虚偽DVを認定した地裁判決

ここで触れた話題について、そういえば以前書こうと思って準備してたけどタイミング逃してお蔵入りにしてたと思い出しましたので。
以下、2018年5月ごろに準備してた内容です。

    • -

離婚・別居後の親子引き離しにDV防止法が悪用されているという指摘は以前からありましたが、地裁とは言え司法でそれが認定されるとは思いませんでした。
ざっと見た感じ、産経と毎日が報じています*1
虚偽DV 親権のための法的テクニック 社会問題化「制度見直すべきだ」(5/8(火) 7:55配信 産経新聞)
<名古屋地裁>「誇張のDV被害、妻が面会阻止目的で申告」(5/8(火) 22:06配信 毎日新聞)

異例の判決が出ただけあって、記事を読む限りでもかなり悪質で、かつ悪い意味での慎重さを欠いた事件のようです。
事件の時系列は、妻が長女を連れて別居したが、夫の申立により家裁が面会交流の実施を命じたのが2014年。ところが2016年に妻がDV被害を主張し、警察・行政はDV防止法に基づく住所秘匿を行い、面会交流が阻止された、というものです。

別居期間中に住所秘匿が必要なほどのDVが行われた可能性は普通に考えて低いと言わざるを得ず、別居以前からDVがあったなら2014年の面会交流裁判の際に既に主張が出ているはずというのが普通の感覚ですから、「DV被害は事実無根と言えないが誇張された可能性はあり、妻が面会阻止目的で申告した」という家裁の認定はまあ妥当なものだと思います。
そして、2014年に一度面会交流実施の判決が出ていることもあり、地裁としても判断しやすかったと思われます(少なくとも2014年の時点で、面会交流を禁止するほどのDVは無いと家裁が判断したということですから)。

この裁判で重要だと思うのは、DV防止法の運用上の問題点が明らかになった点です。
DV防止法による保護はその性質上、申請者を即時に受け入れる必要があり認定に時間をかけるわけにはいきません。DV被害を受けている人にとっては、そのわずかな時間でも危険だからです。「警察官は「女性がDVを訴えたら認定する」と発言」というのは、「警察は申請を却下した後に事件などが起き、責任追及されるのを恐れるため」(上野晃弁護士)という理由もありますが、DVの性質を考慮すると、それ自体はやむをえないところがあるでしょう*2

ただ、入り口での認定は広くても保護開始後はDVの主張が妥当だったかの検証は必要で、そうでなければDV加害者とされた者は再審の無い欠席裁判で加害者認定されてしまうことになります。
ですから、福田千恵子裁判長の「いったんDV加害者と認定されれば容易に覆らない現行制度は見直すべきだ。まず被害者を迅速に保護して支援を開始した上で、加害者とされた側の意見もよく聞き、その結果に応じて支援の在り方を見直していく制度にすれば、社会問題化している制度悪用の弊害を防げる」という指摘はもっともな内容です。

DV防止法が欠席裁判のようなやり方をなぜ認めているのかというと、おそらくは、“妻がDV被害を訴えている以上、それが事実であろうが無かろうか夫婦としては破綻していることに違いはないので保護という引き離しをすることは正当であり、夫にも何ら刑事罰が科されるわけではなく離婚した場合と同等の引き離しだけであり人権が侵害されることはないので、DVが事実かどうかを検証することに意味は無い”*3という認識があったんではないかなと思っています。

しかし、それが離婚時に子どもの親権を確実に取るためのテクニックとして悪用されたわけです。

それでも、“離婚して親権を失えば、親子の縁は切れる”という日本の文化的背景*4から、DV防止法を悪用した親子引き離しについても“夫に対する刑事罰ではなく夫の人権が侵害されているわけではない”という認識を援用して放置されているのが現状です。
DVの事実を否定しても、警察も行政も裁判所もろくに調べることもなく、DV支援制度に基づき、妻の元に子どもがいるという現状のまま、親権者指定の判断が下され、現状優先の原則と母性優先の原則からほとんどの場合、妻側に親権が認められ面会交流も著しく制限されるという結果になります。

さすがにそういったテクニックは問題であるとして「支援制度悪用が社会問題化している。加害者とされる者にも配慮する制度設計があるはずで、検討が期待される」という判断が地裁ながら下ったということになります。




虚偽DV 親権のための法的テクニック 社会問題化「制度見直すべきだ」

5/8(火) 7:55配信 産経新聞
 「より良い制度に向けた検討が期待される」。今回の判決で、福田千恵子裁判長はそう踏み込んだ。この提言は(1)DV被害者の支援制度が、子供と相手親を引き離す手段として悪用されている(2)加害者とされる側の権利を守る手続きがなく、虚偽DVの温床となっている-などの問題意識を反映したものだ。この判決は今後、制度の在り方をめぐる議論につながる可能性もある。
 子供をめぐる夫婦間トラブルで多い類型は、一方の親が相手親に無断で子供を連れ去り、その理由として「DVを受けていた」と主張する-というものだ。
 従来は、たとえ連れ去りの結果であっても、現在の子供の成育環境の維持を考慮する考え方(継続性の原則)などが重視され、連れ去られた側が不利となる事例が多かった。さらに相手からDVを主張された場合、子供との交流の頻度や方法を決める際にも不利に扱われやすいとされる。
 DV主張は覆すのが困難で、実務上、証拠が乏しくてもDVが認定されることが多い。実際、裁判記録などによると、DV認定を抗議した夫に警察官は「女性がDVを訴えたら認定する」と発言。法廷でも「支援申請を却下したことは一度もない」と証言した。
 この問題に詳しい上野晃弁護士は「こうした運用は愛知県警だけでなく、全国的に同様だ。警察は申請を却下した後に事件などが起き、責任追及されるのを恐れるためだ」と分析する。
 一方で近年では、「親権や慰謝料を勝ち取る法的テクニックとして、DVの捏造が横行している」「連れ去りをした側が有利な現状はおかしい」との指摘も出ていた。
 国会でも平成27年4月、ニュースキャスター出身の真山勇一参院議員が、現行制度下で子供の連れ去りや虚偽DVが横行している問題を指摘した。
 福田裁判長は「いったんDV加害者と認定されれば容易に覆らない現行制度は見直すべきだ。まず被害者を迅速に保護して支援を開始した上で、加害者とされた側の意見もよく聞き、その結果に応じて支援の在り方を見直していく制度にすれば、社会問題化している制度悪用の弊害を防げる」と指摘。司法府が立法府に注文をつけるのは異例だ。
 原告側代理人の梅村真紀弁護士は「(判決が)子供第一の協議が行われるきっかけになってほしい」と話す。
 妻側は既に控訴しており、上級審の判断が注目される。(小野田雄一)

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180508-00000068-san-soci

名古屋地裁>「誇張のDV被害、妻が面会阻止目的で申告」

5/8(火) 22:06配信 毎日新聞
 ◇妻と愛知県に55万円の支払い命令
 別居中の妻が虚偽のドメスティックバイオレンス(DV)被害を申告し、愛知県警の不十分な調査で加害者と認定され娘に会えなくなったとして、愛知県の40代の夫が妻と県に慰謝料など計330万円を求めた訴訟の判決で、名古屋地裁(福田千恵子裁判長)は計55万円の支払いを命じた。夫側弁護士が8日、明らかにした。妻は控訴している。
 4月25日付の判決によると、妻が長女を連れて別居後、夫の申し立てで名古屋家裁半田支部が2014年、長女と夫の面会などをさせるよう妻に命じた。妻は16年、夫に住所などを知られないようにする支援を申請し、県警の意見を基に自治体が住民基本台帳の閲覧を制限した。
 判決は「DV被害は事実無根と言えないが誇張された可能性はあり、妻が面会阻止目的で申告した」と認定した。県警については、被害者の安全確保が最優先で多角的な調査を常に行う義務はないとしつつ「支援制度の目的外利用も念頭に置くべきなのに、事実確認を全くしなかった」と賠償責任を認めた。
 さらに「支援制度悪用が社会問題化している。加害者とされる者にも配慮する制度設計があるはずで、検討が期待される」とした。夫側弁護士は「支援制度の不備に踏み込んだ画期的な判決」と話した。【野村阿悠子】

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180508-00000102-mai-soci

*1:この手の話題だと、朝日が弱く、産経や毎日が比較的強い印象です。

*2:一応、DV防止法8条の2には警察は被害者からの「申出を相当と認めるとき」に必要な援助を行うとあり、相当かどうかの判断が必要です。それを踏まえると上野弁護士の言う「責任追及されるのを恐れるため」何でもかんでも「相当と認める」傾向があることがわかりやすくなります。http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=413AC1000000031&openerCode=1

*3:ちなみに、ここで妻・夫を固定しているのは意図的です。DV防止法は前文で「配偶者からの暴力の被害者は、多くの場合女性であり」と述べ、現実的にDV防止法に基づく支援はほとんどの場合女性のみを対象としています。

*4:法的には親子の縁が切れることはなく、扶養の義務が行き続けることになります。その結果、事実上は親子の縁を切るような対応が是とされながら、法的には扶養の義務のみが課され続けるという状況すら発生するわけです。要するに、親として