立憲民主党が安倍政権による消費増税実施表明を批判した論理

安倍首相が10%への消費増税実施を表明した10月15日に、立憲民主党は枝野代表の記者会見内容をアップしています。
消費増税「この段階で決めることに全く理解できない。2度延期した状況と何も変わっていない」枝野代表(2018年10月15日)

 枝野幸男代表は15日夕、都内でラジオ番組出演後に記者団の取材に応じ、安倍総理が同日の臨時閣議で表明した2019年10月に消費税率を10%に引き上げる方針などについて答えました。

Q:(消費増税)消費税率10%に引き上げを閣議で表明したことについて

A:この段階でそれを決めることについて全く理解できません。中長期的な意味でも、消費不況の状況から脱却できていません。心理的な要素の大きい消費不況の状況で消費税を上げれば経済に大変大きな打撃を与える。それは2度自民党政権が延期をした状況と何も変わっていない。なのになんで今回は上げるのか。しかも足元では、アメリカの株価が大きく下がっているという状況で、世界経済全体に対するリスクが高まっているのに、ここでこういう判断を確定させるというのは理解できません。

https://cdp-japan.jp/news/20181015_0942

現状では消費増税できる状況ではないという指摘ですね。過去に2度安倍政権が延期した時と経済状況がどれほど違うというのか、というわけです。

Q:(消費増税民主党政権時代に10%への道筋をつけたが、今回先送りに対して反対。そのこと整合性については

A:社会保障の財源に充てるということが、実はお金に色はついていませんので、法人所得税であるとか、あるいは他の税目で税収が減っている分を穴埋めしていることになってしまっていて、結果的に社会保障の財源に充てるという約束が守られていない。したがって3党合意は前提が崩れていると思っています。

https://cdp-japan.jp/news/20181015_0942

こういう質問に対してもちゃんと答えていますね。2012年の3党合意の前提が崩れているという理由で実際その通りでしょう。

こういう発言に対して「増税を決めた当事者であるという事実を反省も謝罪もしないのはよくない」*1とか言ってる人もいますが、そういう人に限って、3党合意の当事者である自民党公明党には反省や謝罪を求めないんですよねぇ。


Q:(消費増税)消費税増税に関して、どのような対応をとるべきだとお考えでしょうか

A:番組の中でも申し上げましたが、勘ぐれば参院選挙の直前にやっぱり上げないと言い出すのではないかという見方もあります。これは中小の流通業者、小売業者の皆さんに様々な投資をこれから余儀なくさせるわけですから、そうなったときの責任は一層重いということも含めて、きちっと今上げる状況ではないということを迫っていって、1日も早く今日の閣議決定を撤回させることに向けて努力していきたいと思っています。

https://cdp-japan.jp/news/20181015_0942

参院選挙の直前にやっぱり上げないと言い出すのではないか」というのは、個人的には一番可能性が高いんじゃないかなぁと思ってます。安倍政権が2012年の3党合意にあった景気弾力条項を削除したのも、結果から見れば選挙利用目的で増税延期を利用するためでしたしね。

Q:(消費増税)キャッシュレス決済で2%還元するという案が盛り込まれていますが、これについては

A:まさにいつもやっている金持ち優遇じゃないですか。一番消費税で打撃を受けると思われる、例えば年金生活者の皆さんなどがカードを使って決済をすることに慣れていらっしゃるか。その人達に無理やりカードを作らせるのか。それからさらに言うと、少額の日常の買い物でカード決済をいちいちできるのか。なおかつ中小零細の小売業者がそれに対応できるのか。全く暮らしの足元を見ていない、草の根を見ていないことの象徴的な愚策だといわざるを得ません。

https://cdp-japan.jp/news/20181015_0942

この辺は社民党などとも共通する認識ですね。消費増税で打撃を受ける低所得層ではなく高所得層を優遇するという安倍式景気対策の矛盾です。

まあ、ネット民のどれほどがこの辺のことを理解しているのか・・・。


「消費税増税そのものは民主党政権時代に決められたもので、もしそのまま実行されていればとっくに10%に上がっていたはずのところ、安倍政権は二度延期したわけです。」とかいうデマ。

twitter.com
こんなことを言ってる人がいますが、2012年の3党合意時には景気弾力条項がありましたから、そんなわけないんですよね。

○消費税率の引上げに当たっての措置(附則第18条)

消費税率の引上げに当たっては、経済状況を好転させることを条件として実施するため、物価が持続的に下落する状況からの脱却及び経済の活性化に向けて、平成23年度から平成32年度までの平均において名目の経済成長率で3%程度かつ実質の経済成長率で2%程度を目指した望ましい経済成長の在り方に早期に近づけるための総合的な施策の実施その他の必要な措置を講ずる。

この法律の公布後、消費税率の引上げに当たっての経済状況の判断を行うとともに、経済財政状況の激変にも柔軟に対応する観点から、第2条及び第3条に規定する消費税率の引上げに係る改正規定のそれぞれの施行前に、経済状況の好転について、名目及び実質の経済成長率、物価動向等、種々の経済指標を確認し、前項の措置を踏まえつつ、経済状況等を総合的に勘案した上で、その施行の停止を含め所要の措置を講ずる。

https://www.mof.go.jp/about_mof/bills/180diet/sh20120330g.htm

したがって、2014年4月の消費税率8%への増税についても「施行の停止を含め所要の措置を講ずる」ことが出来ました。ところが2013年10月、安倍首相はこんなことを言って増税方針を表明したわけです。

 本日、私は、消費税率を法律で定められたとおり、現行の5%から8%に3%引き上げる決断をいたしました。社会保障を安定させ、厳しい財政を再建するために、財源の確保は待ったなしです。だからこそ昨年、消費税を引き上げる法律に私たち自由民主党公明党は賛成をいたしました。
 ただし、直近のデータによれば、民間給与はわずかに上昇傾向に転じましたが、景気回復の実感はいまだ全国津々浦々までには波及してはいません。この中で増税を行えば、消費は落ち込み、日本経済はデフレと景気低迷の深い谷へと逆戻りしてしまうのではないか。結局、財政規律も社会保障の安定も悪い方向へと行きはしまいか。
 最後の最後まで考え抜きました。足元の日本経済はどうか。次元の違う三本の矢の効果で回復の兆しを見せています。2期連続で3%以上のプラス成長、有効求人倍率も0.95まで回復しました。生産も消費も、そしてようやく設備投資も持ち直してきています。15年間にわたるデフレマインドによってもたらされた日本経済の縮みマインドは変化しつつある。であれば、大胆な経済対策を果断に実行し、この景気回復のチャンスをさらに確実なものにすることにより、経済再生と財政健全化は両立し得る。これが熟慮した上での私の結論です。
(略)
 経済の再生と財政健全化、この2つを同時に達成するほかに、私たちには道はありません。本日決定した経済政策パッケージは、そのためのベストシナリオである、私はそう確信をしています。(略)

https://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/statement/2013/1001kaiken.html

安倍政権は「次元の違う三本の矢の効果で回復の兆しを見せています。2期連続で3%以上のプラス成長、有効求人倍率も0.95まで回復しました。生産も消費も、そしてようやく設備投資も持ち直してきています。15年間にわたるデフレマインドによってもたらされた日本経済の縮みマインドは変化しつつある。」という認識の下、「大胆な経済対策を果断に実行し、この景気回復のチャンスをさらに確実なものにすること」で8%への増税に耐えられると主張して、増税を決定したんですよね。

twitter.com
とか言ってる人は、なぜ安倍首相に対して「8%に上げたら影響が大きかった。増税を決めたのは誤りだった」と認めるように求めないんでしょうかね。
安倍首相は2013年10月1日の記者会見では記者からの質問に答える形で以下のように言ってます。

安倍総理
 税制抜本改革法において、2015年10月に10%へ消費税率を引き上げていくことが規定されておりますが、その引上げについては、改めて附則第18条にのっとって経済状況等を総合的に勘案して、判断時期も含めて、適切に判断していきたい、決断していきたいと考えています。

https://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/statement/2013/1001kaiken.html

安倍首相の総合的な判断は間違っていたわけですよね。なぜそれを批判しないかなぁ。

ちなみに民主党は安倍首相が2013年10月に8%への増税を表明した時点で既に批判しています。

 海江田万里代表は1日夜、党本部で記者会見し、安倍総理が同日夕に来年4月に消費税率を8%に引き上げる方針を表明したことを受けて発言し、民自公の3党で合意した消費税の増税分は社会保障と税の一体改革に充てるとされていた本来の使い道が間違った方向に行く懸念があることに危機感を示した。

https://www.dpj.or.jp/article/103280/%E6%B6%88%E8%B2%BB%E7%A8%8E%E5%A2%97%E7%A8%8E%E3%81%A7%E5%BE%97%E3%82%8B%E7%A8%8E%E9%87%91%E3%81%AE%E4%BD%BF%E3%81%84%E9%81%93%E3%81%8C%E9%96%93%E9%81%95%E3%81%A3%E3%81%9F%E6%96%B9%E5%90%91%E3%81%AB%E8%A1%8C%E3%81%8F%E6%87%B8%E5%BF%B5%E3%81%8C%E3%81%82%E3%82%8B%E3%80%80%E4%BC%9A%E8%A6%8B%E3%81%A7%E6%B5%B7%E6%B1%9F%E7%94%B0%E4%BB%A3%E8%A1%A8

社民党なんかはもっと明確に2013年10月1日付で「国民生活を破綻に追い込む消費税増税の撤回を求める(談話)」を出してますしね。

そして2014年、安倍政権によって景気弾力条項が無効にされました。

平成26年11月18日
安倍内閣総理大臣記者会見
安倍総理
 来年10月の引き上げを18カ月延期し、そして18カ月後、さらに延期するのではないかといった声があります。再び延期することはない。ここで皆さんにはっきりとそう断言いたします。平成29年4月の引き上げについては、景気判断条項を付すことなく確実に実施いたします。

http://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/statement/2014/1118kaiken.html

これ以降、消費増税延期は選挙の度に自民党の集票行為に利用されるようになりました。まず、2014年11月に10%への増税を1年半延期することを餌にして2014年12月の衆院選を行い、2016年5月にはさらに2年半延期する「新しい判断」を掲げて、2016年7月の参院選に利用しました。
消費増税延期は安倍政権の選挙のための道具に堕しましたが、そのため中止にもできず実施の条件として経済状況を課すことも出来なくなり、2019年10月には経済状況がどうであろうが、実施しなければならない状態に陥ったわけですよね。
安倍政権が景気弾力条項を無効にしなければ、再々延期だって与野党合意の上でできたでしょうに。

まあ、財務省陰謀論という神話を信じてるような人たちには理解できないでしょうが。