「収入の低い男親が女親に養育費を請求した場合、逆と比べて払う確率はかなり低い」?

Arecolle氏が、「ご存じの方、教えてください」という記事をあげていましたので。

収入の低い男親が女親に養育費を請求した場合、逆と比べて払う確率はかなり低いという統計があるそうです。
(略)
そこで本記事の読者各位のうちに、「収入の低い男親が女親に養育費を請求した場合、逆と比べて払う確率はかなり低いという統計」についてご存じの方がいらっしゃれば、その出典をご教示いただけないでしょうか。もちろん、発言者本人からうかがうことができればそれが一番望ましいと思いますので、tetora2さんは、本記事によって気づかれたということであれば、今からでもコメントをお寄せください。お待ちしております。

http://arecolle.hatenablog.com/entry/2018/11/07/060000

tetora2氏の発言内容は「収入が低い男親が女親に養育費を請求した場合、逆と比べて払う確率はかなり低いと統計出てます」ですので、文脈を踏まえても、文言そのものを正確にとらえても「収入が低い男親が女親に養育費を請求した場合」という条件が重要な部分です。

可能性1

それを踏まえて最も近そうな統計データというと、多分これかと思います。
(tetora2氏への質問に際しArecolle氏は「厚労省のひとり親世帯等調査」なども調べたとのことですので、既知かと思いますが)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11920000-Kodomokateikyoku/0000188168.pdf
上記PDF中の以下の2表ですかね。
・表17-(2)-11-1 母子世帯の母の養育費の取り決めをしていない理由(最も大きな理由)
・表17-(2)-11-2 父子世帯の父の養育費の取り決めをしていない理由(最も大きな理由)

これはあくまで「養育費の取り決めをしていない理由」であった「養育費を請求した場合(略)払う確率」とは異なります。

この表中の項目である「取り決めの交渉をしたが、まとまらなかった」割合が、母子家庭の場合5.4%(985件中53件)であるのに対し、父子家庭の場合は8.3%(229件中19件)ですので、養育費の取り決めをしていない世帯における“養育費を請求したが取り決めがまとまらなかった”割合という意味なら、父子家庭の場合が母子家庭の場合に比べて、やや高い、と言えなくもありません。
ただし、「養育費を請求した場合(略)払う確率」を見るのならば、割合の分母には養育費の取り決めをしている世帯を含めるべきでしょうから、それを考慮して算出すると、こうなります。
・父子家庭の場合、64/(19+64)=77.1%
・母子家庭の場合、776/(53+776)=93.6%

これだと誤差を考慮しても、父子家庭の方が母子家庭の場合に比べて養育費の取り決めの交渉がまとまりにくい傾向があるように見えます。
ただ、tetora2氏の「収入が低い男親が」という条件については、ここからは判断できませんので、そこは不明です。

一応言っておきますと、上記は必ずしも養育費交渉において母子家庭が優遇されていることを意味しません。単純に監護親世帯が十分な収入を得ているため非監護親に養育費を請求する必要性に欠けるという場合もあるからです。実際、就労収入階級が400万円以上の父子家庭は調査総数308件中84件で27.3%ですが、母子家庭の場合は調査総数1817件中124件で6.8%しかありません*1

可能性2

tetora2氏の発言内容の別の解釈として“養育費の取り決めをしているのに払わない割合”というものを考えてみましょう。
・表17-(3)-7 母子世帯の母の養育費の受給状況(離婚(離婚の方法)、未婚別)
・表17-(3)-8 父子世帯の父の養育費の受給状況(離婚(離婚の方法)、未婚別)

区分 養育費を受けたことがない割合(全体) 養育費を受けたことがない割合(取り決めをしている世帯)
母子家庭 56.0%(1017/1817) 17.2%(134/780)
父子家庭 86.0%(265/308) 65.6%(42/64)

母子家庭で過去も現在も養育費を受けていない割合は56%ですが、養育費の取り決めをしている世帯に限定するとその割合は17%にまで大きく低下します。これに対して、父子家庭では全体での過去も現在も養育費を受けていない割合は86%で、養育費の取り決めをしている世帯に限定しても尚66%が養育費を受け取っていません。
父子家庭で養育費の取り決めをしている世帯数が64件と少ないとは言え、誤差を考慮しても父子家庭は母子家庭に比べて養育費の取り決めをしても受け取れない割合が高いとは言えそうです。
協議離婚で当事者間で無理やり母親側に養育費の取り決めを強いたという可能性も検討してみましたが、協議離婚の場合とその他の離婚の場合では傾向は変わらず、むしろその他の離婚の方が取り決めどおりに養育費が払われていないという傾向が示されています*2

まとめ

「収入の低い男親が女親に養育費を請求した場合、逆と比べて払う確率はかなり低いという統計」について、「収入の低い男親」という条件を除いた上で、取り決めどおりの養育費が払われる割合、という意味で解釈すると、厚労省統計の下記の表あたりがソースということになるかもしれません。

・表17-(3)-7 母子世帯の母の養育費の受給状況(離婚(離婚の方法)、未婚別)
・表17-(3)-8 父子世帯の父の養育費の受給状況(離婚(離婚の方法)、未婚別)

区分 養育費を受けたことがない割合(全体) 養育費を受けたことがない割合(取り決めをしている世帯)
母子家庭 56.0%(1017/1817) 17.2%(134/780)
父子家庭 86.0%(265/308) 65.6%(42/64)

母子家庭17%、父子家庭66%というのはかなり大きな差かと思います。
差の原因については色々考えてはみましたが、監護親側の収入要件は取り決めありの場合は考慮する必要があまりないと思いますし、父子家庭の子どもの方が相対的に年齢層が高く就労への支障が少ないということも、単親家庭になった時点の末子年齢で特に母子家庭・父子家庭で大きな差がないことから考えにく、結果として原因はよくわかりませんでした。
強いて言えば、離婚で単身になった後の就労について男女差があることから、非監護親の収入状況の安定性の影響である可能性が考えられますが、取り決めをしているのに一度も払わなかったという理由としては不自然な気がします(途中から払えなくなったというならわかるのですが)。



*1:表17-(2)-9 母子世帯の母の養育費の取り決めの有無(母の就労収入階級別)、表17-(2)-10 父子世帯の父の養育費の取り決めの有無(父の就労収入階級別)

*2:協議離婚で養育費の取り決めありの父子家庭42件中26件が養育費受給なし(61.9%)に対して、その他の離婚で養育費の取り決めありの父子家庭22件中16件が養育費受給なし(72.7%)だった。調停離婚や裁判離婚で感情的対立が激化した結果かもしれない。なお、母子家庭の場合は協議離婚とその他の離婚で同様の差は見られなかった。