中立を装い否定論を流布する手法

南京事件とは。決定的証拠が無い? 」という記事。
この手の記事は中立的な意見を装っているので、余計始末に悪いんですよね。

冒頭はこう始まっています。

盧溝橋事件を発端とした日中戦争中、旧日本軍が南京を占領した際に十数万人以上の南京住民を虐殺、暴行、強姦したとされる事件で「南京大虐殺」とも呼ばれています。なかには野田少尉、向井少尉ら下士官による「百人斬り競争」という凄惨な出来事もあったようです。
ですが、虐殺の規模や有無については多数の意見があり、その真実がどのようなものだったのか、いまだはっきりとはしていません。写真は合成と疑われるものしか残っておらず、旧日本軍がおこなったとされる決定的証拠が出ていないのが現状なのです。
実は蔣介石が虐殺をしたとされる説や、中国側が事実を捻じ曲げて誇大化している説など、さまざまな主張があります。

https://honcierge.jp/articles/shelf_story/4644

「いまだはっきりとはしていません」「さまざまな主張があります」と言いつつ、「写真は合成と疑われるものしか残っておらず、旧日本軍がおこなったとされる決定的証拠が出ていないのが現状」という虚偽を述べているあたり非常に悪質です。
東中野氏ら否定論者が難癖をつけた写真疑惑については、史実派から反論され、否定論者の主張の方がおかしいことが証明されています。少なくとも中立的に評するなら、「写真は合成と疑われるものしか残って」いないというのが否定論者による一説に過ぎないことを明確にすべきでしょう。

続く文章も、否定論の紹介でしかなく、この記事の筆者が史実派の書籍をまともに読んだことがないか、知ってて意図的に無視しているかということが明らかになります。

南京事件が起こった原因

すべては、旧日本軍が南京を占領したことから始まります。当時の中国の首都であった南京を攻撃することになり、この戦いで旧日本軍に多くの死傷者がでました。戦友を失って殺気立っていたのでしょうか、南京に対する兵士の目の色が変わっていきました。
しかし、南京攻防戦の最中、中国軍守備隊の司令官・唐生智が敵前逃亡し、中国軍の指揮系統が混乱しはじめます。旧日本軍陸軍大将・松井石根の発案で降伏勧告をしますが、守備隊は応答しませんでした。そんな南京守備隊を見た旧日本軍は「守備隊は降伏しない」と判断し、攻城戦から城内に入って殲滅戦に切り替えて、南京へ入ります。
この時松井大将が懸念していたのは、便衣兵と呼ばれる民間人に偽装したゲリラ兵の存在でした。日本軍は彼らにたびたび悩まされていたのです。この便衣兵に対する日本軍の対処が虐殺ではないかともいわれています。中国側は丸腰の民間人であったと主張しているのに対し、南京大虐殺否定派は便衣兵の処刑であるとし、軍事行動としては当然の行為だったとみなしています。

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ここは史実派・否定派関係なく、客観的な事実として間違っている部分があります。「南京攻防戦の最中、中国軍守備隊の司令官・唐生智が敵前逃亡し、中国軍の指揮系統が混乱しはじめます。旧日本軍陸軍大将・松井石根の発案で降伏勧告をしますが、守備隊は応答しませんでした。そんな南京守備隊を見た旧日本軍は「守備隊は降伏しない」と判断し、攻城戦から城内に入って殲滅戦に切り替えて、南京へ入ります」の部分です。

唐生智が南京から撤退したのは南京攻防戦の最終局面である12月12日です。そして、松井石根が南京防衛軍に対して降伏勧告を行ったのは南京攻防戦前半の12月9日です。つまり、時系列が逆になっています。
あと「便衣兵に対する日本軍の対処が虐殺ではないかともいわれています。中国側は丸腰の民間人であったと主張している」という部分もデタラメで、中国側の主張では犠牲者が民間人に限定されてなどいません。

南京事件の真相

南京戦の直前に、南京住民の20万人ほどが安全地帯へと脱出していました。当時南京に住んでいた住民の9割に近い数字です。つまりこの段階で30万人〜40万人が虐殺されていた、という中国側の主張には疑問がもたれることがわかります。
日本軍は、虐殺どころか捕虜へタバコや食料を渡したり、暴行や難民収容所への関係者以外の立ち入りを厳しく禁じたりと、捕虜に対する配慮が行き届いている部隊もあったとする説もあります。これから虐殺する人に対してこういった行為は見られるでしょうか?
便衣兵の逮捕、処刑がいわゆる南京事件の引き金になったといわれていますが、彼らが武装解除できているかどうか分からなかったから止むを得ず処刑した可能性もあるでしょう。また、証拠写真の検証から、虐殺者が日本軍ではなく蔣介石が率いた国民党軍によるものだったという可能性も浮かびあがってきています。
事件の真相については、まだまだ解明されていないことが多いのです。

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ここも「まだまだ解明されていないことが多い」と言いつつ、否定論ばかり紹介し、南京人口20万人説については留保無く事実であるかのように記載しています。

ここまでだけでも突っ込みどころは満載なのですが、極めつけは本文で紹介している書籍群です。
紹介にあたっては「今回は、いろんな角度から書かれた書籍をご紹介します。」と述べていますが、紹介しているのは否定論者の書籍ばかりです。

南京事件」の探究―その実像をもとめて (文春新書)
作者 北村 稔
出版社 文藝春秋
出版日 2001年11月01日


南京事件」の総括 (小学館文庫)
作者 田中 正明
出版社 小学館
出版日 2007年07月01日

南京事件」日本人48人の証言 (小学館文庫)
作者 阿羅 健一
出版社 小学館
出版日 2001年12月01日


南京事件証拠写真」を検証する
作者 東中野 修道, 小林 進, 福永 慎次郎
出版社 草思社
出版日 2005年01月31日


完結「南京事件」--日米中歴史戦に終止符を打つ
作者 水間 政憲
出版社 ビジネス社
出版日 2017年08月25日


誰が「南京大虐殺」を捏造したか
作者 古荘光一
出版社 ワック
出版日 2015年12月01日

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松井大将の日記を南京事件が無かったように改竄した田中正明、都合の悪い証言を除外した阿羅健一、日本の裁判所にまで学術研究の名に値しないと言われた東中野修道、民族差別主義者の水間政憲とか、げっぷが出そうな否定論者ばかりです。「いろんな角度から書かれた書籍」で紹介するのがこれかよ、というレベルの著しく偏った書籍群です。


同記事は最後にこう締めています。

南京事件日中関係において大きな影を落としていますが、日本政府はこれに対し、太平洋戦争では中国に申し訳ないことをしたとしています。それが日中戦争を指すのか、南京で起こった事件のことを指すのかはわかりません。しかし、事件が陰謀だという説がある限りは、これを鵜呑みにせず、自分で根拠となる資料を見つけて意見をもち、違う者に対しては「違う」と声をあげるべきでしょう。

ぜひ今回紹介した書籍を手にとってみてください。

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南京事件否定論プロパガンダ、お疲れ様でした。