高橋克己氏の「徴用工判決:日本人弁護士の「国際裁判でも韓国が勝つ」を読んで」を読んで

徴用工判決:日本人弁護士の「国際裁判でも韓国が勝つ」を読んで --- 高橋 克己(2019年02月22日 06:00)」の件。

ここで言及されている中央日報記事は以下。
「強制徴用判決、ICJ・仲裁に進んでも韓国が勝つ」(1)(2019年02月11日07時19分 ⓒ 中央日報/中央日報日本語版)
「強制徴用判決、ICJ・仲裁に進んでも韓国が勝つ」(2)(2019年02月11日07時20分 ⓒ 中央日報/中央日報日本語版)
個人的にはICJで韓国が絶対に勝つと言えるほど楽観はできないと思っていますが。
それはそれとして、高橋克己氏の記事には色々と指摘しておきたいところがありました。

二つ目は「韓国政府が思い通りに使う余地がなかった」かどうかだ。が、それは『請求権資金白書』を読めば韓国がそれを自由に使ったことが判る。その白書は韓国経済企画院が1976年に作成し2014年に公開された。そこには各種インフラから産業機械までの膨大な使途と金額が記されている。筆者は「元サムスン技術通訳が教える韓国語」ブログの日本語訳に依拠する。
なお「個人請求権」についても、「第1章第2節 対日請求権資金の性格と規模」の要旨に

対日財産請求権とは、政府対政府の債権債務と民間対民間で決済されなければならない債務のこと

とある。である以上、日本からの資金が「民民債務」をも対象としていることを韓国は認めていた。つまり、原告個人の民間企業(新日鉄三菱重工など)に対する請求分も含まれている。

http://agora-web.jp/archives/2037376.html

1965年請求権協定が「「民民債務」をも対象としていること」自体は、2018年10月大法院判決も別に否定してはいませんので、はあそうですか、という程度の内容です。
大法院判決はこれらを踏まえた上で「原告らが主張する被告に対する損害賠償請求権は請求権協定の適用対象に含まれるとはいえない」と判断しているわけです。

そして資金の用途。「第1章第3節 請求権資金の使用基準」の要旨には

「請求権資金の使用基準を法律化した」
「資金は韓国民全てが均等に受益し国民所得が増加する用途にのみ使用し、韓国政府及び韓国民のみ使用できることとした」

とある。つまり、協定の文言は文言として、韓国は独自にその使用基準を決めたのだ。日本政府がそれを条約違反としてどうこうしたという話はない。

http://agora-web.jp/archives/2037376.html

高橋氏は「韓国は独自にその使用基準を決めた」と言っていますが、上記引用文の内容は明らかに1965年請求権協定の第1条中の以下の条文を踏まえたもので、韓国が独自に決めたと言えるものではないでしょう。

前記の供与及び貸付けは、大韓民国の経済の発展に役立つものでなければならない。

http://worldjpn.grips.ac.jp/documents/texts/JPKR/19650622.T9J.html

「資金は韓国民全てが均等に受益し国民所得が増加する用途にのみ使用」というのは、まさに「大韓民国の経済の発展に役立つものでなければならない」という条項に縛られた内容ですからねぇ。

対日民間請求権申告に関する法律(1971)に関する件

こちらは完全な事実誤認。

ふむふむ、という感じだ。そして「a.補償の対象」。

民間補償の対象は対日民間請求権申告管理委員会において証拠及び資料の適否を審査し、当該請求権申告の受理が決定されたものを対象とする。
(中略)
i.「日本国により軍人、軍属または労務者として召集また徴用され1945.8.15以前に死亡した者」である上、これに対する補償請求権者の遺族としては、被徴用者の死亡当時、その者と親族関係にあった者で申告日現在次の1に該当する者を言う。

子女
父母
成年男子である系直卑属がなくなった祖父母

ようやく核心に辿り着いた。つまり請求権協定の条文に関らず、5億ドル(民間も含めると8億ドル)が使われる対象には、まさに一連の訴訟の原告が含まれているのだ。以上、中央日報の記事を読んで調べたことを書いた。

http://agora-web.jp/archives/2037376.html

1971年の「対日民間請求権申告に関する法律」(以下、1971年請求権申告法)にある記載と同様の内容(それを説明する文書)を根拠に、「5億ドル(民間も含めると8億ドル)が使われる対象には、まさに一連の訴訟の原告が含まれている」と主張していますが、これは高橋氏の引用部分だけ見ても間違いだとわかります。

1971年請求権申告法の対象は「日本国により軍人、軍属または労務者として召集また徴用され1945.8.15以前に死亡した者」となっていて、その遺族に受給資格があるとされているわけですが、今回の大法院判決の原告は徴用工当人であって、遺族じゃありません(訴訟中に亡くなり訴訟を受け継いだ人を除く)。当然、原告は1945年8月15日時点では生存しており、「日本国により軍人、軍属または労務者として召集また徴用され1945.8.15以前に死亡した者」ではなく、故に1971年請求権申告法での対象者ではありえません。

したがって「5億ドル(民間も含めると8億ドル)が使われる対象には、まさに一連の訴訟の原告が含まれて」いません。

基本的にそういうことは大法院判決に書かれている。

大法院判決をあれこれ批評するのなら、最低限、判決文をちゃんと読むべきだと思いますが、ちゃんと読んで批判している論者はとても少ないですね。
1971年請求権申告法については原告を直接対象としていませんので、その言及は少ないですが、以下のように記載されています。

(P11-16/44)
4 上告理由第3点について
ア (略)
イ このような法理に従って、前記の事実関係および採用された証拠により認められる下記の事情を総合すると、原告らが主張する被告に対する損害賠償請求権は請求権協定の適用対象に含まれるとはいえない。その理由は次のとおりである。
(1) (略)
(2) 前記の請求権協定の締結経過とその前後の事情、特に下記のような事情によれば、請求権協定は日本の不法な植民支配に対する賠償を請求するための協定ではなく、基本的にサンフランシスコ条約第4条に基づき、韓日両国間の財政的・民事的な債権・債務関係を政治的合意によって解決するためのものであったと考えられる。
①~④ (略)
⑤ 2005 年、民官共同委員会も「請求権協定は基本的に日本の植民支配の賠償を請求するためのものではなく、サンフランシスコ条約第4条に基づき、韓日両国間の財政的・民事的債権・債務関係を解決するためのものである」と公式見解を明らかにした。

(3) 請求権協定第1条により日本政府が大韓民国政府に支払った経済協力資金が第2条による権利問題の解決と法的な対価関係があると言えるか否かも明らかではない。
(略)2005 年、民官共同委員会は請求権協定当時政府が受領した無償資金のうちの相当額を強制動員被害者の救済に使用すべき「道義的責任」があったとしたうえで、1975 年の請求権補償法などによる補償は「道義的次元」から見て不充分であったと評価した。そしてその後に制定された 2007 年の犠牲者支援法および 2010 年の犠牲者支援法は強制動員関連被害者に対する慰労金や支援金の性格が「人道的次元」のものであることを明示した。

http://justice.skr.jp/koreajudgements/12-5.pdf?fbclid=IwAR052r4iYHUgQAWcW0KM3amJrKH-QPEMrH5VihJP_NAJxTxWGw4PlQD01Jo

1971年請求権申告法は「1975 年の請求権補償法など」の一部と言えるでしょうが、それらの法律による補償は「「道義的次元」から見て不充分であった」と2005年の民官共同委員会が評価しています。この民官共同委員会は、「「請求権協定は基本的に日本の植民支配の賠償を請求するためのものではなく、サンフランシスコ条約第4条に基づき、韓日両国間の財政的・民事的債権・債務関係を解決するためのものである」と公式見解を明らか」にしてもいます。
本件原告は、1971年請求権申告法の対象ではなく「2007 年の犠牲者支援法および 2010 年の犠牲者支援法」は「道義的責任」による「「人道的次元」のもの」であったため、「損害賠償請求権は請求権協定の適用対象に含まれるとはいえない」とされたわけです。

ちなみに他にも、(4)で「請求権協定の交渉過程で日本政府は植民支配の不法性を認めないまま、強制動員被害の法的賠償を根本的に否認し」たため「一方の当事者である日本政府が不法行為の存在およびそれに対する賠償責任の存在を否認する状況で、被害者側である大韓民国政府が自ら強制動員慰謝料請求権までも含む内容で請求権協定を締結したとは考えられない」とか、(5)で交渉過程で「他国民を強制的に動員することによって負わせた被徴用者の精神的、肉体的苦痛に対する補償」に言及した事実や「強制動員被害補償に対するものとして算定(生存者 1 人当り 200 ドル、死亡者1人当たり 1650 ドル、負傷者 1 人当り 2000 ドルを基準とする)」した事実」はあるものの、「大韓民国や日本の公式見解でなく、具体的な交渉過程における交渉担当者の発言に過ぎ」ないし、「交渉過程で総額 12億 2000 万ドルを要求したにもかかわらず、実際の請求権協定では3億ドル(無償)で妥結した。このように要求額にはるかに及ばない3億ドルのみを受けとった状況で、強制動員慰謝料請求権も請求権協定の適用対象に含まれていたとはとうてい認めがたい」とかの理由も挙げています。

仮にも大法院としての判断を下す以上、このくらいの検討は当然にやってるんですよね。
この判決に納得できないとしても、少なくとも判決の論理を充分に理解した上でその論理の瑕疵を指摘するという手続は最低限とらないと批判の名に値しません。

もちろん、大法院が言ってるから正しいなんてことはありません。それは日本の最高裁判決についても同じで、高裁判決を追認するだけで憲法判断や重要な争点を回避してただ棄却しておしまいとか批判されるべき判決があることも確かです。
ただ、一般的に言って高裁判決を覆すような判決を下す場合は、様々な批判に耐えうるように判決の論理の構築には慎重を期すのが普通です。もちろん高裁までに出てきた原告・被告双方の主張で対立しているものは、ほぼ確実に踏まえた上で論理を構築しています。この大法院判決も同様で、全体を読めば、予想される批判に対してそれに耐えうる論理を慎重に構築しているのがわかりますよ。
それでも結果に納得できないと思う人は、まあ、少数意見の部分を読んでみるべきでしょうね。
ここで述べたのは、上告理由第3点に関する内容ですが、まさにその部分について、李起宅、金昭英、李東遠、盧貞姫ら4名の大法官が個別意見を書き、権純一、趙載淵ら2名の大法官が反対意見を書いていますから、その辺を踏まえて批判するというのはありだと思いますよ。




(P11-16/44)
4 上告理由第3点について
ア 条約は前文・付属書を含む条約文の文脈および条約の対象と目的に照らし、その条約の文言に付与される通常の意味に従って誠実に解釈されねばならない。ここにおいて文脈とは条約文(前文および付属書を含む)の他に、条約の締結と関連して当事国間で行われたその条約に関する合意などを含み、条約の文言の意味が曖昧または不明確である場合などには条約の交渉記録および締結時の事情などを補充的に考慮してその意味を明らかすべきである。
イ このような法理に従って、前記の事実関係および採用された証拠により認められる下記の事情を総合すると、原告らが主張する被告に対する損害賠償請求権は請求権協定の適用対象に含まれるとはいえない。その理由は次のとおりである。
(1) まず、本件で問題となる原告らの損害賠償請求権は日本政府の韓半島に対する不法な植民支配および侵略戦争の遂行と直結した日本企業の反人道的な不法行為を前提とする強制動員被害者の日本企業に対する慰謝料請求権(以下「強制動員慰謝料請求権」という)であるという点を明確にしておかなければならない。原告らは被告に対して未払賃金や補償金を請求しているのではなく、上記のような慰謝料を請求しているのである。
これに関する差戻し後原審の下記のような事実認定と判断は、記録上これを十分に首肯することができる。即ち、①日本政府は日中戦争や太平洋戦争など不法な侵略戦争の遂行過程において基幹軍需事業体である日本の製鉄所に必要な労働力を確保するために長期的な計画を立てて組織的に労働力を動員し、核心的な基幹軍需事業体の地位にあった旧日本製鉄は鉄鋼統制会に主導的に参加するなど日本政府の上記のような労働力動員政策に積極的に協力して労働力を拡充した。② 原告らは、当時韓半島と韓国民らが日本の不法で暴圧的な支配を受けていた状況において、その後日本で従事することになる労働内容や環境についてよく理解できないまま日本政府と旧日本製鉄の上記のような組織的な欺罔により動員されたと認めるのが妥当である。③ さらに、原告らは成年に至らない幼い年齢で家族と離別し、生命や身体に危害を受ける可能性が非常に高い劣悪な環境において危険な労働に従事し、具体的な賃金額も知らないまま強制的に貯金させられ、日本政府の残酷な戦時総動員体制のもとで外出が制限され、常時監視され、脱出が不可能であり、脱出の試みが発覚した場合には残酷な殴打を受けることもあった。④ このような旧日本製鉄の原告らに対する行為は、当時の日本政府の韓半島に対する不法な植民支配および侵略戦争の遂行と直結した反人道的な不法行為に該当し、かかる不法行為によって原告らが精神的苦痛を受けたことは経験則上明白である。
(2) 前記の請求権協定の締結経過とその前後の事情、特に下記のような事情によれば、請求権協定は日本の不法な植民支配に対する賠償を請求するための協定ではなく、基本的にサンフランシスコ条約第4条に基づき、韓日両国間の財政的・民事的な債権・債務関係を政治的合意によって解決するためのものであったと考えられる。
① 前記のように戦後賠償問題を解決するために 1951 年 9 月 8 日に米国など連合国 48 ケ国と日本の間に締結されたサンフランシスコ条約第4条(a)は、「日本の統治から離脱した地域(大韓民国もこれに該当)の施政当局およびその国民と日本および日本国民の間の財産上の債権・債務関係は、これらの当局と日本の間の特別取極によって処理する」と規定していた。
サンフランシスコ条約締結後、まもなく第1次韓日会談(1952 年 2 月15 日から同年 4 月 25 日まで)が開かれたが、その際に韓国側が提示した8項目も基本的に韓日両国間の財政的・民事的債務関係に関するものであった。上記の8項目中第5項に「被徴用韓国人の未収金、補償金およびその他の請求権の弁済請求」という文言があるが、8項目の他の部分のどこにも日本植民支配の不法性を前提とする内容はないから、上記第5項の部分も日本側の不法行為を前提とするものではなかったと考えられる。従って、上記の「被徴用韓国人の未収金、補償金およびその他の請求権の弁済請求」に強制動員慰謝料請求権まで含まれるとは言いがたい。
③ 1965 年 3 月 20 日に大韓民国政府が発行した「韓日会談白書」(乙第 18号証)によれば、サンフランシスコ条約第4条が韓日間の請求権問題の基礎となったことが明示され、さらに「上記第4条の対日請求権は戦勝国の賠償請求権と区別される。韓国はサンフランシスコ条約の調印当事国でないために、第 14 条の規定によって戦勝国が享有する『損害および苦痛』に対する賠償請求権を認められなかった。このような韓日間の請求権問題には賠償請求を含ませることはできない。」という説明までしている。
④ その後に実際に締結された請求権協定文やその付属書のどこにも日本植民支配の不法性に言及する内容は全くない。請求権協定第2条1において「請求権に関する問題は、サンフランシスコ条約第4条(a)に規定されたものを含めて、完全かつ最終的に解決されたこととなる」として、上記の第4条(a)に規定されたもの以外の請求権も請求権協定の適用対象になりうると解釈される余地がないではない。しかし上記のとおり日本の植民支配の不法性に全く言及されていない以上、上記の第4条(a)の範疇を超える請求権、すなわち植民支配の不法性と直結する請求権までも上記の対象に含まれるとは言いがたい。請求権協定に対する合意議事録(Ⅰ)2(g)も「完全かつ最終的に解決されるもの」に上記の8項目の範囲に属する請求が含まれていると規定しただけである。
⑤ 2005 年、民官共同委員会も「請求権協定は基本的に日本の植民支配の賠償を請求するためのものではなく、サンフランシスコ条約第4条に基づき、韓日両国間の財政的・民事的債権・債務関係を解決するためのものである」と公式見解を明らかにした。
(3) 請求権協定第1条により日本政府が大韓民国政府に支払った経済協力資金が第2条による権利問題の解決と法的な対価関係があると言えるか否かも明らかではない。
請求権協定第1条では「3億ドル無償提供、2億ドル借款(有償)の実行」を規定しているが、その具体的な名目については何の記載もない。借款の場合は日本の海外経済協力基金により行われることとし、上記の無償提供および借款が大韓民国の経済発展に有益なものでなければならないという制限を設けているのみである。請求権協定の前文において、「請求権問題の解決」に言及してはいるものの、上記の5億ドル(無償3億ドルと有償2億ドル)と具体的に結びつく内容はない。これは請求権協定に対する合意議事録(Ⅰ)2(g)で言及された「8項目」の場合も同様である。当時の日本側の立場も、請求権協定第1条の資金は基本的に経済協力の性格であるというものであったし、請求権協定第1条と第2条の間に法律的な相互関係が存在しないという立場であった。
2005 年、民官共同委員会は請求権協定当時政府が受領した無償資金のうちの相当額を強制動員被害者の救済に使用すべき「道義的責任」があったとしたうえで、1975 年の請求権補償法などによる補償は「道義的次元」から見て不充分であったと評価した。そしてその後に制定された 2007 年の犠牲者支援法および 2010 年の犠牲者支援法は強制動員関連被害者に対する慰労金や支援金の性格が「人道的次元」のものであることを明示した。
(4) 請求権協定の交渉過程で日本政府は植民支配の不法性を認めないまま、強制動員被害の法的賠償を根本的に否認し、このため韓日両国の政府は日帝韓半島支配の性格に関して合意に至ることができなかった。このような状況で強制動員慰謝料請求権が請求権協定の適用対象に含まれたとは認めがたい。
請求権協定の一方の当事者である日本政府が不法行為の存在およびそれに対する賠償責任の存在を否認する状況で、被害者側である大韓民国政府が自ら強制動員慰謝料請求権までも含む内容で請求権協定を締結したとは考えられないからである。
(5) 差戻し後の原審において被告が追加して提出した各証拠なども、強制動員慰謝料請求権が請求権協定の適用対象に含まれないという上記のような判断を左右するものであるとは考えられない。
上記の各証拠によれば、1961 年 5 月 10 日、第5次韓日会談予備会談の過程で大韓民国側が「他国民を強制的に動員することによって負わせた被徴用者の精神的、肉体的苦痛に対する補償」に言及した事実、1961 年 12 月 15 日、第6次韓日会談予備会談の過程で大韓民国側が「8項目に対する補償として総額 12 億 2000 万ドルを要求し、そのうちの 3 億 6400 万ドル(約 30%)を強制動員被害補償に対するものとして算定(生存者 1 人当り 200 ドル、死亡者1人当たり 1650 ドル、負傷者 1 人当り 2000 ドルを基準とする)」した事実などを認める事はできる。
しかし、上記のような発言内容は大韓民国や日本の公式見解でなく、具体的な交渉過程における交渉担当者の発言に過ぎず、13 年にわたった交渉過程において一貫して主張された内容でもない。「被徴用者の精神的、肉体的苦痛」に言及したのは、交渉で有利な地位を占めようという目的による発言に過ぎないと考えられる余地が大きく、実際に当時日本側の反発で第5次韓日会談の交渉は妥結されることもなかった。また、上記のとおり交渉過程で総額 12億 2000 万ドルを要求したにもかかわらず、実際の請求権協定では3億ドル(無償)で妥結した。このように要求額にはるかに及ばない3億ドルのみを受けとった状況で、強制動員慰謝料請求権も請求権協定の適用対象に含まれていたとはとうてい認めがたい。
ウ 差戻し後の原審がこのような趣旨から強制動員慰謝料請求権は請求権協定の適用対象に含まれないと判断したのは正当である。そこに、上告理由の主張のように請求権協定の適用対象と効力に関する法理を誤解するなどの違法はない。一方、被告はこの部分の上告理由において、強制動員慰謝料請求権が請求権協定の適用対象に含まれるという前提の下に、請求権協定で放棄された権利は国家の外交的保護権に限定されるものではなく、個人請求権自体が放棄(消滅)されたのだとの趣旨の主張もしているが、この部分は差戻し後の原審の仮定的判断に関するものであって、さらに検討するまでもなく受け入れることができない。

http://justice.skr.jp/koreajudgements/12-5.pdf?fbclid=IwAR052r4iYHUgQAWcW0KM3amJrKH-QPEMrH5VihJP_NAJxTxWGw4PlQD01Jo