現場海域についての簡単な情報整理

韓国駆逐艦が日本哨戒機に対して火器管制レーダーを照射したとされる事件ですが、その現場海域の具体的な座標については公表されていません。

初期の日本側公式発表では「能登半島沖」(2018年12月21日防衛省プレスリリース)とだけあり、後に公表した動画では「能登半島沖(日本EEZ内)」というキャプションを入れています。
韓国側が公開した動画では「동해 해상(東海(日本海海上)」とだけあり、具体的な場所はわかりません。

2018年12月21日の東亜日報は政府筋情報として「동해 대화퇴어장(東海大和堆漁場)」での出来事だと報じており、以下のような地図を付けています。

[단독]해군, 동해 표류 北어선 구조… 日 “韓 레이더, 우리 초계기 조준”
윤상호 군사전문기자 , 서영아 특파원 입력 2018-12-22 03:00수정 2018-12-22 03:00
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http://news.donga.com/List/3/all/20181221/93410051/1

この地図だと暫定水域内であることがわかります。
1999年に発効した日韓漁業協定で定められた暫定水域は大和堆の西半分を含んでいます。

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http://kokushi.fra.go.jp/H28/H28_66.html

さて、日本防衛省は現場を日本EEZだと主張していますが、これは暫定水域内とする東亜日報報道と矛盾するでしょうか。
これは実はかなり面倒な問題です。
暫定水域は独島(竹島)の領有権が絡みEEZ境界を確定できなかったために設定されたという経緯があります。そのため、厳密にいえば暫定水域は日本側EEZでも韓国側EEZでもないことになりますが、独島(竹島)領有権未確定の事情だけで決められたわけでもなく、大和堆附近は独島(竹島)を韓国領とした場合でも韓国側EEZにはならない場所になっています。

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http://www.kmunews.co.kr/news/articleView.html?idxno=9183

そのため、暫定水域の概念を無視すると、大和堆全域が日本EEZだとも言えます。
例えば、産経新聞は「日本の排他的経済水域EEZ)にある日本海の好漁場「大和堆」付近での北朝鮮漁船による違法操業問題で、海上保安庁が現場海域に複数の巡視船を投入し、」*1といった表現をしています。厳密にいえば、日本EEZと暫定水域にまたがっている「大和堆」を日本EEZにあると表現しているわけです。
日本防衛省公表動画にある「能登半島沖(日本EEZ内)」が厳密な意味での日本EEZであり、日韓暫定水域を含まないのか、それとも暫定水域を無視した上で日本EEZと確定できる部分を指しているのか、それによって状況の判断は変わります。

なお、現場が日韓暫定水域内であったとすれば、その水域内では日韓双方の漁船が操業可能なため、韓国漁船が当然存在します。また暫定水域内では旗国主義のため、韓国漁船を監視・保護するのは韓国海洋警察の仕事になります。

つまり現場が東亜日報報道通り日韓暫定水域内であるなら、韓国海洋警察艦艇がいるのは日韓漁業協定上何の問題もないわけです。

その辺を理解せずに、陰謀論をたくましく論者が多すぎて困りますね。