事には「社会情勢の変化も踏まえて再検討する」とありますが、具体的な記載がありませんので、その辺が気になるところです。

懸念点1.ステップ・ファミリーを考慮するのかどうか

既存の算定表は、監護親・非監護親の収入、子どもの人数・年齢を考慮しているものの、両親が離婚後に再婚したケースについては明確な記載がなく、再婚後に子供が出来た場合や再婚相手に連れ子がいる場合などを考慮していません。
算定表の見直しに際して、その辺を考慮するのか、それとも例外扱いとするのか、気になるところです。

法的には、再婚しても養子縁組しない限り*1再婚相手には連れ子の扶養義務が発生しないようですが*2、その運用を今後も続けるのか、その辺りも本来検討すべきでしょう。

また非監護親が再婚して再婚相手との子を設ける場合もありますが、その場合非監護親にとっては扶養すべき実子が増えるわけです。その場合、監護していない子と監護している子に対する扶養義務をどのように考えるのか、その辺の指針も示されることが望ましいですね。

懸念点2.養育費の義務性を高めるのならば、その使い方について非監護親の意見も反映されるべきだが。

養育費に関する話題として出てくるのは「養育費を確実に取り立てる方法」と「最低生活費を保障」できる額に、という2点が多く、それ自体の方向性は間違っていないのですが、本来なら養育費の使い道について非監護親の意見も反映されるべきという点についてはほとんど話題にあがりません。

非監護親には「子に自分と同程度の生活水準を保障する義務」(生活保持義務)があるわけですが、文字通り解釈するならば、決められた養育費を負担するだけでその義務を果たしたことにはなりません。監護親が事故やトラブルで多額の出費が必要になった場合、「子に自分と同程度の生活水準を保障する」ためには、決められた養育費とは別個に支援する義務が発生すると考えるべきでしょう。
事故やトラブルが原因での追加出費ならば非監護親としても納得しやすいでしょうが、これが監護親による無計画な出費によって生活が困窮した場合は納得しがたいでしょうね。
金銭感覚の不一致は離婚原因の一つ*3でもあり、当事者同士で解決させるのは無理があるでしょう。非監護親がつつましく生活しているにもかかわらず、監護親が浪費した結果、子どもの生活水準が下がった場合、非監護親にこれを支援する義務があるのか、という問題が生じます。非監護親が再婚して子どももいた場合、再婚後の子どもにつつましい生活をさせながら将来の蓄えを残そうとしていたにもかかわらず、浪費していた監護親側の子どもに対して、再婚後の子どものための資金を切り崩してまで支援すべきかと問題になると、なかなか困難な話になります。

非監護親からすれば、監護していない子どもに対する扶養義務という形で財布に穴が開いているようなもので、そこを適切にコントロールできるかどうかが監護親次第という状況になっているわけです。
本来ならば、監護していない子どものためにどのように費用を使うか監護親と協議すべきで、非監護親の意見も反映した形で用いられるべきですが、現状では、それを担保する法的な仕組みはありません。扶養義務が課されているにもかかわらず、その費用の用途に関して非監護親が関与できない状況では、非監護親は将来設計をすることが困難になりますし、ある意味では財産権が侵害されている状態とも言えます。
ですので、本来ならば共同養育・共同親権といった対応も同時に進めていくべきだろうと思いますね。

残念ながら、日本で養育費義務化・増額を主張している人たちの多くは共同養育・共同親権に反対のようなんですけどね。
どうも、子どものためにどういう制度がいいかというよりも、いかにして監護親の権利を拡大するかにしか興味が無さそうで困ります。



養育費算定、見直し検討 社会情勢の変化考慮 最高裁司法研修所

8/28(火) 8:00配信 産経新聞
 離婚する際に夫婦が取り決める子供の養育費について、最高裁司法研修所がこれまで裁判で広く活用されてきた算定方法の見直しを検討していることが27日、分かった。裁判の現場では、平成15年に裁判官らの研究会が発表した「簡易算定方式」が主流となってきたが、この間の社会情勢の変化も踏まえて再検討する。算定方法が見直されれば、裁判所の判断に大きな影響を与えそうだ。
 司法研修所が今年7月から始めたのは「養育費、婚姻費用の算定に関する実証的研究」。東京、大阪家裁の裁判官4人を研究員に選び、研究期間は来年3月29日まで。5月中をめどに報告書をまとめる予定だが、公表方法などは未定だ。
 離婚する際の子の養育費は本来、夫婦が話し合って決めるが、まとまらなかった場合は家裁などに養育費支払いを申し立てることになる。養育費の算定方法は法令で定められているわけではなく、それぞれのケースで離婚理由など諸事情を考慮した上で複雑な計算をし、時間もかかっていた。
 こうした中、15年に裁判官らの研究会が法律雑誌に「簡易算定方式」を発表。夫婦の収入と子供の年齢や人数ごとに、子供と離れて暮らす親が支払うべき養育費の目安を表で示したもので、素早い紛争解決につながるとして、裁判の現場に広く定着してきた。
 簡易算定方式では、夫婦の総収入から税金や経費を差し引いた金額を「基礎収入」として養育費を算出する。基礎収入は総収入の4割程度となるため、「養育費が低すぎる」「税率改正や物価変動を反映していない」という指摘もあった。
 これに対し、日本弁護士連合会が28年11月に発表したのが「新算定方式」。総収入から差し引く経費に住居費や保険料を含めないことで、基礎収入が総収入の6、7割程度となり、算出された養育費が簡易算定方式の約1・5倍となる内容だ。
 ただ、「簡易算定方式でも減額を申し立てる親は多い。新算定方式は『養育費を増やす』という結論ありきで、支払えない人が増えるのではないか」(ベテラン裁判官)との声もある。
 現在、裁判所内は簡易算定方式が主流だが、弁護士が依頼者の状況に応じて簡易算定方式だけでなく、新算定方式を主張することも少なくない。

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 早稲田大の棚村政行教授(家族法)の話「司法研修所の報告がまとまれば、現場に一定の指針を与え、混乱を回避することができる。日本の養育費は諸外国に比べても、最低生活費を保障していない。諸外国のように、裁判所だけでなく厚生労働省財務省など関係機関が連携しながら、定期的な改訂が必要だ。併せて、養育費を確実に取り立てる方法についても議論されるべきだ」

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 養育費と婚姻費用 養育費は、子供を引き取っていない親が支払うべき費用。婚姻費用は、家庭生活を維持するために必要な費用で、別居中の生活費も含まれる。民法は、子と離れて暮らす親に「配偶者や子に自分と同程度の生活水準を保障する義務」(生活保持義務)を定めている。離婚の際に具体的な金額は話し合いで決めるが、まとまらなければ、養育費支払いを命じるよう求める家事審判などを申し立てることができる。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180828-00000506-san-bus_all