強姦件数について諸外国との比較はできないという件及びその他

日本の性暴力はこんなに減っていて少ない、日本は性暴力大国でも男尊女卑でもない。フェミの言っていることはでたらめでそれが女子大生の閾値をさげている可能性がある」の件。

強姦件数について諸外国との比較はできない

理由としては、強姦の定義が日本と海外では違っている点です。
参照しているデータは犯罪白書からで、犯罪白書にはこのように書かれています。

この節でいう「強姦」とは,UN-CTSの調査票における「Rape」をいい,相手からの有効な同意のない性交と定義され,被害者の性別は限定されていない。
我が国における「強姦」の発生件数としては,強姦(刑法177条),準強姦(同法178条2項)及び集団強姦(同法178条の2)について,これらの致死傷事件(同法181条2項及び3項)及び未遂を含めた認知件数が計上されている。

http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/64/nfm/n64_2_1_3_4_0.html#h1-3-4-01

対象期間は2010年~2014年。
上記引用の通り、日本の強姦件数は、刑法上の強姦・準強姦・集団強姦・これらの致死傷事件の既遂・未遂を含めた認知件数になっており、2014年については、1250件とされています。
2017年に強制性交罪に刑法改正されるまでの強姦罪では、その構成要件である姦淫の定義が「男性器の女性器に対する一部挿入で既遂となり、妊娠および射精の有無は問わない(大審院大正2年11月19日判決以後の確定した判例・実務)」*1となっていました。

これに対して、例えばイギリスでは、2003年性犯罪法で以下のようにRapeを定義しています。

Sexual Offences Act 2003

Rape

1 Rape

(1) A person (A) commits an offence if—
(a) he intentionally penetrates the vagina, anus or mouth of another person (B) with his penis,
(b) B does not consent to the penetration, and
(c) A does not reasonably believe that B consents.
(2) Whether a belief is reasonable is to be determined having regard to all the circumstances, including any steps A has taken to ascertain whether B consents.
(3) Sections 75 and 76 apply to an offence under this section.
(4) A person guilty of an offence under this section is liable, on conviction on indictment, to imprisonment for life.

https://www.legislation.gov.uk/ukpga/2003/42/part/1/crossheading/rape

見ての通り、対象が女性器に限定されていません。日本では強制わいせつに相当する内容でもイギリス性犯罪法では強姦とみなされうる条文です。また、日本の刑法では「暴行又は脅迫を用いて」が強姦が成立する条件になっていますが、イギリス性犯罪法では、被害者の同意がない、あるいは同意があったと合理的に判断できない場合に成立する条文になっています。
togetterで引用されているデータ中のイギリスの2014年の「強姦」発生件数は31752件となっていますが、イギリス警察がの記録では2014年4月~2015年3月までの「強姦」発生件数は29385件*2となっています。なお、統計上の1年のとり方が異なる上、警察記録のデータは国家統計に指定されておらず、全てが記録されているとは限らないため、判断には慎重さが求められています。ただ、いずれにしても、2014年のイギリスでの「強姦」件数は約30000件と見てよいとは思いますが、日本とは明らかに「強姦」の定義が異なっていますので、これを単純に比較しても意味がないでしょう。

ちなみに、イギリス警察の記録では強姦とその他の性犯罪の件数比がおよそ1対2になっているのに対して、日本の犯罪統計での強姦と強制わいせつの件数比率はおよそ1対5*3となっています。


それ以外の部分も検証しようかと思いましたが、うちの環境では何故かアクセスにやたらと時間かかるので断念します・・・。

ざっくりとした感想を述べると・・・
・日本における性暴力事案が以前に比べて減少しているというのはおそらく正しい
・ただし、諸外国と比べてどうかというのは、犯罪類型については定義の不一致から何とも言えないし、暗数については文化的背景により異なるため他の国でも暗数が同程度であるという前提も成立はせず、これも十分な検証をしないと何とも言えない
・「フェミの言っていることはでたらめでそれが女子大生の閾値をさげている可能性」については、一部フェミニストの主張に偏りや誤りがあることは事実だと思うが、「それが女子大生の閾値をさげている可能性」というのはまずありえず*4、意識の変化については社会環境の変化など他の要因の影響の方が遥かに大きいと思う。
・性暴力事案が減少傾向にあることについては性暴力の形態が変化しているため見かけの件数が減っている可能性も含めてちゃんと検討すべき
・性暴力事案が減少したからと言って問題ないことにはならないが、対策のとり方は変わるのでデータに真摯に向き合うべき

最後の点については、例えば痴漢対策。30年前のように痴漢行為がほとんど野放しだった時代は、捕まらないからと軽い気持ちで痴漢行為に及んだ者が多かったと思われ、そういった者は痴漢がちゃんと摘発されるようになるとやらなくなっていく。そういう時代においては摘発の強化が被害の減少に大きく寄与したと考えられます。しかし、現在のように摘発される可能性が高くなっても痴漢行為を止められない者は病的な依存症になっている可能性があり、痴漢加害者の主体がそういった病的な依存症患者になっているとすると、摘発の強化よりはむしろ治療につなげる対策の方が痴漢被害の減少に寄与することが期待できると思います。