外国人技能実習制度が強制労働であることが理解できるなら、朝鮮人戦時動員も強制労働であったことが理解できるはずなんだよね。

安倍首相がこんなことを言ってまして。

安倍首相「原告は『徴用』でない『募集』に応じた」…韓国の判決を全面否定

11/1(木) 17:01配信 中央日報日本語版
 韓国大法院(最高裁)の徴用関連判決に対する日本政府の反発が一層強まっている。特に、安倍晋三首相の発言が強くなった。
 1日、日本衆議院予算委員会に出席した安倍首相は先に「政府としては『徴用工』という表現でない、『旧朝鮮半島出身労働者問題』と言っている」と強調した。
 また「これは当時、国家総動員法上、国家動員令には『募集』と『官斡旋』『徴用』があったが、実際、今回の裁判の原告は(徴用でなく)全部『募集』に応じたため、『朝鮮半島出身労働者問題』と言いたい」と説明した。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181101-00000042-cnippou-kr

「徴用」ではなく「募集」「官斡旋」だから問題ない、あるいは政府に責任がないと主張したい意図がうかがわれます。

ただ、「『募集』に応じた」から問題ないのだとすると外国人技能実習生も募集に応じたものですから日本政府には何の責任もないということになりますが、そう思う人ってそんなにいるんですかね?

直近の社会問題に、まさに植民地朝鮮の人々が強制労働を強いられた構図と酷似する外国人技能実習制度の問題があるにもかかわらず、また、外国人技能実習制度に対して強制労働だとか奴隷制だとかいう批判の声がそれなりにあがっているにもかかわらず、「『募集』に応じた」朝鮮人が強制労働を強いられたということが理解できないというなら、相当な認知の歪みだと思うんですよね。

ちなみにアメリカによる日本の外国人技能実習制度に対する評価ってこんな感じです。

(以下は引用元から外国人技能実習制度に関連する部分のみを抜粋したもの)
・日本(第1階層)

技能実習生を借金で束縛する主な要因の1つとなっているのが外国に拠点のある募集機関による過剰な金銭徴収であるが、その徴収の阻止を目指した「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」(技能実習制度改革法)の規定を政府は十分に執行できていなかった。当局は、契約機関での搾取的な環境から逃れてきた技能実習生が被害者であるかどうかの確認審査を行い、保護支援サービスへとつなげるのではなく、拘束、告発、場合によっては強制送還した。

・日本への勧告
雇用主に対する調査を増加し、過剰な手数料やその他金銭を課す外国の募集機関との契約解除などにより、技能実習制度改革法の監督および執行措置を引き続き実施する。強制労働の一因となる、組織や雇用主による「処罰」の合意、パスポートの取り上げ、その他の行為の、禁止の実施を強化する。技能実習制度の下での移住労働者や児童を含む被害者が、適切に認知され、かつ支援サービスを受けられるようにし、人身取引の被害に直接起因する違法行為を犯したことで拘束または強制送還されることがないよう、被害者の審査を強化する。海外で児童買春旅行に参加する日本人の捜査、訴追、有罪判決、処罰を積極的に行う。

・訴追
技能実習生の強制労働に関与した者に有罪判決を下したという政府報告は何もなかった。しかし、実習実施機関への立入調査の結果、労働基準監督署と各地の入国管理当局は、34件の「重大な」労働者虐待事案を、その後の刑事捜査のために検察庁に送検した(2016年に送検されたのは、より軽微な違反事案の40件であった)。政府から、これらの事案に強制労働の兆候が含まれていたか否か、また最終的に訴追されたか否かの報告はなかった。非政府組織(NGO)は、外国人被害者を巻き込んだ強制労働の事案に対して、裁判所が極端に高い証拠基準を設定しているため、適切な法執行措置を妨げていると主張した。

・保護
人身取引の兆候という実質的証拠があるにもかかわらず、政府は技能実習制度における強制労働の被害者をこれまで1人も認知していない。当局は、契約している機関での強制労働やその他の虐待的環境から逃れてきた技能実習生、特にベトナムからの実習生を引き続き逮捕し、強制送還した。

・防止
当局は、特定の労働者虐待に対する刑罰の制定、技能実習制度での監督と責務の強化、技能実習生が自らの意思で雇用主を変更する自由の拡大、その他の改善を目指した2016年成立の「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」(技能実習制度改革法)の施行を開始した。この法律の下、政府は、外国人技能実習機構を設立し、実習実施者および監理団体双方の現場調査を強化し、1300人を超える参加者に多言語相談サービスを提供した。また、本法律は、この制度の新たな参加者と雇用主が共同で作成する、生活環境、労働時間、その他の要素の概要である実習計画を、厚生労働省に承認するよう義務付けた。当局は、同法の施行から5カ月間で、3万件以上の実習計画を承認したと報告した。現場調査が増えた結果、多岐にわたる行政および法執行措置が取られるようになった。にもかかわらず、NGOの報告によると、外国人技能実習機構は、職員数の不足により、技能実習生の数が引き続き増えるなか、こうした大規模な技能実習制度における虐待の申し立てを十分に調査できていなかった。専門家は、ほとんどの技能実習生には、いったん日本に入国すると雇用主を変更する権利を未だ持たないことを、引き続き懸念した。報告によれば、技能実習生の中には、契約した職場での虐待的環境から逃れたことにより、在留資格に違反することになり、失業中の身で人身取引の被害を受けやすくなった者もいた。

技能実習生が母国の送り出し国で多額の借金を負うことを防ぐために、政府は、ベトナムカンボジア、インド、ラオス、モンゴル、フィリピンとの間で協力覚書を交わし、技能実習生から過剰な金銭を徴収しない各国政府が認定する機関からのみ、実習生を受け入れることを確認した。しかし、こうした国の送り出し機関の中には、金銭の徴収制限を回避し、金銭の代わりに高額の「手数料」を課すことで、各国政府の認定を受けることができた機関もあった。よって、これらの国からの実習生は、いったん日本に入国するとこれまで通り借金による束縛の危険にさらされることになった。労働基準監督署は、技能実習制度の雇用主による不正行為の疑惑に関し、299件の立入調査を行い、そのうち213機関が「是正勧告」を受け、少なくとも4件の「重大な虐待」に対する継続中の刑事捜査につながった。また、法務省は、2017年に、企業3社、27の監理団体、183の実習実施機関に対し技能実習生の受け入れを禁止した。2016年に受け入れが禁止されたのは、それぞれ2社、25の監理団体、202の実習実施機関であった。

・人身取引の概説
強制労働の事案は、政府が運営する技能実習制度において発生している。この制度は本来、外国人労働者の基本的な専門的技能を育成することを目的としていたが、事実上の臨時労働者事業となった。過剰な金銭徴収の慣行を抑制することを目指した新たな国際合意にもかかわらず、ビルマ、中国、カンボジアベトナムからの技能実習生は、漁業、建設業、製造業で職を得るために、最高で1万ドルという過剰な金銭、保証金または不明瞭な「手数料」を母国の送り出し機関に支払っている。多くの技能実習生は、技能実習制度の本来の目的に反して、技能の教授や育成が実施されない仕事に従事させられている。事前に合意した職務と一致しない仕事に就かされている技能実習生もいる。これらの労働者の中には、移動の自由を制限され、パスポートを没収され、強制送還の脅しを受け、その他の強制労働の状態に置かれた者もいた。技能実習生に「処罰合意」への署名を義務付け、労働契約を履行できない場合、何千ドルもの違約金を科す送り出し機関もあった。報告によると、契約を結んだ技能実習の仕事から逃れた実習生の中には、性的搾取目的の人身取引の被害者になる者もいる。

https://jp.usembassy.gov/ja/tip-2018-ja/

どう見ても、アメリカは外国人技能実習制度を強制労働の温床とみなしていて、日本政府が「強制労働の被害者をこれまで1人も認知していない」ことや「技能実習生の強制労働に関与した者に有罪判決を下したという政府報告は何もなかった」ことを批判的に述べていますね。そして事態の改善のための政府の努力が足りていないことを懸念していますよね。
直接的に雇用しているのは民間ですし、過剰な金銭徴収を行っているのは現地の送り出し機関ですし、実習生は銃剣で狩り集めたわけでもなく募集に応じたものに過ぎませんが、それでも批判の対象となっています。

80年前には、他国の人権状況を評価して是正を勧告するような制度は貧弱極まるものでしたし、1937年以降は日中全面戦争、1941年以降は日米戦争に突入し、植民地を含めた日本国内での強制労働に対する国際的な監視などはほぼ皆無でした。

そういった中で「今回の裁判の原告は(徴用でなく)全部『募集』に応じた」だけなんて理由を真に受ける方がどうかしています。

人権意識が高くなっている現在のしかも平時において「募集」の名で集められた外国人技能実習生がどんな目にあっているかを踏まえれば、人権意識の未熟な80年前のしかも戦時中において「募集」の名で集められた朝鮮人労働者がどんな目にあったかなんて容易に想像できるでしょうにね。そしておそらくはその想像以上の劣悪さだったわけで。

アメリカは現在の技能実習制度に対して強制労働の温床であると理解しているわけですから当然、戦時中の朝鮮人強制動員に対しても強制労働だと認識するでしょうし、それに違和感を覚えたりもしないでしょうね。

日本政府に言わせれば、“外国人技能実習制度は合法であり、一部の民間企業やブローカーによる被害はあるが、取締りもしており、政府には何の責任もない”、ということになるのでしょうが、この理屈はそのまま朝鮮人強制連行を正当化している理屈になっています。

・日本への勧告
雇用主に対する調査を増加し、過剰な手数料やその他金銭を課す外国の募集機関との契約解除などにより、技能実習制度改革法の監督および執行措置を引き続き実施する。強制労働の一因となる、組織や雇用主による「処罰」の合意、パスポートの取り上げ、その他の行為の、禁止の実施を強化する。技能実習制度の下での移住労働者や児童を含む被害者が、適切に認知され、かつ支援サービスを受けられるようにし、人身取引の被害に直接起因する違法行為を犯したことで拘束または強制送還されることがないよう、被害者の審査を強化する。海外で児童買春旅行に参加する日本人の捜査、訴追、有罪判決、処罰を積極的に行う。

https://jp.usembassy.gov/ja/tip-2018-ja/

現在でさえこんな勧告を受けていることを踏まえれば、「募集」であれ「官斡旋」であれ朝鮮人強制連行が全く正当化できないことくらい、安倍でなければ理解できるはずと思いますが、どうでしょうかね。