当日の気象・海象は1トン未満の木船を捜索する障害になる程度には悪かった

防衛省が公開した映像です。

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【気象・海象】(P-1哨戒機が機上で観測)
天気:晴れ
風:北西の風15kt(7m/s)
風浪階級:1m(さざ波がある程度)
うねり:南へ1m

http://www.mod.go.jp/j/press/news/2018/12/28z.html
http://scopedog.hatenablog.com/entry/2018/12/30/160000

これに対して読売新聞などはこのように評しています。

天候は良好な状態だった。

https://www.yomiuri.co.jp/politics/20181228-OYT1T50078.html

確かに天気は晴れていますし、海面も穏やかなように見えますが、それはあくまでも機上から見た場合です。
前回、私はこう書きました。

さて、防衛表公表の気象情報である「風浪階級:1m(さざ波がある程度)」との記載は、風浪階級1を間違って「1m」と記載したのか、それとも波の高さ1mを誤って「(さざ波がある程度)」と表記したのか、どちらなんでしょうかね。

http://scopedog.hatenablog.com/entry/2018/12/30/160000

その意味が理解できなかったのか、こういう反応がありました。

日本がまちがっておりました。海上保安庁の基準では”やや波があり”です。こうですか?わかりません><
jacobyのコメント2018/12/30 19:24

http://b.hatena.ne.jp/entry/4662445908091577249/comment/jacoby

こういう情弱のためにもう少し説明しましょう。
「風浪階級1を間違って「1m」と記載したのか、それとも波の高さ1mを誤って「(さざ波がある程度)」と表記したのか、どちらなんでしょうかね」と書いたものの、その後調べた内容も踏まえると、実際の波の高さは1mで、「(さざ波がある程度)」という防衛省によるキャプションは誤りか、又は虚偽だと考えられます。

判断基準は以下の記載。

風:北西の風15kt(7m/s)

http://www.mod.go.jp/j/press/news/2018/12/28z.html

ここで風力階級表というのを参照します。

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https://www.i-kahaku.jp/friend/kagaku/0306/kaze/index.html

風速は15kt(7m/s)ですから、風力階級4に相当し、海上の状況は「白波がかなり多くなる」という状況で、その時の有義波高は1m程度*1とのことです。
つまり、風力階級表を見る限り、海上の波の高さは1m程度であり、白波がかなり多くなる程度の状態だったことがわかります。決して「(さざ波がある程度)」という穏やかな状態じゃありません。上空100m以上から撮った映像だけ見て、白波が“見えない”から穏やかだった、ということにはならないわけです。
それに、そもそも映像にはちゃんと白波が映っていますし。

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4分56秒時点

当時、天候は晴れていても海上は穏やかとは言えない状態だったと言えます。
韓国海洋警察と海軍は、1mの波があり白波が立つような状態の海上で、全長10mもない1トン未満の小型木船を捜索していたわけです。MW-08レーダーを使う十分な理由がある気象条件と言って何の疑問もありません。

12月21日時点でハンギョレが韓国軍関係者情報として以下のように報じています。

日本「韓国軍が自衛隊哨戒機に射撃統制用レーダー照射」抗議

登録:2018-12-21 22:03 修正:2018-12-22 09:32
(略)
 当時の状況は20日、独島北東方向100キロメートル地点の公海上北朝鮮の船舶が漂流しているという情報により、韓国の海洋警察と共に海軍の駆逐艦が出動し捜索作業を10時間近く実施している過程で発生したという。韓国軍関係者は「当時、波が高く気象条件が良くなく、駆逐艦のすべてのレーダーを総動員していた」として「この過程で射撃統制レーダーについた探索レーダーが360度回転し撃った信号が日本海自衛隊のP1哨戒機に探知されたものと理解する」と話した。
(略)

http://japan.hani.co.kr/arti/PRINT/32409.html

「当時、波が高く気象条件が良くなく、駆逐艦のすべてのレーダーを総動員していた」

少なくとも、漂流している全長10mにも満たない1トン未満の小型木船を捜索する上で、「波が高く気象条件が良くなく」という表現は間違いではありません。
遠方にある1トン未満の小型木船は1mの波で簡単に隠れますし、白波は目視での捜索を難しくしたでしょう。

また現場の海はとても穏やかで波の高さは1m程度、冬の日本海とは思えないほど波が小さく静かな海況です。韓国側の波が高かったという説明は首を傾げざるを得ません。

https://news.yahoo.co.jp/byline/obiekt/20181228-00109402/

このように評している論者もいますが、白波が立つような状態を「現場の海はとても穏やか」「波が小さく静かな海況」というのはちょっとどうかと思います。

ただ、この論者のような誤解を生じさせた原因は、防衛省が公開した映像に「風浪階級:1m(さざ波がある程度)」と書かれていたことにあります。波高1mならば、(やや波がある状態)であって、(さざ波がある程度)ではないからです。
もちろん(やや波がある状態)であっても、駆逐艦自身には何の問題もありませんが、1トン未満の小型木船を捜索する上では障害になります。防衛省公開映像における「風浪階級:1m(さざ波がある程度)」という虚偽キャプションは、そういう理解を妨げる非常に有害な虚偽であり、正直、防衛省による意図的な虚偽記載ではないかと思われるほどです。

海上保安庁など海難救助を専門に行っている人たちは、あの防衛省公開映像における気象・海象情報をどう理解したのか、その辺を知りたいところです。
まあ、一色みたいなネトウヨに聞いても意味ないかも知れませんが。



乗員「レーダーを出しています」…照射映像公開

2018年12月28日 20時44分
 韓国海軍の駆逐艦日本海海上自衛隊のP1哨戒機に火器管制レーダーを照射した問題をめぐり、防衛省は28日、哨戒機が撮影した当時の映像を公開した。照射を受けた際の乗員による緊迫したやり取りなどが収録されており、防衛省は日本側の主張を裏付ける具体的な証拠だとしている。
 防衛省自衛隊の警戒監視活動に関する映像を公開するのは異例だ。午後5時から防衛省のホームページで公開された。映像は約13分間で、哨戒機が駆逐艦周辺を飛行した際の全映像を公開したという。防衛省によると20日午後3時ごろ、能登半島沖の日本の排他的経済水域EEZ)内で撮影された。自衛隊の運用に支障が生じることを避けるため、一部の音声は非公開となった。
 映像では、哨戒機の乗員が火器管制レーダーの電波を少なくとも2回探知。乗員が「(レーダーを)出しています」と話す場面もある。哨戒機は三つの異なる周波数を使い、英語で「目的は何か」などと駆逐艦に呼びかけたが、駆逐艦から応答はなかった。
 駆逐艦から約950メートル離れた位置には、韓国警備救難艦と北朝鮮籍とみられる漁船も映っていた。漁船を救助していたとみられる。現場は好漁場の大和やまと堆たい付近だという。
 韓国側は当初、遭難した漁船を捜索するためにレーダーを使用したと説明した。しかし、救助が始まっていたとすれば、捜索活動は終わっていたことになる。天候は良好な状態だった。
 韓国側は、哨戒機が駆逐艦の上を低空飛行したと主張しているが、防衛省は映像の中で「国際法や国内関連法令で規定されている高度及び距離以上で飛行」と説明した。防衛省によると、哨戒機は駆逐艦から150メートル以上の距離を保って飛行していたという。
 日本側は、この映像を27日の日韓防衛当局間の協議で示した。韓国側がレーダー照射を否定したため、日本の主張の正しさを国際社会に訴えるため公開に踏み切った。
2018年12月28日 20時44分 Copyright © The Yomiuri Shimbun

https://www.yomiuri.co.jp/politics/20181228-OYT1T50078.html