「GPSによる位置情報取得」だけなら処罰されるべきではないと思う

この件。

ストーカー GPSで情報取得、規制は可能か 割れる司法判断

2018年10月4日
 別居中の妻の車にGPS(全地球測位システム)機器を取り付けて居場所を確認したなどとして、ストーカー規制法違反に問われた男の裁判で、福岡高裁が9月20日、GPSによる位置情報取得は同法が規制する「見張り」に当たらないとの判断を示した。40代の被害女性は夫の暴力から逃れた先をGPSによって繰り返し突き止められていた。判決後、毎日新聞の取材に応じた女性は「判決には納得できない」と語った。
(略)

https://mainichi.jp/articles/20181004/mog/00m/040/001000c

詳細がわからないのですが、「車にGPS(全地球測位システム)機器を取り付けて居場所を確認した」ことをストーカー規制法上の「見張り」だと解釈するのはちょっと無理があると思います。

ストーカー規制法
(定義)
第二条 この法律において「つきまとい等」とは、特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、当該特定の者又はその配偶者、直系若しくは同居の親族その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者に対し、次の各号のいずれかに掲げる行為をすることをいう。
一 つきまとい、待ち伏せし、進路に立ちふさがり、住居、勤務先、学校その他その通常所在する場所(以下「住居等」という。)の付近において見張りをし、住居等に押し掛け、又は住居等の付近をみだりにうろつくこと。
二 その行動を監視していると思わせるような事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。
三 面会、交際その他の義務のないことを行うことを要求すること。
四 著しく粗野又は乱暴な言動をすること。
五 電話をかけて何も告げず、又は拒まれたにもかかわらず、連続して、電話をかけ、ファクシミリ装置を用いて送信し、若しくは電子メールの送信等をすること。
六 汚物、動物の死体その他の著しく不快又は嫌悪の情を催させるような物を送付し、又はその知り得る状態に置くこと。
七 その名誉を害する事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。
八 その性的羞恥心を害する事項を告げ若しくはその知り得る状態に置き、その性的羞恥心を害する文書、図画、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下この号において同じ。)に係る記録媒体その他の物を送付し若しくはその知り得る状態に置き、又はその性的羞恥心を害する電磁的記録その他の記録を送信し若しくはその知り得る状態に置くこと。

http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=412AC1000000081&openerCode=1

むしろ本件の場合、2号の「その行動を監視していると思わせるような事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと」とか、あるいはGPSで知った情報をもとに「待ち伏せ」していたと言う意味での1号に抵触するんじゃないかと思うのですが、そちらの方での訴えは無かったのかなぁという疑問。
ですので、無罪判決が出たというならおかしいと思いますが、そうではなくて訴因の一部について、検察側の解釈が認められなかったというのなら、それほどおかしな判決とは思えません*1

追及するべきは何点かありますが、GPSを取り付けること自体については民事的にプライバシーの侵害を問うことくらいしかできません*2ので、この辺については、不当な目的を持ってGPSを取り付ける行為を処罰できるようにした方が良いように思います*3
また、GPSで得た情報をもとに、1号に相当する行為を行えば、それについては「つきまとい等」と当然みなされるべきでしょう。さらにGPSで監視していることを「知り得る状態」にした場合も同様です。本件の場合も、GPSで監視されているとしか思えない状態だったわけですから、「知り得る状態」だと解釈されるべきだと思います。

ただ、「GPSによる位置情報取得」だけで、1号の「見張り」に該当すると解釈するのはおかしいですし、すべきでもないと思います。
ストーカー規制法における「つきまとい等」の定義は全て被害者に認知される状態であることを前提としていますので、被害者に認知されない状態であれば、それが処罰されるのは法律の趣旨に反するんじゃないですかね。

むしろ福岡地裁はよく「GPSによる位置情報取得も見張りに当たると判断した」なぁ、とか思います。

2017年2月の似たような事件でも、「GPSによる位置情報取得」自体ではストーカー規制法に抵触しないものの、「インターネットの掲示板に彼女の行動を監視していると思わせる投稿をしていた」ことが、「その行動を監視していると思わせるような事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと」に抵触すると判断されています。




ストーカー GPSで情報取得、規制は可能か 割れる司法判断

2018年10月4日
 別居中の妻の車にGPS(全地球測位システム)機器を取り付けて居場所を確認したなどとして、ストーカー規制法違反に問われた男の裁判で、福岡高裁が9月20日、GPSによる位置情報取得は同法が規制する「見張り」に当たらないとの判断を示した。40代の被害女性は夫の暴力から逃れた先をGPSによって繰り返し突き止められていた。判決後、毎日新聞の取材に応じた女性は「判決には納得できない」と語った。
 福岡県内で暮らす被害女性は数年前に結婚して間もなく、夫からささいなことで暴力を振るわれるようになった。立てなくなるまで太ももを蹴られたり、両耳をつかまれたまま頭を振られたりし、裂けた耳から血が滴り出たこともあった。半年後、警察に助けを求め、シェルターに一時保護された後、ホテルに移ったが、そこに突然夫が現れた。
 女性のスマートフォンには居場所などが分かる監視アプリが無断でインストールされていた。削除して親族方へ身を寄せたが、またも夫は現れた。その後も外出先で度々夫の姿を目にした。
 ある時、役場の駐車場で見覚えのある車が目に入り、車内に夫がいた。女性の車を疑った警察官が、すぐにGPS機器を発見した。携帯電話ほどの大きさで、大手警備会社が子供や高齢者の見守り用に貸し出しているものだった。本来はカバンなどに入れて持ち歩く機器が、バンパーの下に粘着テープで貼り付けられていた。
 転居先のマンションの隣の部屋に夫が入居しようとしているのに気付いたのは、GPS機器の発見から間もないころだった。女性は警察の要請で県外に避難し、夫はようやく逮捕された。「命の危険を感じてやっとの思いで避難した。GPSで相手を追い続けることが許されていいのか」。女性は今も夫に背格好の似た男を見ると体が固まり、鳥肌が立つ。
 女性は今月1日、福岡高検に対し、最高裁に上告するよう求めた。「被害が出てからでは遅い。ストーカー規制法違反に問えないのなら法改正を」と訴える。【平川昌範】

識者「社会通念上は対象」

 ストーカー規制法は取り締まりの対象行為として、被害者の住居や勤務先などの付近で見張ることを挙げているが、GPSについての明記がなく、司法の判断も割れている。
 女性の事件では、1審・福岡地裁判決(今年3月)は、社会生活の変化でストーカーの手段や方法も変わりうるとし、GPSによる位置情報取得も見張りに当たると判断した。これに対し、2審判決は条文を厳密に解釈。見張りは「付近」から「視覚などの感覚器官」を使ってするものだと結論付けた。
 ストーカー問題に詳しい千葉大の後藤弘子教授(刑事法)は「裁判で法の厳密な解釈が求められるのは言うまでもないが、手段が『視覚』か『GPS』かというだけで、やっていることは同じ。社会通念上『見張り』という解釈が可能だ」と指摘。2審判決を「GPSなら問題ないと加害者に誤ったメッセージを送ることになる」と批判する。
 一方、警察庁は取材に「現段階では改正を検討していない」と回答した。最高裁の判断がまだ出ていないことや、GPS機器の取り付けだけでは同法違反に問えなくても、実際に被害者に近付けば取り締まれることなどが理由とみられる。

https://mainichi.jp/articles/20181004/mog/00m/040/001000c

*1:別の報道によると、実際に目視で見張った行為についてはストーカー規制法違反とされ、懲役8か月となったようですが。https://ameblo.jp/egidaisuke/entry-12406727753.html

*2:器物損壊とか不法侵入とか無いことは無いですが。

*3:利用者の安全のためや明らかな不法行為を防止するためなどの正当な目的による場合は免責できるようにする必要があるでしょうが